モテるほど虚無感を感じていく

川崎貴子氏(以下、川崎):私がよく見るのが……。私は19年ベンチャー経営者をやっているものですから、周りの男性が突然成功したりすると急にはべらせたりするんですね。そうすると、最初は「どうだ~!」って嬉しそうなんですけど、どんどん、こう……。

二村ヒトシ氏(以下、二村):くたびれはててきて、げっそりしてますよね。

川崎:それと、「女性は金についてきたんだろ」とか。

二村:あるある。

川崎:ミソジニー(女性嫌悪)的な感じになってくるのが「何でうまくいかないんだろう?」とか思って……。

二村:それ、僕もある時期、ありました。モテている男性が女性を憎む現象ね。

川崎:「何やってるんだろう?」と思って。

二村:何のためにモテてるのか、さっぱりわからなくなってくる。

川崎:あの虚無は何だろう?

二村:さっきも言いましたけど「自分の器を超えてモテることは、どうやら決して幸せではない」らしい。

川崎:女性への信頼とか信じる気持ちとか、どんどん遠ざかっていくっていうのが、不思議な現象だなぁとすごい思いましたね。

二村:「モテと非モテの境界線」ってイベントで、モテたい男性にこんなに集まっていただいて、いきなり話の前半戦から「モテてもしょうがねえや」みたいな話から始めちゃったような感じがしてますけれども。とは言ってもね、やっぱりモテたいんだと思うんですよ。

モテるってことが、我々が言った、ミソジニーで女性嫌いに繋がるくらいまで、モテてモテて困っちゃうってことじゃないにしても、やっぱり男性の側は自分のほうから女性をチョイスしたい、みたいな。「俺がやりたいと思った女とやりたいんだ!」っていう欲望がある。

「どうやらモテすぎは困るらしい」っていう話がわかっていただいたとしても。とは言っても、モテすぎても「女を嫌いになるくらいモテてみたい!」って、やっぱり思うと思う(笑)。男性は。非常にセコい話、男性の欲望っちゃ欲望なんですけど。選べる側になりたいって言うか。

川崎:女性は自分たちが選ばれる側の性だと思ってますけどね。

二村:そこがまた理解し合えてないところで……。

川崎:なるほど。

二村:男が「男は偉くなると女を選べる」って思い込んでいて、女性が「いい男に選ばれるのが女の幸せ」って思い込んでいるのは、女性の問題っていうより、社会の問題かなっていう気もするんですけど。

「いい男がいない」って女性の皆さんが口を揃えて仰る問題があって、「いい男がいない」「選んでくれる男性がいない」って女性の言葉を聞くと、一人ひとりの男にしてみたら「俺の存在は何なんだ」。

川崎:いい男ってどういう人ですか?って聞くと、「優しい人」とか適当なこと言いますからね。

(会場笑)

二村:その言葉を聞いて、男はまた考えちがいをしてしまうわけ。

川崎:優しくしたら「キモい」とか言われて……。女を代表して「すいません」。

(会場笑)

男は日常で泣くことが許されていない

二村:本当に、すいません。いや、なにも俺が謝ることはない(笑)。今、女性を代表して川崎さんに謝っていただいたので。つまり、男は傷ついていますよ、そういう意味では。いや、川崎さんを詰めてるわけではないし「責任をとってくれ!」とかいうことではないんですけど。

「自分は傷ついてるんだ」みたいなことにね、さっきの「モテた結果のミソジニー」みたいなことでも気がつくし。モテてる男性はモテていてるからこそ、それに何らかの罪悪感を持つ。モテていない人も「こんな俺ですまない」みたいな罪悪感を持っていて……。

女性はうっすらと怒りの気持ちを持っているわけですが、でも男性性と言われてるもの、女性性と言われてるものの世の中での表れ方は逆じゃないですか?

