広告だから見られないは嘘

本田哲也氏(以下、本田):鎌田さん、YouTuberさんが直接は今のKDDIさんの動画には介在してないですけど、どういうアプローチのコンテンツで、感動させるのか。あるいは全然違う、おもしろおかしいものもあるでしょうし、いろんなコンテンツのアプローチってのがあると思うんですけど。それはやっぱりYouTuberさんの元々の立ち位置にすごく関わってくるんでしょうね。

鎌田和樹氏(以下、鎌田):そうですね。やはり持っているターゲットも違いますし。普段作っているのが、トンマナから、こういうのやってくださいっていうのも多いですし。

多分、僕らの話でいうと、さっきのエンゲージメントでとか、企業さんがこういう動画を作ったこと、それ自体が評価されるっていう。先ほどのトヨタさんのお話とかありましたけど、そういう企業さんがYouTuberを使ったということ、今でいうと、多分その1歩を踏み出しただけで、業界みんな評価というのは非常に高まってるんじゃないかな。

本田:やりどきみたいなね。

鎌田:そんな感じですね。そのなかで、もちろん、さっきのヒーローコンテンツみたいなものも生まれますし。

おかしな話なんですけど、僕らもやっぱり企業さんと動画作っていくなかで、提供が入ると再生回数が落ちるだとか、視聴時間が少なくなるなんていうのももちろんいただきますけども。僕らがデータで年間の動画のランキングとか見てると、逆にいうと一番伸びてる動画とかって、企業さんと一緒に作ったものだったりするんですよね。

普段、僕たちでも日常ではない自分を作っていくなかで、どうしてもおざなりじゃないですけど、ない自分を出さなきゃいけないってこともありますし。ただ企業さんと一緒にやるなかで、普段できなかったけども、こういう動画をつくりたい。

それがさっきのいろんな話のなか、僕ら結構ストーリーっていう言葉を使うんですけども、ストーリーがあって、だからこの動画を作った。それをファンの人に見てもらった。その結果が、やっぱり企業さんとYouTuberがこういう取り組みをしたんだっていうところで消費者に届きますので、そういうところからブランドリフトをして、売り上げが結果的に上がるっていうのが、非常にいい例としては多いです。

本田:そうですね。先ほども紹介したんですけど、やっぱり海外でも、要するにネット動画とか、素敵な映像をコアにっていうのはすごく増えてきてるわけですけど、「本当かいな?」っていうところで、やっぱり今まで以上にファクトとか、ノンフィクションである、つまり「本当ですよね」っていうことですね。

それがあるかないかっていうのが、やっぱり消費者と生活者は見てるし、すぐばれる時代ですというのがあるので、感動的なストーリーテリングに行けば行くほど、「本当に?」っていうのが裏の表裏一体で付いてまわるから、それを見誤ると逆効果になっちゃうっていう、そこがすごく。

塚本陽一氏(以下、塚本):本当、そうなんですよ。僕らのやつも、あれはリアルドキュメンタリー、サプライズでやってるんです。ほかの企画とかでも、やっぱやらせというか、何か、これどう考えたって違うよねっていうふうに思われちゃうのは、感動するっていうよりブランド棄損になっちゃうかもしれないので、そこをどう判断するかっていうのはやっぱり悩ましい。

本田:難しいですよね。

ネット動画導入時に企業が組織の壁を超えるには

本田:塚本さん、もう1回、組織的な話をちょっと伺いたいんですけど。今日は事業会社の人少ないかもしれないけど、やっぱり、こういうものが重大なのはわかるし、どんどん取り組んでいきたいし、リスクも含めてチャレンジしたい。

結構、もう今年いっぱいぐらいと皆さん思ってらっしゃるんですけど。うかがってて組織の壁とか部門間の壁とか、一体どこがっていう話は企業の組織が大きくなればなるほど難しくなってくると思うんですけど、KDDIさんの場合ってどういうふうに役割分担をされている、あるいはそのなかでの難しさとかはありますか。

塚本:こういう動画の取り組みをしていくなかでってことですか?

