「薬ネット販売」は規制改革の突破口

関口:ちょっと抽象的な話をしていってもなんですので、少し個別、具体例をやっていきたいと思うんですけれども。三木谷さんがこれまで戦ってきたものいろいろあるわけなんですが、最近で言うと薬の問題ってありますよね。

三木谷:ハハハ(笑)。

関口:これもある人に言わせると、楽天のなかに占める薬の売上なんて1%もたぶんないんじゃないかと。ですね? それしかないものに、なんであんなに固執してやるのと。そのあたり、どうなんでしょうか。

三木谷:いま産業競争力会議で言ってるのは、「対面・書面原則の撤廃」っていうのを言っているんですね。たとえば、薬の販売もそうですけども、たとえば遠隔医療、これは基本的にはどこにも書いてないんですけども、禁止されてるんですよね。それから遠隔教育も、正式な単位としては、文科省のガイドラインで認められないと。それから色んな政府の関係のファイリングにしてもですね、すべて基本的には「対面書面」というものが中心になってるんですよね。まあ、欧米なんか行くと、どちらかと言うとデジタル・ファーストじゃないですけど、インターネットがあって、一応、補完的にそういう紙も仕方ないねっていうことになっているんで。それの一番象徴的なものが薬のネット販売っていうことだと思うんですよ。

で、まったくわけのわからない、最高裁でケンコーコムさんが勝訴されたんですけれども。そういうことがあっても、また未だになんかよくわかんない理由をつけてやっぱり対面販売ではなくて、代理で買ってもいいんだけれども対面じゃないといけない、とかですね。それから薬剤師の人は基本的に診断しちゃいけない、診療しちゃいけないんですけれども、やっぱり薬剤師が対面で売るんだと。子どもが買いに来て渡してもいいんですけど対面なんだ、ということでね。大変正直に言って「意味がわかんねえ」というなかにあって。もうこんなもん通せないんだったら、総理とか内閣府にも言っているんですけれども、こんなもん通せないんだったら、規制改革なんかできませんよ、ということがひとつ。

それから、この対面書面原則を撤廃することによって、ものすごいビジネス・ポシビリティ(可能性)が皆さんの前にできるわけですよね。これは極めて重要な話で、一番大きな、ちっちゃいけど最初の砦が、この薬の問題だと思っているっていうことです。

関口:そういう意味ではかなり象徴的なものだと思うんで、それを正面突破し、裁判所の判断も含めてですね、勝ったということで言ってもいいと思うんですね。まあ、役所側がまた四の五の……。

三木谷:すごいんですよ、このわけのわからないファイトバックが、本当に。

外圧によってではなく、日本が自ら変わる革命を

関口:ちゃんとテレビ会議システムを入れなきゃいけないとか、色んなことを言ってるんですけれども。そういうのをご覧になってですね、熊谷さんからご覧になって、この次の第二の矢と言いますか、第二のテーマ。ここをやっぱり突破したいと。さっき税金の話ありましたけど。どの辺に球を投げていこうと考えてらっしゃいますか? 第二のテーマですね。今、薬の話ありましたけども、規制改革ということで考えたときに、どの辺にその規制改革を打ち破るために、テーマを政府にぶつけたいかということですね。

熊谷:ちょっと考えてもよろしいでしょうか。すいません。先にちょっと飛ばしていただいて。スルーでお願いします(笑)。

関口:じゃああの、森川さんにお聞きしたかったんで。じゃあ森川さんからご覧になって、森川さんは大企業とベンチャーと両方経験なさって、それからメディアも経験されてるということで言うと、日本のここを変えなきゃいけないということで考えますと、どういう点になりますかね?

