イノベーションの勝負の分かれ目は「夢中になっている度合い」

山口周氏:(9つ目として)「最大の武器はモチベーション」。これはわかりやすいですね。検索エンジン、電子商店街、動力飛行、南極点到達。最後のは僕の趣味で入れているんですけど(笑)。勝者はヤフー、Amazon、ライト兄弟、(ロアール・)アムンセン。敗者はNTT、IBM、アメリカ陸軍、ロバート・スコットですね。

見てみると、どこのケースでも敗者のほうがブランドもある、金もある、技術もある、人材もいる。リソースで優位の状態にあるのに、負けたんですね。ここ30年のイノベーションは、全部そうです。

日本でAmazonが本屋の事業を始めたときに、紀伊國屋さんとか文教堂だってインターネット販売を始めたんですけど、結局ぜんぜんうまくいかなかったわけですね。ですからブランドがある、お金もあるというところが出てきて、全部負けたということです。

これがなぜなのかっていうことなんですけども、端的に言うと、左側はやりたがっている人がやっているんですね。自分でやりたがっている人が、やっている。それで、右側は上司から「やれ」って言われた人がやっているという構図なんですね。

端的に言うとイノベーションというのは、「夢中になっている度合い」が勝負の分かれ目です。だから自分で夢中になってやっている人と、上司から「やれ」と言われてやっている人が戦ったら、これはもう(後者が)負けるに決まっているんですね。これは、お金がそんなになく、資金調達がすごく難しいとか、テクノロジーの調達が難しいっていう時代であれば、インハウスでそういったものを持っている大企業に有利な側面はあったと思うんです。

けれども今はまず、金利がほとんどゼロですよね。お金がいくらでも調達できるようになってきた。お金の値段が下がっているわけですね。テクノロジーも今はインターネットみたいなものが出てきて、世界中どこからでも技術を調達できるようになった。情報格差もなくなっちゃっているわけです。こうなってくると「モチベーション」というものが、競争優位性を非常に大きく左右する要素になっているということだと思うんですね。

成功のカギは、夢中になれることを見つけられるかどうか

ですから「やりたがっている人に、やりたがっていることをやらせられるかどうか」という、モチベーション・ポートフォリオというのが、人事の側面からするとすごく大事です。個人の働き手からすると、「自分が夢中になってやれることをやれているかどうか」が、その人の成功にとってものすごく大きな要因になる時代が来ているってことだと思うんですね。だから「優秀さの定義」というものが、ここでも切り替わるっていうことだと思うんです。

「じゃあ、それって何ですか?」ってなると、結局「いろんなことをやって、夢中になれることを見つけられるかどうか」ってことなんですね。ですからここもやっぱり「いろんな打席に立てるかどうか」が非常に大事になってくるので、「自分がモチベーションを感じられるものを見つけられるかどうか」っていうことのためにも、やっぱりパラレルキャリアって重要です。

逆に言うとある意味で、パラレルキャリアの副業のほうでそういうことができている人は、逆に本業のほうでも活躍してくれる可能性があるので、非常にポジティブな影響があるんじゃないかな、ということですね。

イノベーションの目利きができる経営管理者は100人中4人

あとは(10番目として)「提案は潰される」って話を、とくに若い人に(したいですね)。イノベーションって、目利きできないんです。「イノベーションのアイデアがない」と言っている経営者がいるんですけども、そもそもの問題は、「あなたは、イノベーションのアイデアを見せられて、本当にそれを見抜けるんですか?」ということです。たぶん目の前を「どストライク」が行き交っているんですね。気が付かないうちに、見逃し三振になっています。

これは過去の事例を調べてみればわかるんですけど、イノベーションのアイデアを見せられても、ほとんどの人がそれを評価できないんですね。例えば(トーマス・)エジソン。家の中で音楽を聞くという機械を発明しました。「価値がありません」と特許を捨てちゃっていますね。今のiPhoneにつながるような、莫大な利益を生み出す事業になったわけですけどもね。

