どんどん膨らむ「飛行機・ロケットの仕事がしたい」という夢

植松努氏(以下、植松):僕は今から54年前に生まれました。小さいころから飛行機やロケットが大好きで、小学校の頃に、二宮(康明)さんの『よく飛ぶ紙飛行機集』という本に出会います。この本には、ハサミで切って貼って作るグライダーがいっぱいで、これがもう、ものすごくよく飛ぶんです。紙飛行機の折り紙よりぜんぜん飛んじゃうんですよ。

だから僕はこれに夢中になって、この本に書いてあった飛行機の設計の仕方を全部覚えてしまいました。中身は難しかったですが、好きだから全部読んでしまったんです。見よう見まねで、自分で(飛行機の設計を)計算するようになってしまったんです。

また、その頃にたくさん出版されていた、ペーパークラフトという本に出会いました。この本の中には部品が印刷されていて、たったの2ページを切って貼るだけで立体が作れるんです。紙だからお金がかからなくて、しかもいくらでも大きく作ることもできます。上手に作って糸を付けたら、凧みたいにちゃんと空を飛んでくれたので、僕は夢中になって勝手に勉強しました。

でも、僕が勝手に勉強したことはすべて、1回も学校のテストに出ませんでした。だから、「くだらないことをやってないで、勉強しなさい!」と、なんぼ怒られたかわかりません。中学校に入った頃には、友達はみんな成績に関係あることしかやらなくなっちゃったんです。みんな部活と勉強で忙しすぎるので、僕だけひとりぼっちになってしまいました。

でも、すてきなことが起きました。中学生の時にスペースシャトルが飛んだんです。「いつか自分も乗れる!」と思ったので、本を買って勝手に勉強しました。僕は英語が嫌いだったんだけど、スペースシャトルの本なら、辞書を引きながら英語の本を読むこともできたんです。でもね、そこで覚えた英単語は、やっぱり1回も学校のテストに出ませんでした。

そうしたら、グッドタイミングで『ガンダム』が始まりました。「将来はスペースコロニーで働く」と真剣に考えて、「モビルスーツも作れる」と思いました。だから僕は、やっぱり本を買って勝手に勉強するんですが、それもテストに出ないんです。

でもね、もっとうれしいことがありました。憧れのスペースシャトルに、日本人が乗ってしまったんです。日本人最初の宇宙飛行士・毛利衛さんはなんと北海道の人で、おまけにけっこう田舎の人でした。「北海道のけっこう田舎なら、僕も負けちゃいない」「僕もなれるかも、その道を毛利さんが作ってくれた」と思って、うれしかったです。

中学校に入ると先生から、「夢を持ちなさい。夢を実現するために勉強しなさい。そうしたら、君たちはもっと成長できるんだ」と、さんざん言われたんです。だから僕は、「飛行機・ロケットの仕事がしたい」という夢を、どんどん膨らませたんです。

「できない理由」を教える大人は、全員「やったことがない人」

植松:でもそれを先生にしゃべったら、「飛行機? ロケット? 東大に行かないと無理だから」「お前の成績で行けるわけないだろ、どうせ無理だよ」と言われました。「夢を持ちなさい」「そのために勉強しなさい」と言われたのに、「テストの点数が悪いから、お前にはその夢は無理だ」と言われちゃって、目の前が真っ暗になってしまいました。

テストの点数って過去のことなので、それで「未来を諦めなさい」を言われたら、どうすることもできないじゃないですか。「今からがんばります」と言っても信じてもらえないので、「これでは僕はなにもできない」と思ってしまいました。

そしてもっと悲しかったのは、このことを教えてくれたのは、この先生だけではなかったということです。大勢の大人が口を揃えて同じことを教えてくれるので、それがまるで本当のことのように思えちゃったんです。

でも僕は考えて、気づきました。こういうことを教える大人は全員、飛行機やロケットを作ったこともない「やったことがない人」で、適当なことを言っているだけだったんです。「やったことがない人」にやりたいことを相談すると、「できない理由」を教えられるだけなので、これは相談する相手を間違えてるだけのことなんです。

ちなみに「できない理由」というのは、絶対に教えてはなりません。できない理由は、「すごくお金がかかる」「よっぽど頭が良くないと無理」「成功するのは一部の人だけ」とか、いろんなものがあるんですが、最後には必ず同じ意味になります。それは、「努力しても無駄だよ。無駄な努力はしないほうがいいよ」です。

日本では「言うことの聞き方」を教えていた

植松:大人は、良かれと思って子どもたちに「無駄な努力はしないほうがいい」「努力は無駄だ」と教えてしまっているんです。「努力しても無駄か……」と思ったら、「がんばれない人」「できることしかしない人」「考えない人」がどんどん増えます。なんでこういう人が増えるのかというと、実は「そのほうが良かったから」なんです。

これは、日本の人口のグラフです。日本の人口は鎌倉幕府あたりから増え始めて、江戸時代には安定していたんです。そして明治維新のあとから、とんでもない勢いで日本の人口は増えました。こんなに急激に人が増えた国は珍しく、日本独特の現象です。お客さんが増え続けるから、(モノを)作っても作っても足りなくて、なんぼ作っても追いつかないんです。

ですから人口が増えている時には、とにかくなにをやっても足りないんですよ。成功するためには、「すでに流行していること」「すでに儲かってること」を真似したら、必ず儲かりました。だから人が増えている頃には、「同じ」「普通」「みんながやっている」ことをやれば大丈夫だったので、みんながこれを追いかけてきたんです。

