「感情価値」をネット上で表現したい

小野:現状EC、インターネットの中において、ナンバーワンの部類であろう楽天さんの詳細について、北川さん、プレゼンテーションをよろしくお願いいたします。

北川拓也(以下、北川):はい、こんにちは。楽天の北川と申します。僕は普段、ビッグデータとかデータサイエンスの担当をしておりまして、そういった観点からも、これから僕らがどう展開していこうとしているかをお話しします。大先輩の前で何の話をしようかと結構考えたんですが、とりあえずは、オフラインとオンラインの購買の違いみたいな話をさせていただければと思います。

(ヤフーの)小澤さんや川邊さんは特によくご存じかと思うんですが、僕はとにかく女性とのコミュニケーションが苦手です(笑)。女性の気持ちはなかなかわからない、みたいな、残念なお知らせがありまして。ただ、せっかくインターネット界隈の一員になったので、僕もそこをちょっと改善しようと思っています。

最近、25歳くらいの女性にクリスマスプレゼントを買おうと思い立ちました。ただ女性の気持ちがわからない僕ですから、何を買ったらいいのかわかりません。

ここはやはり、「同じインターネット業界の先輩に聞こう!」と思って、先輩に聞いてみたのです。「25歳の女性へのプレゼントって何を買ったらいいんですかね?」と、お尋ねしたところ、その先輩が「バカやろう! インターネット業界に勤めているくせに、何を言っているんだ。ググレカス!」って怒られました。そこでとりあえずGoogleで「クリスマスプレゼント 25歳 ややぽっちゃり系 欲しいもの」って調べたんですね。

そうこうしているうちに、その彼女はディズニーグッズが好きらしいと小耳に挟みまして、やっと買うものが決まりました。僕も学習能力のある人間なので、これこそインターネットで買わなければいけないと思って、ディズニーグッズをインターネットで買おうということを先輩に伝えたんです。するとまた先輩が「バカやろう! 絶好の機会じゃないか。そういうときは彼女をディズニーランドに連れて行ってあげなさい!」と言われて。「あー、確かにそうだな」と(笑)。

そういうことで、だんだん学ぶ中で僕が気づいたのは、オンラインで購買することもありますけども、オフラインでしか買えないものもある、ということですね。人への気持ちだとか、「感情価値」と呼ばれるものに関しては、いまだに僕らはオフラインでの購買に頼ることが多いと非常に思いました。

楽天としても、今までいろんな利便性を提供してきましたが、もっと感情価値や、人への思いというものを、インターネット上で表現できるような世界やプラットフォームを実現していけたら、もっとeコマースの果実は膨れていくんではないかと思った、という小話でした。

早速、それを踏まえて、楽天のお話をしていきたいと思います。

eコマースを“使い始める理由”と“使い続ける理由”は別

北川:楽天はご存じのように、「B to B to C」ビジネスでやっておりまして。楽天市場から店舗さんへのプラットフォームを提供させていただいて、店舗さんがお客さんをおもてなしする、というプラットフォームになっています。そこで、僕らのビジネスとしては、店舗さんへのサービスと、お客さんへのサービスという、2つに分かれるんですね。それをちょっと、別々に話していきたいと思います。

第一に、僕らの中では、店舗さんという存在が非常に大事です。Empowerment、つまりは、いかに店舗さんがお客さんに対しておもてなしをする際に、僕らがフォローできるかが大事なんですね。

おもてなしというのは、もちろん僕ら自身もお客さんに対して提供していくものではありますが、やっぱりモノへすごい思い入れがあるとか、日々お客さんの顔を見ている店舗さんには勝てないと思うところがあります。そこを、よりテクノロジーとオペレーションの力を使って店舗さんにしか出せないバリューというのをどんどん出していってもらおう、というのが楽天自身の思いです。

その一例として、サイト戦略があるんですね。リアル店舗では、店内の棚の作り方や、お店の置き方を考える話になると思いますが、インターネットでは、サイトの構築ということになります。実際に楽天のある店舗さんは人の顔を全面に出していくことによって、非常にウェルカムな感じを醸し出したサイト作りに成功しています。

僕のように、データサイエンスとかやっている立場としては、あるページのどの要素がお客さんの心を捕まえているのだろうか、どういった感情を作ることができているのか、を理解していきたいと思っています。もしそれができたら、店舗さんにも「ここ効いていますよ」とお伝えして、店舗をだんだんとよくしていけるのではないかと考えております。

