全社員フルリモートワークに移行し、オフィスをなくした

藤田祐司氏(以下、藤田):“ザッソウ(雑談+相談)”を徹底されている倉貫さんは、ミーティングについてどう考えていらっしゃるんですか?

倉貫義人氏(以下、倉貫):そうですね……。僕らの会社は、今社員が42人で、所在地が19都道府県。

澤円氏(以下、澤):すごいね。

松本国一氏(以下、松本):すごくあちこちに散らばってる。

倉貫:地方のほうが多いんですけど、支社とかじゃなくて、みんな在宅勤務です。なので、私は週0出勤なんですよね。会社に行くことがないんですよ。

:行くところがないですもんね。

倉貫:そうなんですよ。2016年までは渋谷に、ここよりちょっと大きいぐらいのオフィスを借りていたんです。でも地方の社員が増えてきて、在宅勤務する方が増えてきたので、東京の人たちも合わせて在宅勤務にしたほうがいいんじゃないかなと思ったんです。全員リモートワークするようにしたら、オフィスに誰も来なくなったので、借りるのも止めようということで。

:返しちゃったんだ。

松本:すごいですね。

倉貫:2016年に契約を止めました。今は本社オフィスがない会社になった。みんな家で仕事をする。エンジニアが多いとはいえコミュニケーションがいらないかというと、そうではない。やっぱりコミュニケーションはしないとチームとして成立しない。

難しい問題を解決しようというお仕事なので、難しい問題を解決するときに、1人でうなっていても解決しなくて。やっぱり技術的な相談をすることが大事です。

オンライン会議は、絶対に1人1台のPCで参加する

倉貫:「気軽に相談できるようにするにはどうすれば……」と考えたとき、オフィスがやっぱり必要だったことに、オフィスをなくしてから気づくんです。オフィスの機能が何なのかって、普通はオフィスがなくなることがないから考えたことないと思います。

(会場笑)

松本:うん、わからないです。

倉貫:オフィスって、自分の席があるというのが1つ。2つ目が会議室があるということ。3つ目は資料を保管する場所があるということなんです。

まぁ、資料は全部クラウドに置けばいいかなと。会議室はどうしているかというと、Zoomを使っています。ここで会議室と誰かをつなぐんじゃなくて、1人1台のパソコンでテレビ会議に入るのがポイントです。

松本:重要。

倉貫:渋谷にオフィスがあったときは、隣の席に人がいても「会議しましょう」となったら、ハウリングしちゃうから離れるようにしていた。2人以上で一緒に画面に入らないようにする。

なんでかというと、テレビ会議をする側になってみたらわかるんです。大人数で一緒の空間にいるのと、僕1人のスクリーンがあるようなテレビ会議は、1人の側が絶対に大人数側に入りにくいんですよ。向こうが盛り上がったりすると「あ、いつ入ればいいのかな」となっちゃって、すごくマイノリティ側で寂しいんですけど、あるとき気づいた。全員同じ状態にすればいいんだ。

松本:全員が個々に入る。

倉貫:全員個別にテレビ会議するようにしたら、ハンディキャップがない。ハンディキャップがない状態がコミュニケーションをしやすくなります。「全員1人1台パソコンで、必ずパソコンのカメラでマイクをつけてやりましょう」となったら、コミュニケーションがスムーズになった。

それ以来、僕らの会議は「会議室どこ?」と聞いたらみんな「Zoom」と答えるようになった。「今、会議してるので入ってください」と言われて、ZoomのURLが送られてくるようになって、会議室がなくなった。

あと、家で座って仕事をするので、自席の椅子とかはやっぱりいいものが必要だということで、「会社の経費ですごくいい椅子を買ってもいいですよ」とはしています。

チャットツールで「ちょっといいですか」は言いづらい

倉貫:この3つがそろうと、オフィスの機能は満たしている……かと思ったら、雑談がしにくいんですね。

テレビ会議は用事があるとやって、終わったら切るんですけど、本当は会議って始まる前に雑談するんですよね。また、対面なら会議が終わったあとに雑談してコミュニケーションを取ったりするのが、プツンと切れて終わりなので、「あー」となる。

「会議しよう」というときに時間を決めて会議するんじゃなくて、一番やりやすいのって、「ちょっといいですか」と言うこと。仕事を進めるのに一番大事なことって、会議よりも「ちょっといいですか」と言うこと。

