ロボットたちが働く社会

加藤崇氏(以下、加藤):こんにちは、はじめまして加藤です。私からは「ロボットたちが働く社会」ということで、このあとワークショップが待ち構えていますので、そのリードとなるような話を少し差し上げたいと思っています。

まず、「ロボットたちが働く社会」というふうに話をしたときに、たぶんみなさんSF映画とか、小説とか、テレビ番組とかで、ロボットの将来なんていうのに触れる機会が結構あると思いますけれども、だいたいイメージするのはこういう感じかなと思って用意をしました。真ん中にいる人だけが人間で、あとはロボットですね。

例えばロボットと一緒に働く未来がやってくるんじゃないかとか、パートナーロボットとか、昔AIBOっていうのがありましたけれども、こうした形でコミュニケーションして、ペットみたいな形でかわいがったり、何か自分が話したことに対して反応してくれるというようなロボットの世界を想像される方もたくさんいるだろうと。

いずれにしても、みなさんが何となく想像してるのは……これは人間とロボットの腕ですけれども、だいたいロボットの格付けというか、ロボットができることがだんだん増えていくにしたがって、人間と対等な立ち位置にやっぱり上がってくるんじゃないかと。

そうなってくると、人間の社会はどういうふうに豊かになってくるんだろうか、もしくは脅かされるんだろうかというあたりが関心事になると思います。そんな話を最終的には70分のワークショップでしたいと思います。

Googleがバイアウトした日本初のベンチャー

じゃあ、何で今日私が朝日新聞の方々、MITの方々に呼んでいただいて、こういう形で話をさせていただけるかというと、たぶんこれなんだと思います。

右斜め上のほうに2足の足があって2本の腕があるロボットが写っていますけれども、数年前に私が、人型ロボットのベンチャーのSCHAFT(シャフト)という名前の会社を始めました。

これは東京大学の先生だった2人の研究者からお願いをされて、私はもともとロボットの研究者ではないので、「一緒にビジネスやってくれないか」というような形で、人型ロボットという未踏の領域というか、いずれこの人型ロボットが人間の作業を代替するんじゃないかという壮大な夢を描いて、僕らが研究者と一緒に始めたベンチャーです。

これは2013年の末に、Googleという……みなさんご存知の検索エンジンの会社ですね。このITのジャイアントが日本の会社で初めてバイアウトと言って、会社が会社を買うということをやったのが、この僕のベンチャーでした。

Googleのロボット事業への参入

こうして「Googleが日本の会社を買ったらしいぞ」というあたりから、世界中のメディアが「いったい何が起こってるんだ」という話で、このSCHAFTという会社が大変有名になったと。

ですので、そのあたりから私とロボットとの接点が非常に増えてきたと。今もロボットのベンチャーをやっているということもありますので、こうして呼んでいただいてるのかなと思います。

おもしろかったのは、2013年の末にGoogleが8つの会社を一緒に買収しました。8つの会社を一気に買って、すさまじい巨額の予算をつけてその会社を自分の中に取り込んだ。

今、Googleロボティクスという部門になってますけれども、(スライドの)右から2番目は僕の会社です。世界中、何が驚いたかというと、「Googleがロボット事業に参入するということは、どうやら冗談ではないらしい」と。

つまり、(Googleが)趣味でやっているんではなくて、ビジネスとしてロボティクスが成り立つと踏んでいるんだろうとみなさんが推定して、2013年あたりからロボティクスの世界がざわざわし始めたと。

少し書きましたけれども、2013年、2014年、2015年と、世界中の投資家が、「次のBig Thingらしい」ということで狙いを定めて、毎年の投資量、このロボティクスに対して落としていくお金の数がものすごいボリュームで増えているということです。

ロボティクスの世界の技術的な進歩

私はビジネスマンなので、少しその背景になるようなことをお話ししたいと思います。じゃあ、この数年でロボティクスの周りで何が起こっているんだろうかというあたりですね。

私は、2つの技術的な進歩があると思っています。1つは、ロボットが人間と同等ないし、それ以上の精度・速度で作業ができるようになったと。

何でだろうということで言えば、機能の進化が1つあります。コンピューターの性能はみなさんご存知の「ムーアの法則」というのがあって、半導体の集積率は1年とか1年半に2倍ぐらいのスピードで上がっていくと。

