メディア事業、エージェンシーのアジア展開

市來孝人氏(以下、市來):本日モデレーターを担当させていただきます、市來と申します。今はフリーランスでメディアプランナー、Webの編集の仕事ですとか、一方で、MCなど喋りの仕事もやっています。

なぜ今回モデレーターを担当させて頂くかと言いますと、シンガポールのラジオ放送局で日本語のラジオ番組がありまして、レポーターとして1年間出演しておりました。今回はそのご縁もありまして、モデレーターをさせていただきたいと思っております。

では、改めまして、本日のゲストのお三方をお招きしたいと思います。それではどうぞ! 皆さん拍手でお迎えください。

(拍手)

市來:本日のゲストの皆様です。三者三様、メディア、事業会社、エージェンシーということで、それで独自のご経験をお持ちかと思います。一人ひとり、まずは自己紹介をしていただきましょうか。まずはTech in Asiaの日向さん。簡単な自己紹介と、どういう関わり方で、今アジアと関わっているのかという所を教えていただけますでしょうか。

日向徳旭氏(以下、日向):ありがとうございます。Tech in Asiaの日向と申します。僕はアメリカに留学をしてまして、その後にニューヨークだったりとか中国の上海だったりとかいろんな会社で働いています。今の会社Tech in Asiaはメディアのサイトになりまして、アジア圏に記者を配置して、それでTech業界、最近のインターネットとか投資家とか、大企業の新規事業などを取り上げている会社になります。

カンファレンス事業をシンガポール、インドネシア、そして日本の東京でやってます。その日本での立ち上げということで、東京のカンファレンス事業をやっていて。僕は記者ではないんですけれども、いろんな事業会社の方や、スタートアップ業界の人にたくさん会っています。

市來:このTech in Asiaさんのイベントは、先ほどもお話ありましたけれども、アジア各国で行われているということで……おそらくアジア各国のスタートアップのPR事情をいろいろご存知かと思います。今日はそのあたりを伺っていければと思います。

日向:はい、よろしくお願いします。

市來:では続いてアルテクラス株式会社の新井さんです。簡単に自己紹介をお願いします。

新井豪一郎氏(以下、新井):アルテクラスという教育系のベンチャーの会社代表をやっています。新井と申します。私はアプリで勉強のノートを学生同士みんなで共有するという、ノートのクックパッドみたいなサービスをやってまして。それを日本で出した後に、タイで出して、台湾と韓国で展開の準備をしていて、来年からフィリピン、インドネシア、アメリカ、インド、ロシア、そんなところで展開しようという計画をしています。

会社の中で僕が英語を一番喋れるという理由だけで、僕が海外事業の担当を担ってまして。1人でいくつもの国をぐるぐると回りながらやってます。と言っても、現地でいかに上手くチームを作って、それをうまく回すかっていうことを追及しているので、そういったところも含めて、皆さんと情報共有をさせていただければなと思っています。

市來:主に、学生向けのサービスですよね?

新井:はい、そうです。今は学生向けでスタートしていて、これから社会人とか、資格試験を受ける人たちが対象になってくるんですけども。

市來:PRの面でも、現地の学生さんを巻き込んでいったというお話を事前に伺っているので、そのあたりをいろいろとお伺いできればと思っております。よろしくお願いします。

新井:よろしくお願いします。

市來:Vivid Creationsの齋藤さんです。よろしくお願いします。

齋藤真帆氏(以下、齋藤):皆さんこんばんは。Vivid Creationsの齋藤と申します。私はVivid Creationsという日本の良質なコンテンツを海外に発信するためのコミュニケーションデザインを作る会社ということで、もともとイベントから始めたんですけれども、最近はPR、そしてイベントを中心としたマーケティング事業をシンガポールを起点にしてやらせていただいています。

立ち上げたのが2009年で今6期目です。もともとは現地の日系企業さんのプロモーションを担当させていただくことが多かったんですが、ここ3、4年シンガポールへの日本の企業の進出に伴って、日本からの民間企業や、地方自治体のプロモーションを担当させていただくことが増えました。

元々はシンガポールだけに拠点があったんですが、今年の4月から東京のほうにも拠点を構えました。いわば日本へ逆進出をして、日本国内のお客様がもっと海外に出やすいようなシステムを作り上げられたらいいなと思いまして。現在は私自ら行ったり来たりしながら、東京オフィスの立ち上げをやっています。

あとはやはり自社コンテンツを持ちたいなということで、「リアル脱出ゲーム」のシンガポール版を手がけています。日本でやっているものを多言語化して、現地の方にプレイしていただくのを3年やっています。最近はコンテンツ企画から開発を現地のスタッフやファンと一緒に作るかたちにも挑戦しています。

市來:齋藤さんはあらゆる日系企業さんのサポートやコンテンツのローカライズをシンガポールを中心に担われてきたことと思います。今日はそのあたりを伺えればと思っております。

日本とアジアのスタンダードの違い

市來:今日のテーマは「アジアマーケットのトレンド、流行るプロダクト・サービスは?」というところで、先ほどお三方に簡単に自己紹介いただいた実際に行なっている活動やサービスを深堀りしながら、それを元にいろいろご質問していければと思います。

では日向さんから、先ほどのTech in Asiaの各国のイベントについて、どういう動きを今されているのかお聞かせいただけますか?

