動き出したブロックチェーンゲームの世界

澤田翔氏(以下、澤田):こんばんは。お話を始める前にまずは自己紹介をします。澤田翔と申します。

インターネット上ではよく「shao」という名前を使っています。

慶應義塾大学環境情報学部出身で、大学ではHCI(Human Computer Interaction)をやってきました。大学にいる頃からITベンチャー企業の立ち上げからイグジットまで経験しています。

最初に行ったのはシリウステクノロジーズという位置情報広告の会社で、こちらはヤフーさん。アトランティスというスマートフォン広告の会社はグリーさん。ビットセラーというスマートフォンアプリの会社がSupershipさんにそれぞれイグジットを無事にしまして、新しいものを作るのが大好きです。

という経験なので、実はゲーム業界にいないというところで、「今日はなにをしゃべればいいのかな?」とすこし緊張していますが、ゲーム業界を含めて、ブロックチェーンとはどんなもので、ゲームに使うとどうなのかというテーマで話していこうと思います。

現在はスタートアップ向けの技術支援、フィンテック、ブロックチェーン、スマートモビリティ、AI営業支援と片っ端から書いているところもありますが、スタートアップを立ち上げて回してきた、いわゆるエンジニア・CTO的な立場で関わったものが多いです。

これまでのの経験をもとに、いま実際に新しいビジネスを始めていらっしゃるスタートアップの方に対して、技術的な支援、もしくは経営的な部分も含めた支援をさせていただいています。

それから、機関投資家向けのIT企業のデューデリジェンスみたいなことも行っています。その事業が世の中的にどういう伸びしろがあって、どういうところがリスクで、それは技術的にどういう観点の価値があって、どういう観点でリスクがあります、みたいなデューデリジェンスをしています。

インターネットプラス研究所」を今月(2018年10月)立ち上げました。テクノロジーは社会にどう活かしていけばいいのか。テクノロジーの社会実装をテーマにした研究所です。

この先の話をする前に、今日は14人ほどいらっしゃっていますので、みなさんがどういったことをされているのかをなんとなく聞いてみたいと思います。この中でふだんコードを書いているエンジニアの人?

(会場挙手)

5、6人ぐらいですね。ありがとうございます。ディレクター、ゲームとかのディレクションをしたりしている人?

(会場挙手)

4人ぐらい。UIとかのデザイン、デザインをやっている人?

(挙手なし)

0。もうちょっとビジュアル、例えば絵を描いたり、3Dグラフィックを描いたり、アートディレクション系のことをやっている人?

(挙手なし)

0。そもそもゲーム業界じゃありませんという人?

(会場挙手)

1、2,3,4、5。おっ、よかったよかった。ゲーム業界じゃない人もいた(笑)。ありがとうございます。なんとなくそんな感じですね。

ゲームっぽい街、深圳

今日、私は深圳から来ました。

たぶん一番遠いんじゃないかなと思ったら「北京から来ました」という人もいました(笑)。この秋から、ちょうど先月ぐらいから、中国の南のほうにあり、香港にほぼ接している深圳に語学留学をしています。

深圳といえば、たぶんみなさんご存じのとおり、例えばスマートフォンのHUAWEIやドローンのDJIなど、ハードウェアの会社のイメージがあると思います、

もちろん金融系でも大きいところもありますが、やはり一番大きい中国のテック企業でいうと、テンセント。WeChatを展開しているテンセントがありますが、この中でWeChatを知っている人?

(会場挙手)

おおっ。すごい多いな。テンセントがディレクションをしているゲームのタイトルを言える人は?

(会場挙手)

2人。意外と少ないですね。

テンセントはいろいろなゲームをディレクションをしていたり、版権を持っていたりします。一番大きいところでは『PUBG』は中国ではテンセントが展開しています。『PUBG』、みなさん知ってますよね。あるいは『Fortnite』や『League of Legends』など。Riot Gamesなども買収していたりして、実は深圳はゲーム業界が非常に強いところです。

そんな深圳なのでけっこう町もゲームぽかったりします。ドラクエでアイテムを買おうとすると、「ここは武器屋だ」と言われて、実際に現金を出すことなく電子マネーのような買い物をできるわけですが、実は深圳そのものもそんな感じです。

