ポルノ規制と表現の自由

司会:どうもありがとうございました。私のほうから1つだけ質問なんですけど、日本はコミック、アニメという業界がかなり大きなマーケットを持っています。

そういう業界からは、こういう児童ポルノの規制に関して、一種の表現の自由の観点から慎重な意見がないわけじゃないんですけれども、児童だけじゃなくてポルノ一般の規制と表現の自由との関係について、どのようなお考えを持ってらっしゃるのか。

マオド・ド・ブキッキオ=ブキッキオ氏(以下、ブキッキオ):まず一方に表現の自由や情報の公開の自由、そしてもう一方で子供を守るニーズというものがあるわけで、その両者の間のバランスを取るということは非常に難しい、デリケートで微妙な作業だということは認めます。

昨年日本の国会で法律改正案が討議されているときも、マスコミ側もかなり盛り上がりまして、いろいろ報道していたと思うんですけれども、何が議論の対象になったかというのは、まず一方でその漫画があります。

例えば漫画で児童ポルノ的なものが表現されていると。結果として、(漫画が)性的搾取にどのぐらいの影響を出したのかという因果関係については、もうちょっと調査をしたほうがいいのではないかという要請があったと記憶しております。

すなわち、漫画の形態で表現されている児童ポルノにアクセスする。それを実際に見るということで、本当に児童虐待製造物が原因となって性搾取が増えているのかどうかなど、もうちょっと研究的な側面から明らかにして欲しいという要請だったわけです。

結果として法律によって採択はされませんでしたけれども、この両者の間には関係があると思っておりますので、もうちょっと今後検討していただければと思っております。

そして政治にまつわるポルノについては、確かに表現の自由のほうが、議論として勝るというふうには思います。しかしながら、あまりにも内容が過激なコンテンツが漫画になる場合には、やはり法律で取締り、禁止すべきであると考えております。

子供のポルノコンテンツ全てを取り締まるということではないんです。そして、違法行為にせよということではないんですけれども、あまりにも過激な、目に余るような、子供が主題となったようなポルノのコンテンツを表現した漫画などは、やはり法律で禁止すべきと考えております。

児童ポルノ禁止法の有罪判決はまだ少ない

立法のことをお話しておりますので、さらに触れたいんですけれども、法律はつくっても、やはりそのあとにある法律の実施のニーズは非常に高いということを、もう1回力説したいと思っております。

もちろんどんな法律でも、こういった形での法律は、歓迎はいたしますけれども、やはり環境整備をちゃんとして、法律ができたからには、ちゃんとそれを実行する。本領を発揮できるような環境が、まず必要であるということです。

社会として、あまり寛容になり過ぎない。児童の搾取については、絶対に行為としてストップをかけるんだといったような環境が、まず必要であるということなんです。

現在の法律は改正しまして、内容的に改善されていると申し上げましたけれども、しかし、その結果、本当に事犯を働いた人たちが有罪判決を受ける件数というのは、まだまだ少ないです。

また有罪判決を受けて、量刑判決が出ましても、その刑がかなり軽いという実態があるわけですし、裁判所に持ち込まれないケースがまだまだあるということです。

やはり裁判所に提訴するには、それなりの正式な証拠ですとか、申し立てが必要なわけでありますけれども、特に被害者となったお子さんっていうのは、だいたい虐待が、誰が働いたかっていう、その本人を知っているわけですから、なかなか正式に提訴できないという事情もあると思うんです。

ということで、事犯があるのに処罰をしない、不処罰の状況がある。これをまず何とか是正しなくてはいけないと思っております。

社会的にこういったことを許さない、寛容の精神を持たないということにしなくてはいけないということで、ぜひ、その有効な形で法律改正をし、それがちゃんと実行される世の中を望みます。

司会者:はい。ありがとうございます。それでは会場から質問を受けたいと思います。お名前と所属をおっしゃってください。

他の先進国と比較した日本の罰則

記者1:ジャパンタイムスで記者をしておりますオザキと申します。

2点伺いたいんですけれども、まず1点目が、加害者が不処罰という状況があるというふうにおっしゃいましたけれども、実際にその事犯が起こったとしても裁判に持ち込まれないという話もありましたが、それは日本で特殊と言える状況なのか。

あるいは刑が非常に短いという話もありましたが、他の先進国と比べて、日本がどういう状況にあるのかというのを、もうちょっと詳しく、比較的に教えてもらえればというように思いました。この1点でよろしくお願いします。