森川:そうですね。やっぱり世の中って常に変化してるじゃないですか。いろんな国の歴史を見ると、変わるサイクルっていうのがいくつかあると思うんですよね。ま、経済もそうだと思うんですけど。で、日本は過去色々と振り返ると、やっぱり変わるタイミングが、何か外圧があって変わることっていうのが、圧倒的に多かったのかなと。で、今回はそれを、変わるエンジンを作ろうとしてることだと思うんですよ。

で、変わりたくない文化がある国ほど、変えるのっていうのは大変で。ある意味、昔の車で言うと「押し掛け」っていうのがありますよね。なかなか動かない車をブルンブルンとやって押していくみたいな。まあ(会場の)皆さん知らないかもしれないんですけれども。それに近いものがもし日本にできたとしたら、これはたぶん革命に近いようなことになるんじゃないかなっていう期待をしていまして。なので今回、ITというものとか、経済を変えるとか、こういう団体も含めて、そういうものができたら、あとで振り返ったときに歴史の教科書に載るような、そんなことになるんじゃないかという期待をしています。

日本のなかでケンカしててもしょうがない

関口:そういう意味で言うと、森川さんがやっていらっしゃるのは、ある意味での通信革命だと思うんですよね。で、LINEの前にSkypeって今もありますけど、これが出てきたときには日本の通信業界はもう総反対。そんなものはフリーライダーであるということで言ってたんですが。ある段階から、スマホを売ろうとした瞬間から「禁断のアプリ」とか言って、コロっと変わったと。で、今回はdocomoさんとLINEが提携をすると。だいぶ世の中変わったなと思うんですけど。そのあたりどうご覧になりますかね。

森川:そうですね、僕の性格上、敵は作らないという性格なもんですから(笑)。あまりお互い、戦ってもしょうがないんですよね。結局僕たちがやらなきゃいけないのは、中で戦うことじゃなくて、外と戦わなきゃいけないことなので。日本のなかで喧嘩しても、正直しょうがないのかなということを考えると。お互い、強いところと組むことで、どう世界で勝てるのかっていうことを、もっともっとポジティブに考えたいなと思うので。それはまあ企業同士もそうだし、政府との関係もそうだし、なるべく強い部分を、手を取り合って新しい価値を作るっていうことができたらなとは思っています。

関口:そうしますと、通信業界とかどっからか足を引っ張られたりとか、そういうのはあまりないですか? 今は。

森川:あの、そういうことは考えないようにしてますね。はい、常にポジティブに、前向きに考えるようにしてます。

関口:まあいい方向だと思うんですけども。日本では2006年頃っていうのが結構揉めた時期でありまして。ちょうど小泉・竹中改革のときでありまして。いろんな貧富の格差が開いたとか、いろいろ後で言われるわけなんですけれども。私からすると、そのときはどんどん規制緩和とか進んで、新しいものを産み出して、日本の経済も少しよくなって、少なくとも大学生が就職口に困るというようなことは、たぶんなかったと思うんですよね。

そのあとのむしろ、政権の運営のほうが問題じゃなかったかと。そのきっかけが安倍さんであってですね。このあいだ、安倍さんにも申し上げたんですが、安倍さんが(総理に)なって安倍さんが放り出したあたりから、日本が多分おかしくなったという意味で言うと、彼は時計を2006年に戻してですね、もう一回、自分でやろうと思ったことをやろうと今されていると思うんです。

インタラクティブ性のないメディアはダメ

関口:で、そのときにもうひとつ、テーマになったのが、いわゆるメディアの話。これは堀江さんとか三木谷さんが口火を切った話だと思うんですけども。いわゆる通信と放送の融合っていうのがありまして。これ、ずっと言われてるんですけれども、日本はなかなか進まないと。で、今回も総務省を中心に、スマートテレビとか、4K8Kのテレビとか、今言ってるんですけれども。世界のインターネットの流れと比べると、どうもちょっと流れが違うんじゃないかなという気もするんですけど。その辺、三木谷さんご覧になってどうでしょうか?

