日本のミドルリーダーは海外でも通用する?

岩佐大輝氏(以下、岩佐):では、まとめて質問を取りますので、質問の内容を簡潔に。誰に答えてほしいかということも希望がありましたらお願いします。

質問者1:田村さんに質問です。世界で見たときに、日本のミドルリーダーのレベルはどのように評価されているかというところと、企業として(海外に)どんどん出て行くというときに、何が足りなくて、何をやっていくべきかというところをぜひ教えていただきたいです。

岩佐:次の方。

質問者2:間下さんに質問です。日本にいながら多様性の中の対応力を身につけるにはどうしたらいいか。海外に行けば一番いいんでしょうけど、社員の方に日本でどういう準備をさせているかお伺いしたいです。

岩佐:はい、次行きましょう。

質問者3:田村さんに質問です。いち従業員の立場としてアジアに行く方法についてどのように評価されているか教えていただけますでしょうか。

経営者、企業として行くのはわかるのですが、ネットワークもない、何も知らない、人脈もない中で、駐在員だと3年ほどで戻されますから。それがありだというのなら、どういう進路で攻めていけばいいのか、ヒントをいただければと思います。

岩佐:もう一方。

質問者4:田村さんにお伺いしたいです。無理にでも0~4歳、0~6歳を(海外に)出せと言っていただいたのはありがたい話だと思っていて、よくご存知だから危機感を持って言っていただいていると思うんですね。

それを知らなくて、子供を守らなきゃと思っている親も多いと思っていて、その人たちにポジティブに(海外に)出す意思を持ってもらうために、何か工夫できることがあれば教えてください。

岩佐:じゃあ、田村さん。まず日本のミドルリーダーの話をお願いします。

田村耕太郎氏(以下、田村):今のミドルの人も業種や規模によってケース・バイ・ケースだと思います。ざっくりにしかならなくて恐縮なんですけど、僕は現場レベルからミドルクラスまでは圧倒的に日本人が優秀だと思いますね。

世界には経営層のマーケットがしっかりあるんで、そこの厳しい競争で厳しい実績を問われる人たちは、アジアも含めて外国のほうが高いと思うんですけど、ミドルクラスは日本の人が強いと思いますね。

ただ、こっち(シンガポール)では長時間労働はまずないですし。僕もサラリーマンをやっていたから、上司が残っていたら部下として帰りにくいというのはすごくよくわかるんですけど。シンガポールでそんなことしたらみんな辞めますね。

「この効率の悪い上司についていくのは嫌だ」とか「出世してもこんなことをやらされるなんて嫌だ」ということで辞めていくわけです。だから、働き方を変えなきゃいけない。

効率的に仕事ができる人は、外国の企業で日本のミドルの能力を持って働けば、語学とかスキルセットがあればとてもおもしろいんじゃないかと思います。

駐在員としてアジアに行く価値

岩佐:ありがとうございます。何も知らない人が行くのはどうかというのと、子供をどう出したらいいのかというのもお願いします。

田村:社員として行くのはどうかということですよね? まず基本的に、本人のキャリアパスがありますよね。本当にアジアでやりたいのか、それともこだわっていることがあって、その過程でアジアに触れていくことが大事なのかっていうことが大前提としてあるんですけど。

将来アジアでやりたいことがあって、その会社に残るのがいいという判断でしたら、会社としてアジアに連れて行ってもらえるチャンスがあるのであれば、必死になって上司にこびを売ったり、試験を受けたりしてでもアピールして、アジアに行くのがいいと思うんです。

もちろん起業家として行くとか、いろいろなことがあるんですけど。現地に行かないとわからないこと、例えば日本にいるとアジア一の先進国は日本だということになるんですけど、サイズは中国ですし、1人当たりの豊かさとか生活のレベルの高さだと圧倒的にシンガポールですよ。

1人当たりGDPで見ると4割、これ以上為替が下がると倍ですよ。家賃も倍、普通の生活費もほぼ倍です。安いのは屋台とタクシーぐらい。だからなかなか拾ってくれないですけどね。