この15年ぐらいでコンピューティングの性能、コンピューターのパワーというのは約1,000倍になっています。これはもう、相当注目すべき事実だというのはみなさんご存知かもしれないですね。

あとはちょっと地味ですけれども、モーターの性能。これに関してもやっぱり、この15年ぐらいで徐々に上がっていて、ある閾値を超えてきた感がある。2倍ぐらいの性能になっているという感じがすると。

一方で、ビジネスマンとして非常に重要なのは、用途の限定と書いてありますけれども。かつて多くの科学者がロボットを事業にしようと思って失敗したのはなぜかというと、究極的な汎用ロボット、何でもできる、あらゆることに対してトライができるロボットをつくろうとしてしまったと。

そうすることによって、何もできないロボットをつくってしまった過去がありましたけれども、僕らビジネスマンは何をやるかというと、まずはロボットの運動性能に注目すると。

伊藤穰一さんの話でもAIの話に少し触れられましたけれども、AIはこれから起こってくる未来ですね。人間の知能を超えるかどうかというのは、これからトライをやっていくエリアだと思います。

ただ、運動性能に着目をすると、ロボットのほうが人間よりも精緻な作業ができるよとか、人間よりも早くできるということが、ある分野を特定して言えば可能になってきている。それはもうすでに、現実というよりも過去のものになってきているということです。

あとはやっぱり、特定の作業にフォーカスすると。これがとても重要なんですけれども、ビジネスとしてしっかりと要件定義をしてあげることによって、ある特定のエリア、場合によってはビジネスとしてお金になりそうなエリアですね。

このお金になりそうなエリアに特定して言えば、ロボットはほかのことを考えなくていいと。運動性能に注目すれば、人間よりも多くの作業を、より早くできるということになると思います。

人間よりも安く、早く、優れた作業

2つ目の技術的な進歩です。やっぱり、同等の作業を人間よりも安くできるようになったというところに注目してほしいと。

1つは部品の購入コストの低減と書きましたけれども、特に産業用のロボットに使うACモーターの価格はだいたい15年で半額になってます。

あとはギアの価格。これも徐々に落ちていって、ハーモニックギアは2割減ぐらいになっていると。

あと特に大きかったのは、ロボットは製造の過程でトライアンドエラーを何回もやりますけれども、3Dプリンターの登場によって試作のコストがものすごく下がりました。

あとは、これ昔からありますが、どれだけ売れるかということを推定することができれば、どれだけつくるかということが推定できると。これはビジネスマンの仕事ですね。

金型をつくって量産化ということをちゃんとかませると、だいたい価格のオーダーで10分の1から100分の1。機械加工のコストがロボットのコストの大半ですので、ビジネスマンが入っていくことによって、こういうことがだいぶやれるようになったと。

結果として、用途を限定すれば、ロボットは人間よりも安い価格で、優れた作業ができるようになってきていると。これは未来の話をしているのではなく、現在の話をしているということです。

この15年の技術進化によって、ゼニカネの問題、ビジネスの問題だけでいくと、やっぱり労働力としてロボットのほうがお得な時代に入ってきていると言えると思います。

今後10年間におけるロボット市場の拡大

あと僕はHiBot(ハイボット)という会社の、アメリカのオペレーションの責任者をやっていますけれども。

社会インフラの検査ロボット、例えばパイプの点検ロボットとか、高圧電線の点検ロボットとか、橋梁の点検ロボットとか、ダムの点検ロボット。もしくはトンネルの点検ロボット。

日本もアメリカも老朽化したインフラがものすごいいっぱいあると。そういう中で、「ロボットで検査をしましょう」というマーケットは、もうすでに年間2,400億ぐらいあります。

統計が出てますけれども、それが2025年……10年ぐらいでおよそ10倍ぐらいになってくるだろうと。2兆円産業になってくる。

コ・ロボット。これは例えば、お饅頭をつくるおばちゃんが右から左にお饅頭を投げて、隣の人が受け取って、何かそれに付加して、それでまた隣に投げると。こういうピッキング作業を人間の隣でやるロボットですね。