日向:弊社はオンラインメディアをやってるんですけれども、それに付け加え、インターネット上だけではなく、オフラインということでカンファレンス事業をやっています。どこでやってるのかというと、弊社の拠点があるシンガポール、インドネシアのジャカルタ。後は今年の9月には第2回目の東京カンファレンスを開催しました。

この3カ国でスタートアップ業界の投資家、起業家とか、企業の新規事業担当者などを招いてカンファレンス事業をやってます。来年の7月にインドのバンガロールでカンファレンスを予定しており、今アジアで流行っているアベンジャー業界、投資家・VCさんと絡めて、大きいカンファレンス事業をやっていこうと思っています。

市來:やはり、現地のスタートアップの方と直接お話をされることが多いんですか?

日向:そうですね。カンファレンスを日本で開催する場合や、シンガポールで開催する事があるんですが、日本からスタートアップを現地に連れて行ったり、こっちのVCさんとお話をして、アジアでスタートアップに投資をしたいという方にスタートアップを探していただくような場をイベント内で提供したりしています。

あとはクロスボーダーも弊社の1つのミッションで、アジア圏でいろんな国がある中で、個別でバラバラに存在しているものを、プラットフォームとして、オンラインとオフラインを繋ぐ。この2つでやっているかたちになります。

市來:特にPRというところに特化していきますと、何かアジアならではの施策をやっている企業があったりするんですか? 一言でアジアといっても国によってあらゆる違いがあると思うんですが...。

日向:そうですね。何社かスタートアップの方にお話を聞いたんですが、日本と韓国はすごく似てると思っています。同じ国に同じ民族が在住し、だいたい見た目がアジア系の方が、90パーセント以上を占め、日本人という構成になっていると思うんですけれども。

海外に行くとおじいちゃんがフランス人で、おばあちゃんが中国系みたいな構成の人が、日本よりかなりの割合でいまして、見ているテレビとか、やってるゲームとか、食べている食事とか、同じ国でも全然違うので。

分散が大きいので、ニュースとか出てきた平均値を見てしまうと、すごい誤る傾向があるのかなと思ってまして……。

僕は上海に住んでいたんですけれども、上海も平均賃金がだいたい10万円ぐらいの手取りで、その人はどういう人かというと、海外に留学をして博士号とか取得した人がそれくらいの賃金で、それ以外の人は大卒とかだと5万円以上変わる賃金。最近は上がる傾向なんですけど。

その教育を受けた人とか海外にいた人って、かなり賃金が違いますよね。あとは地方から上海に出てきた人とか、自分で食べていかなくてはいけないので、自分の家賃を払わないといけないので、それで自分の給料の大半が消えていきます。なので、そういった人のお金の使い方なども同じ上海住む中国人同士でも全然違う。

それはアジア圏でも言えるのかなと。なので、そういった散らばったグループを分析するのがすごく重要かと思いますね。

市來:分析というのは、具体的にはどのように?

日向:弊社はイベントをやっていて、そのノウハウがあります。イベントに来る人っていうのは、そのイベントのタイトルだったりとかに対してのニーズがすでに顕著化されてる人なので、それに対してフォローアップして、お話をどんどんしていっているかたちですね。

市來:傾向にしてもアプローチの仕方にしても、なかなか一筋縄にはいかないということですね。

日向:日本向けの会社さんとか、韓国の会社さんとか、その2カ国に限らないんですけど、海外からアジア圏に来た人がよく失敗するのが、一緒くたにとられてしまうというというのをよく聞きます。

市來:ひとつにまとめられてしまうんですね。

日向:その国の同じパスポートを持っていたとしても、まとめられない、それが日本との大きな違いであるのかなと感じてます。

市來:「アジアの良い例としてこれだ」というのはなかなか絞りづらいということですね。

日向:そうですね、かなり難しいと思います。

アジア圏でのサービス拡散法

市來:続いて新井さん、先ほど「絞り切れない」というお話がありましたけれども、おそらく最初に進出されたのはタイだと思うので、まずはタイに特化して伺えればと思います。

具体的には、現地でサービスをどのように広げていったんでしょうか?

