二兎を追って二兎を得られる世の中を創る

司会者:最後にですね、株式会社へアーズの西村さん、よろしくお願いします。

西村創一朗(以下、西村):みなさん、こんばんは。3本目(のセッション)ということで疲れていると思うんですが、リラックスして聞いていただければと思います。

今までの2人はどちらかというとかなり具体的な話で、僕も非常に参考になりました。「順番が逆だろ」と思いながらも、俯瞰した総論の話ができればと思っています。『「大複業時代」に考える、「複業採用」ありきの人材戦略』というテーマでお話をします。

まず簡単に自己紹介をさせていただきます。僕は新卒でリクルートキャリアに入社しまして、そこで、はじめにお話をされていた西島悠蔵さん(ベルフェイス株式会社 コーポレート事業部 人事・広報リーダー)と同じチームで働いていました。

実は、彼がANAからリクルートに転職してきたときの一番最初の営業同行が、僕の担当する企業だったんですよ。そのときに「転職はどちらからですか?」と聞いたら、「パイロットをしていました」と言われたので、「あなた、転職先を間違えましたよ」と。

(会場笑)

「なんでパイロットを辞めちゃったんですか?」とお話したのをすごく覚えています。

僕はその後、営業をやりながら自分自身で副業をはじめました。最初は個人事業主としてやっていたんですが、そのまま会社を設立して。そのときはまだリクルートキャリアに勤めながら経営者としても働いていました。その後に独立をして、今に至ります。

今はさまざまな活動をしているんですけれども、「どんなことで飯を食っていますか」ということでいうと、採用領域を中心としたフリーランサーとして、いろんな企業の採用や人事戦略・働き方改革の支援をしています。「複業研究家」という軸での活動です。

会社としては、「二兎を追って二兎を得られる世の中を創る」をビジョンに掲げ、(英語で)ウサギの複数形の「hares」という社名でやっています。

働き方改革の専門家として、NHKの『クローズアップ現代+』や『news zero』などにも出演させていただいております。政府、経産省の兼業・副業に関する研究会の委員としても活動しておりました。去年、複業研究家の集大成として『複業の教科書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)という本を出版させていただいて、今も数多くの方に手に取っていただいています。

2019年は副業ビッグバンの時代

それでは本編に入っていきます。2019年は「副業ビッグバン」と勝手に呼んでいます。今年の1月から「2019年は副業解禁のビッグバンが起きますよ」と勝手に言い続けてきたんですが、実は去年の1月に「モデル就業規則」が改訂されたんです。「モデル就業規則」と聞いて「わかるよ」という方は、どれぐらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

たぶん人事の専門家以外は知らない言葉だと思います。どの会社も就業規則がありますよね。会社で働くうえでのルール、憲法みたいなものです。

これは、すべての会社が手作業でゼロから作っているわけではありません。厚生労働省、旧労働省が、「このテンプレートで就業規則を作ればだいたいOK」というひな形を作った。それが「モデル就業規則」なんです。

そこには「原則、会社の許可なく副業をしてはいけません」と示されていて、多くの日本企業が「モデル就業規則にテンプレートに禁止と書いてあるから、以上」、半ばノーロジックで副業禁止してしまっていたんですよね。

「それじゃいけないよね」となり、副業解禁の議論が進む中、去年の1月にモデル就業規則が原則副業OKに変わりました。加えて会社が副業解禁するときに、どういうステップを経て、何を考えて副業解禁すればいいのか、従業員の副業をどう認めればいいのかを示した、兼業副業のガイドラインが出ました。それが去年の1月の話です。

とくに大手企業が副業解禁を検討するには、半年から1年はかかります。2018年に副業がOKになって、検討期間を設けた。そして実際に解禁されていくのが2019年ですね。これは去年に(『複業の教科書』を)出版したときのデータなんですが、僕の前職のリクルートのようなIT系の会社が、比較的副業を認めていました。

みずほ銀行で副業解禁 8割もの会社が前向きに検討

IT業界のみならず、銀行業界だと新生銀行がいち早く副業解禁したり、メーカー系だとロート製薬さんとユニ・チャームさんが副業解禁を進めたりと、名だたる上場企業が取り入れはじめました。3年前まで、もともと副業OKな会社は全体の1割しかなく、副業禁止の会社が全体の9割にのぼっていました。しかしたった3年で、副業禁止の会社が2割減ってOKの会社が3割まで増えました。