現金がいらないところはみなさんもよくニュースなどで見ると思いますが、お店にQRコードがぶら下がっていてピッてお買い物できます。これがおもしろいのは、言葉が通じなくても「これがほしい」と言うと、ピッとかざすとお買い物ができます。

例えばドラクエの場合、知らない街に行ってもなぜか買い物ができるのは、たぶんドラクエの世界はすごく電子決済が進んでいるのか……。逆にこれがドラクエっぽいのかはさておき、あらゆるものが電子的にやりとりされているところにおもしろさがあります。

このなにがおもしろいかというと、例えばお店を作るときに、レジスターを買ってお金を勘定する必要がなく、「今日からお金集めるよ」ってベタってシールを貼るだけでお店ができますし、お店がつぶれても個人なので、「お金がなくなっちゃった。よし、もう1回やるか」みたいなかたちでもう1回お店を立ち上げたりできます。

なので、深圳はどちらかというと強くてニューゲーム感がある。「お店をやったけどうまくいかなかったのを畳んで、また次は別のお店をやります」という人もたくさんいて、とにかく気軽にビジネスをスタートして、ビジネスを畳んでもまた起き上がってきます。

「おお勇者よ、死んでしまうとは情けがない」と言われてすぐにリスタートするように、みんなが商売をすぐできるところがおもしろいです。この話はこの先のテーマになってくるので覚えておいてください。

『ソードアート・オンライン』で学ぶバーチャルライフ

知っている人がどのぐらいいるかわからないので、これもちょっと聞いてみましょう。『ソードアート・オンライン』知っている人?

(会場挙手)

おお、ほとんど全員知っている。どうしよう。どこまで話そうかな?

『ソードアート・オンライン』というVRMMORPGを題材にライトノベルがあります。ヘッドセットをかぶって、そのヘッドセットがユーザーの脳と直結し、バーチャル空間で完全に没入して、その中で冒険ができるゲームを描いた作品です。最近はOculusを始めとしたVRが非常に流行っていますが、それが出てくる10年ぐらい前からVRと言っていて、すごいなと思います。

このゲームでは、ある事件がきっかけでプレイヤーがゲームの中に閉じ込められてしまいます。そのゲームを攻略するまで脱出できない。なので、ゲームをするにしろしないにしろ、そのゲームの中にいないといけません。

もう1つは、そのゲームの中でモンスターなどにやられて死んでしまうと、プレイヤー本人が死んでしまうという。ゲームの中で唯一リンクしてるのは、ゲームの中の死は実世界の死だという、こんなバトルロワイヤルのような、デスゲームもあるようなゲームに閉じ込められた世界というストーリーです。

この『ソードアート・オンライン』の中で描かれている話の中で、バーチャルスペースの中でパーティを組んでレベルを上げにいく人たちももちろんいますが、その一方で、バーチャル空間にいるので、その中で釣りをしようとか、その中で料理をしてごちそうしようとか、その中で素材を研究して新しい武器を生み出そうという人たちが出てきます。彼らはやがてバーチャルスペースの中で商売をし出すんですね。

例えば、そのゲームの中で仕事と財産と人間関係があると、ゲームの中で人を集めて、武器を買いに行って、その中でお金を得て、ゲームの中で食事を買って、ゲームの中で人間関係を作る。ゲームの中で持っているもの、財産が流動性があることが描かれていて、そうするとバーチャルスペースの中でみんなが生き生きと生活している状態になります。

『ソードアート・オンライン』の続編で出てくる「ザ・シード」では、VRMMO、仮想空間のワールドをほかの人が作れるようになって、VRMMOのワールドがたくさんできる世界ができます。その中でユーザーが移動できるということが描かれています。

最近のゲームプラットフォームでは、アバターがあって、複数のゲームで同じ自分の仮想キャラクターを立てることができますが、『ソードアート・オンライン』ではアバターと自分のアイデンティティを持ち出せるという考えが出てきて、バーチャルワールドの中で暮らす、バーチャルワールドを移住するという考え方が描かれています。

とはいえ、『ソードアート・オンライン』でも描かれなかったところもあります。手に入れたアセットが(バーチャルワールドを跨いで)流動性があることはとくに描かれていません。たぶんできないのでしょう。

例えばある空間で手に入れた「〇〇ソード」が、別の空間で同じソードとして使えない。これはゲームバランスの問題であり、あるいはこのあと説明する難しい問題があるので、ゲームの中における個人はアイデンティティがあるけれども、財産は持ち出せないと。そういうことが描かれています。