川崎:はい。

二村:男は威張っている。社会の中で、あるいは仕事とかを通して、あるいは家族関係の中とかでも「男は怒ることが許されてる」とされてますよね? 本当か嘘かよくわからないですけど。世の中で一応、そういうふうになってる。女の人は怒ることが許されていない。なぜなら、怒る女はモテないから。

川崎:そうですね。

二村:我々はもう、怒る女の人が怖くて怖くてしょうがない(笑)そういう男性の恐怖が、女性の怒りを封じている。その一方で「女は泣いてもいい」っていうことになっていて「女の涙は美しい」とか言っちゃってね。男は日常で泣くことが許されてない、泣くのが許されるのは一世一代の男泣き、記者会見のときだけだ、みたいな。「もっと男は泣いていいよ」って話は川崎さんが仰ったんでしたっけ?

川崎:そうですね。この間ブログで書いたんですけど。

二村:そういう「世間の認知」みたいな、男は怒ることが許されていて、女は泣くことが許されてるんだけど、現実には……。現実かな? 現実じゃないな。「心の底では」っていう言い方しますけど、女はイラっとしていて、男性は実は泣きたくてしょうがなかったり怯えていたり傷ついて……。まぁ、「傷ついて」っていう言いかたもナルシシズムの香りがして恐縮ですけど。

川崎:何で男性ってあんなに女性の笑顔が好きなんですか? 安心するんですかね?

二村:それはさっき、「優しくされたい」っていう言葉に、お母ちゃんを求めてるんじゃないの? というのがありましたけど、人生の最初で優しくされちゃったからじゃないですかね? 母親なるものに……。

川崎:なるほど。されすぎちゃった?

二村:それは個人差でしょう。全ての男の子が母性に包まれて産まれてこれたかどうかはわかんない。これも一般論。

傷ついてることを自覚できない男性が多い

二村:それより「男は女から優しくされるものだ」みたいな物語が、やっぱりあるじゃないですか。

映画とかロマンス的な小説でも、男性が主人公である場合「男は優しくしてくれる女の人と出会うことがハッピーエンドだ」的なことがあってね。

その辺を裏切ったのが最近の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』という非常に素晴らしい映画なんですけど。そういう何か新しい常識とか良識ではない、ずっと昔からあって馴れてしまった古い物語を、人間ってけっこう信じて生きているじゃないですか。

「いい女から優しくされるのが男の人生の上がり」みたいなことを信じちゃって「俺、今まで優しくされたことがない。女性から」っていう苦しみを持って傷ついている。

だけど「傷ついてるって自覚できない」っていう男性はすごく多いと思う。それはじつは、こう言っては何ですけど、女性が思ってるより、よっぽど辛いことなのかも知れないなとも思います。女性が川崎さん1人で矢面に立っていただいて申し訳ないんですけど(笑)。

川崎:いや、全然。

二村:「じつは男は傷ついているんだよ」っていうの、どう思われますか?

川崎:だからもっと感情を出して欲しいなって思うんですよね。

二村:そうですよね。ただ、そうすると「またモテなくなるんじゃないか?」とか「駄目な男だと思われるんじゃないか?」という恐怖がある。

川崎:二村さんの本を読んでですね、「これやったらモテるな」って思ったんですよ。多分逆のこと、お互いに。男女でわかると思うんです。皆さんそれが「こういう女性だったら絶対モテるよ」って思うの、わかると思うんです。私は逆に「こんな男性だったらすごいモテるよ」って思う。

これ全部やっといて、あとはコミュニケーション変えるだけで、的確な自分の感情の開示をするだけで全然変わってくるのになと思ったんですね。これ1個ずつやっていったら全然変わるんじゃない? そこでちょっと二村さんの話に戻るんですけど。二村さんは何でそんなにモテたんですか?

二村:(笑)。

川崎:自己分析ができてらっしゃる?

二村:AV男優だ、AV監督だっていうところで、下駄をはかせてもらったんじゃないですかね? 女性の性のことを理解してくれてる男っていうふうに誤解してくれたんじゃないですか?