わずか3年で副業OKの会社の割合が2倍に増えているんですね。2019年に公表されたデータでは、なんと2019年には副業OKの会社が5割まで増えているんですね。さらに、副業を認めない会社は2割ぐらいしかない。

「副業に関心はある」、もしくは「検討しています」(という会社)まで含めると、8割もの会社は副業解禁に前向きだと言えるんですね。そんな中、ついにメガバンクの一つであるみずほ銀行までが副業を解禁しました。大きなニュースになったと思います。

メガバンクが変われば日本が変わると言われているので、「みずほ銀行ですら副業OKなのに、うちは副業禁止にするんですか?」という議論がすでに、名だたる大手企業の間で巻き起こっています。

今年と来年でさらに副業解禁が進むのではないかなと思います。僕がへアーズを設立した2015年は、たった1割しか副業OKの会社がありませんでした。そのときに「2020年までに、上場企業における副業解禁率100%を目指す」と言っていたんですが、あながち不可能ではないところまで来ているのかなと思ってます。

「猫の手も借りたい」から「象の指を借りられる」時代へ

個人の場合を見ていきましょう。去年のエン・ジャパンさんのデータですが、副業に興味がある人は88%。この数値は(調査元によって)上振れたり下振れたりするんですが、約9割の人が副業に興味あると回答しています。ただし実際に副業の経験がある人は、ポイントサイトなど副業と呼べるのか微妙なものも含めると、たった3割しかいない。ものすごくギャップがあるんですね。

副業したい人はこれだけいるから、供給サイドのほうが多い。(一方、副業を認める会社が少ないため)需給バランスが崩れていて、供給過多が起きている状態なんですね。値崩れが起こっている。

さらに「サブの副業とパラレル副業は違う」とよく話をするんです。サブの副業が単なるお小遣い稼ぎであるのに対して、パラレル副業・複数の副業は、自己成長と他社貢献(が目的です)。金銭的な報酬はもちろん大事ではありますが、優秀な人ほどやりがいとか、成長実感などを求めるんですね。

その結果、副業人材の活用が採用手法の一つになっています。年収1,000万円クラスの人材や業界・分野の超スペシャリストに業務をお願いしたら、本来であれば高くつくはずなのに、副業であるがゆえに信じられないコストパフォーマンスで業務を請け負ってくれる。これが複業採用のおもしろいところなんですね。

これが5年、10年経ったら、さっきの需給バランスがある程度緩和されてきて、需要のほうが追いついてくると、また値段・価格も変わってきたりすると思います。今ならば非常にコストパフォーマンスが高い人材が活用できる。それが複業採用と思っていただけるといいと思います。

最後に、僕がタレント社員というかたちでやっていたランサーズでちょうど話題になったキャンペーンについてお話します。

「採用をやめよう」と言っていますが、フリーランスの活用や副業人材の活用なども含めて、フルタイムで働く正社員を採用することありきで考えないほうがいいと思います。“象の指を借りる”という発想が重要だと思います。

ジュニアな猫の手を借りることも大事なんですが、力のある象の指を借りる。こういう発想が非常に重要なのだと思います。僕からの総論編は以上です。ありがとうございます。

(会場拍手)

関係性構築と期待調整がカギを握る

司会者:ありがとうございます。みなさん(質問をネット上で)投稿しながら、10分ほど質問とディスカッションできればと思います。

西村:はい。よろしくお願いします。

司会者:これはプレゼン(の内容)とはまた違う質問だと思いますが、「HRマーケターやタレント社員としての側面があったり、事業責任者もやっていたり、いろんな会社でパフォーマンスされています。とくに副業社員とうまくいってる会社や、フリーランスとやり取りがうまくいってる会社がそうできる理由をおうかがいしたい」という質問です。

西村:僕自身、副業で自分の会社をやっていて、へアーズの社員は僕一人だけなんです。正確には僕の妻だけなんですけど。でも副業で業務に関わってくれている人が100人以上もいます。(僕は)副業社員に発注する立場でもあり、副業として関わる立場でもあるんです。

