大企業がイケてる時代があった

小野裕史氏(以下、小野):今、(古川氏から)大学から新卒で入ったという話が出てきたので、そろそろ皆さんに一番近いテーマだと思うんですけど。奇しくもここにいるお三方は成功している起業家なんですけど、それぞれ新卒ではどこかしらの会社に入って起業してないんですよね。

特に、一番起業家に近かったはずのけんすうさんですら起業はしなかった。けんすうさんの話にもありましたけど、それはなぜかと。それ(就職)が自分にとってどういう効果だったのかを、もう少し掘り下げていただけますか。

古川健介氏(以下、古川):まず、大学時代にやったのはユーザーがすごく集まったんですけど、お金が稼げなかったというのがありまして、「ちゃんとビジネスを学びたいな」と思ったのがひとつ。あと、さきほどの話に近いんですけど、大学卒業して3年くらい正社員をやった人って、すごくちゃんとしてそうじゃないですか。「大学卒業して起業した」って言うと、「こいつ怪しそうだな」って思われる。

なので僕は「ちゃんと3年働けるぞ」というのが、自分にとっても(他の)人に対しても必要なんじゃないかと思ったんですね。特に僕みたいなタイプは、大学時代からいろいろインターネットをやってたので、卒業してすぐにやりそうな感じなんですけど、3年ちゃんと働くっていうのをやらないと他の人と乖離しちゃうんじゃないかというのがあった。そこですね。

吉田浩一郎氏(以下、吉田):ただ、やっぱり昔と今とではだいぶ状況が違ってて。昔って、大企業がもうちょっとイケてるイメージがあったんですよね。昔のパナソニック、ソニーとかかっこいい。ソニーならVAIOがいいし、とか。やっぱり大企業のバリューが今より高かったですよね。

かつ、起業の情報がそんなに身近になかったので、私の親も「堀江さんは会社に入れなかったからやってるのよ」と言うくらい(笑)、起業というのはドロップアウトの象徴みたいな感覚が昔はあったんですよね。

今は差が縮まってるというか、大企業が立ち行かなくなる例があまりにも出てきて。トヨタですら出てきて、車という圧倒的なアレが覆されちゃうかもしれないってくらいルールが変わってきているタイミングなんで。

小野:今はグーグルが車作ってますからね。

吉田:だから、昔の新卒のときとはちょっと状況が違う感じがしますよね。

古川:2005年、2006年くらいはそういう雰囲気がまだあって、ベンチャーも2009年とか2010年くらいのほうが盛り上がっているので、その観点はありますね。

今は絶対起業したほうがいい

小野:皆さんへの注意事項としては、今日のこのセッションに限らずいろんな人がいろんなことを言います。決して正解はひとつではないことを、まず(肝に命じる)。自分の頭で考える。どうしてその人がその行動をとったのかという、根っこのところを学ぶ場だと思ってください。

そのとおりの行動をそのとおりにメモしてそのとおりにやると、たぶんケガをすると思いますので(笑)。そういう考えのもとに、この人はこういう行動をとったんだというコンセプト、裏の思想をぜひ学び取っていただければなと。

古川:あれですよね。「学生時代に起業すべきか、就職すべきか」の議論って、タイミングでしかなくて。今のタイミングだったら絶対起業したほうがよくて、「3年間大企業で修行しました」って中で世の中の流れが変わって、あらゆるチャンスを落とすわけですよ。

逆に、2006年から2008年くらいに立ち上がったベンチャーってやっぱりほとんどうまくいかなくて。能力がないからではなくて、環境的に難しかったんです。で、2009年とか2010年くらいから、ソーシャルとかスマホとかの流れがあったので成功しやすくなったっていう。

ここ(壇上の3人を指す)はみんな時期が似てるんですけど、それは本当に時期がよかったからだと思うので、「能力を上げるために就職するとかはあんまり考えなくてもいいかな」と最近は思います。