その時の日本を支えた仕事が「大量生産」という、同じものをひたすら作る仕事で、大勢の人がそこで働きました。そこで働く人には、「素直」「真面目」「勤勉」が求められたんです。いつの間にかこれが、日本人の良いところだと言われるようになりました。

その時に僕たちは「余計なことを考えないで、言われたことを言われたとおりにやればいいんだ!」と習ってしまい、なんとそれが150年間も続いてしまったんです。ひいおじいちゃんぐらいの頃から、ずっとそうやってきました。実はこの150年間、日本では「働き方」ではなくて、「言うことの聞き方」を教えてしまったんです。

今の日本の教育は、ロボットに負ける教育

植松:そして平成の真ん中あたりから、日本の人口は急激に減り始め、世の中が変わってしまいました。ちなみに、こんなに急に人が減る国もめずらしくて、日本特有だからね。この時どうなるのかというと、(モノを)作ったら余るので、人が減る時代にはなにやっても余っちゃうんですよ。ということは、「同じ」「普通」だと安いほうが選ばれるだけなので、これでは食べていくことができないんです。

しかもロボットやAIが発達してしまったので、言われたことを言われたとおりやる仕事は、ロボットがやるようになっちゃったんです。だから今、信じられない勢いで無人工場が増え続けてるんです。このままだと、みんながいくら勉強しても、いくら体を鍛えても、いくら資格を取っても、世の中はロボットだらけになってしまって、もう働くことができないかもしれません。

間違いなく言えるのは、「素直」「真面目」「勤勉」だけでは、ロボットに負けるんです。当たり前ですよね、ロボットのほうがよっぽど素直だもん。そして当たり前ですが、「暗記の量」と「正確さ」で勝負をしても、ロボットに負けるんです。

だから、日本が今やっている「評価するための教育・受験対策の教育」は、ロボットに負ける教育になってしまっています。

大学以外にも学ぶ手段がいっぱいある

植松:じゃあどうすればいいのかというと、ロボットができないことをやればいいんです。これからは「考える人」が必要なので、頭を使えばいいだけなんです。

「考える人」とは、いったいどんな人でしょうか。よっぽど偏差値が高くって、よっぽど有名な学校に行かなかったらダメでしょうか……ぜんぜん関係ありません。その証拠に、アメリカやヨーロッパの18歳の大学進学率は、日本の8分の1です。偏差値から志望校で夢を選ばされるから、日本の高校生は「〇〇大学に行きたい」と言うんです。

それに対して海外では、「〇〇を学びたい」と言います。「〇〇を学びたい」と思った時に気づくのは、「大学以外にも学ぶ手段はたくさんある」ということです。大学でしか教えてもらえないというのは大間違いで、いろんな方法や手段があるんですよ。だってそうじゃなかったら、社会に出てから学べないじゃないですか。

大学に行かないと教えてもらえないんだったら、社会に出たらなにも教えてもらえないじゃないですか。そんなわけないですよね、僕らは一生学ぶことができます。そのためにも、大学以外にも学ぶ手段がいっぱいあるということを、僕らは知っておくべきなんです。

そして、学びたいことがないままに進学をすると、かけたお金と時間が無駄になるだけなんです。だから今、信じられない借金を背負ってる大学生がいっぱいいます。かわいそうですね。行かなくていい大学にものすごくお金を払ってる人がいて、ものすごくもったいないと思います。

「だって、大卒じゃないといい会社に就職できない」と思ってる人がいっぱいいると思いますが、本当にそうなんでしょうか。僕が大学を卒業した頃は平成元年で、今は平成33年ぐらいかな。この30年間に何が起きたのかを知ってほしいんです。

平成元年と比べたら、大学の数・進学率・学費はだいたい2倍です。ということは、日本のご家庭は愛する子どもたちのために、ものすごい金額を大学に突っ込んできているということなんですよ。その結果どうなったかというと、これは世界の企業の株式総額ランキングの表です。オレンジ色が日本で白が海外、平成元年はほとんどオレンジですね。日本企業、がんばってましたね。

でも30年後にはどこにもオレンジ色がなくて、トヨタが40番目ぐらいですかね。だからこの30年間、ものすごく教育にお金を突っ込んだのに、日本の企業の世界ランキングはだだ下がりなんですよ。良かれと思って、きっと間違っちゃったんですよ。大事なことは、これからは「考える人」が必要だということなんです。

生まれた時から「諦め方」を知ってる人は、この世に1人もいない

植松:僕の会社には、いろんな人が来ます。企業の社長さんも来ますし、いろんな企業の人がやってきます。その人たちと話をしていて、「世界は今、『考える人』を探している」と気がついたんです。

「考える人」とはどんな人かというと、「やったことがないことをやりたがる人」「諦めない人」「工夫をする人」。僕もこういう人と一緒に仕事がしたいです。じゃあ、そういった人は一体どこにいるんでしょうか。

それは「みんな」です。この世のすべての人がそうなんです。人間は必ず「小さい頃」を経験していて、ボタンがあったら押してみたかったし、やったことがないことをやってみたかったんです。実は、生まれた時から諦め方を知ってる人はこの世に1人もいなくて、みなさんは全員、諦め方を知らずに光り輝いて生まれてきたんです。

そんな素晴らしいみなさんに、誰かが諦め方を教えて“大人に都合のいい人間”を作っただけのことなんです。でも、諦め方を覚えてしまったら、ロボットに負けてしまうんです。もったいないですね。じゃあ諦めなければいいですが、諦めないためにはどうしたらいいんでしょうか。