バーチャルスペースで商売が生まれる

バーチャルスペースで生活する意味では、今でも実はそういうことを考えている人もいます。

これはゲームではないんですが、『VRChat』というVRを用いた『Second Life』みたいなチャットなんですけれども、このVRChatの中でラジオ体操の空間を作って、みんなでラジオ体操をして、スタンプカードを作って、そのスタンプカードを配って、集まったら景品をあげるということをしてる人がいます。

これはお金がやりとりされているわけではありませんが、バーチャル空間内にアセットを作ってショーをやっているわけですね。

このショーはほかのゲームでもあります。例えばこれは『ドラゴンクエストX』です。

『ドラゴンクエストX』の中で「メイド喫茶」という機能はとくにないんですが、メイド姿のプレイヤーを集めて、「ここに入るときには手紙機能を使って10ゴールドを払ってくれ」と言って、この仮想空間内で商売をし出す人がいるんですね。ゲームのプラットフォームとは関係なく商売をし出す人がいると。

なので、この商売をし出すというところがおもしろいんですが、その一方で、今のゲームは、商売、アイテム、例えば武器もアイテムですし、ゴールドや経験値も含めて「アセット」という言い方をしますが、この「アセット」は今は中央が管理しています。

昔のゲーム、ファミコン時代はカセットにアセットが書きこまれていたので、例えば、中古で買ってきたゲーム、ファミコンのカートリッジにはアセットごと引き継がれます。例えば、あまり今ではないと思いますが、最強のゲームセーブデータの入ったゲームカートリッジが高値で取引されたこともあります。

クローズドにアセットが管理される理由

ところがネットゲームになってからは、アセットはあくまでサーバの運営者が自分たちのデータベースに記録するものとなっていて、それを流動させることは普通はできません。

もちろんそれをヤフーオークションやメルカリで「レベル99セット」みたいな感じで売っている人もいますが、それはアセットを自分たちのものにしてるわけではなくて、その人に割り当てられたIDをコピーして誰かに渡す方法を取っているわけで、中央がアセットを握っているという状況が今のゲームの状況です。

それはコインやアイテムの保有高もそうですし、トロフィーや実績やバッチやハイスコアって思い出の領域まで含めて、今のゲームは1箇所に集めています。

なぜそうなったのかを考えると、もちろんいろんな理由がありますが、スタンドアローンのゲームでプロアクションリプレイのような改造ツールを使って「どうのつるぎ」を100個作っても、たぶんそれはいいんですけれども。

それがネットゲームになった場合に、ユーザーが勝手に「どうのつるぎ」を100個にしてしまい、それを放流してしまったらネットゲームの世界のバランスは壊れてしまうので、やはりアセットはユーザーが作るのではなくて中央集権にしなければいけません。

ビットコインの仕組み

じゃあその「どうのつるぎ」をローカルで100個にしてしまう不正ができてしまうのを止められないか。そんな研究の1つとしてあるのがビットコインです。

ビットコインとは、今僕が「『どうのつるぎ』を100個持っています」と言ってもほかの人が認めてくれないので、全体的にみんなが「この人は『どうのつるぎ』は1個しか持っていない」ということを全員で協調するというシステムがビットコインの根幹です。

分散型台帳。ビットコインのネットワークに入っている人全員でこれが一番信用できるというのを決めて、その台帳をみんなで管理する仕組みがビットコインであり、その根底には「暗号学的に難易度の高い問題を解いた人にコインを付与する」というルールがビットコインにはあります。

なので、例えば「1兆を超える素数を1個答えてください」というときに、たぶん我々はパッとは計算できないですが、「それを答えられた人には、褒美としてこの1BTCをあげよう」。

この人がその答えを答えられたことがネットワーク全体で確認できているので、この人が一番早く、例えば1兆を超える一番小さい素数を見つけた人なので、この人には褒美をあげようと。そういうルールで動いています。

なので、それが実現するとなにが起きるかというと、まずは特定の管理者がいません。ビットコインの場合は、例えば、中央サーバがあってそのサーバが「この人がこのお金を持っています」ということを管理しているのではなくて、数学的に難易度の高い問題を解いた人を全員が知っているので、その全員で台帳を管理しています。

