追い詰められた経営者へのアドバイス

――最近「自粛か緩和か」「命か経済か」など世論が分かれていますが、亀山さんはどう思いますか?

亀山敬司氏(以下、亀山):俺は医者でも政治家でもないから、どっちが正しいのかは判断できない。 ただ自粛しないとコロナで亡くなる人もいるし、同時に自粛で経済的・精神的に追い詰められた人達の中で、自殺者も増えるだろうから。単純にどちらが正しいという話ではないよね。

――確かに。今はいろいろな中小企業が大変だと思うのですが、追い詰められている経営者に何かアドバイスをいただけないでしょうか。

亀山:自粛を求められている中でも、とくに飲食とか観光業とかは辛いよね。緊急融資や給付金の難しい申請手続きをしながら、ジッと耐えるしかないんだけど、このまま収束が長引けばハンパない倒産件数が出る。本当にヤバそうな企業は「禁じ手」を使うのも有りかもしれないね。

――「禁じ手」?

亀山:批判を恐れずに言えば「借金は返すな、家賃は払うな」ってこと。

――え? 借金や家賃を払わないって、夜逃げしろって意味ですか?

亀山:いや、もっとダメなやつ。家賃を払わないで居座り続けろという……。

――支払いを交渉するってことですか?

亀山:そうだね。まずは土下座して先送りを頼んでみる。でも、たいていは断られる。俺の知り合いもみんな断られてるから。まあ、大家さんからすれば当たり前なんだけどね。

だけど俺が言ってるのは「交渉が決裂しても払うな」ってこと。

――でも、家賃払わないと追い出されますよね。

亀山:うん。だけど時間は稼げる。大家さんとしても、無理に追い出しても次の入居が見つかる当てがないし、実際のところコロナで動けない。とりあえず、なるべく粘って「払えるようになったら払います」と言いながら、とにかく振り込まない。

銀行も金利だけ払って元本は先送りする。先の見えない今は、とにかく手元に現金を確保するんだ。

自分で自分の支払いをロックダウンする

――かなり乱暴な話ですね。信用や契約は守らなくてもいいんですか?

亀山:もちろん商売っていうのは信用が第一。「約束は守る」が商売の鉄則だよ。でも今は緊急事態で、生きるか死ぬかの瀬戸際。血液である資金がなくなれば倒産するしかないからね。

強引にでも生き残って、体力ができてから少しずつでも払ったほうが、結果的にみんながハッピーになると思うよ。信用を守ってカッコ良く死んでも、誰も助からない。

――銀行に返済のある大家さんなどは困りますよね。

亀山:大家さんも同じように銀行への返済をしなければいい。全員が銀行に借りっぱなしになっても、銀行は国が支えるから大丈夫よ。

――売上が下がった企業は、金融公庫から3000万円借りられたり、給付金が200万円ほどもらえたりするらしいですが、それくらいじゃ足りませんか?

亀山:中小企業といっても業種や規模によって事情は様々だからなぁ。オリンピック期待で投資を何億も増やしてた会社もあるからね。だから、それくらいの援助じゃ足りない会社はたくさんあるよ。

それに確か、給付金は去年より売上が下がってないと貰えないはずだよね。でも、売上は上がっていても、それ以上に人員や投資を増やした企業は、たぶん赤字になっている。

つまりどちらかというと、前向きに投資していた成長企業の方が、今は苦境に立っているってこと。

――なるほど。一律の援助では助からない企業も多そうですよね。

亀山:それぞれの事情に合わせて救済できればいいんだけど、国も自治体も個別に対応する時間も人手もない。結局はこれからも、今みたいな援助しかできないだろうね。

だから、自分の身は自分で守る。金が足りなきゃ、自分で自分の支払いにロックダウンをかけるしかない。

――ということは、亀山さんも家賃と借金を払わないってことなんですか?

亀山:俺は払えるから払うよ。

ー―えっ、払うんですか?

亀山:うちみたいに払える企業は払う。それは当然だから。使ってないオフィスは今すぐにでも解約したいのが本音だけど、そこは契約を守るよ。今まで話してたのは、コロナ被害を直撃して崖っぷちの会社へのアドバイスだよ。100年に一度の禁じ手。

社員を守るためなら、信用は後回し

――その「100年に一度の禁じ手」をいつ使うかは、どう判断すればいいんですか? 手元のお金がなくなったときですか?

亀山:なくなってからじゃ手遅れだ。なくなる前に止めないと。たぶんこの騒動は2〜3ヶ月じゃ収まらない。仮に緊急事態宣言が終わっても、それなりの自粛は続くだろうし、外国人は来ないし、しばらく景気は悪い。どう考えてもしばらく元には戻らないよね。

少なくとも1年間の事業計画を立て直して、資金繰りを考える。どう見ても足りないと思ったら、早めに「払わない、返さない」ほうがいい。

――私はサラリーマンなので「約束は守らないといけない」って考えてました。

亀山:いや、本来はちゃんとしなきゃいけないのよ(笑)。現役で経営やってる人たちは、ちゃんと信用を守ってきたから今があるわけだし。基本は真面目な人たちが、商売で生き残ってるんだよ。

でも、生真面目な人は、緊急事態でも発想は真面目なまま。「人様に迷惑はかけられない」と苦しんでる。だけど「払えないものは払えない。仕方ないんだ」と言ってあげたい。

――確かに。でも、真面目に商売をされてきた方々にそんな行動ができますかね?