新井:アプリを日本の次に最初にリリースしたのは確かにタイなんですけども、海外に展開しようと決めて最初に出ていってリリースの準備をした時は、タイじゃなくてシンガポールと香港だったんです。

この2つの国を選んだ理由はいくつかあって、現地の教育投資が結構高い。そしてスマホが普及している、それから僕らが出張する時に、最初の国として展開しやすいというところがありました。

これが大失敗で、香港とシンガポールは僕らのサービスは少なくとも受け入れられないなということがわかって、タイに。タイはさっきもちょっと言いましたが、タイに出していますと……。

市來:シンガポールで受け入れられなかった理由というのは?

新井:「勉強ノートのInstagram」とか、「勉強ノートのクックパッド」という説明をしているんですけれども。僕らの「Clear」というサービスであれば、勉強ノートをみんなに公開して、それをクックパッドのようなレシピとして教科書の代わりに使えるものなんです。それがシンガポールの学生さんからすると、「僕のノートを人に見せていったい何のメリットがあるんだ?」と。

市來:そういう意識が強いということですね。

新井:そうですね。インディヴィジュアリズムが強いですね。香港も同じですけど。これは途中でわかってすぐに進出をやめたんです。

タイに関して言えば、そういう部分が非常に強いということがわかって。他の条件もいろいろあるんですけど、教育投資に関しては日本とか韓国とか台湾ほどではないんですけども、意外とミドルクラスの人たちも教育に家庭の収入の3割4割をつぎ込むことが多くて、いけるという気がしました。

ご質問は「どうやって広げるか?」でしたね。それに戻ると、僕たちのは学生向けのサービスなので「現地の学生のことを一番わかってるのは僕らではなくて、現地の学生だろう」という当たり前の前提に基づいて、現地の学生さんたちにインターンとして僕らのプロジェクトに入ってもらいました。

彼らにマーケティング戦略を立ててもらって、「自分たちと同じような人たちにリーチしていって使ってもらうにはどうすればいいか?」というのを考えてもらう。それを実行していくという。

市來:プランの立案からお願いしたのでしょうか?

新井:プランからです。日本でどうやって延ばしたのかというと、コアな話で、必ずしもタイで成功するわけじゃないので、タイに行って方法を考えるということ。

市來:どういったプランができましたか?

新井:タイはソーシャルネットワークで情報が広がるのがものすごく早い。ソーシャルネットワークでの滞在時間が非常に長い。世の中を歩いている人を見ててもすごく感じるんですけど。

市來:SNSを駆使して広げていこうと。

新井:そうです。例えば台湾ですとTwitterとかは使われないんですけど、日本でも高校生や大学生はあまりFacebookを使わない。タイは全部のプラットフォームを学生たちが使ってます。LINEとTwitterとFacebookと全部使います。その3つを運営して認知を獲得していくっていう。

市來:そういう使い方が当たり前だという感覚ですか?

新井:それは日本人の学生と同じ感覚で全部使いこなしますね。

市來:結果はいかがでしたか?

新井:日本で伸びたスピードよりも速いスピードでタイは伸びてまして。6月ぐらいからまじめにマーケティングをし始めて、だいたい日本の2倍くらいのスピードですね。

市來:2倍! ただ、この成功の方程式を、他の国に横展開しようといえばそうでもないということですよね。

新井:そうですね。方程式のどの部分が他の国に当てはまるかというと、現地の学生を捕まえて、現地の学生にどうやったらうまくいくのかというのを考えてもらって、それを実行してもらうところだけなので。

市來:次は台湾ですとか、そういったところでも基本的なベースは生かしながら、というところですか?

新井:そうですね。

事前リサーチで現地に受け入れられるPRを

市來:続いて齋藤さん。シンガポールで様々な日本企業の進出をサポートされてきて、いかがでしたでしょうか。

齋藤:まず現状で言うと、皆さんのお話にもある通り、東南アジアをひとくくりにしても各国全然違うという感じです。シンガポールは、日本の中でも進出がしやすい、会社が作りやすい、そして富裕層が多いみたいなイメージがあるようなんですけれども、もっと深堀りしないといけない部分があって……。

そもそもサービスとか商品が本当にシンガポール人たちに必要なのかどうかというリサーチが、あまりなされてないまま進出しているのかなということも見受けられます。会社は100パーセント外資でも作れるので、事前準備をしながら代表の方さえ来れば、数日で会社が登記出来ることもあるようなので。