このマーケットは、今に至っても世界中で年間15億しかないと。ところが、あと10年でこれは100倍になるだろうと言われています。

最後に物流関連ロボットです。すでに倉庫の中はロボット・機械で自動化されてきていますけれども、倉庫に行ってみればわかりますけれども、まだものすごい数の人間が働いています。

こういったところが、だんだんロボットに置き換わっていくと。そのロボットに対して、今すでに6,000億ぐらいの市場がありますけれども、これも10年ぐらいで3兆5,000億ぐらいになるだろうと言われています。

これ10倍、100倍、5倍って書いてありますけれども、こんなふうに10年間で拡大していくマーケットというのは、ほかにほとんどありません。

自動車の産業を見ても、外食の産業を見ても、ほとんどの産業が年率1パーセントとか2パーセントとか。

そんな勝負をしている中で、ロボットというのは5倍だとか、10倍だとか、100倍のマーケットのポテンシャルがあるというのが、とても注目すべきことだと思います。

製造ロボット「Sawyer(ソーヤー)」

最後に、事例を2つだけお話をして終わります。1つは製造ロボットです。これはSawyer(ソーヤー)というロボットで、Rethink Roboticsというボストンにある会社ですね。

これもロボットベンチャーで70億ぐらいお金を集めていて、マーケットに数年前から入っていって、とにかく一生懸命人間の代替をやろうとしていると。

製造業というのは工場の中に入ってみると、溶接だ何だとか、エレクトロニクスや半導体でも製造装置だ何だとかありますけれども、意外と自動化が進んでないエリアが多くて、およそ半分ぐらいのエリアは、まだ人間がセル生産方式だ何だと言って一生懸命やっていると。

そういったところにSawyerが入っていくと、だんだん人間の作業がなくなっていって、ロボットの作業に置き換わっていく。それは未来の話をしているのではなくて、今現実にマーケットの中に入っている。このロボットというのは、だいたいいくらだと思いますか?

恐らくみなさんがパッて考える金額というのは、ロボットというのはその辺の幅が大きいんですが、「1,000万ぐらいするんじゃないか」とか「いやいや、2,000万だ」という話がありますけれども。これはだいたい200〜300万なんですね。

日本人の平均的なサラリーを考えれば400万前後。しかも年間のサラリーですから、毎年かかっていく。そういったところを1台200〜300万、あとはメンテコストですから。

だんだん(ロボットに)置き換わっていくというのは、何となく想像できる現実、未来なんじゃないかなと思います。

Amazonが導入した、倉庫内作業ロボット

もう1個は倉庫内の作業ロボット。もう結構経ちましたけれども、Amazonが3〜4年前ぐらいに「キバ・システムズ」という倉庫の中で作業をする、オレンジのロボットの会社を750億ぐらいで買いました。Amazonは、自分の物流倉庫の中でこのロボットを使いたかったということです。

Amazonの作業というのは、みなさんご存知の電子書店です。でも、彼らの本当の強みというのは倉庫にあると。その倉庫の中で、一生懸命Amazonのパッキングをやっているわけですね。

誰のところに運ぶのかという話もそうだし、荷台に積んで、トラックまで運んでいって積み込むと。こういう作業を人間がやっていたということです。それをAmazonは自動化したかった。それで、この「キバ・システムズ」を入れたということです。

これは全部下にオレンジのロボットが入っていますけれども、人がほとんどいないのが見ればわかっていただけるかなと思います。

こうして全てを自動的にやっていくことによって、人間よりもロボットのほうが早く確実で、安いんだということを彼らは実装してるというような状況です。

話はだいたいこれで終わりですけれども、少しまとめると、コンピューターのパワーとか、部品の性能とかが非常に上がった結果、ロボットができることが大変増えたということですね。

そしてエリアを限って言うならば、ロボットのコンポーネント(部品)のコストも下がりましたので、どうやら人間よりも安くできるようになってきたらしいということが、私がビジネスマンとして言いたかったことです。

2035年、人間に残された仕事は何か

最終的には今日の70分のワークショップにつながりますけれども、人間の作業がだいぶロボットに代替されるようになったなと。そこから考えると2035年……あと20年ですね、10年ぐらいだったらまだ予測できるかもしれない。

2035年ということを考えたときに、「じゃあ、人間に残された仕事はいったい何なんでしょうか?」ということを問いかけて、私のスピーチを終わらせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

制作協力:VoXT