アジアに出てみて意外だったのは、フィリピンはまだ発展途上のイメージがあって、確かにスラム街もいっぱいあるんですけど。マカティなどに行けば、シンガポールと変わらないくらい進歩していて。

何が言いたいかというと、国家としてはまだまだなんですけど、その中の主要都市というのは東京と同じくらいの購買力、もしかしたら上回るくらいの。

まだまだ日本には及ばないですけど、ジャカルタの一部だけ見たら、東京と同じくらいの購買力がある人がいるとか、そういう現地でしか実感できないことに触れるという意味では、社員としても意味があると思います。

日本と比べたアジアの治安

田村:最後の子供を守るということですけど、日本には安全神話があるんですけど、安全という意味ではシンガポールのほうがはるかに安全です。

ほとんどの人がネットを見られているし、隠しカメラがいろいろなところにいっぱいついてるし、何かあったらすぐ警察が来る。交番はないんですけど。

シンガポールは多様な民族がいて、ものすごい格差がありますから。その中でこれだけの治安を守ってるということは、日本よりもはるかに治安がいいと思います。

台風が発生するところも南にあるから台風も絶対ないし、スマトラ大地震のときも津波が全然来なかったという安全性です。シンガポールに限っては子供を置いていくのも(問題ない)。

生活費が高いというのをリスクに思うかもしれないですけど、子供のこれから70年、80年の人生を考えたら、唯一実のある投資は、車や時計じゃなくて、全部子供だと思って投資してますけど。それは価値観ですからね。安全とか安心とか将来性を含めて、アジアでも場所を選べば十分。

そういう意味でもアジアを見てほしいですね。日本の人のアジアは遅れているというか、まだ上から目線なんですけど、そんなことないですから。東南アジアでも見てくださいと言いたいですね。

岩佐:グロービスの田久保さんという方とアジアの教育を見に行こうということでインドに行ったんですね。インドはもちろん英語で、全寮制です。

安全な教育施設、インターナショナルスクールがたくさんあって、ほとんどの学生、子供たち、小学生は韓国人でした。シンガポールに限らず、安全なアジアはたくさんあると思います。

日本でダイバーシティを感じるのは難しい

岩佐:さて、間下さん。日本にいながらの(多様性への)対応力ということで。

間下:ダイバーシティですよね? 無理じゃないですか、それは。

(会場笑)

間下:無理だと思いますよ。ここまでモノカルチャー、モノレースな国はないですから。基本的には難しいですよね。

我々の会社がどうやってやっているのかというのはありますけど、会社とか個人がモビリティを持つしかないんですよね。どこでも働ける働き方。

国の方向性も一極集中から地方創生という話も出ていますけど、実現すればいいのは、どこにいても働ける働き方なんですよ。これを実現していかないと、グローバル競争の中で生き残っていけなくなると思います。日本国内にいなくてもできるような形をどうつくっていけるかっていうのは、課題としてあると思うんですよね。

我々はどうやっているかというと、日本の社員からすると正直まだダイバーシティは感じられていないと思うんです。

ただ、海外がどんどん増えてきているので、こういうもの(テレビ会議システム)を使っててコミュニケーションするケースが増えてきますし、顔の色も黒かったり白かったり黄色かったりしますけども、違う色の人たちと、違うカルチャーのもとにコミュニケーションしていくのは少しずつ刺激になっていくはずなんです。

ただ、これではやっぱり弱くて。僕らが今後やりたいのは人の入れ替えなんです。一時的に向こうで働けるとか、行ったり来たりしながら働く。

仮にマレーシアのオフィスにいたとしても、日本の仕事してたっていいんですよ。中国の仕事してたっていいんですよ。こういった(テレビ会議システムの)仕組みがあるんで。

そういった環境をつくっていくことによって、日本の人たちがダイバーシティに慣れていかないと。ここを見回しても95%くらい日本人ですもんね。

これで(ダイバーシティを)感じることはまず無理なんですよね。だからこそ日本の会社はまずブイキューブを導入していただいて、頑張っていただければと思います。

(会場笑)

岩佐:みなさん、ブイキューブ導入しましょう(笑)。

間下:営業ですから(笑)。

30代、40代の日本人がアジアで競争していくには

岩佐:あともう少し質問ありますか?