(例えば)「ちょっといいですか」とチャットで言って「明日15時から1時間取りましょう」と言われたら、もう萎える。

松本:萎えるね。確かに萎える。

倉貫:5分でいいんだと。5分話せば解決するのに、なぜ1時間予定を取ろうとするんだ、調整するんだと思っちゃう。

:しかも明日みたいな。

倉貫:「いや、5分だけくれ」という話なんです。「ちょっといいですか」が、チャットだとやっぱり言いにくいですね。なぜ言いにくいかと考えたんですよ。Slackとかチャットツールを使っていて、いるかいないかわからないところに「今いいですか」と投げるのって、すごく心理的ハードルが高い。

DMだったらまだいいんですけど、みんなが見てる前で、「ちょっといいですか」と言って、もし席にいなかったら、無視されるじゃないですか。

松本:されますね。

藤田:切ない。

倉貫:「つらい!」ってなる。

(会場笑)

そうなると「ちょっといいですか」と書きにくい。あと、「じゃあ松本さん、これこれ、こういうことで」という相談を全部書かなきゃいけなくなる。これはもうチャットの意味がないというか、メールみたいになっちゃう。

相手がいるかいないかって、実はオフィスの機能としてすごく大事だったんだと気づいた。みんなが一緒にその場所にいるという感覚がすごく大事だと。でもこれ、よくよくいろんな勉強してみると、昔から経営学では「場」と言っていたんですね。

時間と空間がそろったところで、みんな仕事をしましょうということを場と言う。場を作ろうと。場を作るために、僕ら全社員をまた集めようとなると、さすがにみんな辞めちゃう。

顔が見えることで安心できる

倉貫:僕らはソフトウェアの会社なので、ソフトウェアで場を作ろうということで、インターネット上にオフィスを作ったんです。朝になると、みんなそこに出社してくるんです。

藤田:「おはよう」みたいな。

倉貫:「おはようございます」と言って出社してくる。出社してきたらどうなるかというと、みんな自分のパソコンにカメラがついてるので、カメラで2分おきで自分の顔を撮影しているんですね。仕事している様子を撮影しているんです。それがみんな見えるんです。

「おはようございます」と言うと、「おはようございます」と言っている人の顔が出てくる。そうすると「ちょっといいですか」と声がかけやすくなる。ということを、今やっています。物理的にオフィスをなくしたんですけど、仮想的なオフィスを作って、そこで働いているという話です。

藤田:オンラインだけど温度を感じるような。

倉貫:そうですね。

安達徹也氏(以下、安達):顔が見えるって心理的安全性の観点で大切。

倉貫:やってみてびっくりしました。今からチャットに戻れるかと言うと、怖くて戻れない。

(一同笑)

安達:けっこういろんな会社さんとビデオカンファレンスをやるんです。やっぱりカルチャーによって、顔を出してやる会社さんと、絶対に誰も顔を出さない会社がある。

倉貫:顔出さないテレビ会議って、感じ悪いですよね。

(会場笑)

松本:日系企業は顔を出さない人がけっこう多いんですよ。みなさん、遠慮するのかね。

:あとうちも顔は基本出さない。なんでかというと、2つあるんですよ。出さないのは資料に集中してるんですよ。要するに数字に集中してそれに対して、というときには表情はいらないの。逆に顔にちらちらいっちゃうと集中できないので、資料を全画面にしたいときにはみんなカメラオフにする。

松本:目的が何かによって変えると。

:顔を出すのは人間関係構築のとき。だからどっちかというと「みんなでわいわいディスカッションしましょう」とかは、やっぱりカメラオンにして表情も含めて話をしたりしますよね。

松本:うちの場合はオフィスの代わりにプレゼンスを使ってますね。要するに今どういう状態なのか。パソコンの前に座っていて、パソコンに触ってたら緑のランプがつくんですよね。

倉貫:あれね……。信用があるんじゃないですかね。

(一同笑)

松本:それが、逆の使い方をしてるんです。私は飛び回っててオフィスにいないわけですよね。緑になった瞬間に、みなさんから一斉にチャットがくるんですよ。「今いいですか、今いいですか」って。

一番ひどいときは12本同時にパパッてメッセージが来たときもあります。「12人としゃべらなきゃいけないの?」と一瞬思いましたけど、そういう働き方もありかなと。

考えるべきは「選択肢を最大限活用する方法」

藤田:今はもういろんなところで、そういう試みは出てきていますよね。それこそ今、Boxさんもテレワークの検証中ですよね。

西舘:そうですね。

安達:うちの働き方の考え方で、これもさっきITインフラの話で少ししましたが、選択肢なんですよ。「会社は社員に対して選択肢を与えます」という考え方で。デジタルワークプレイスといって、世界中どこでも働けるようなデジタルな環境を社員に用意しますと。僕で言うと、ここでもアメリカのオフィスでも自宅でも、沖縄のカフェでもまったく同じ仕事ができます。

