歴史上のリーダーは多くが暗殺されている

山口周氏:次に、(7つ目として)「嫌われることを恐れない」という話をぜひ、やっぱりとくに若い人たちにしたいですね。僕はリーダーシップワークショップで、よく「『リーダー』と聞いて、思い出す人は誰ですか?」って質問をします。

「歴史上の人物とかスポーツ選手、誰でもいいから挙げてください」と言うと、だいたい出るのは日本だとやっぱり坂本龍馬。あとはキング牧師。これはアメリカでやると必ず出ますね。

それからガンジー。あとはケネディ、イエス・キリスト、リンカーン、吉田松陰、ソクラテス、織田信長……さて、みなさん。これらの共通項は、何だかわかりますか?

参加者2:暗殺された。

山口:そうですね。「殺されて終わっている」ということですね。リーダーというと「愛される人」ということで、リーダーシップと「愛着」とか「尊敬」とかいうのは、非常にパッケージになって想起されるイメージだと思うんです。やっぱりアメリカ人にとって、未だにケネディって特殊な存在です。遠くを見るような目をして語る人が多いです。

坂本龍馬もそうですよね。日本人にとって、非常にシンボリック。あとはエルネスト・ゲバラ(チェ・ゲバラ)とかね。ああいう人もそうだと思うんですけれども、リーダーシップと聞いて思い出す人というので筆頭に挙がってくる人たちは、志半ばで殺されている。

殺されているわけですから当然、めちゃくちゃ憎まれていたってことですよね。それは、愛情だけじゃないということなんですね。何かを変革したとか、何か物事を変えようとしたときは、その人が受ける光と同じぐらいの闇も背負うことになります。

ポジションをとることは、味方と敵を作ること

僕は若い人たちに「ポジションをとれ」って言っています。そうすると、日本では当然、敵を作ることになります。当たり前ですけれどもね。だって、主張が逆になるわけですからね。

「みんなと仲良くしたいという保守的な考え方も大事だし、でも、リベラルな考え方もどっちもいいですよね」とか言っていると、そんなのは本当に「いい人」、というか「どうでもいい人」。そういう話になるわけです。

何かを変革しようと思ったら、必ず明暗のポジションを明確にとる必要があります。何かを強烈に肯定するということは、何かを強烈に否定するということになる。なので、その否定された側の人たちは当然、蛇蝎(だかつ)のように憎むわけですね。影響力が強ければ強いほどそうです。強いリーダーシップを発揮する人ほど最後は殺されているというのは、そういうことですよね。どうでもいい人は暗殺されないですからね。

『嫌われる勇気』という本がベストセラーになりましたけども、昭和的な「誰にでも愛される」というのは、調整役のリーダーとしてはいいんですけども、変革のリーダーシップはそういう人にはちょっととれないだろうなということが、この「嫌われる力」という話です。

パラレルキャリアは失敗できる確率を2倍に増やす

あとは(8つ目として)「失敗するなら若いうち」という話をしたいですね。これも例のキャリアの話、パラレルキャリアに関わる話です。僕が、パラレルキャリアがすごくいいと思っているのは、失敗できる確率が2倍に増えるからなんですね。

とくに日本の大企業は、若いときにあんまり失敗させてくれない。パラレルキャリアの中で何かに自分でトライして失敗するという経験を初めにやった人と、やらなかった人との間では、長い目で見るとものすごく大きな差が開いちゃうと思うんですね。

(スライドを指しながら)みなさん、これはご存知ですよね? (デービッド・)コルブの学習サイクルです。具体的な経験があって、それを内省して、内省から学んだことを自分なりにある種のルールとか自己流の学びにした上で、それを実際の活動に活かしていく。そういうことが行われて、初めて学習が進むわけですね。これがぐるっと1回転するときに、一皮むけるということが起こるわけです。

日本にとって、大変な問題が起こっていると思うのは、今の若い人が「作業」はたくさんできるけれど、自分の頭で考えて、自分でやってみてうまくいくとか失敗するという経験をなかなかできてないことなんですね。

端的に言うと、失敗しても上司の責任になるわけです。「『これをやれ』と言われてやったらコケました」となると、「上司が悪い」って話になって、自己反省の材料にならないわけです。

センスや直感力を鍛えるのは、若いころの経験量

自分で考えて、動いて、その結果、自分が想定したとおりになったからうまくいった。あるいは、失敗しちゃった。そういうときに初めて「なんで思ったとおりにならなかったんだろう?」ということが、経験として意味を持つわけです。日本の問題は、その経験をできる時期が、あまりにもキャリアの後半に来すぎているということです。

ジェフリー・イメルト(注:General Electric Companyの元CEO)は、34歳で役員になっています。30代前半で、10万人以上いる会社の「担当者」ではなく、役員として、自分の頭で考えてやって失敗する/うまくいくって経験をしているわけです。

「センスとスキル」というテーマでこの間、一橋大の楠木建先生と本を出したんですけども、あれはまさに「スキルをいくら鍛えても、やっぱり経営者は作れないんだ」「良いビジネスマンは、センスがすべてだ」という話なんですね。それで、「じゃあ、センスはどうやったら鍛えられるんですか?」って言うと、楠木先生は「あきらめが肝心です」ってすぐに言うんですね。

(会場笑)

「仕事ができる」とはどういうことか?