三木谷:なかなかメンバー的にしゃべりづらいんですけども(笑)。たとえば、電子出版やってるじゃないですか。で、アメリカの書籍マーケットっていうのは毎年10~15%ぐらい減衰していったんですよ。みんな本を読まなくなって。ところが電子書籍っていうのが出てきて、みんなさらに小さくなるのかなと思ったらですね、いきなり今度は10~15%で、アメリカの書籍マーケットっていうのは大きくなっていってるということで。

やっぱりメディアっていうもの自体が、インタラクティブ性がないものっていうのは結構厳しくなってきましたよね。それは電子書籍であれ、放送コンテンツであれ、何でも一緒だと思うんですけれども。LINEもそうなんですけど。やっぱりコミュニケーション自体が、基本的にエンターテイメントの大きな源泉になってきてると思うんですよ。だから我々がやってる電子書籍でも、今の電子書籍から、将来的にはよりインタラクティブで、よりSNS的な電子コンテンツに変わっていくだろうっていうことでやっていて。

私が思っているのは、色んな話を聞いてると、「水は低いほうに流れるんだ」と。どんなにせき止めても。だから「前のめりで、多少今損しても、先んじてやるんだ」というふうに見えるんですけれども。どうしても日本のメディアの人は、「いや、そこの水を、なんとかダムを作ってせき止めるぞ」という感覚がしていて。せっかくチャンスで売上げをガンガン伸ばすチャンスなんで、もっとこうインターネットにシフトして、テレビの画面をどうやって守るんじゃなくて。「スマホとかパソコンとかタブレットも俺たちの画面にできるじゃん!」と思って前向きにやったほうがいいと思うんですけど、そんなことないんですかね。

テレビは常に「受け身」のメディア

関口:じゃあ、亀山さんお願いします。

亀山:まさにそのとおりだと思いますね。それに対してはまったく異論ないし。僕らはテレビの番組は作っていますけど、テレビジョンは作っていませんから。先ほどの4k8kとか言われても、我々が出したイノベーションの技術ではなくて、要するに技術会社、テレビジョンセットを作っている会社だったり、カメラを作ってる会社だったりが作ってる技術。ですから僕、ドラマとか作っていまして、いきなりハイビジョンされたときに、セットの釘が目立つから、セットの作り方をどう変えたらいいのかとか。大画面テレビになっていったときに、アップのサイズはどのサイズにしたらいいのかって、真剣に現場で考えるんですね。

で、大画面テレビになったときに、これからアップが多くなると、当然テレビってアップが多いんですけど、嫌われるって思ったんですよね。つまり役者の顔ばっかりはうざいと。それで引き画を多くすると、数字が下がったんですよ、視聴率が。なぜかというと大画面テレビをお茶の間に置いといて、そのときあった14インチ、まあ、20インチ以下のテレビを子どもさんが自分の部屋に持っていけたんですね。で、本来茶の間で皆で見ているはずのテレビじゃなくて、自分の部屋の同じ画面の大きさのテレビを見始めたんですよ。だから普通にアップに戻したら、また数字が上がってくるわけですよね。「なんだ変えなくてよかったんだ」ってことを常にやる。ですから、テレビ局って実はかなり受け身だと思います。

経団連の発表のみが今までは経済の動向の発表だって、それを記事にすればよかったんですね、テレビの記者さんたちは。だけどもう1個ここに価値が生まれたときに、彼らは取材してきたら、考えなければいけないわけですよね。

つまり今メディアって考える人を作らないと、何が正しいかじゃなくて、何を発信するか、それによって世の中が変わるっていう、なんて言うんですかね、意識を持って、正義感を持って、それを考える人を育てなきゃダメなんだろうなって、今ふと思いました。与えられたものを間違いなく伝えるだけじゃなくて、考えて報じていくっていう。