もう1つ言えるのは、特定の管理者がいないので、実際の価値を保証する特定の発行体がいません。そうすると「価値ってどう保証されるんだろう?」という話になりますが、ビットコインの場合は、「難易度が高い問題を解くのには相当がんばったはずなので、その人は価値の持っている行為をしましたよね」と、みんなで合意しているから価値がある、という仕組みになっています。それはあくまで雰囲気みたいなもので、市場のみで決定されて、誰かがそれを保証しているわけではありません。

そして、誰でも使える台帳なので、ビットコインを使うのに、例えば、Apple Developer登録をしないとAppleのお金は扱えなかったり、GoogleのGDAを守らないと使えないということがないように、ビットコインの場合は、そのシステムを使いたいと言った人は誰でも使うことができるのが特徴です。

ビットコインの現状

もうすこし細かくビットコインの話をしますと、先ほど言った「私がこの一番難しい問題を答えました」という証拠を表すのがブロックチェーンというもので、このブロックチェーンの1個1個には与えられた難しい数学の計算を答えられた人の名前が入っています。これを見ることで、誰がその褒美となる仮想通貨を持っているかを記録しています。

そして、「同じタイミングで2人が入っていってしまった場合、誰になるんだろう?」という問題が起きると思うんですけど、これは最終的に正しい問題を答え続けられた、一番長く支持された人が勝つというルールがあって、この仕組みを使うことによって「ここで100円払ったよ」「こっちでも100円払ったよ」と1つのお金を2回に支出できない仕組みがあって、ブロックチェーンが成り立っています。

もう1つは、今言った「そもそもなにが褒美なんでしたっけ?」という話です。

今起きているブロックを作るための条件は、1つは、先ほど言った、難しい数学の問題を解かせる。もうちょっと簡単に言うと、「台帳を作りました。これです」と言ったときに、「四つ葉のクローバーを1枚持ってきて、それを台帳の1ページ目に挟んでくれたら認めるよ」と言って、みんなで見て「これ四つ葉クローバーだね。OKだね」と言う。

これが今行われているProof of Workというものです。ビットコインはこれにあたります。

ただ、先ほどの「1兆を上回る素数を1個見つけてください」という問題はコンピュータでは非常に簡単です。そういった簡単な問題を解かせる仕組みになっているので、ビットコインの場合はその簡単な問題を解くための計算機を作りやすくなってしまったので、結果として、お金をたくさん持っている人がビットコインをたくさん持てるという少し歪んだ状況になってしまっているのが今のお話です。

もう1つは、そうではなくて、stake。株主と同じですね。たくさん投票権を持っている人が出したものが正しいですと。みんなから支持されている人、「この人を台帳のマスターにしましょう」という感覚です。

これはいささかセントラルな感じがしてきますが、みんなの投票によって決める民主主義と同じです。「代表の人が書いた台帳が正しいです。代表を決める手続きは民主的にやります」みたいな、そんな手続きで分散型台帳のブロックが作られることがあります。そんなことを頭に入れながら続きの話をしていきます。

ビットコイン技術を応用してアプリを構築

ゲームを含めて、ビットコインはもともと送金のために作られたアプリケーションです。先ほどの褒美の話ですが、「この条件を満たした数字を見つけてくれた人には、褒美に1BTCを差し上げよう」みたいな仕組みになっていて、そのビットコインを誰かに送るのが初期のビットコインのアプリケーションです。

ところが、「いや、それはもっと違うアプリケーションも実行できるんじゃないか?」と。例えば、「1BTCを送ったら、50パーセントの確率で2BTCにし、50パーセントの確率でそれを没収する」というプログラムを作ったら、それはいわゆる賭博ですが、ラッキーボックスが作れるわけですね。

あるいは、「1BTCを送ったら、1年後に1.1BTCにして外に出します」。これはいわゆる金融です。お金の貸し借りのシンプルな例ですね。送金以外の機能を持つ口座を作り、その口座をWebから呼び出せるようにしようと。「ここでお金を借りられます。1BTCが出てきます。1年後には1.1BTC残高から引かれます」というWebアプリケーションを作ろうという話です。

そして、ブロックチェーンを使って、今言った1BTCみたいな数字ならいいんですが、ゲームを作ろうとすると「いや、もっとでかいデータを保存したいです」と。キャラクターの絵や音楽を保存したいです。そのビットコインのブロック1個1個に、数字ではなくてもっと大きなデータを保存しようというのが、IPFSです。

