プログラミング学習の入り口はどこでも大丈夫

落合渉悟氏(以下、落合):今挙がっている、「プログラミングと経済学のどちらに行くかで迷っている子」の質問に答えたいです。これはすごく悩むんですよね。僕も、物理学をやるか経済をやるか悩んだ口です。これは人生を左右するので……。

匿名の子だけど、もし実名を出せるなら手を挙げてもらっていいですか? ちゃんと答えたいなと。

(会場挙手)

川野洋平氏(以下、川野):お~。

落合:今、何年生ですか?

参加者2:中2です。

落合:中2。なるほどね。プログラミングはなんでしたいと思ってるの?

参加者2:親の影響。

落合:親御さんね。聞いておいてよかった。こういうの本当に大事だよね。

川野:そうだよね。

落合:プログラミングと経済で、どっちかというと経済は自分の気持ちに近いのかな?

まあ答えは出ちゃいましたね(笑)。僕も自分だったらと考えると、今なら経済をします。プログラミングは自分でできますからね。僕はプログラミングの大学に行っていないですから。

川野:そうですよね。これすごく重要な情報として、プログラミングを学ぶ大学や専門学校は実際あるんですけども、(活躍しているのは)そういうところを卒業した人ばかりじゃないです。

黒田直樹氏(以下、黒田):杉本と僕は情報系を卒業しましたが、別にプログラミングの勉強をずっとやっていたわけではなく、そこで実力がついたとは言えないですね。

川野:例えば、美容師になる場合、専門学校に通って勉強し、国家資格試験を受けて免許を取得しますよね。でもプログラマーは、別に免許は必要ないんですよね。会社を興すのも資格はいらない。

大学に行くなら「いい研究室」と「いい仲間」を重視しよう

落合:僕は、プログラミングも経済学も両方、独学で勉強したんです。それではなぜ大学に行くのかといえば、2つあると思っています。

1つは、いい研究室です。学部ではなく、研究室レベルで狙い撃ちにするべきですね。学部を選んだあとに研究室を選ぶというように、きちんと計算して選択するべきです。

家の都合などもあるでしょうから、自分の進路の選択肢ってあると思うんですよ。その選択肢の中で、経済学でもプログラミングでも、「この研究室に行けば、ピンポイントで僕が勉強できることがあるんだ」ということを、ちゃんと狙い澄ますこと。それがまずは大事だと、僕は今になって思います。

いい研究室があっても、成績優秀者しか選べなかったりする場合もあります。だからそこも考えてちゃんと選ばなきゃいけない。

いい研究室に入れば、ピンポイントで自分が実現したい世界に直結する。世界最高の知識が手に入るわけです。これは独学より確実で、スピードが速いです。大学はそのために行くものと思えばいいです。

もう1つの理由は、やはり大学の仲間ですね。人間は環境によって変化する生き物です。例えば、スタンフォード監獄実験という実験があります。『es』という映画になっているので、ご存じの方も多いかもしれません。「10万円あげるから」と言って一般人を集めて、2週間くらい看守と囚人の役にして演技をさせる実験をします。

そうすると、看守は本当に看守らしく、警棒で殴ったり、拷問などをしだした。囚人も囚人らしくビクビクしてしまい、その実験で1人死んでしまったんですよ。これは「役割理論」という心理学のような話です。

やはり環境によって、人間は考え方・態度・性格・言葉すべてが変わります。よりよい環境を選んで、あとは自分で決めるのがいいです。「自分で決めたんだ」と言い切れるくらい考え抜けば、それが正解だと思います。

杉本至氏(以下、杉本):僕は、基礎知識は大学で学びました。プログラミングの知識は、卒業しても学べると思います。それは自分のやる気次第です。プログラミングでなくても、どんな学習でも同じです。自分が進路に迷ったときは、そのときにやりたいほうに行くのが一番いいかなと思います。

私は大学に入って、のほほんとしていたから、ただの学歴になってしまいました。みなさんはそうならないように、どの学部を選択してもそこで勉強するということが大事です。そのために、興味がある分野のほうがいいかなと思います。

川野:なるほど。ありがとうございます。

エンジニアが高い給料を稼げる理由

杉本:あ、女性エンジニアについての質問に回答させてください。僕は妻がエンジニアなんです。子どもが2人いて、今は時短で、夕方まで働いています。

IT系の仕事は、リモートワークができるんですよ。だから子どもがちょっと熱を出して、幼稚園に預けられなくて出社が難しい場合、リモートで対応することができる。

そのため、エンジニアは女性にも向いている仕事です。女性が率先して就く職業になるのではと思います。

川野:そうですよね。自宅で仕事をしている方はすごくたくさんいらっしゃいます。

そして、「文系でもエンジニアになれますか?」これもぜんぜん大丈夫ですよね。お、「エンジニアは稼げる?」。そろそろ眠くなってきたので、ちょっと金の話をしますか? 

落合:僕の給料は、役員報酬として自分で設定しています。ただし会社の業績が落ちたら、もちろん給料は下がります。

金額の根拠としては、僕の会社は本当に世界一の研究者を入れないと、仕組みとしてやっていけない会社だと思っているからです。海外では日本よりも物価が高い国もあり、例えばアメリカの西海岸などは家賃も給料も高いです。それを考慮して、彼らと同じ給与水準になるべく近づけないと、世界一のエンジニアを雇えないんです。

また、日本にオフィスを構える意味もない。オフィスを構えるコストもすべて人件費にして、みんなの給料を高める方向にしています。

黒田:エンジニアは稼げると思います。例えばFacebook、Google、Microsoftといったアメリカの有名IT企業のエンジニアは、今2,000万、3,000万という年収を稼いでいるんですよね。

その理由は、エンジニア1人あたりの生産性です。例えばFacebookのエンジニア。Facebookって世界に10億人ユーザーがいるんです。1人のエンジニアが10億人が使うプログラムを書いたら、それはものすごい生産性ですよね。

だから彼は高い給料をもらえるんです。アメリカ企業の例を挙げましたが、エンジニアは日本でも稼げると思います!