これは自分がドラマ作っていたときに、考えたけど失敗して、いざ前のままに戻してみたら数字が戻ったっていうのと同じことで。イノベーションとか技術革新に対しては、常にテレビは受け身ですから。今回に関してはというか、この場に僕がいること自体が2006年からすると歴史的瞬間なんで、皆さんそれに立ち会っているっていうことだけはご理解をいただきたいなというふうに思うんですけど。ですからちょっと開いていかないと、開いていかないとっていうか、もう遅いんですけれど、早めにどんどんスピード感でやっていきたいと思っています。

ソーシャルメディアは第5の権力

関口:ぜひそういう意識でやっていただきたいと思うんですけど。こっから熊谷さんと森川さんにお聞きしたいと思うんですけど、ソーシャルメディアっていうのが、今のインターネットのコンテンツで最大の「チュニジアのジャスミン革命」だとか「アラブの春」と言われているように、社会までも、根底から崩すくらいのパワーを、私は持っていると思うわけです。第4の権力と言われたマスコミと、今まさに第5の権力と言われているソーシャルメディアと、うまく相乗効果といいますか、連環というか、やっていくっていうことがたぶんメディア業界、マスコミにも必要だし、インターネットの業界から見ても重要なポイントじゃないかと思うんです。この辺、森川さんうなずいているんで、どうでしょう?

森川:そうですね。メディアというものをどう捉えるかっていうことかなと思ってまして。昔、マクルーハンさんの「メディアはメッセージである」っていう言葉がありましたけど。当時は一方的に何かを伝えるものがメディアと呼ばれていて。それがより技術が進むにつれて、変化してきたと思うんですけど。今先ほど三木谷さんもおっしゃったように、双方向性がすごく強かったりとか、とくにソーシャルに関して言うと、個人が非常に重要になってきたんだと思うんですよ。もちろんその個人のなかには、いい人もいれば、悪い人もいるし。有象無象だということが言えるんですけど。それを自然とフィルタリングして、いいものが浮かび上がるような仕組みっていうのは出てきたのかなと思うんですよね。

たとえば経済で言うと、自由経済なのか、社会的な経済なのかによって、自由というものがうまく進むのか進まないのか、みたいな話があると思うんですけど。僕たちはインターネットの事業に関して言うと、ある程度自由ななかでいいものが産まれてくるということを強みにして、社会なり経済を変化させていくっていうことができたらと思うので。なので、今まで、ちょっとあれなんですけど、一方的なメディアに関しても、ある程度柔軟性があるべきなのかなと思ってます。

ただ一方で、僕もメディアの企業にいたのであれなんですけど、社会はまた厳しいんですよね。たとえば僕がテレビ局にいたときに、水着の女性が出てくる野球拳をやって視聴率が上がったときがあるんですよ。まあ、現場の人はいいじゃないかと。テレビだし楽しけりゃいいじゃないかと。でも社会としては「けしからん!」と。公共の電波を使って水着の女性を出すなんてけしからん、と。ま、いろんな意見があって、これはまた政府も社会も含めて、もう少しメディアに対する理解度もあっていいのかなと思います。

ソーシャル時代のマスメディアの価値は?

関口:熊谷さんどうでしょう。マスコミと、それからネットという意味で言うと。

熊谷:インターネットは今後もずっと普及していきますよね。電気が通じているものすべてにネットが通じる。多分電球にも近い将来、ネットが通じると思うんですね。で、僕、インターネットに3つの確信を持ってまして。まず1つは電気が通じているものにネットが通じる、全部。それから2つ目はデバイスが、テレビとかパソコンとかパッドとかPCとか、そういう呼び方がなくなると思ってまして。要はディスプレイのサイズと裏一緒っていう風になるんではないかと思っているんです。そのほうがなぜかと言うと便利だから。これ2つ目の確信。

あと3つ目の確信は、来年出てくるGoogleグラスですよね。これ多分、世界で初めての汎用的ウェアラブルコンピュータになると思っていて。もう僕もグラス、早く欲しいなと思ってワクワクしているんですけど。相当ウェアラブルコンピュータが普及する、3つ目の確信。で、ウェアラブルコンピュータもですね、グラスというのは、超過渡期で、多分5年10年でコンタクトになっちゃうかなと思ってる。もうコンタクトのなかに見たいものが見える状況が来ると。この3つの確信を持ってます。