質問者5:岩佐さんに質問です。我々は今後アジアの若者たちと競争していかないといけないと思うんですけど、アジアの若者はものすごくハングリーに学んで力をつけてくると聞いています。

そのような中で30代、40代の我々が競争していくには、どういう心構え、能力を身につけていけばいいのか、教えていただけないでしょうか。

質問者6:田村さんに質問したいと思います。私はフィリピンに6年いて帰ってきました。自分はグローバル化したからこそ、日本のアイデンティティがこれから必要なんじゃないか、それを失ってしまうとグローバルで戦う武器がないと思いました。そうは言っても日本では足りないところがあって、それはマネージメントじゃないのかなと思っています。

日本のマネージメントで、戦略、組織、育成と分けたときに、日本はどこが強みで、どこが弱みか、足りないところがわかればお伺いしたいと思います。

岩佐:ありがとうございます。じゃあ、私に頂いた質問で、30代、40代がどう戦っていくかっていうことなんですけども。私グロービスの卒業生なんですけども、先輩面させていただくと、ジャンプするしかないと思いますよ。

今日登壇者の他の方々のお話にもありますけども、とにかく飛び込んでみましょうということですよ。行ってみましょう。小さい一歩を踏み出してみましょう。どんな小さい事業でもいいから、スモールスタートでもいいからやってみましょう。

ジャンプする以上に素早く学習できる場所っていうことはないと思いますので、まずは出て行きましょう。そして小さいスタートを切ってみましょうとみなさんに提案したいと思います。

田村さん、お願いします。

グローバル・シチズンというアイデンティティ

田村:まず先にアイデンティティの話をさせていただくと、僕はこっちに来てすごく考えが変わったんですよ。

僕は日本の政治家をやってましたから、どうしても日本のアイデンティティをすごく大事にする。特に鳥取県みたいなところで生まれましたので、「グローバルとか言い出すと根無し草になっちゃう」と思っていたくらいなんですけど。

シリコンバレーにも行って、アメリカの中を見て、世界中のトップの人たちと話して思うのは、グローバル・シチズンというアイデンティティができつつあると。

若い世代で起業しているようなやつとか、大学をドロップアウトしたやつ、日本で言うと僕が根無し草だと思っていた連中ですよ。しかし、グローバル・シチズンっていうアイデンティティがしっかりでき始めているんですよ。

どうしてかというと、多様性に小さい頃から慣れさせるということで、親がそういうのを求めて学校に入れてきますから。

そうすると、教育も最初から地球が前提なんですよ。地球の課題をどう解決するかみたいなことを幼児や小学生くらいから考えて、「あなた方の舞台は地球。課題はこんなもの。これをソリューションするんだ、君たちは世界を変えるんだ」っていうのを常に刷り込まれているような世代が生まれているわけですね。

その人たちの親とも話すんですけども「この子たちは間違いなく、全然違う人生を送るだろうね」と。

もちろんブイキューブみたいなサービスを使うこともあるでしょうし、あとはどんどん場所を変えていきながら、人と関わり合っていく。

スイスに帰る人もいれば、中国に帰る人もいる。ただ、0~4歳でこんなに仲良くなったんだから、またどこかでこの子たちは出会って、世界中のいろいろなところで助け合えるというようなことを親たちとよく話してるんですけど。

我々が生きる時代と、テクノロジーも人口構成も違うんで、僕はちょっと否定的だったんですけど、こういう層が生まれつつあるので、アイデンティティ・クライシスになるんじゃないかと、自分の子供に心配してたんですね。