吉田:あと、そもそもインターンというのも当時はなかったので、面接を受けて入るまで大企業の中身がわからない。要は体験できないわけですよね。今ってインターンがあるので、ベンチャーやりながらインターンやって大企業を見るということが学生時代にできちゃうわけじゃないですか。だから、選択肢が確実に自由になってきてるというか。

これだけ変化が激しい時代だと、ベンチャーでやっていかないと……ベンチャーでなくてもいいんですけど、変化し続けないといけない。大企業でも変化し続けられるような会社だったらいいと思うんですけどね。その「変化」ということのほうが重要だと思いますね。

ロボットにはできないことに特化していく

小野:金山さんはいかがですか? 音楽というきっかけがあって最初の会社に……コネ的にって話もされてましたけど、その経験というのは自分にどのように活かされてますか? もしくは、その当時に起業していたら想像するにどうなったと思いますか?

金山裕樹氏(以下、金山):絶対うまくいかなかったと思いますね。さっきお二人も言いましたけど、当時と今では圧倒的に情報量が違います。当時は起業に関する情報なんてないですし、TechCrunchなんてなかったですし、本当にベンチマークとするものがまったくない。何をやるにもコストというか時間、お金という意味でも高かったので、やっぱりうまくいかなかったかなと思います。

僕が音楽の後に入った会社も、20名くらいのベンチャーだったんですね。それもよかったですね。創業者のすぐ横で仕事をするというのは、実は何よりも得がたい経験だったかなと思っていて。

やっぱり創業者ってエグいんですよ。自分自身もそうですし、話していても思うんですけど、圧が半端ないです。だって、こっちはめちゃくちゃリスク張って人生のすべてを賭けてるわけですから、社員に対してもそれくらいの気持ちで雇ってますし、求めてるものも高いですし。

そういうハイプレッシャーの中で時間を過ごしたり仕事をするというのは、大企業で味わえなかったと思いますし、そこが本当に今の血肉になって活きているところかなとは思います。なので、就職するというチョイスも僕はアリだと思いますが、大企業はここに来るような皆さんには向かないんじゃないかなとは思いますね。

吉田:あと、昨日もちょっと話しましたけど、もうひとつ重要なのはロボットの台頭もあるので。今大企業に就職しちゃうと、どんどんロボットに勝てなくなるというか。

小野:これは大事な話ですね。

吉田:ソフトバンクのPepperのマーケティングの人と話すと、ソフトバンクショップの店員に今Pepperがなってて、Pepper囲んでミーティングとかしてるんですね。Pepperの何がいいって、教育コストがかからないことなんですよ。

要はフリーターの人雇って2週間研修して、2週間働いて「やっぱしんどいんでやーめた」ってなったら、またゼロからなので。教育コストが半端ないっていう課題を抱えてたわけですね、ああいう通信プランが複雑なところって。(Pepperは)アップロードしたらおしまいですからね。

ということは「あなた、Pepperに比べてできないね」っていう時代になる。で、今Pepperが時給1500円で派遣業を始めるというので、究極的にはすき家のアルバイトとかそういうのも全部ロボットになっていくわけですよね。

そうすると、昔でいうコンサルみたいなテクニックとかノウハウで勝負してた人って、どんどんロボットに淘汰されていく。リサーチだったらロボットのほうが速いとか、そういったことになってくるんですよね。

そうなると人間でしかできないこと、「デザインする力」とか「何をするべきか」、「問題設定」とか「課題を見つける」っていう、それはロボットにはできないわけですね。課題を見つけた後の解決ならロボットができるわけなんで、ここに特化するためには大企業に入ってるとたぶんできない。そういう感覚は最近すごく持ってますね。

「いい質問ができる人」の価値が上がっていく

古川:それはまさにそのとおりで、「いい解決方法を言う人」よりも「いい質問ができる人」のほうが価値が上がっていく。ロボットの台頭って本当にリアルに来ていて、例えば食事のレシピとかって機械でできるんですね。オリジナリティがあって、しかもすごくおいしいと。一流のシェフの動きで料理してくれるロボットとかもあって、もう動いてます。