川崎:そうですかねぇ……。なかなかちょっとハードル高いですよ。AV監督とか。

二村:あぁ、そうか。

川崎:逆に。

二村:女性のほうがね。

川崎:一般の女性にとっては、サラリーマンの人のほうが安心ですよ。

二村:そっか。知らなかった……。

(会場笑)

二村ヒトシ氏が「男らしさ」にこだわらない理由

川崎:男性は受け入てますけど、私たち別にAVって日常的なものじゃないんで。「何かよくわからない」って。

二村:怪しい人だと思われますよね。怪しいんですけど(笑)。

川崎:なので、それじゃないと思うんですよね。

二村:なるほど。

川崎:例えば二村さんと一緒にいろいろ対談とかをすると、いろんな編集の女性たちとか同席するんですけど、話していると編集の女性が泣いちゃったりするんですよ。「何でこんな、私のことわかってくれるのかしら?」って。二村さんがちょっと言っただけなのに突然泣いちゃったりするので。

これはちょっと魔王のスキルとして、書き留めて話して貰わないといけないなと、前々から思ってたんですけど。

二村:うーん……。「これかな?」っていうのが1つあるんですけど、ちょっと遠回りしたことを言うと、僕、女の人を非常に好きなんですよ。

川崎:ですよね。よくわかります。

二村:皆さん、「そりゃ俺も好きだよ」って言うと思うんですけど、多分、俺ほど好きじゃないだろう。

(会場笑)

ただ、僕も負けた、「僕より好きだな」っていう人は世の中にはいますよ、確かに。「常に女性の席を引く、ドアを開ける、ひざまずいて靴を脱がせる」みたいなね(笑)。

そういうような、本当に女好きが高じてフェミニストになった、ジェントルになった、みたいな人もいる。ただそれは僕も含めて普通、常人には無理じゃないかなっていう気がする。

僕はそこまではやってない。AV監督という仕事で毎日、女性の裸を見ていても飽きない、っていうところはありますけれども、何でもやってあげる、みたいなところはないです、僕には。

撮影中にAV女優さんに怒ったりもするしね。決して、めちゃめちゃ優しいってわけじゃない。「じゃあ何か?」って言うと1つあるのは、僕さっきから「男性性とは何か? 男性とは何か? 女性とは何か?」っていう、ふわっとした話をしましたけど「男って何か?」ってこと、僕よくわかんないんですよ、じつは。

自分の話で恐縮なんですけど、父親抜きで育ったんですね、母親が働く女で。僕、今年51になるんですけど、50年前に子供を産んだ女としては珍しいと思うんですけど。母親が医者をやっていて、父親も医者っていうんだったら当時も珍しくはなかったと思うんですけど、そうではない家庭で。

母親と父親、僕が3歳くらいの時に別れまして「二村」ってのは母親の姓なんですけど。父性の影響を受けていないというか、これが男らしさだっていうこと、本当にね、知らずに育ったんだよね。皆さん、僕より若いと思うんですけど。(会場を見渡して)本当に男ばっかりだね、こうして見ると。

(会場笑)

男性もその時に感じた感情を出していけばいい

二村:「男同士はガンダムでわかりあう」みたいなのがあります。

川崎:そうなんですか?

二村:いや、いま適当に言ったんですけど(笑)。今の若い人でもガンダム知ってますよね? アメリカ人の若い友人が本当にね、ニューヨークで育った奴とサンフランシスコで育った奴が、もういい大人同士なんですよ、それが初対面でスターウォーズの話でものすごい盛り上がってたりするのを見たので。スターウォーズも父性の物語ですよね。

僕はだから、アムロと同い歳なんですけど……。皆さん、きょとんとしていて「お~っ」って言ってくんない(笑)。どういうことかって言うと最初のガンダムが放送された時に、主人公の年と同じくらいの中学生だったんです。最初のガンダム、もう35年くらい前のアニメなので、それくらいの歳なんですけど。

ガンダムは男性性の、父性の弱い家庭で育ったひ弱な少年が主人公なんですけど、それがロボットに乗って敵と戦う。敵の中に男らしいオッサンがいたりしてね、そういう中で男性性みたいなものが匂ったりすることがあるんですけど。