僕はもうちょっと粘って、やっぱり経験量だと思うんです。センスはいろいろな経験を踏むことによって高められて、それはやっぱりスキルで整理できないんです。全人格的に決めるということを何度もやっていかないと、「なんか嫌な予感がする」とか「これはいける気がする」という直感力は身につかないと思うんですね。ですから、若いときにやらなくちゃいけないと思っているんです。

失敗のコストとリターンで考えてみると、ファイナンスの理論としても、やっぱりこっちのほうが得だと思うんですね。若いときって学習能力がありますから、若いときに失敗すると失敗から得られる学びが大きくて、しかもその学びが活かせる時間が長いので、リターンとしてネット・プレゼント・バリュー(Net Present Value、正味現在価値)が大きいんですね。

日本企業の足腰が弱ってしまった要因

しかも若いときの失敗って、すぐ「若気の至り」とか言われて許されます。実際に若いときにできる失敗って、そんなに事業にもインパクト与えないですからね。実際のコストは小さいし、すぐ忘却されるわけです。ですから失敗がもたらすリターンとコストをファイナンスの枠組みで考えてみると、若いときの失敗ってすごくROI(Return On Investment、投資収益率)が大きいんですよ。

一方で年長時になると、学習能力は下がっている。しかも、50歳の人に学習させても10年ぐらいしか活きないわけですからね。

(会場笑)

会社にしてみると、リターンが小さいんです。しかも事業本部長とかで失敗すると、めちゃめちゃコストがでかいわけですね。(スライドを指しながら)地面に楔のように食い込んでいますけれども、基本的に立ち直れないです。それで、こういうときに失敗できないってなると、手堅く、手堅くってなっちゃって、事業は「縮小再生産」みたいなことになります。

若いときにいっぱい失敗しておくと、ある種の嗅覚とか直感力が身につくから、年を取ったときに大胆な決断ができる。今の日本企業の足腰の弱さは、若いときに失敗ができなかったというところから、もたらされています。

20代で会社に数億円の損失を出した人の“その後”

僕はいろいろなプロジェクトで顧客企業と付き合いましたけれども、ある消費財企業から呼ばれて「新商品とかイノベーションが起こらなくなった」「大ヒット商品が出なくなった」ということの背景についてリサーチをしたことがあるんです。2000年代までは10年に1回ぐらい、本当に100万ケース売るような大ヒット商品が出ていたけれど、ここのところ出なくなったということでした。

このプロジェクトは、昔の大ヒット商品を生み出した商品開発チームの人に、引退していた方も含めて再登場していただいて、どういうキャリアを歩んで、どこでどういう経験をしたかっていうのをぜんぶ棚卸しするという非常におもしろいものでした。

共通項は、20代で会社に数億円単位の損失を出していたこと。自分の頭で考えて「この商品は、売れるはずだ!」ってやってみたら大コケしているんですから、やっぱり、これは学びますよ。

もう本当に、「会社を辞めたほうがいいか……」とか、みんな七転八倒しながらやっていた。20代の後半から30代の後半までに、事業がうまくいかずに失敗したっていうのを、何度か経験しているんです。これはやっぱり、味わい深いリーダーができるんですよ。

今の「ヒット商品が出ない」って言っているチームに聞いてみると、だいたい30代の後半になっても「商品開発を丸々自分でやったことが1回もありません」って人ばっかりなんですね。これではやっぱり、会社としては足腰が弱くなっちゃいますよね。

ですから「いかに早い時期に良質な打席に立たせて、ちゃんと失敗をさせてあげられるか」っていうほうが人事側からも大事です。若い人からするとやっぱり、積極的に失敗をしていくっていうことがすごく重要だと思います。

イノベーションの価値が高い今は、失敗のコストが低い

こういうわかりやすい話に加えて、今はイノベーションがすごく大事になっていますよね? イノベーションがすごく大事になっている、つまり、イノベーションの価値がインフレしているんですね。みんなイノベーションをやろうとしているんですけれども、世の中にあんまりイノベーションって出てこないから、イノベーションの価値がインフレしている。

その一方で、本来は世の中の「失敗の数」が、めちゃくちゃ増えているはずなんですね。何かがインフレすると、必ず何かがデフレします。つまりイノベーションがインフレしているということは、失敗がデフレしているんですね。失敗のコストが今、どんどん下がっているということです。