重要なのは、関係性構築と期待値調整と思っていて。先ほどのお話で非常にユニークだったのが、「必ずキックオフミーティングをオンラインでもいいから対面でやる」こと。これがあるかないかで雲泥の差が生まれるんですよね。オンラインの発注となると、テキストベースのコミュニケーションになりがちです。それだけだと関係性は作られない。

人と人との繋がりができてない状態で始めると、お互いにトーンダウンしてしまうんですね。熱量が低いから、優先度が下がってしまう。オンラインでもいいので対面ですることで関係性構築ができて熱量が高まります。僕もオンラインアシスタントを入れていたりするんですが、初回のキックオフは必ずオンラインで対面で行っていますし、定期的に1on1はやるようにしていますね。

関係性はパフォーマンスに大きく影響するので、社員だろうと業務委託だろうと変わらないと思うんですよね。関係構築はすごく重要視しています。

司会者:キックオフもするんですね。

西村:よくしていますね。

司会者:西島さんと通じるところがあるかもしれないんですが、1on1や「Skype」で顔を合わせて、熱量を保つために定期的にミーティングをしている?

西村:そうですね。1on1でしっかり期待値調整をやることですね。「あなたには何を期待していて、何をお願いしたいのか?」と核論までしっかりと詰める。そうやってPDCAを回しながらやっていきます。僕自身も業務委託で受けるときに「定期的に確認させてください」と要望するようにしています。「今回やる期待は、ここで合ってますよね?」と。それに関わる指標としてOKRを必ず確認するようにしていますね。

司会者:自分でお仕事を受けるときもOKRを設定して、自分で評価をやっていく?

西村:そうです。かなり綿密にやっていますね。

司会者:社員の方と同じようにマネジメントをしていって、ちゃんと熱量を上げて期待値を調整していきたいと?

西村:そうですね。

西村氏の考える、いいチームの条件とは

司会者:あと西村さんはいろんな会社さんと仕事をしていると思うんです。その経験の中で「これはいいチームだな」と思ったことはあるんですか?

西村:いいチーム(の条件)は明確にあって、多様性だと思っています。さきほど講演された高澤真之介さん(エン・ジャパン 株式会社 pastureチーム 事業ディレクター)のチームも、「4割が外部の方です」という話がありましたが、(チームメンバーの)写真にも多様性がすごく出ていたと思います。社員100%のチームは多様性の出し方が難しいと思うんですよね。その会社のカルチャーに合う人を採っているので、良くも悪くもモノカルチャーになってしまいます。

そうではなくて(特定の分野の)スペシャリストを寄せ集めた集団には、結果的にカルチャーとはぜんぜん違う人がいたりするから多様性が生まれるんですよね。そうすると、社員だけではなかったような視点が生まれる。(個性は)違うんだけど、お互いの違いを尊重し合えているチームが、すごくいいチームだと思います。

司会者:いいチームは、多様性があるチーム。

西村:そう思いますね。

司会者:その論理でいくと、副業社員をアサインしていくと多様性が広がるので、いいチーム作りのきっかけになるかもしれないですね。ありがとうございます。

「御恩と奉公」が瓦解 昭和のパラダイムからの脱却を

司会者今、かなり質問がバズっている。

西村:質問がバズっている(笑)。なかなかのパワーワードですね。

司会者:西村さんには複業研究家という肩書があります。日本で副業が解禁されないのは、どういう理由なのかお聞きしたいです。解禁をする会社、しない会社の本音を教えてください。

西村:なぜ日本は副業禁止だったのかというと、「御恩と奉公の関係性があったからだ」だと(僕は)言っています。戦後の高度経済成長期は「選択と集中」だったので、(労働力が)いろんなところに分散されては(企業側は)困るわけですよ。「男は仕事、女は家庭」のような性別役割分業をして、男は脇目も振らずに働かせる。その分家庭は専業主婦でサポートする。

長時間労働・単身赴任・副業禁止を3種の神器と言うんですけど、これによって個人が自分の自由を捨てて、会社に人生をオールインしてすべてを預ける。その代わり、終身雇用・年功賃金が保証されます。こういう御恩と奉公ではある意味、幸せなギブアンドテイクが成り立っていましたが、もはやその御恩はなくなってしまったわけですね。どんな会社でも終身雇用を保証できない中で、「御恩がないのに奉公するのか」と。