こういったものが徐々に整備されてきました。こういったものを合成すると、送金以外のアプリケーションができるようになります。実際どんなアプリケーションがあるかはこのあと説明していきます。

現状は、Ethereum、NEO、EOSなどと言われるブロックチェーンがスマートコントラクトを作れるようになりました。このスマートコントラクトで作られた一番よくできているアプリとはなにかというと、実はICOです。

スマートコントラクトの機能で、送金以外の機能の中に「自分独自の通貨を発行する」という機能を作って、それをEthereumネットワークに登録した人がいました。それがICOと言われているものです。

例えばゲームのコインを作ります。「ゲームのコイン」という口座を作って、そこに1Ethereumを放り込むと、例えばある〇〇ゲームのコインが1万もらえる。自動販売機のようですね。

こうやるとゲームのコインを販売できますし、資金調達もできますし、その1万コインは、最初は1Ether売ったけれども、このゲームが人気になってきたら、実はこのコインは2Etherなんじゃないか?」「3Etherなんじゃないか?」という期待が高まって、だんだん値段が上がっていきます。

そんなことができる口座も作れますので、独自コインの発行が今では一番メジャーなブロックチェーン上のアプリです。もちろん、先ほど言いましたように、お金の貸し借りやオークションにも使えるんですが、これが今DAppsと言われるものです。

実際にこのDAppsを紹介している「DappRader」というサイトがあって、ここにアクセスすると、DAppで作られているアプリケーションで人気なものが一覧で出てきます。

どんなカテゴリがあるかというと、ゲームや取引所ですね。先ほど言った、コインを入れるとコインを返す機械を作れるなら、これは取引もできるということで、取引所であったり。あとはコレクションですよね。ランダムになにかが出てくるというカード的なものですね。他にはマーケットプレイスです。「僕の1Etherを買いたい人?」「はーい」みたいな、そういうマーケットプレイス。

そして、ギャンブル。先ほど言った「1Etherを送ると、2Etherか、0Etherかどっちかの確率で返ってきます」というものなどが上がっています。

ERC20とは何か

技術的な話になりますが、ブロックチェーン上で先ほどのDApp、ICOみたいなものを作る場合は、「ERC20」というインターフェースがあります。

これを使うと、「僕は100コインを持っています。100コインを誰かに送ります」という関数であったり、「送られましたよ」「誰かに送る権限を付与しましたよ」という関数が出てきます。こういった関数で作られているものが「ERC20トークン」と言われているもので、先ほどの話に出てきたICOのアプリです。

ここまで見てくると、確かにゲームも含めた通貨に作られそうなアプリができそうなんですけれども、通貨以外のものを作るにはちょっと難しいですよね。ここで出てくる概念が「Non-fungible token」です。ここからゲームっぽくなってきます。

例えば、私が今ここにいて、誰かから100BTCずつもらいました。これで200BTC僕持っています。この200BTCは区別して管理する必要はありません。

このケースでは、誰かからもらった、Xさんからもらった100BTCとYさんからもらった100BTCは交換してもよく、それを入れ替えてもなにも効力は変わりません。例えば私が100BTC支払ってくださいと言われたときには、Xさんから支払った100BTCでも、Yさんから支払った100BTCでも、価値はまったく同じです。

これが先ほどの関数にあったtransfer。valueだけ指定すればいいと。「100を送ります」という関数しかないんですね。

価値の異なるアセットを区別する

ところが、これをアセットで考えるとちょっと違います。例えば、私はXさんとYさんから100平方メートル土地を買いました。そのあと、Zさんが現れて「Aさん、土地を100平方メートルください」と言ったときに、Xさんから引き渡された100平方メートルとYさんから引き渡された100平方メートルをあげることはまったく意味が違います。

それは、土地というのは場所によってぜんぜん値段も違いますし、その代替性はとくにありません。Xさんからもらった100とYさんからもらった100を合成して、僕は200平方メートルの土地を持っているといっても、それが北海道の農地なのか、それとも沖縄の海辺のリゾートなのか、それとも銀座の一等地なのかによってまったく意味が違います。

これをできるようにしようというのが、Non-fungible tokenの考え方です。これができるようになると、「Xさんの土地」「Yさんの土地」といった同じ100だけど違う意味のトークンを作れるようになります。これができれば、ゲームのようなものがどんどんできるようになります。