一方でリアルワークプレイスというのは、デジタルだけだったら「じゃあこんなオフィスいらないじゃん」という話なんですよ。けど、さっきの心理的安全性とか、さっきの「ちょっといいですか?」という話とか、ここってふだん仕事で関わらない社員と社員が、ちょっとした会話をするための話だったりするんですね。

ちょっとした会話って、やっぱりテレビ会議とかだとできないんですよ。ぜんぜん仕事で関係ない人が、ランチでたまたま隣に座ったときにする会話って、けっこうイノベーティブなアイデアとか出てくるんです。

そういう場所としての、リアルワークプレイス。その両方を用意するので、社員は自分の責任でパフォーマンスを最大化するための働き方を選んでねという会社と、なんていうんですかね。社員の考え方。

実証実験したのが1ヶ月で、ちょうどここで台風が来て、すごい不謹慎かもしれないですけど、いい実験だったなと思うんです。このときにわかったことがあって、やっぱりきれいに選択ってできてないんです。みんなそれぞれ慣れた働き方をするんですよ。やっぱり定例会議があったらつい会社に来ちゃうというのは、Boxの人間もやっています。

人によってリテラシーが分かれるんですよ。1日10個の会議をなんら問題なくできる人もいれば、「今日会社に来なくていいんだっけ?」「この会議やるんだっけ?」と、Googleハングアウトとか設定されていて思っちゃって、どうしていいかわかんなくなっちゃうという人も少数ながらいる。

この辺って、ふだんから与えられる選択肢を最大に利用して、どうやって自分のパフォーマンスを上げるかと考えていないとできないんだなというのが、この実験を通してわかったというところですね。

働き方がシフトする時代に、どれだけ行動できるか

藤田:今日のお話は共通して、日系か外資系かということは実はそんなに関係がないなと。全体として働き方が大きく変わってきている。

:そう、そう。あんまり参考にならない変態ですけれどね。

(会場笑)

だけど、許されないのかというと許されている。許されるというのも、ちょっとおかしいんですけれどもね。かといって別に、つまはじきにされるわけでも干されているわけでもない。

あっち(倉貫氏)はベンチャーで新しい働き方をすでに実現できているので、日系とか外資というのは、もうなくなってきてるのかなとは思います。

藤田:そうですね。そこじゃないなというところ。

:あとは個人がどれだけ行動できるかとか。あとは、なんとなく、やっかまれて社内で言われることないですか。松本さん。

松本:いや、言われないですね。

:もう、完全にそれ、諦められてる。

(会場笑)

松本:もう、周りから無視され……。あ、違う。自分で言っちゃいけない(笑)。

:これぐらいにまでなって、出過ぎる杭になると打たれることはないので。

藤田:どこまで突き抜けるかという。

:そう。やられるときには、もう斧で切られるとか火をつけられるとかあるかもしれないけどね。たたかれることもないので、そこまでいけるか。いけるというのは、いこうと思ったらその日からいけるんです。

「社会人として」「一般常識として」とかガチャガチャ言われたら、ニコニコして離れて「うるさい馬鹿」と言えばいい。本当に言ったら、いろいろ問題になりますけど。

藤田:本当に言っちゃうとね。

:口に出しちゃうと、いろいろわだかまりができたりするんですけど、腹の中で思う分には自由です。ただ、自分のやりたいように時間を使ってください。

これも何回もプレゼンで言っていますけれども。時間って有限だっていうことを知ってます? 人間って絶対死ぬように仕様が決まってるんです。あと、人間というのは基本的に割り当ては一生、1回だけですからね。

毎回聞いてるんですけど、(人生)2回目の人? 

(会場笑)

藤田:いない(笑)。

:今のところ手が上がったこと、ないんですけどね。出会ったら絶対コツを聞こうと思ってる。

でも、やっぱりだめなんですよね。1回となると時間ってものすごく貴重だから、上司の顔色をうかがうために時間を使おうなんて、そんな馬鹿なことはやっちゃいけないわけですよね。だから(みなさん)明日から会社に行くのは禁止。いいですか? 

藤田:なかなか決断するのが難しい問いかけですけれどね。

西舘:ここで決断できたら40名会社に行かなくなる。けっこう変わりますよ。

松本:変わる。変わる。

:バラバラの会社だったらね。そこから反逆を起こしてもらえればいいかなと。

松本:ちなみにテレワークができる会社ってどれくらい?

:それ、聞きたいね。

(会場挙手)

多いな!

松本:すごく多いですね。

:じゃあ、テレワークの制度はあるんだけれども、使いづらい雰囲気のある会社の人、います?

(会場挙手)

やっぱりいるね。

藤田:でも、わりと(みなさん)使える会社なんですね。