そうなってくると、いろんなことが思った以上にロボットに置き換わるだろうなと。そうなると課題解決を提案できる人よりも、「これが課題です」と質問できる人のほうが必要なんだろうなとは思いますね。

吉田:なるべく気持ちがブレないように、傷つかないように、他人を傷つけないように、今はみんな生きてると思うんですね。先週のニュースなんかでも、恋愛で30何パーセントくらいの人が「恋人いらない」って。自分の気持ちがめちゃくちゃブレるから、恋愛ってやりたくないわけですよね。

ところがブレない方向の話、「設計されたコミュニケーションだったらロボットのほうが優れてる」って時代が来てるわけですよ。だからその先の、人間と関わりあっていろんなストレスを抱えながら相手の理解を求めていくというのは、人間にしかできないわけですよね。

そういうきちっとした体験をしていくことが、非常に今は大切な時代っていうか。きちっとした体験をしなくても、あらゆることができちゃうんですよ? 皿洗うのがめんどくさいから食洗機が生まれて、洋服洗うのがめんどくさいから全自動洗濯機になってるわけですから。

効率化の方向にしか向かってないんですけど、きちっとした体験をするというのが、今すごく重要な時代だと思うんですね。

キャリアプランはもう作れない

小野:吉田さんの話で、起業家という生き方のひとつのキーワードにもなると思うんですけど、「自分の生き方を自分で切り開いていく」というのがあって。まさに皆さんその生き方をされてると思っていて、その流れでいうと今の話はすごく重要。

これからの時代、ここにいる学生の皆さんが10年後20年後……我々もまだ生きてるとは思うんですけど、どういう分野に攻めていけば自分の能力を伸ばしていけるのか。

これはもしかしたら、起業する人じゃなくてもベンチャーに入りたいと思ってる人、大企業にそれでもいきたいという人もいるかもしれないですけど、その中でどういう成長を目指してどういうことを気にしていけば、自分はロボットとかに取り込まれずに自分の生き方を自分で切り開いていける人間になっていけるのか。

そのあたり、もしアドバイスできることがあるとしたらどうでしょう。けんすうさんお願いします。

古川:よく言われるのが「キャリアプランなんてもう作れない」ということで、「この分野にいってこれを極めよう」みたいなのを今決めるのはたぶん無理です。これからも無理だと思います。よく言われるキャリアドラフトみたいな、その場その場でいろんな行動をひたむきにして、切り開く道のほうに進んでいくしかないかなと思っていて。

たぶんこの3人も、起業すると思ってなかったですしね。こんな思いまでして会社を大きくするのって想像してなかったと思うんですよね。いろんな場面でいろんな意思決定をして、つらい道や切り開く道を選ぶと勝手に進んでいくっていう、そっちのほうが大事かなと思うので。思い切ったアクションをし続けるというのが大事かなと思います。

二次情報には意味がない

吉田:「決める」ってことがすごく難しい時代で、何かを選択したとき……要は大企業に入ると「こんなものが得られる」「ビジネスマナーが覚えられる」けど、「ベンチャーのチャレンジ精神を失う」とか、またその逆とか。情報があふれかえっていて、メリットデメリットが常に入ってるので選べないんですよね。だから決定する力というのがすごく重要で。

最近よく話してるんですけど、2016年の新卒で、私がその場で内定出して、向こうも内定承諾してくれたある学生がいて、彼が学生時代に何をやってたかというと……すごく感動してるんですけど、牛乳を訪問販売してたんですよ。「今の大学生で、なんで牛乳の訪問販売やってんの」っていう(笑)。

彼としては、「何の変哲もない楽天とかコンビニで売ってるような牛乳を自分の力で売るっていう経験をやってみたかった」と。最初は先輩にならって……まあそういう先輩がいるってのもすごいですけど(笑)。

古川:そういう先輩がいるんだ(笑)。

吉田:いるんですね(笑)。先輩にならって、結構自分を買ってもらうようなプッシュで売ってたんだけど、ある時点で「自分を買ってもらうんじゃなくて牛乳を買ってもらいたい」と。「牛乳に価値を感じてもらう、向こうがほしくなるような営業はどうやったらいいかを考えて、それで今やってるんです」という話で。