ブキッキオ:世界各国の法律の状況について、現状を全て今この段階でお話することはできないんですけれども、あくまでも相対的比較ということで申し上げます。

やはり比較すると、世界の先進国に比べて、日本における加害者に対しての不処罰の状況というのは、ちょっと高いんじゃないかと思っております。

それから法律上は、こういった事犯については、警察に対して事件を持ち込むときに、正式な文書とか証拠を出さなくても、一応警察はこういった事犯の捜査に着手することはできるんですけれども、それでも警察がまず躊躇の念を覚えてしまうというところが、まずちょっと我々としては理解ができない、腑に落ちないという点であります。

また法律上書かれている罰則規定につきましても、非常に軽い形になっておりまして、せいぜいその罰則が科されたとしても、罰金だけに止まるといったようなことが多いわけでありますし、その加害者の自由を取り上げて投獄するといったようなことは、ほとんど起こっていないということでおります。

また、そういった事態を結局放置してしまう結果、被害者がさらに同じような被害を受けてしまうリスクが高まるわけですし、事犯から見れば再犯率が非常に高くなってしまうということになり、どんどん虐待・搾取が拡大してしまうという状況を生みかねないということであります。

また被害を受けた人は、やっぱり仕返しが怖い、報復が怖いということで、なかなか自分が受けた被害については口外しないということがあるので、なおさら同じような行為が繰り返されてしまう温床を生んでしまうということであります。

ということで、一応先進国と比較として、日本がどういう状況かということをまとめて申し上げました。

日本でお話を伺った対話者のお一人がおっしゃった発言が、とても印象深く残っています。「日本だと虐待をしたほう、搾取をしたほうは大出で太陽の下を歩けるのに、被害を受けたほうはこそこそと日陰の下で歩かなくちゃいけないんだ」と。これで全てを物語っているんじゃないかと思います。

司会者:はい、ありがとうございます。他にどうですか。

調査値の1つに沖縄を選んだ理由

質問者2:琉球新報のシマと申します。沖縄の新聞社です。今回、調査地の1つに那覇を選んだという理由を教えていただきたいのと、先ほど沖縄で貧困とジェンダー平等が足りないという2点をご指摘なさいましたけども、具体的にはどういうところから、その2つの点がわかったのかということを詳しく教えていただきたいと思います。

ブキッキオ:今回の来日を準備するにあたって、首都だけに私の訪問先を留めたくないなと思っておりました。もちろん首都を訪問させていただくことは興味深いことですけれども、必ずしも社会全体を反映しているものではないということで、沖縄も選んだということです。

事前の情報で特に貧困が高い地域が沖縄と伺っておりましたし、失業率も高いと伺っておりました。加えて、学校の中途退学者も非常に多いということで。

また、児童買春の被害者で、もちろんその大半は女児であるわけなんですけれども、そういったものも高いと伺っていたので、ぜひ沖縄で当局NGO、また被害者であられるお子さん自体にお会いして調査したいと思ったんです。

本当にその貧困が原因の1つとして、この分野における状況の調査で、リンクが浮かび上がってくるのか調べたかったっていうことであります。

そしてやはり、ある程度思っていたことは当たっていたんだという確認は取れました。特に児童の性的搾取という面で。

児童買春の面でも、やはり被害者の90パーセントは女児であるわけでありまして、特にそれが沖縄で際立っていたということです。

特に崩壊家庭で虐待を受けているような子供たちというのは、家庭内でアルコール、薬物乱用などが起こっていて、もういたたまれなくなって家出をしてしまう子供たちがいるわけで、そうするとどうしても生き残っていかなくちゃいけないから、辿り着く先は売春産業といったようなものになってしまうと。

あくまでもこれは生き残るためにやっているわけです。ということで、明らかに貧困が原因となってセックス産業に行ってしまうといったようなリンクが出てしまい、しかも生き残っていくためには、これ以外にないということでの展開ということであります。

それからジェンダー不平等というのも、もちろん原因として関係しているわけです。非常に失業率が高いところで、特にその失業率が高いのは女性、もしくは女児ということになっているので、やっぱりここでもジェンダー不平等が響いているということだと思います。

ジェンダー不平等がある。貧困がある。だから学校の中途退学率も高いということ。加えて10代の妊娠も際立って高いということでありますので、こういったプッシュファクターが積もり積もって、特に沖縄では性的搾取が非常に児童の分野で見られるということで伺いました。

さらに1点追加申し上げたいんですけれども、何しろ根源的な原因を究明することが必須でございますので、これは日本政府、および沖縄県としての共同の責任であると思っており、これは明らかなことだと思っております。