で、ネットはもっともっと普及していくんだけども、最後はもう脳の中まで通じるんじゃないかと思うんですけど。そういうなかで、やっぱ最大のコンテンツって、さっき三木谷さんもおっしゃられてましたけど、コミュニケーションで、最大のコンテンツはソーシャルメディアなんだと思うんです。そこの時代にマスメディアって価値は何なのかって言うと、おそらく制作力だったり、信頼性だったりすると思うんですよね。そこがマスメディアとソーシャルメディアの多分唯一の線引きになってくると。スピードはヘタするとソーシャルメディアのほうが早いわけですから。そういうような未来があるんじゃないかなというふうに思ってます。

関口:三木谷さんはそのソーシャル戦略ってどうお考えになっているのかっていうのは。まあ日本でYahoo!と楽天っていうのは、いわば世界の先駆けだったと思うんですけど。どちらかと言うとBtoCのコマースとか、そっちに軸足があって。そのあとから出てきたソーシャルとはちょっと今までと趣を異にしてると思うんですが。ソーシャルが当然、どんどん中に入ってきてると思うんですが。

三木谷:まあ、楽天の場合はもともと僕らが言ってたのは「ショッピング is エンターテイメントだ」と。で「エンターテイメント is コミュニケーション」。つまり人間は寂しい動物だから、近くの魚屋に行って魚屋のおばちゃんと話しながら魚買うのかな、とか。なんででっかいスーパーマーケットがあるのに、そっちに行くのかなって考えたときに、単純に何でもあって何でも安いっていうんだと、多分つまんないので。だから、いろんな地方の商店の人に全国の人と繋がってもらって、で、それでその人たちが、全国に向かって商売できたら楽しいよねっていうのが、楽天の基本的な発想なので。

当時ソーシャルネットワークっていう言葉はなかったですけど、僕ら基本的にはショッピングっていうのはコミュニケーションだっていうことで始めたんですよね。それが今、僕らマーケットプレイス3.0っていうふうに言ってるんですけど。別にそれは作ったものじゃなくて、もともとが、なんとなく自分のショッピングの。昔僕、明石ってところに住んでいたんですけど、そこの近くの魚の棚っていう魚屋さんがいっぱい並んでるところに行くと、そこのおっちゃんたちとしゃべって「このサバうまいな」とか「このシャケうまいな」っていうのが楽しかったから、それをインターネット上でどうやって表現するんだっていうことだと思っているんですよね。

昔から、たとえば僕らのときでもまだ携帯電話はなかったですけど。黒電話で彼女と30分しゃべって親に怒られるとか。それがやっぱり楽しいじゃないですか。そういうもので人間はやっぱり繋がっていきたい動物だから、すべてのものがこれに絡んでくるんですよね。eコマースだけじゃなくて。

それから先ほど言ったメディアについても、電子書籍もソーシャルリーディングライフっていうのがあるんですけど、すべての行動がソーシャル的なものになってくるんだけれど。ただそのソーシャルネットワークっていうのも全部、束ねちゃっていいのかなと。Facebook、Twitter、それからLINEさんもありますし、僕らが出資してるPinterestもたぶん、定義がだいぶ違うんですよね。だからそこはちょっとよく見ないといけないかなと思ってます。

日本人の強みはコンテンツを使いこなす力

関口:そうしますと、今日のテーマですけれども、日本からどうやってイノベーションを起こすかっていうことなんですが。インターネットはもともとアメリカから生まれたということもあって、ソフトバンクの孫さんじゃないんですけど。まさにタイムマシンじゃないですが、アメリカのビジネスモデルを日本に導入するっていうのが、今までの流れだったと思うんですよね。そういうなかで「日本から」といって考えたときに、今安倍政権の成長戦略ではコンテンツの海外輸出ですとか、いろんなこと言っているわけです。