本田:そうです。

塚本:でも、結構そういう意味でいうと、今日はどちらかというとクリエイティブな話しちゃってますけど、わりとそういう意味ではきっちり今のマーケティングサイエンスっていうんですか? ビッグデータでの分析とかっていう左脳系の話を裏ではガリガリやってまして。

そういうちゃんとエビデンスがある状態で、だからこういうアプローチが正しいんだとか、向かっていかないと自分たちが中長期的に今のポジションなり、さらにブランドとしてのコンディション、マーケットシェアとか維持できないですよみたいな、いわゆる左脳的なプロットは、ちゃんとあって向かうべき話なので、そこの前提条件は理解をしてもらえるように、それは口頭とか含めて説明はしてます。

というのは、まず大前提にあっての話ですね。そうじゃないと、なかなかいきなり思いつきでこんなことやったりしても、「君、何バカなこと言い始めたんだ」みたいな。

本田:前に似たような場で、塚本さんもいらしたかもしれないですけど、某社の若手のご担当の方の苦労話聞いたんですけど、やっぱり役員級の方になるともうまったくわからないと。こういうYouTuberの方がいて、YouTubeこれだけ見られてるってういことを社内でプレゼンするんだけども、どうも実感として腑に落ちない、その世代は。すごい大変だったっていう話がありましたけども、やっぱり似たようなご苦労ってありそうな雰囲気だけど。

塚本:そうですね。ほかの会社さんはちょっとわかんないですけど、少なくともうちはやっぱり、何でやる必要があるのかってことはロジカルに説明しなきゃいけないですし。じゃ、やろうって決めてからあとはクリエイションの話なので、そこから右脳というか、クリエイティビティをどう発揮していって。

今日、さっきインサイトみたいなお話も前半あったと思いますけど、どのタイミング、誰向けにどういう気持ちになってもらいたいのかっていうことを徹底的に深掘って。

我々、普段マス広告であまりインサイトっていうことを議論しないコミュニケーションでやりがちなんですけど、オンラインのコミュニケーションに関しては、僕もさっき“ネット動画”ってなってて安心してるんですけど、“動画広告”じゃないと思ってるんです。

いわゆる動画のコンテンツをどう作るのか、そのコンテンツは誰に向けて、どんな気持ちになってもらいたいコンテンツなのかっていうことを徹底的に議論するっていう、こういう感じです。

動画配信で届けたいこと

本田:いろいろと話したいことあるんですけど、これやっぱり全体のなかでどう位置づけるかっていうのが今後すごく大事になってくると思うんで。マーケティング全体だとか、KDDIさんが特にCMも総体的にやられているわけで、どういうふうに届くかですよね、生活者に。いろんなチャンネルがもう多様化しているなかでどう位置づけるかというのはケースバイケースだと思うんですけども、その辺に対して、中村さんが思われてる部分がありますか。なかなか一言では難しいと思うんですけど。

中村全信氏(以下、中村):これはYouTubeに限った話ではないかなと思ってるんですが、まず企業の皆様に使っていただく動画ってやっぱりビジネスがあって。まず企業としてのビジネスがあって、それを達成するためのマーケティング戦略があって。

それの一部のそれを達成するためのあらゆるメディアだったり、テクノロジーだったりってとこにデジタルがいるっていうだけでしかない。

我々がやり続けなきゃいけないのは、先ほど冒頭にお話しした再生回数が、1回誰かに届いて見てもらったっていう証の1つだとするならば、それはテレビでいうとリーチ。我々としてさらに考えていきたいのはその先っていう部分で、先ほどご紹介したような、動画を見ていただいて実際に態度変容は起きたんだ、という事実。

そこを突き詰めて考えていくエビデンスを作り続けないと、先ほどのように塚本さんが社内で説得する材料を我々からも提供していかなきゃいけないし、これは我々プラットフォームだけじゃなくてサードパーティにしてもリサーチ関連の皆様とご一緒させていただきながら、そういう場、本当にかたち作っていかなきゃいけないです。どういうビジネスに効くのかっていう。

それはそのCTRが何パーセントでした、CPCいくらでした、じゃなくて、「そもそも何を達成するための動画でしたっけ?」。そうやって考えれば、ここでのCPCの議論もとても大事なんですけれども、そのフェーズの議論を常に持ちながらマーケティングのなかでどう生かせるかというのは、本当に役割違うので、そこは一緒に会話しながら作っていけたらなと思ってます。

本田:鎌田さんはいかがですか。

鎌田:僕らは結構、企業さんと動画を作った後に、それこそフィードバック商談みたいなかたちで、今回どうでしたかみたいな、お話をよくします。おもしろいのが、もちろん再生回数ということに対して、こういう評価をいただくこともありますけども、極端な話、発注をしていただいたクライアントさんがYouTuberのことを好きになっていただいて。