こんな体験は、普通誰もやらないですよ。「牛乳? ダッセー」「そんなの売るのかっこ悪くない? しんどくない?」みたいな。でも彼は、自分の中である確信を持ってそれを選んだわけですよね。選んだ先に、工夫が生まれるわけ。「自分が選んだわけだから、それを達成しなきゃ」ということで工夫して、それが自分の一次情報、血となり肉になるわけですね。

世の中にある二次情報、「何か選択したらこうなります、だからあなたはこうやったほうがいいよ」という情報ってほとんど意味がなくて。だって、牛乳売るなんて誰も教えてないじゃないですか。彼はもう、第二の成田(修造)というか第二の副社長みたいになるのを期待してるんですけど。それくらい自分なりのストーリー、自分なりの固有の道を選ぶってことは重要だと思いますね。

成長するには「エグいほうを選ぶ」

古川さっきの「2ちゃんねるに電話番号書き込む」みたいなどうしようもない話も、それをやってから出会いがあって、それからしたらばの社長やってと考えると、あの行動が一番効いてるんですよね。当時はそんなこと思ってなくて、しかも5秒でできるじゃないですか。なので、もう(会場の)みんなが書いてると思うんですけど。

吉田:電話番号は今の時代書かないでしょ!(笑)今の時代、書いちゃうと大変だよね。

古川:そこだけで変化するっておもしろさはありますよね。

金山:そうなったとき、何を決めるかって話になると思うんですよ。決めることが大事なのは間違いないです。とはいえ、何を決めるかってすごく難しいんです。なんでかっていうとこれだけ情報があるから。そう思ったときに、キーワードは「成長」かなと思ってるんです。

人間は成長し続けなければ、間違いなくロボットにも勝てないですし、何にも勝てないです。子どもは放っておいても成長しますけど、悲しいことに大人になると成長って止まるんですよ。なので、決めたことを何かしらで成長に結びつけていかないといけない。

そのときに僕がすごく思うのは、いろんな選択肢がある中で「何が一番成長できるか」。超シンプルなんですよ。一番エグいほうを選ぶわけなんですよ。

吉田:(笑)。

小野:そのとおりですね。

既にやれることより、やれないことを選べ

金山:結局、成長って「できなかったことができるようになる」わけじゃないですか。例えば、これから皆さんが10回立って座って立って座って……って絶対にできるんですよ。これを1億回やっても成長しないです。けれども、これから立ってバク転決めて投げキッスするみたいな……。

吉田:ちょっとごめんなさい、何いってるんですか(笑)。もうちょっと成長しそうなものを……。

古川:あんまりピンときてないですね(笑)。

金山:でも、(バク転&投げキッスは)できないわけじゃないですか。できないことができるようになるってのが成長で、結局人ってできることばっかり選んじゃうんですよ。人って、ベースは20歳くらいで成長しなくなるんですよ。恒常性維持で体温は36℃、心拍数は1分間に60くらいで、老いてくだけになるんですけど、できなかったことをやろうとするとできるようになって成長していくんです。

そのとき決定するにあたって、やれることを選ぶんじゃなくて「これエグいな」「これ絶対やれないぞ」みたいなものを選んでみるのがいいんじゃないかなと思います。そして、それを必ずできるようになるまでやる。そうやって人は成長していくと思います。

皆さんは今何を選ぶかが大事な時期だと思うので、安直に「私はピアノが弾けるからピアノの先生」みたいな感じの意思決定はよくないんじゃないかなと思います。

小野:いい話ですね。さっきの牛乳の販売もそうですよね。普通の人はイメージもつかないし、どうやってできるんだろうと。でもそこに成長の余力、ポテンシャルを生んでるわけですよね。別にそこでプロフェッショナルになるならないじゃなくて、自分の成長に対しての向かい方、マインドセットの解体だとか、「頑張れる自分」が生まれるというのが成長の価値だと思います。