沖縄は確かに遠いです。私も2時間半飛行機に乗って、やっと着いたんですけれども、日本の一部であるので、投資が必要であると強く感じております。沖縄への投資というのはマストだっていうことであります。

何しろ共同で責任を持って県単位、中央と一緒になってやっていくべきであると思っております。まさに教育啓蒙の問題です。いろいろ女児にツールを与えることによって、こういった事態の被害者にならないように予防策を打つということ。

そして失業対策として、他の面でいろんな投資をしていくということではないでしょうか。特に沖縄は美しい土地でありますので、観光業に対しての投資というのも大いに効果があるのではないかと思っております。

司会者:はい、ありがとうございました。このあとちょっと、今日の午後、もうお帰りということで、あとまだスケジュールがあるそうなので、残り1問だけにさせていただきたいと思いますけど。いかがですか?

児童相談所の支援は十分ではない

質問者3:NHKのサトウと申します。性的被害を受けた子供のケアにつきまして、先ほどサポート施設など、専門化したほうがいいんじゃないかというようなお話がありましたが、それを少し具体的に教えていただきたいのと。

そういったケア施設、サポート施設に対して、日本っていうのは海外と比べて遅れているのか、もしくは海外で、より具体的に取り組んでいるいい事例などがありましたら教えていただきたいと思います。

ブキッキオ:特化したケア施設が必要ではないかと述べた理由なんですけれども、もちろん日本には児童相談所というのがありまして、まさにその被害を受けた子供たちが、最初にトントンとノックするドアは児童相談所ということになっております。

ただ、ここでは子供たちが必要としている支援が十分は提供されておりません。というのは、児童相談所というのは、そもそも戦後、孤児を対象にしてつくられた施設であるからです。もちろん施設としてはかなり発展したということは、その通りなんですけれども。

まず家庭内虐待というのがあります。でも家庭内虐待と性的搾取とは、また別物ということでありますので、大きな違いがあるので、対策も、また使うツール、テクニックも違うっていうことであります。

特に性的搾取に遭ったお子さんが、まず過去と向き合って、コーピングをするといったようなことは、一般的な家庭内における虐待に使うテクニックとは違うものであります。ということで、問題が違うので対処法も違ってくるということが言えます。

日本でも、県によっては、もうすでにワンストップセンターといったようなものを設けておられまして、1ヵ所に行けば一括して医療行為も受けられる。フォレンジックの調査などにも対応できるようになる。

そしてその後の手続きに備えて、被害者自身の心の準備をさせるということで、心理的な観点から、また法律的な観点から弁護士が相談に望んでくれるといったようなことを、全て1ヵ所で揃えるといったようなセンターがチラホラできてきているので、これはいい慣行であると思います。

これは最初の入り口の部分の話ですけれども、入り口だからこそ、適切な対応が必要だということで、ワンストップセンターができつつあるということは、いい慣行なので、ぜひ日本全域でさらに普及できることを望んでおります。

2番目の他国との比較についてなんですが、どうしても、これは日本だけではなく、各国共通なんですけれども、即時のケアにフォーカスが当たり過ぎるということで、特にこれは日本だけのことではなく、先進国共通で言えることなんですけれども、もっと大事なのは中長期的なケアですので、これが不足しているということは、世界共通の問題ではないかなというふうに思っています。

中長期ケアのほうが、よっぽどリソースを食いますし、ノウハウ、訓練も十分もっと必要ということなので、なかなか対処しきれないという実態があります。

もちろん被害に遭ったお子さんは、明らかにまずはシェルターに収容してあげると。そして安全な環境を提供する。その安全性というのは、とても重要なんですけれども、そのあとの話として、そういった被害に遭ったお子さんが社会に再統合をはたすと。

そして真の意味で回復をするには、それなりに長い時間がかかりますし、資金等もかかりますので、十分な投資が必要ということで、この面については、日本だけではなく世界共通のテーマになっていると感じております。

あと1点追加申し上げたいんですけど、何しろケアですとか回復について相談をしている最中に、必ず被害者本人である、それが女の子であれ、男の子であれ、本人を入れて相談をして、いろいろ討議するということは、もう絶対に不可欠ですので、これをぜひ強調したいと思います。

もう個々、個人、全然ケースは違うわけですから、それぞれの個人の被害者を対象にして、それぞれ個別に、その人生涯にわたるプロジェクトを設計すると。そして長い時間をかけて、本格的にその方が社会に再統合できるように図っていかなくちゃいけないというのが、重要な点なんです。

司会:ありがとうございました。

ブキッキオ:どうもありがとうございました。

(会場拍手)