ただ、会社を立ち上げたあとのランニングコストがシンガポールは高いですし、シンガポールでどれくらいの価格帯で、どういった方たちに使ってもらうのかということがイメージできないままシンガポールにいらっしゃる方も増えています。となると、新井さんが仰ってましたけど、「やっぱりシンガポールはちょっと厳しいよね」と撤退される方もいらっしゃいます。

とはいえ、他の国になるとさらに進出のハードルが上がる国もあります。例えば100パーセント外資は無理だとか、現地のパートナーを見つけないといけないとか。そうするとパートナー探しはできても、そのパートナーと最適なパートナーシップを組めるかというのは別問題だったりします。進出だけに注力するのではなく、実際にサービスを開始される前に入念なマーケットリサーチをするなど、いかに事前に現地の方の声を聞けるかが大事なところかなと思います。

日本の販売の方法やプロモーションの方法をそのまま持ってきても機能しないパターンも多いのですが、それはそれだけ慣習も文化も、生活スタイルも、好みも違うからなんですよね。

シンガポールにおいては、とにかく情報が早いですね。シンガポール人の方々は、どちらかというとシンガポール国内の情報のみを見ているというよりも、世界各国、つまり海外の情報を見ているので、海外情報に特段敏感だと思います。

そうすると、日本のみならず他の国も特別じゃないという環境の中で、そのグローバルな視点を持っている方に、どれだけ彼らの生活を豊かにするものなのかとか、個人・企業にメリットがあるのかというところを伝えるためのストーリーをちゃんと描けるかということが重要になります。

市來:シンガポールの特性としては、そういった面があるんですね。

齋藤:そうですね。シンガポールである程度成功というか、精通されている企業さんはその辺りをしっかりやっていますね。現地のリサーチもそうですし、現地の人と近い距離でコラボレーションしているというか。これが続けられる秘訣かなと思っております。

市來:齋藤さんは日本のクライアントさんと現地のユーザーさんの橋渡しをたくさんされていると思うんですけれども、やはり現地の方の声を踏まえてローカライズされることも多いですか?

齋藤:例えば今地方自治体さんの観光プロモーションとして、地方の名産品だったり、観光地といった自治体の方が出したい情報と、シンガポールの人たちが魅力的に思うもののギャップを見たりすることがありますね。

例えば今インバウンドだと「爆買い」というキーワードをよく聞くことが多いと思いますが、シンガポールの方は買い物というより、FITと呼ばれる個人旅行で、どちらかというと自然とか体験型の個人旅行とかを求めていらっしゃる。年に3回ぐらいはみんな旅行に行くんですよね。

そうすると旅行先候補の一つに日本が入って来るのは当たり前で、どちらかというと、もう日本には行ってて、もっとマニアックな所に行きたいと思っている方が多かったりします。

だからこそ、弊社は間に入り、シンガポールや東南アジアの方たちとの対話を通じて、それぞれのクライアントさんにフィードバックしてお返しします。コンテンツの棚卸しではないですが、既存商品に注力するだけでなく、新しいコンテンツ開発をするのも、選択肢の一つなのではないかと思います。

市來:私もVivid Creationsさんが手がけられた大阪市の事例を取材したことがありますが、大阪の特産品をどうやって広めるかという時に、なんと様々な食材をベースにカクテルをプロデュースされたという。

齋藤:その時の対象商品がとろろ昆布とか、梅酒とか、鰹節、白味噌などの食材をPRしたいということでした。

そのような場合、マーケティングプロモーションというと催事になることが多くて「特産品フェア」のような物産展をやることなんですが、商品によっては、購入後、商品を調理しないといけないものもあります。しかし、シンガポールはあまり自炊の文化がないんですよね。そこにいきなり鰹節が陳列されていても、おそらくどうやって使っていいのかわからない方も多いかと。

そんな中で、ちょうどシンガポールでカクテルバーがその時流行ってたんです。メニューがなくて、バーテンさんが様々なフレッシュなフルーツや食材を使って、その日の気分で作ってくれるバーです。だいたい1杯2,000円ぐらいするんですけど、それをかっこよく飲むようなことが若者の中で流行っていて。

そういったバーとコラボをして、バーテンさんにその食材を使って、カクテルを作ってもらうというキャンペーンを実施しました。メディアとしても大阪ととろろ昆布や出汁となると、どう結びつけるかちょっと書きにくい部分があると思うんですが、「おしゃれなカクテル」で、実はそれが大阪の食材だという結びつけ、つまり「大阪プレミアムカクテル」にしたら興味を持ってくれました。

そういった発想の転換というか、コンテンツの開発を現地に対応してやっていくことは、仕掛けていても楽しいですし、積極的にやったほうがいいことだと思います。そのトライアンドエラーが大事で、そこからさらに新しい発想が生まれる。