で、日本の、ついこないだもあるサーベイを見ていまして、日本がこの分野で何に優れているかと言うと、確かに技術もあるんだけれども、それをビジネスモデルとしてAppleのようにうまく組み上げる力というのは、どうも弱いんじゃないかと。でも、唯一これは世界に比べて一番日本が誇れる強みがあるっていうのは何かって言うと、通信のインフラですとか、それが利用できる環境。日本がスマホ入って、非常に短時間の間にユーザーが増えて、これだけのビジネスになったっていうのは、もともとiモードでそういうものを経験したユーザーがたくさんいたからだと。

それとユーザーのいわゆるリテラシーですね、これが世界に比べて、アメリカやヨーロッパよりも日本が相当高い。それはコンテンツをうまく消費する力もそうだし、そういったものを使いこなす力もそう。多分この辺ひとつ、私は脈があるんではないかと思うんですが。日本からイノベーションを起こすという意味では、ここに球投げたらいいんじゃないかということで、森川さんどうでしょうか。LINEはまさにその1つだと思うんですけど。

森川:ちょっと難しい質問ですね。でも、まあ、最近よくアメリカの方と議論すると、モバイルにおけるイノベーションというのは日本が強いねっていう話で。1つは電車網の普及っていうのが大きいっていう話があるんですよね。電車が普及してない国っていうのは、自動車を運転するじゃないですか。で、自動車を運転しながら、モバイルでパズドラとか、やっぱできないと思うんですよね。また混んでいる電車ほど吊り革を握りながら、片手でやるわけですよね。世界のゲームを見ると横型なんですけど、日本は縦型で作られてるのが多くて。それは吊り革を持ちながら片手でできる、それの楽しさみたいなものをよく把握してるからなんですよね。

で、ちょうどうちの創業者が話してた時に、やっぱり市場があってそこにユーザーがいるからこそ、その求めるモノが出てきて、それがイノベーションにつながるっていう話が、ひとつありまして。まさにモバイル分野に関して言うと、モバイルにおけるサービスとかビジネスに関しての造詣なり、ニーズが一番深いのが日本だと思うんですよ。なので、日本からモバイルのイノベーションが起こらないはずがないと。で、まだまだ起こる。これを世界に持っていくっていうだけでも、十分勝てる可能性はあるのかなと思って、そこはすごく期待はしてますね。

日本のテレビ局によるコンテンツ輸出の実態

関口:亀山さん、テレビ局もコンテンツ輸出っていうことを今言い始めてるんですけれども。実際に動きはちゃんと進んでるんですかね。

亀山:そうですね。徐々にアジアなんかにはやってますけども。まあ、テレビはご存知のように、まず電波は免許で僕らいただいているので、海外ってことはテレビ局を作るぐらいの発想で出かけない限りダメでしょうけど。またそれぞれ国によって、当然電波っていうのは一番重要なものですから、そうそう簡単に新たな局を作るっていうのは。そうするとケーブルっていう話になってくるわけですよね。だからテレビ局を作るってことが意味があるのか、それともコンテンツ、つまり作品とか、今で言うとアニメとか、そういうものを出していくっていうことが、意味があるのか。

もっと、皆さんご存知かどうかわかりませんけど、特にフジテレビなんかは「フォーマット・セールス」っていう事業をすごくたくさんやっているんですよ。で、このフォーマット・セールスっていうのは何かっていうのは、番組のアイデア、形態を要するに海外のテレビ局に売って、向こうで作ってもらう。例えばとんねるずの、水の中に入る「脳カベ」っていうのありますよね。あのコーナーだけで、今47ヵ国、あの「脳カベ」っていうフォーマットが売れているんです。で、タイはタイで、タイのアナウンサーが出てきて、プールを温水にして、何にして、タイ語の中に潜るとかっていう。そういうやり方でフォーマットを売ってる。