「挫折」と「失敗」は根本的に意味が違う

川野:落合君は、アカデミックなところをすごく重要視されているなと僕は思いました。やっぱり大学の勉強は楽しかったですか?

落合:僕は、大学に入ってから数学が楽しくなりました。高校までの数学って、頭を使うよりも早く計算をするほうが多くて、がんばって点数は取るけど、行き詰まりを感じていたんです。でも大学で学んだ数学は、本当に脳みそを絞って考えていました。

時間をたくさん使って、「なぜそうなるんだろう」と文献をたくさん辿っていって、答えを探している感じでした。大学の勉強のほうが、本当に脳みそを使っているなという感じがして、楽しかったです。

人を教育するのは、すごくお金がかかるんです。どうしてもコストの関係で、今の受験勉強とか学校の教育というのは、ある程度、型にはめざるを得ない。でも、その型が外れたのが大学だと思います。そのため、勉強の真の姿が見られておもしろいと思えるのは、大学からかもしれません。

川野:どうですか。仕事って楽しいですか?

杉本:私は非常に楽しいです。つらいことも、もちろんあります。わからないとか、それこそプログラミングが間違っていたら、すごく責任を感じます。本当は明日までに終わらせたいものが、終わらなかったりもします。でもやっぱり、それを乗り越えていくのは楽しいですね。

川野:「学校の課題研究がぜんぜんうまくいかなくて、挫折しています。自分のやりたいことがうまくできないとき、次にどんなことをしますか?」。いい質問。

杉本:僕は挫折したら、なるべく挫折したことを自覚して、すぐ立ち直るようにしてます。挫折することのほうが多いので、ずっとクヨクヨしないのが大事かなと思います。

落合:「研究が挫折する」と「研究が失敗する」って、意味が違うんですよ。研究は“科学”ですから、最初に仮説があります。仮説があって研究をする人は、「この実験をしたらこの結果が得られるだろう」と予想しているんですよ。

だから“失敗”が意味するところは、ただ「データが取れた」ことを指します。「この仮説はダメなんだ。じゃあ次はもう1回別の実験をしよう。成功するかもしれないし、予想が当たるかもしれないし、外れるかもしれない」。それはただのプロセスですね。

一方、挫折というのは、その科学のプロセスをまだ把握できていないから、失敗を自分の個人的な問題として置き換えてしまっている状態だと僕は思うんです。だから、ちゃんと科学のプロセスを認識すると、研究に挫折というものは基本的にないです。

「ハック」の本質を追い求める時代になっていく

川野:ありがとうございます。それでは、そろそろ締めようかなと思います。最後に一言ずついただけますか?

杉本:僕はプログラミングが好きで始めたので、今もやっていて楽しいと思っています。もしこの座談会を通じてみなさんがプログラミングを楽しいなって思えたらそれはいいと思いますし、違うことをしたいなと思ったら、それもそれでいいと思います。

違うことをしたときに、プログラミングをやった経験を活かせると思います。今回のイベントは、親に「行け」と言われて来た子もいらっしゃるかと思うんですけれども、せっかく来たのなら、楽しんで帰っていただけたらと思います。以上です。ありがとうございます。

黒田:僕は先ほど、「ぜひ好きな仕事を見つけてほしい」と言いました。今回のイベントで、エンジニアという仕事について興味を持ってくれたら嬉しいです。そしてエンジニアという職は、これから間違いなく有望だと思っています。ぜひこの中から、エンジニア志望の子が何人か出てくれたらいいなと思っています。ありがとうございました。

落合:好きなご飯を聞かれたときに「カレーが好き」とか「ハンバーグが好き」と答えるけど、幼稚園生が「アジの西京焼きが好きです」とか言わないじゃないですか。やっぱり知っている食べ物の数によって、答えはどんどん解像度が上がり、細かく答えることができると思います。

「プログラミングがしたい」というのは、まだカレーライスの段階だと思います。本当にしなきゃいけないこと、考えなきゃいけないことって、“ハック”をする。ハックってハッキングから来ているのですが、本当の意味では「うまくやる」という意味があるんですね。

「ハックをする」ということを、たぶん本質的にはみんな求めていくのかなと思っています。自分に向いている、楽しいということがプログラミングじゃなかったとしても、まずはプログラミングを使わないハックもあるし、それにプログラミングを組み合わせればもっとハックできる。今の若い子たちには、その順番が大事なのかもしれないなと僕は思っています。

川野:ありがとうございます。

今回の座談会でなにかプログラミングのことをわかってもらうというよりも、プログラマーとして働いている人たちがどう考えているのかを知ってもらえればと思います。

仕事って大変そうなイメージがあるかもしれないし、もしかしたらすごく楽しそうって思っている方もいらっしゃるかもしれません。働く人にもいろんな人がいるんだよ、と知ってもらいたいですね。

そもそもこんなカジュアルな格好で仕事してたりね。お父さんもお母さんも、仕事の時はもっときちんとした服を着ているんじゃないかと思います(笑)。

世の中にはいろんな仕事があって、その中の1つにプログラミングというものがあるので、ぜひこのイベントでなにかを感じ取って、持ち帰ってもらえたらなと思っています。今回は本当にありがとうございました!

(会場拍手)