僕はね、そういうのを見てもまったく共感しない子供だったんですけど、やっぱりね「これは男らしさだ」みたいなこととか、「男はこう生きるべきだ」みたいなことが、ないんですね。それって女性から見たら「女々しい」っていう話になってしまって、逆に「男は男らしいほうがいいんじゃないか」と思われるかと思うんですけど。

共感性っていうか、男らしさにこだわらないっていうよりは「こだわれない」。男らしさのひな型みたいなものがない僕が、女性と接触した時に「まぁ、そうだよね」っていうことが……。

川崎:確かにそうですね、二村さん。

二村:感じられるのかな? っていうことが本を書いたりして自分で思うことですね。だからそういう意味でも皆さんは勿論、ご自分のお父さんの影響を受けたり、「男らしさとはコレだ!」っていうもので、育てられたりするじゃないですか。

そういう時に、あんまりそれにこだわらないほうがいいんじゃないかな? っていう。これは最初のほうで言った、「男は傷ついているんだよ」とか「男は泣けない」っていう話と近いと思うんですけど。川崎さんの「感情をあらわにする」という話にも通じますけど、ただ、あらわにするって言ってもね、怒りだす男は絶対モテません。

川崎:モテませんね(笑)。

二村:ギャアギャア怒ってばっかりいる男はモテないって考えると、逆に「男らしさってのはこういう感情じゃないんだ」っていう感情を出していける、本当にその時に感じた感情を出していける、泣きたい時には泣ける男のほうが……。

後は、「こんなことで男は笑っちゃ恥ずかしいよな」っていうようなことでもちゃんと笑える男のほうがモテるんじゃないかな? っていう感じ。

「こうあるべき」は崩していったほうがいい

川崎:二村さんとの対談でいろんな人に話を聞くケースがあるんですけど、本当に自分が間違えたと思ったら一瞬で謝るんですよ。「あ~、すいません! ごめんなさい! 僕、間違えました」って。

なかなかいろんな他の仕事で、いろんな男性と組んでやってきましたけど、なかなか女にですね、「ここで謝っちゃえばいいじゃん」っていうところでも謝らないっていうのがすごくあって、「遠いな~。モテから」って思ってたんですよ。

二村:謝れるのってけっこう大事かも。

川崎:大事ですね。「ありがとう」と「ごめんなさい」は本当に、人間関係において、もちろん男女関係においてもすごく大事で。それを言って、負けって思ってる時点ですごく遠くなっちゃいますよね。

そこを二村さんのような本当に、「今、僕は楽しいんだ」って表明することも上手ですし、お詫びしたり喜んだり、それ言ったりするっていうのも……。

女性って、女性同士でそういうコミュニケーションとってるんですよ。だから「何で謝んないのかな?」とか、「何でごめんなさいって言えないんだろう?」ということにすごい戸惑いがあって、共感から遠いんですね。そこで意地張ってることに。

なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか (文庫ぎんが堂)

二村:こっちの女性向けの本、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』のほうに書いたんですけど、社会の構造が変わってきていて、昔は「男はこうだ、女はこうだ」っていうことで、うまくいっていた時代。そのほうが時代がまわっていた、経済とかも世の中まわっていたってのがありましたよね。

これからは、どうやらそうでは無いし、インターネットとかを見ていても、女の人が怒っていること、あるいは男の人が何か変なことで興奮してることとか。男女の差っていうものが、あると思っていたことが崩れてきてる。でもその中で、あくまでも性の対象は異性であって、異性にモテたいと思うのであれば、積極的に性別の壁、「こうあるべき」は崩していったほうがいい。

今、喋ってて気がつきましたけど、むしろ同性愛の人よりも、異性を求める男女のほうが積極的に、男性とはこう女性とはこうだっていうことを崩していったほうがいいのかもしれないね。

川崎:ウチは崩れてますけどね(笑)。

二村:だから割と平和なご家庭なんじゃないかという……。

川崎:そうですね。

二村:ゲイの人って、ものすごくわかりやすい男性性を求めるわけです。男女の、異性愛を求める人こそフラットにしたほうが……。

川崎:より良いですよね。なるほど。