実際、一番なりそうだったのは、日本人とドイツ人だったらしいですね。だけど、その人たちもグローバル・シチズン、グローバル・クラウドみたいなのができてますから。

これはどんどん広がっていくと思うんですよ。この人たちはどこかの国のアイデンティティよりも、地球を何とかするという彼らのアイデンティティが強くなっていくと思います。

日本の企業に一番欠けているもの

田村:日本企業に一番欠けているものは、ケース・バイ・ケースで。立派にやっている会社もいっぱいあるし、規模もいろいろありますから。

これを一般化するのはすごく難しいんですけど、1つ共通して「いかがなものかな?」と思うのは、タイムコストの意識のなさですね。

時間の中での生産性を上げるとか、時間の中でこれだけ稼ぐっていう意識が非常に薄いんじゃないかなと思うんです。

日本の大企業の人たちに呼ばれるミーティングとか、結局「この1時間、俺の時間を返してくれ」と思ったようなミーティングが多いんですね。

岩佐:なるほど(笑)。

田村:「この1時間で何がしたかったんですか?」みたいな。タイムコスト意識が一番欠けてるものじゃないかなと思います。

岩佐:私からどうしても柴田さんにお聞きしたかった。日本でも大成功を収められている、そういった企業の方多いと思います。そういった企業をアジアに行くぞという雰囲気にしていくためには、トップはどうしたらいいですか?

柴田:トップはもうできるだけ現地に行ってですね、現地から自分の会社、日本を見る。そしてそのアダプテーションというか、現地の目線でわれわれの製品を評価する。そして、実際現地の代理店だったらどうする、小売だったらどうするという現地の目線でアクションをイメージしながら、確率の高いところから選択して意思決定するというプロセスですね。

海外に出ていくグロービスの生徒にメッセージ

岩佐:ありがとうございます。最後にこれからグローバルで戦わざるを得ないグロービスの学生に一言お願いします。

間下:はい。今のトップが出て行けっていうのが、まさに言いたいことでもあって、特に本社を動かすためにはトップしか動かないですよ。トップが言うことは、本社が動きますからね。担当送っても本社は平気で無視しますからね。

こういうところは1つ大きくあると思います。やっぱり今後日本にとどまっていくのも、おそらく20~30年は幸せな生活ができると思います。

ただやっぱりグローバルな競争を考えて勝ち残っていこうと思うと、やはりダイバーシティに対してのモビリティをつけて出て行くしかないと思いますので、ぜひ一緒に頑張れればと思います。ありがとうございました。

岩佐:ありがとうございます。柴田さん、お願いします。

柴田:まず友達ですね。豊かな生活、豊かな仕事、そうするためには海外の友達をしっかりつくる。そして友達ネットワークをつくりながら、仕事と別の余暇を楽しむ。やっぱり楽しいことをしないとエネルギーは出ないです。

家族ぐるみでも友達になる。そういう意味では日本でも外国人を捕まえて友達になる。これは第一歩だと思います。

岩佐:ありがとうございます。耕太郎さん、お願いします。

田村:お二人が言われたことに尽きると思うんですけど、もう1つ。僕は会場の様子が見えないんですけど、95%以上日本人というところが……。

グロービスさんくらいよく教育されて、モチベーション高い人たちがトレーニングされて、力をつけているわけですから、来年くらいからあすか会議も一部のセッションは英語で、世界中の人をブイキューブでつかんでやってもいいと思うんですね。

僕で良ければ、いろいろな連中に声掛けてブイキューブ使わせて、このセッションは英語だけど、黒い顔も白い顔も褐色の顔も出るようなセッションにして、檀上から変えていって、雰囲気を感じてもらうとかね。

グローバルにビジネスを変えていくのがグロービスの生徒さんの役割ですから、そういうのを試みてもいいかなと思って。言い出しっぺですから僕もご協力します。

岩佐:ありがとうございます。大変お忙しい中ご参加いただきました3名のパネリストのみなさんに、もう一度大きな拍手をお願いします。

(会場拍手)