YouTuberも非常にその商品に対しての理解度が高く、好き勝手いろんなことを言ったあげく、再生回数どうこうじゃなくて、社内で動画に対する考え方が変わりましたみたいなことをいただくことがあって。

先ほども本田さんからいただいた、どういう使い方がいいのかとか、ネット動画ってどうなのかっていうと、やはり今日例えばエージェンシーの方がいらっしゃったとすると、例えばいろんなマーケティング、1つの要素というのは確実だと思うんですが、いろんなパネルがあって、バナーがあって、そのなかの1つのコンテンツとして、もちろん動画っていうものがあって。

逆にいうと、その動画1つでそれ自体が分散型コンテンツとして、それ自体が広告として発信していくっていうことも、うちは理想としては、そういう使われ方がもちろんいいとは思いつつ、まだ日本でそこまで動画を見る人が多いのかっていうのも悩みの種だと思いますし。

先ほど中村さんがおっしゃっていただいたみたいに、それをプラットフォーマーとして育てていただいてるGoogleさんもしかりですし、僕らからするとコンテンツを作る立場として、過去この1年、2年じゃなく長きにわたって、ネット動画を見て考え方や価値観というものを一緒に高めていければいいんじゃないかなというふうに思います。

本田:ありがとうございます。

動画の真の活用法とは

本田:塚本さん、いかがでしょうか。

塚本:僕、マーケットどこにいくかってことですので、答えはケースバイケースというか企業さんごとにアンサーがあると思っていて。それは皆さんでちゃんと考えてくださいとか、それを踏まえてカスタムメイドの提案してくださいっていうことが答えだと思っているんですけど。

じゃ、何なのっていうと、多分ネット、もうこの際、動画広告でも動画コンテンツでもどっちでもいいと思ってるんですけど、課題は何なのって。マーケティングにおける課題とかマーケティングコミュニーションにおける課題は何なのってことが、シンプルに定義できてれば、やるべきことはわりと決まってくるんじゃないかな。

うちの場合は、途中で言いましたけど、CMそれなりに打つんですよ。今もCMがわりとおもしろいねということで好評なんですけど、ただ、あのCMでさっき言ったみたいにエクイティが上げられる層と、ファンになってくれる層とならない層がいて。

「あんなの嫌だよ、ふざけんなよ、桃太郎をパロディにしすぎだよ」みたいな話があって、そういうことを毛嫌いする人に、じゃ、オンライン上でどうやって好きになってもらえるかって考えたときに、ああいうやり方があるってことなので、そこは各社のコンディションごとに考えてもらえればなと思います。

本田:そうですね。そういう意味でいくと、このセッションの冒頭に戻っちゃいますけど、やっぱり3Hみたいな1つのフレームワーク。なかったわけですから、数年前は。ヒーロー、ハブ、ヘルプですか。っていう、どういうコンテンツの役割なのか、あり方なのかっていう、フレームワークってどんどん多分重要になってて、それが企業、あるいはエージェンシー、プロダクション、いろんな立場ありますけども、同じ共通言語でそこを話していけるようになるというのが、多分、重要かもしれません。

あと、これ、もう時間がきちゃったんですけど。なんでもかんでも動画だ、動画だっていうのではないんですけど、動画じゃないほうが伝わることって何だっけとか、動画じゃなくても伝わることは何だっけっていうのを皆さん伝えたときに考えたときに答えってあったりするのかもしれないって。なんでも動画にすると、また違う。日本人、結構、そういう癖あるじゃないですか。

だから、逆説的に考えることで、その企業とかブランドにとって絶対的に動画で伝えたほうがいいことっていうのが浮かび上がってくるかもしれないなとか、ちょっと思いました。フィニッシュということで、この領域本当に多岐に渡って話すこと多いんで、とても1時間じゃ話し切れないんですけども、質問の時間もとれませんでしたけど。

この後、よろしければ登壇者の方と、質問していただいてもいいのかもしれませんけれども、いろいろと可能性はありそうだということで、2015年もうすぐ終わるんですけど、動画元年、動画元年といわれて、なんか本当に来た感じがしますよね、今年は。

2016年から、皆さんのチャレンジ続くと思うんですけど、また、次、こういう場を持てたらいいなと思いますんで、どうもお付き合いありがとうございました。3人の方に大きな拍手でお願いします。

(会場拍手)

一同:ありがとうございました。

制作協力:VoXT