ほかにもいろんな軸があります。たとえば、顧客戦略です。大きな会社は、マーケティング部や、データ解析の部門があって、顧客戦略を立てるのが容易ですが、中小の店舗さんの「いいものは作っているんだけど、実際はひとりでやってんねん」みたいなところは、顧客をクラスタリングしてどうのこうのみたいなことはやりづらいんですね。

僕らとしては、4万店舗もある中で、データサイエンスなどを通して、「あなたの店舗のいいところはこれですよ」「新規顧客はこういう物を買ってだんだんヘビーユーザーになってくれるんですよ」「ヘビーユーザーはこういう理由で買い続けてくれているんですよ」といったことを一目で見られるようにしたい。しかもそれが次のアクションにつながるようなプラットフォームを作ることができたら、より質の高いサービスを提供していけるんじゃないかと思っているんですね。

つまり僕らとしては、人がやらなくてもいいところを全部テクノロジーに置き変えることによって、店舗さんの質をとにかく上げていきたいんですね。ほかにもいろんな軸があるんですけれども、次はお客さんに対して、どういうことを考えているのかをお話したいと思います。

(三越伊勢丹の)大西さんもおっしゃっていたように、今までは割と利便性だとか相対価値という形で表現されていたものが多かったと思うんです。たとえば24時間いつでも買えるとか、外に出なくても買えるとか、重い物を運ばなくていいだとか。こういう話は、お子さんのいらっしゃるお母さんなどには、すごく助かる話です。あるいは価格比較できるとか、種類が豊富、値段競争力があるとかをウリとして、今まで伸びてきたんですね。

ただ僕が思うに、eコマースが(小売全体の)7%にとどまっているのは、eコマースを“使い始める理由”と“使い続ける理由”が別だからなんですね。利便性っていうのは使い続ける理由であって、使い始める理由にならない、ということがよくあるんですね。

Shopping is Entertainment

もちろん、これから利便性というのは競争力の根源にはなっていくわけですけれども、ちょっと違った観点で、eコマースをとらえていきたいなと思っています。たとえば、楽天のすごく大事な言葉として、「ショッピングイズエンターテインメント」というのがあるんですね。購買体験っていうのは、買った物のよさだけではなくて、購買体験そのものが楽しくあるべきだということです。

たとえば、IKEAさんがオフラインで成功しているのは、買うこと自体がすごく楽しく、行くこと自体がデートになるからですよね。そうした体験をこれから作っていけるんじゃないか、というようなことを僕らはたくらんでおります。

最後は、いちばん最初の話に結び付くのですが、やっぱり感情価値による購買というのが、買い始める理由になるんじゃないか。

僕も経験値としてあるんですけれども、ずっとアメリカに住んでいて、母の日のプレゼントとして、お母さんに何か贈りたいんですね。でも、ありきたりのものは贈りたくないんですよ。バラだけ贈ったってあんまり喜んでくれないだろうし。やっぱり特別な人には特別な物を贈りたい。その思いを店舗を通じて表現できるということは、やっぱりすごく大きいですね。これが僕にとって、大学1年生のときに、楽天を頻繁に使うようになった理由なのですね。

買い始める理由というのはやっぱり、感情価値が伴っていないといけない。「行動変容」というのは非常に大きな変化ですから。こういった感情価値をインターネットにいくら乗せられるか、を試すことによって、たぶんeコマースで買い物する人がすごく増えていくんじゃないかと思っております。ちょっと長くなりましたが。すいません。

小野:はい、ありがとうございました。ちなみに今、楽天さんの全商品点数はどのくらいになるのですか?

北川:たぶん4万4000店舗くらいですかね。

小野:店舗数ですよね? 商品数は?

北川:商品数は1億を超えています。

小野:1億。先ほど大西社長のほうから、300万商品数というお話があって、今度はヤフーさんもいろんな、あらゆる商品を検索できるように。こうなると、いちユーザーの視点でいうと、ひとつの商品にたどり着くときに、商品の情報に埋もれて、どうたどり着けるのかという疑問が生まれてくると思います。

リアルの店舗という限られた中でいかに見せるか、という視点で、大西さんがどういうふうに考えていらっしゃるか、一方で、ネットの中でどうそれを見せていくか。商品の数はそろった。じゃあそれをどう見せるのかといったあたりについて、ちょっとディスカッションしてみたいなと思うのですが、大西さんいかがでしょうか。

"ぼやーんとした買い物"への応え方

大西:商品の数につきましては、今、われわれの店舗の商品数というのは、もう何百万、何千万という数になりますが、ネットに載せている商品というのが、まだまだ本当に少ない。今まで本気でやってこなかったということがあるので、とりあえず数を広げたいという思いがあります。