例えば、先ほどのオークションの例でも、「1Ethereumを2Etherで売ります」と意味がわからないことを言いましたが、これがアセットになると意味がわかります。渋谷区の土地を出品して、渋谷区の土地を100Etherで買う人、あるいは渋谷区の土地をオークションしたり、例えば私が持っているカローラを出したり。

さらに言うと、これにはキャラクターも乗せられます。先ほどの『ソードアート・オンライン』の例では、キャラクターは中央サーバに置くべきものであって、ゲームのルールに乗っ取らずに勝手に「僕のキャラクターはレベル99で、防御力が100です」とか「1000です」と設定して書き込まれてしまったら、それは困るわけです。

ですがブロックチェーンはみんなの同意を得てはじめて成立するチェーンなので、その上でキャラクターを表現することになると、ゲームにおける一番重要なプロパティを保存できるようになります。そうすると、例えば「私が育てているキリトというキャラクターです」というものが保存できます。

そしてアイテムも「どうのつるぎ」というアイテムは「(同じ) どうのつるぎが100本ある」と表してもいいのかもしれませんが、今のゲームは合成したり強化したりできますし、レアリティも設定されてるので「どうのつるぎ +3 レアリティ4」みたいな表現が適切かもしれません。そういったアイテムも実はNon-fungibleといえます。

CryptoKittiesが誕生

Non-fungibleであるものをブロックチェーン上に表せるとどうなるか? 「CryptoKitties」というゲームが生まれました。

これは猫の毛の色であったり毛並みであったり、猫の持っている能力の1個1個がトークンとして記録されています。そのトークンを出品して、トークン同士をかけ合わせると、新しい猫が生まれます。新しい特徴をもった猫をマーケットプレイスに出して、他人に売ることができます。

そうすると、これは非常にトレーディングカードっぽくなってきていますし、今のゲームの主流である「合成」や「強化」という機能を持てるようになります。

なぜこのゲームができたかというと、Non-fungible tokenの実装であるERC-721を考えた作者が「ERC-721を使うとゲームを作れるぜ」というデモのアプリであって、これ自身はとくにゲームではないんですが、これだけでEthereumネットワークのトランザクションの20パーセントを占めるほど一瞬超人気になったゲームです。

たしか猫を購買するときにマーケットプレイスで出品手数料を取っていて、それで1日だいたい5Etherぐらい。5Etherというと、今の値段だと10万円ぐらいですけど当時だとたしか50万円ぐらいで、50万円ぐらい運営に落ちていたということで、ちょっとしたゲームっぽい状況でした。

先ほどのERC20と関数を比べてみますと、例えばtransferに対してtokenIdというアセットIDを持たせるようになっています。これは先ほど言ったvalueとは違う考え方ですよね。

例えば、「〇〇コインを100送る」ではなくて、tokenIdで指示されている1個のオブジェクトを移動します。例えば「私はこのtokenIdのオブジェクトを所有しています。この所有しているIDのオブジェクトを誰かにチェンジオーナーします」ということが書かれているのがERC721です。

ERC20で表現されているfungible token、数量をカウントできるトークンと違って、こういった猫やキャラクターといったアイテムの所有権を移動できようにしようと。そういう概念でERC721が提唱されました。

ゲームのルールに透明性が生まれる

これを使うとなにができるのか、先ほどのfungible tokenと一緒に考えてみましょう。

まず、ゲーム内通貨はERC20でできます。そして、アセットをサーバ側が生み出す。サーバが生成したアセットを特定のウォレットのIDに紐付けることによって、「このアセットは〇〇さんが持っています」とオーナーをアサインすることができます。

そして、ゲームルールの自動執行ですね。合成したら強くなることも、あるアイテムとアイテムを融合させて、その融合のハッシュを取ったり割り算をするかたちで強さが決定するルールを作れば、昔「バーコードバトラー」というゲームがあったと思うんですが、「数字と数字でランダムに割り当てられた2つの数字で大きいほうが勝ちます」とか、「〇〇で割ったときのmodulusがでかいほうが勝ちます」みたいな、そんなゲームルールを自動執行させることができます。

このゲームのルールの自動執行のところが非常に重要です。かつて、『星のドラゴンクエスト』で「金の地図問題」というのがあったことを覚えている方?