かつては日本から「料理の鉄人」が「アイアンシェフ」となって、また日本に戻ってきて、あまりいい成績じゃなかったんですけどね。でも、そういうことから始まっていくと、これだけ1日24時間ちゃんと番組を放送し続けてるのは日本のテレビ局だけなんですよ。皆さんもご存知だと思うんですけど、アメリカなんかは7月はもう、全米のネットのキー局がリピートをほとんどかけてたりっていうようなことがありますので。

だから、コンテンツって別に作った番組だけじゃなくて、アイデアとか、そこのネタってことは、非常にSNSとかそういうところと結びついてくることなんだろうなと。それと一緒に作れる、「どうぞご自由にお作りください」。この仕組みをやるとすぐLINEなり、SNSで、こういう効果があって、ここに商品説明が出てきますよ、みたいな仕組みを売れば、それが日本初でありさえすれば、できるような気がするんですけどね。

関口:でもまあ、うちも日経のグループとしてもテレビ局があるもんですから、あえて言うんですけれども。どっちかって言うと日本のテレビ局っていうのは、視聴率、広告モデルで。国内だけを見てですね。その海外戦略っていうのは、あまり上手にはやってこれなかったと。一方韓国のテレビ局なんていうのは、韓流ドラマじゃないですけども、放送だけじゃなくて、海外のネットを使った配信みたいなのを、相当戦略的にやってると思うんですよね。

亀山:勘違いされているんですけど、テレビ局が作っている作品を売っているわけじゃないんですよね。プロダクションが、ハナから世界に売るために、ですから、なんて言うんだろう。「フジテレビプロ」って制作会社があって、そこが当然フジテレビがかけてくれるのを条件に、40何本大作を作って、それを作っている間にセールスをかけて。日本でもどこでも。つまりビジネススキームが違うんですよ。ですから、僕らもそれをやるべきだっていうことだと思うんですけど。その場合、その作品が儲かればいいんですけど。今度は日本でその枠が放送しているうちに40本作っているんですけど、数字が悪いと切られるってことがあるわけですね。スポンサーが。でも海外で儲かったからいいんだっていう風にビジネスモデルがならないのが、今の日本の実情なんです。

メディアではなくコンテンツで人を集める

関口:でもそろそろ視聴率モデルっていうのもですね、DVDとかハードディスクレコーダーでもいろいろなのが出てきて。それからオンデマンド型のいろんなものが出てきますと。むしろプロアクティブに変えていかなければならないフェーズに来ていると思うんですけど、いかがですかね。

亀山:はい。そういう時期ですね。だから、今タイムシフトっていう議論がテレビ局の間では。つまり録画率がどのくらいあって、録画で見てる人たちまで視聴率というか、ですからスポンサーに対して資料を提出するのかしないのかっていう。やっとその議論が始まったとこですけど。まだまだそこはスポンサーに対してどこまで有効なのかっていう検証ができてませんから、難しいんですけど。

ただ先ほどのメディア論で言うと、僕らテレビっていう先ほど言った「出口」を持ってるからメディアって呼んでいるんですけれど。まさに人が集まるところがメディアだと思うので、そういう意味では、今のSNSだったり、LINEだったりっていうものは、ものすごいメディアなんですね。人が集まっているところに、絶対メディアが存在するわけですから。

だからたとえば今度僕ら意識を変えて、作ったコンテンツで人を集めるメディアを作って、そこで何かを売る。つまり僕らが人寄せパンダになって、メディアが1個、LINEなりSNSにできあがって。それを見ることで、みんなが語り合うときに、これを使いながら、これ見ているともっと面白いよっていう商品を売るというようなことを、テレビじゃなくてそっちでやってくっていうのは、コンテンツを作ってる側からするとものすごいチャンスを感じるんですよ。