電話。発明者のベルは電話の特許を取ったんですけども、大学の先生ですから売ろうとしたんですね。でもどこからも「いりません」と言われて、結局、彼自身が電話の会社を作った。その会社はあれよあれよという間にものすごく大きな会社になっちゃって、20年後には全米で最大の会社(注:AT&T)になっちゃったわけです。

たった20年ですよ? たった20年で全米最大の会社になるような特許のアイデアを、当時の電報の会社の優秀な経営管理者たちが見せられて、「これはおもちゃだ」「価値がありません」って断っちゃった。

トーキーもそうですね。映画から音声が出てくるという仕組みを作って、特許を取った人がいるんです。映画会社のワーナーブラザーズの社長さんですけれども、「世界中に映画ファンってたくさんいるけれども、映画から音声が出ることを望んでいる人って、たぶん一人もいないと思うよ」って断っているわけですね。

(会場笑)

だから「見抜けない」ってことなんです。「価値が微妙だな」ってもんじゃないでしょ!?  今の世界で、映画から音が出ないんですよ? あるいは、電話がない。あるいは、プライベートな空間で音楽が聞けない。考えられないような世界ですけれども、彼らからすると、それが富につながるとは思えなかったっていうことです。優秀な経営者だったんですけどもね。

ですから、目利きは非常に難しい。一橋大学の研究の一説によると、画期的なアイデアを見せられて、それを見抜ける可能性は、経営管理者の中でだいたい100分の4ぐらいだって言われていますね。96パーセントは「頭、大丈夫?」とか「1回死んだほうがいい」とか「うまくいくわけがない」とか「ぜひ他社でやってください」とか言っている状態だってことです。

(会場笑)

見向きもされないアイデアを救う、「拾う神」はどこにいる?

その確率で「じゃあ、うまくいっているときは何が起こっているのか?」っていうことなんですけど、「拾う神を見つけている」っていうことなんですね。アイドルとかバンドのオーディションにけっこう近いイメージなんです。

ビートルズもオーディションに落ちまくりましたけれども、粘り強く自分のアイデアとかコンセプトを買ってくれそうな人を見つけることを、ずっとネットワークの中を動いて成功しました。これは、イノベーションとの共通項です。(セイコーの)「キネティック」も(3Mの)「ポストイット」も、花王の「アタック」もそうですね。そういう意味で言うと、ネットワークがすごく重要なんですね。

(スライドを指しながら)例えばこういう組織だと、(イノベーションの価値がわかるのは)100分の4しかないわけですからね。上司から潰されちゃったら、そのアイデアって死蔵せざるを得ないわけです。殺されちゃうわけです。

けれども、例えばこういう状態になって、ましてや社内にもネットワークが広がっている状態になると、味方をどんどん見つけることができるようになるわけですね。

そうすると「味方は味方を呼ぶ」で、ある種の「考え方が似た人」が集まってくるということです。このように「ネットワークの密度が高い」ことは、その人が持っているアイデアを活かせる可能性が高くなるということです。やっぱり、動く。動くためにはネットワークが必要なので、そこが非常に重要だということです。

以上、(話題を)10個並べました。すいません、ちょっと時間をオーバーしましたけど、以上が私からのお話でした。どうも、ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

司会者:山口さん、ありがとうございました。せっかくですので、もしお時間がよろしければ質疑応答を(お願いします)。

山口:はい。

司会者:受け付けていただけるということなので、ご質問のある方、ぜひ挙手いただければ(と思います)。

(会場挙手)

はい、じゃあ。

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質問者1:今日は貴重なお話をありがとうございました。山口さんの書籍をいろいろ読ませていただくと、よく「意味のある」とか「意味のない」というのが出てくると思うんです。先ほどの文脈とも近いんですけど、「意味がある」とか「ない」とかって、けっこう個人の好き嫌いになってくると思うんですね。

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