例えば昔、昭和であれば、消費財で新商品を出そうと思ったら、開発に数億円かかって、新商品を売り始めるとなればテレビ広告をある程度やらないと流通に乗っからないですから「じゃあ20億円はかけて……」とか、新商品を出すのに軽く数十億円のお金はかかっちゃう世の中だったんです。

ですから新商品は失敗すると非常にコストが大きくて、「慎重に手堅く」てがけるものでした。先ほどのように消費者調査をがーっとやって(消費者のニーズを)精密にスキャンするというやり方が、ある種の「勝ちパターン」だったんです。

Amazonは「失敗大魔王」

世の中の変化と人間の考え方の変化で、どちらのほうが早いかというと、必ず世の中のほうが早く変わっていきます。人間の考え方のほうが、保守的なので遅いです。世の中が変わっていって、人間の心が変わらない。「優秀さの定義」も変わらない。

そうなっている今、「失敗の認識」が変わってきていると思っています。例えば今、新商品を出すときに、極論するとテレビ広告をまったくやらずに、口コミだけで出せるようになっているわけですね。

『FREE』や『MAKERS』などの著者、クリス・アンダーソン(注:3D Robotics社のCEO)が紹介した、「フリーミアム」(注:「フリー」と「プレミアム」の混成語。基本的なサービス・製品を無料で提供し、さらに高度な機能や特別な機能は料金を課金する仕組みのビジネスモデル)というビジネスモデルは有名ですが、いろいろなもののコストがゼロになってきている世の中なんです。

これが何を意味するかと言うと、「トライアルする」「実験する」「とりあえず始めてみる」ということのコストが、ものすごく下がっているということなんですね。慎重になることのメリットは、失敗を少なくすることです。ただ、失敗のコストがどんどん小さくなると、逆に慎重になること自体がコストになります。つまり、慎重になると「機会費用」が発生するわけですね。

「これは、ちょっとリスクがあるからやめておこう」と、もしやっていたらうまくいっていたかもわからないのに、慎重になったことで(収益を)得られなかった。こういうのを「機会費用」と言うわけですけども、「失敗のコスト」がどんどん下がっていて、「失敗のコスト」のほうが「機会費用」より小さくなっちゃっているんですよ。だからもうとにかく、やっちゃったほうがいい。

「やっちゃったほうがいい」っていうのを地で行っているのはAmazonで、あの会社は1997年に上場したんですけれども、70個の新規事業に手を出して、3分の1は1年以内に撤退しているんですね。要するにもう、失敗大魔王なんですよ。

「PDCA」は昭和の考え方、「不退転の決意」はヤバい

PDCAって言いますよね? 計画(Plan)して、Doして、Checkして、Actionする。PDCAっていうこと自体が昭和の考え方だと思います。世の中に合わせるならば、まずDoなんですね。Doする。それで、うまくいっているかどうかCheckする。本格的にうまくいきそうだってなると、計画(P)をちゃんと立てて、やる。「DCPA」みたいな感じですね。

ところがなかなか難しい。5年前に野村総合研究所が日本の大企業の経営者1,000人ぐらいにアンケートをとって、いろいろな調査を実施して、調査結果としては大変おもしろいんですけども、その中に「次の世代の経営者に求める資質は何か」っていう設問があるんですね。

1つ目。筆頭が「決断力」。これは、わからないでもない。2位が「創造性」だったんですね。これも、わからないでもない。それで3位がけっこうヤバくて、「不退転の決意」ってやつだったんですね(笑)。

(会場笑)

「不退転の決意でやれ」って言われたら、何も始められないですよね。だってVUCA(注:「変動性・不安定さ」という意味のVolatility、「不確実性・不確定さ」という意味のUncertainty、「複雑性」という意味のComplexity、「曖昧性・不明確さ」という意味のAmbiguityという4つのキーワードの頭文字から取った言葉)で、わからないんだからね。

(VUCAな時代なのに、経営者をやるにあたって)「不退転の決意なんだな?」なんて言われたら、「いや、だったらやれません」ということだと思うんですね(笑)。一方でAmazonを見てみると、「退転の決意はあるな?」って聞いているわけです。

(会場笑)

「退転の決意、あるよね?」「あります、うまくいかなかったらすぐ退転します」なんです。ジェフ・ベゾスの肝いりで、彼自身が「始めよう」と始めた、Amazonのスマートフォン。Amazon Fire Phoneっていうのを出したんですね。あれは、1年未満で撤退していますからね。日本だったら「社長が肝いりで始めたら10年はやめられねぇぞ」って、たぶん戦艦大和の沖縄特攻みたいな感じになったと思うんですけどもね。

この「失敗をどんどんする」っていうことも、今のワーキングスタイルです。働いている時間が限られている以上、「失敗する場をどれだけ増やせるか」「複数の仕事をいっぱいやって、たくさんの失敗ができるかどうか」は、その人の成長にとって、とても大きな要素です。そのためにも僕はやっぱりパラレルキャリア、兼業・副業は、失敗する場を増やすということですごく重要なポイントだなと思います。