(会場挙手)

おっ、2人。『星のドラゴンクエスト』というゲームで「ふくびき」という機能があって、福引所にアイテムを持っていくとランダムで地図を排出してくれます。

そのお店には、金の地図と銀の地図が5対4ぐらいの感じで散らばった絵が出ているんですね。ですので「きっと10回ぐらい引いたら4個ぐらい金の地図が出てくるだろう」とみんな思ったんですが、実際の排出割合は40分の1ぐらいになっていて、それですごく燃えてしまいました。

なので、このゲームルールをブロックチェーンに書いて自動執行させることによって、「運営は実はルールをちゃんとして設定してないんじゃないか?」みたいな疑惑が生まれなくなります。ブロックチェーン上にゲームルールを書くことによって、そのゲームルールが非常に透明になる。

そして、もう1つはゲームのアセットを融通できるようになります。今までは、ゲームのアセットは中央集権なので、サーバにログインして、そのサーバを介さないと転送できなかったのが、ブロックチェーンの場合はユーザーが自由に転送できます。

そうすると、例えば転送してはいけないアイテムを勝手に飛ばせるんじゃないかと思うかもしれませんが、それもゲームルールに書いておけばいいんですね。

例えば、「強化レベルが5以上になったら人に譲渡できます」というルールが仮にあるのであれば、そのようにゲームルールに書いておけば、それは全ユーザーが知っていることとして、そのルールを守りながらアセットを手に入れて、必要に応じてアセットを誰かに譲渡できる。そんなゲームが作れるようになります。

ブロックチェーン×ゲームのメリット

そうするとどんなメリットがあるかというと、最初に言われるのは流動性です。ゲーム内通貨やそのアセットを外に出せる、誰かに売れることがわかってくると、そのゲーム内通貨はゲームの外でも価値を持つんじゃないかと。おそらく持ちます。

そうすると、ゲームの外でも価値を持つ、流動性があるということで、ゲームの開発資金の調達の方法や、ユーザーがゲームに投資する、ゲームにコストを払うモチベーションが変わってくると思います。

例えば、ゲームで非常に強くなることによって、最初に課金した額よりも大きなリターンを得ることを狙う人も出てくるだろうし。レアモンスター、レアアイテムを探しにひたすら潜って、それでレアモンスターを売ってそれをEthereumに替えて、それを売ることよって、本当にごはんを食べられる人が出てくるかもしれません。

そしてゲームの場合は、とくに大きなゲームになってくると、堅牢性も必要です。私もそこまでゲームの開発をしてたのではないので、間違いがあったらすみません。

例えば、ほぼ同じタイミングで同時に2個のコマンドを実行したときに、その2個のコマンドのうち片方しか成立してはいけないのに両方成立してしまって、それでアイテムの数が書き換わってしまったとか、そういったニュースをたまに聞きます。

ブロックチェーンの場合は全員が検証者で、一番長いチェーンが勝つというシンプルなルールなので、同時に複数の人が同じタイミングで作業をしたら、例えばアイテムが1個しかないのにそれを間違えて2人が引いてしまったことにより、世の中に1個しかないアイテムが2個になってしまう。そんな障害が起きにくいです。

そして、透明性です。ガチャの出現頻度であったりゲームの勝率というものを、たとえ運営が公開していてもそれが本当なのかを確認する術が本来ないんですけれども、ブロックチェーンの場合はブロックチェーンのコントラクトを全員が検証可能なかたちで書いてあります。なので、これによってゲームの透明性が生まれます。

そして、一番重要なのは非中央集権化です。ゲームで手に入れた通貨やアセットが自分に帰属します。これは非常に重要な話で、例えば、あるゲームがサービスが終了しましたときには「えっ、僕が払ってたお金ってどうなるの?」となります。

それはおそらく前払式支払手段で、ゲームの運営では「自分が持ってた有料コインは90日以内は払い戻せます」ぐらいの補償しかおそらくなくて、「今までつぎこんだ時間とお金どうするんだ?」という話があるんですが、その心配もいらなくなります。

なぜなら、ゲーム内の持っているアイテムの所有権は本人にあり、ゲームのルールを守るかぎりはそのアセットを自由に移動することができます。そういった「中央集権=ゲームは常に運営し続けない」と、そういった呪縛から解き放つことができます。