亀山:難しいだろうね。長年真面目にやってきたんだから。でも、こんな時だからこそ、真面目に、真剣に、原点に向き合って考えてほしいんだ。「そもそも何のために会社をやってるのか?」「なんのための信用か?」

俺は社員を守るために会社をやっている。そして、その会社を潰さないために信用を守っている。つまり、最後の最後は、社員を守るためなら信用は後回しよ。

――「倒産か信用か」ですね。

亀山:全てを守れないときは、守りたいものに優先順位をつけるしかない。俺が飲食店のオヤジなら、家族、社員、取引先、大家、銀行という風に順番をつけるね。

大家・銀行と一緒に生き残る道

――確かに、順番をつけるとイメージしやすいですね。でも、後回しにされた人とは遺恨が残りそうですけど……。

亀山:罵倒されるかもしれないけど、土下座してでも頼んで、居座り続けるしかない。べつに「支払いをナシにしろ」と言ってるわけじゃないんだ。売上が戻るまで「待ってくれ」と言ってるだけ。大家や銀行にとっても、店を守って一緒に生き残ったほうがお互いのためだと思う。

――でもそんなことをして、万が一にもワクチンとかで早期にコロナが収束したら、後悔するかもしれないとビビってしまいます。

亀山:今起きてることは、悪夢じゃなくて現実だからね。変わってしまった世界はもう戻らない。こんなときに現実から目を背けてちゃダメよ。経営者は奇跡にすがっちゃいけない。

――今このタイミングで、わざわざ炎上覚悟のアドバイスをする理由を聞きたいです。

亀山:悲惨な倒産はもう見たくないからな。

うちは昔から駆け込み寺みたいなところがあって、経営に行き詰った社長からの相談は多かった。なんとかなりそうなら助けることもあるけど、ニッチもサッチもいかなくなってからの相談は、本当に辛い。

そんな時には社長に「何を一番に守りたいのか?」と尋ねるんだけど、明日にでも倒産するしかない状態なのに「銀行に返済しないといけない」とか「取引先に不義理はできない」とか、悠長なことを言ってる社長は多い。

そんな時は追い詰められた社長に「金庫に僅かに残っている金は、社員と家族のために使ったほうがいい」とか「親戚や友人には借金や保証人を頼まないで、ひとりで自己破産しろ」とか「高利貸しに手を出せばもっと多くのものを失うから、それだけはやめろ」などと、アドバイスをしてきた。

それでも何人かはアドバイスを聞かず、ジタバタした挙句、全てを守ろうとして誰も守れずに、最後は悲惨な結末を迎えることがあった。

――今まで、いろんな修羅場を見てこられたってことですね……。

亀山:まあね。でも今まで見てきた倒産は、経営者が力不足だったり放漫経営だったりで、仕方ないと思えることも多かった。

だけど今回は、もともと力のある企業が危機に立っている。何年もコツコツと頑張ってきたのに、続けられない事態になっている。だからとにかく、あらゆる手段を用いてこの危機を乗り切ってほしい。

この危機さえ乗り切れば未来は良くなる

――亀山さんにも苦渋の決断はありましたか?

亀山:うちもこの5月いっぱいで、石川県にあるビデオレンタルとカラオケ店を閉店するんだよ。

――休業ではなく閉店ですか……。それは辛いですね……。

亀山:そりゃ34年間も続けてきた店だしね。今のDMMがあるのもこの店のおかげだから。30年以上勤めてくれた社員もいて、俺も思い出がいっぱい詰まってる。

カラオケ、レンタル店と順に自粛要請があり、このままじゃ回復は無理だと閉店を決めたけど、急なことに社員も地元のお客さんも泣いてたよ。

ただうちの場合、少なくとも雇用も取引先も守れた。社員は近くの物流センターや3Dプリンタ工場で引き取れるからね。でも、もしこの店しかなかったら、もっと多くの人たちに迷惑をかけたと思う。

――「業績の良いところが悪くなったところを支える」という形ですかね。でも、多くの会社はそれができない。だから今回の禁じ手ということなんですね。

亀山:もちろん全てを守れたらいいけど、それが無理なら「何をあきらめて、何を守るのか?」「誰を助けて、誰を泣かすのか?」大事な選択をしなければならない。

――「崖っぷちで両手にぶら下がった人の、片方の手を離す」ってイメージでしょうか。究極に辛い選択ですね。

亀山:俺の言葉を鵜呑みにする必要はないけど、あとで後悔しないように、経営者として「今」には向き合ってほしい。

―覚悟を決めろってことですよね。腹をくくるというか。

亀山:嘆いていてもしょうがない。コロナで自粛に追い込まれたのは不運だけど、ここからどう動くかは経営者の決断だからね。

とにかく、この危機さえ乗り切れば未来は良くなる。あとは上がるしかないんだから。ここからの10年は必ず伸び続ける。そして、きっと今よりもっと強い企業になって、多くのものを守れるようになっているよ。