電通事件が起きたことで長時間労働の見直しが進んでいて、法律も施行されました。それと同じように、「副業禁止は昭和のパラダイムだよね」と見直されている背景もあります。そのうえで、優秀な人を採用したり、(社員が)働き続けてもらったりするためには、副業を解禁しないと耐えられなくなってきたというのが、解禁に取り組みはじめた企業の本心なんです。

副業禁止の三大理由は、妄想の産物

優秀な人を採用したいと思ったときに「実は僕、個人でこういう事業をやっていて、副業がOKじゃないとそもそも厳しいんですよね」と言われ、副業を解禁した会社はたくさんあります。社員から「辞めようと思ってるんです」「わかった。副業解禁するから辞めないで」と。

それが一番の(企業が副業解禁に踏み出す)理由ですね。「副業解禁してイノベーションを」と言っていますけど、それは美辞麗句に過ぎない。副業解禁しただけでイノベーションが起こったら苦労しないですからね。

司会者:今日(イベントに登壇している)お三方全員が副業されていますよね。(副業を解禁)しないということは、このお三方は採用できないし、もし優秀な方で副業している方がいたら、副業OKにしないと辞めてしまうということですね。副業解禁しない会社の本音や、しない会社が恐れていることはなんですか?

西村:副業を禁止してる会社に「なぜ禁止してるんですか?」とたずねたアンケートに明確な答えがありました。「労働時間管理ができなくなる」「情報漏洩をしてしまうのではないか」「辞めてしまうのではないか」という三大理由があるんです。でも全部妄想であり幻想なんですよ。

僕は開国前夜の江戸幕府状態と呼んでいます。「日本は開国したら(外国から)侵略されてしまうんじゃないか」と言われていましたが、いざ開国すると文明開化が起きました。副業を解禁しても、ビビるぐらいなにも起きないんですよ。でもやったことがないからわからない、わからないから不安になる、不安だからやらない、となります。

労働時間も情報漏洩も全部、就業規則や副業のガイドラインによって(防げる)。明らかに副業によって健康に支障をきたしてる場合は、いつでも止められるようにしましょうとか(で対応できる)。副業をしていようがしてなかろうが、会社の守秘義務に違反したら労働契約法違反です。そのことをちゃんと周知させられれば、解消できる問題なんですよね。

3番目の「辞めてしまうのではないか」に関してはまったく逆で、副業解禁した会社のほうが離職率が下がっている傾向もあります。すべて幻想ですね。

司会者:先ほどのやりがいを求める人材が(副業を)やるというところと関係しますもんね。

西村:むしろ副業をやっている社員のほうが、モチベーションが高くなります。

司会者:著書にもいろいろ書いてあることが(語られました)。みなさんも読んでいただければと思ういます。

西村:そうですね。

アウトソースは小さくはじめよう

司会者:最後にフリーランス登用の話をお願いします。フリーランスの方はたくさん仕事をされていると思うんですが、その中でフリーランス雇用に慣れていない企業が最初にやるべきことはどういうことですか?

西村:何事もそうですけど、リーンに始めるのがすごく大事かなと思っていて。この間、ランサーズ主催のオープンタレントサミットに登壇しました。そのときにJリーグデジタルさんとJCBさんの対談をさせていただいたんですね。JCBというとアウトソーシング文化がまったくなくて、アウトソーシング2.0どころか0.0のような会社だったらしいんですよ。どうやってアウトソースしたかというと、まずは小さくはじめた。

JCBには「QUICPay」があるじゃないですか。「QUICPay」のシールを店頭に貼る。そのシールを貼る業務をアウトソースしたところからはじめたとおっしゃってました。

司会者:だいぶ小さい。

西村:めちゃめちゃ小さいじゃないですか。くだらないかもしれないですが、アウトソースしたことによって人件費も削減でき、「QUICPay」の利用率がかなり上がったんだそうです。この事例が生まれると「アウトソースっていいじゃん」となるので、まずは小さくはじめてみるのがポイントかもしれないですね。

司会者:みなさんにすぐお持ち帰りいただけるんじゃないかと思います。小さく切り分けて事例にしていく。わかりました。ありがとうございます。

西村:そうです、はい。

司会者:西村さん、ありがとうございました。

(会場拍手)