その次のステップとしては、コンテンツの中で、全部が全部ということではないんですけれども、どれだけ本当に希少価値のあるものと、限定的なものがあるかです。その商品そのものの価値を、われわれとしては見直していかないと、おそらく戦っていけないのかな、と。ですから、数と質というものを2つ、並行的に進めていくことになると思うのです。

小野:ありがとうございます。ネットのほうでは、明確に「この商品が欲しい」とわかっているユーザーであれば、商品にたどり着けると思うんですけれども。たとえばみなさんも経験があるかと思うのですが、百貨店に行くときって、何となく冬物という感じで、明確にこのブランドというよりも、何となくぽやーんとした買い物の中で発見して、買い物につながる形なのかなと思うのですが、このあたり、ネットでは商品の情報が増えていく中で、どう実現していくのか、その辺の考え方はみなさんいかがでしょうか。

川邊:いやちょっと、難しくて、僕……。

小野:それじゃ、小澤さんっていうことですかね(笑)。

小澤:3つございます。ひとつめはキュレーション、2つめは検索。3つめはレコメンデーション。この軸で、社内でさんざん言っているはずです。

川邊:3つ?

小澤:3つあります。これはもう、ヤフーならずとも、これだけ商品数がインターネット上に増えてきますと、必ず商品数の多いところに対しては、ハブとかファンシーとか、日本ではオリガミさんとか、アンチテーゼとして、キュレーション系が出て参ります。これは、いわゆるセレクトショップ。百貨店がある意味、セレクトショッップに近いと思うんですけれど、いわゆる、たくさん何でもありますよ、っていうところに対して「私が目利きをしているから、ここだけ見ていれば大丈夫です」というセレクトショップ系。これはもうキュレーション系。

残り2つは、検索とレコメンデーションで、これはテクノロジーで解決できます。こちらのほうは、ヤフーは検索の会社ですので、ま、Googleのエンジン使っていますけれども、頑張ろうと(笑)。

検索結果はパーソナライズ化されていきます。小野さんが過去、Yahoo!ショッピングで何を買ったか。もしくはヤフーで何を検索されたか。ひょっとしたら、タグが埋め込まれたサイトで、何をどのページを見たか。それを、ヤフーのショッピング内の検索結果に生かします。

なので、小野さんが「明太子」を検索されたときと、北川さんが「明太子」をYahoo!ショッピング内で検索されたときで、検索されるものが変わってまいります。アマゾンさんでも楽天さんでもできるんですけれども、ヤフーの場合メディアをやっており、情報収集できる先がものすごく多いので、おそらく検索の精度が変わってくると思います。ここはヤフーがショッピングをやる意味、検索結果の精度が高くなる、という意味があると思っています。最後、レコメンデーションはアマゾンさんで語られ尽くしていますので、私どももそこを頑張りますと。こういう2つで攻めていきたいと思っております。

eコマースの最終形態は「パーソナライズ」

小野:北川さんのほうは? 楽天さんのではどうですか??

北川:はい。キュレーションが非常に面白いなあと僕らも思ってます。というのも、店舗さんというコンセプトそのものが、もともと「商品を自分たちで仕入れて、自分たちでキュレートする方々」っていうとらえ方を、僕らもしていますので。店舗さんを見つければ、1億商品から、4万店舗に減ったわけですね。では、その店舗さんを見せるために、どういうことをしたらいいのか、を日々考えています。

僕の先ほどの話とつながるんですけれども、僕の考えでは、物というのを一つひとつ知らない僕らが、いくら頑張ってお客さんに見せようとしても、なかなか思いが伝わらないんじゃないか。1億商品あったら、1億人いないとそういうのは1個1個できないじゃないか、みたいなことになりかないので、それをテクノロジーでなんとかするという考え方です。

できれば、店舗さんが、自分でどんなにこれがいいと思っている、誰にいいと思っているのか、というのを考え出していただいて、こちらはそういうことを見せられるような、テクノロジーを提供することによって、店舗さんが自分でプッシュするようなイメージを持っています。

最終的な形としては、小澤さんがおっしゃっていたような「パーソナライズ」が最終的な形態になると思うのです。というのも枠が決まっていたら1個しか出せないので、それがアサインされた瞬間に何個でも出すような話になりますからね。では誰がそれをマッチングするんだ、ということになりますが、できればテクノロジーの力でやりたいと僕らは考えますが、店舗さんが想いを持ってやっていただけたら、いちばん面白いんじゃないかなと、僕は思っています。