「意味」をロジックで解析することはできない

山口周氏:ここで非常に悩ましいのが、「役に立つ・立たない」っていうのは、ロジカルに解析できるということ。こういう機能をここまで伸ばせば役に立つ、というのがわかります。

まさに、先ほどの携帯電話と同じです。画素数をここからここまで増やそうとか、通信速度をここからここまで増やそうとか、そういったことをやるときには、「役に立つ」を数値化して目標を決めればマネージが可能です。サイエンスとロジックでマネージができます。でも、意味をロジックで解析できるかっていうと、できるわけがないですよね。

ですから、組織能力として「どうやって意味を作っていくのか」っていうのは、すごく大きな競争力になる。意味の競争ですね。役に立つ・利便性の競争から、意味の競争優位っていうものにシフトしていったときに、じゃあその意味の競争優位を作れる人材あるいは組織というものを、どう育てていくかっていうのが大きなチャレンジになってくるだろうなと思います。

そして3つ目の話ですが、市場の構造が変わってくると思うんです。「限界費用ゼロ社会」っていうのをJeremy Rifkinが3年前ぐらいに言ってて、これまで莫大なコストをかけないとできなかったことが、費用ゼロでできるようになってきてると。費用ゼロでできるようになってきたことで、スケールメリットが消失してるっていうことを言っています。

これはもう本当にそのとおりで、すでに顕在化してる変化だと思います。これまで多くの日本の企業は、日本という市場に安住してきました。1億2000万人もの人がいるから、それなりに市場もデカかったわけです。

で、ここでメジャーのシェアを取ろう、50パーセントのシェア取ろうよ、ということでやってきたのが、例えば花王とかパナソニックさんといった会社ですね。

日本の市場はマーケットインでもプロダクトアウトでもない

モノを売ろうとすると、広告代理店に頼まないといけない。そこで広告代理店にある程度頼んで……私の感覚からすると、「日本の人たち全体がなんとなく知ってる」っていう状態を作ろうと思うと、ざっと100億円かかるんですね。新商品を全国的に売り出しますよ、ということで全国的な認知度80パーセントぐらいを取ろうとすると、ざっと100億ぐらいかかります。

100億かけるってなると、当然その100億を売上から回収しないといけない。例えば粗利が100億が少なくともあるっていう状態にしようとすると、利益率10パーセントで、売上高は1,000億円必要ですよね。

売上高1,000億円の事業を作ろうと思ったら、さすがに市場調査をやって、「これどれぐらい買ってくれるかな」っていうことをやらないと製品開発はできません。ですから、まぁ仕方なく消費者調査やって、市場が好んでくれそうな製品を作る、っていうやり方になっちゃうんですけども。

ちなみにちょっと余談ですけれども、マーケティングの用語で「マーケットイン」と「プロダクトアウト」ってよく言われますよね。マーケットインというのは、マーケット側が好んでくれそうなものをちゃんと調べて作ろうよ、っていう考え方です。マーケットから入ってくる。プロダクトアウトっていうのは、自分たちの作りたいものを勝手に作って、世の中に押し出していく。その二つの考え方があるわけですけども。

どっちが良いか悪いかってよく議論になるんですけど、私はどっちでもないのが今の日本の状況だと思ってるんですね。それは何かっていうと、先ほどのテレビ広告やるためには100億必要だ、粗利で100億円が必要なので、売上高が1,000億円は必要だ、1,000億円必要だってことは、これぐらいの人に買ってもらえるものじゃないといけないから、こういうものを作らないといけない、と。

あるいは、モノをたくさん買ってもらおうと思ったら大手の流通に売らないといけない、大手の流通に送ってもらうんだとするとこれぐらいの大きさの棚に入らないといけない。で、こういうポップをやらないといけない、となります。

これ何を言ってるかっていうと、マーケットインでもプロダクトアウトでもなくって、「広告の枠組みがこうなってるから」とか「流通の売る枠組みがこうなってるから」、「こういうものを作らなくちゃいけない」ってなっているということです。

要するに、流通とかメディアのあり方が「どういうモノを作って売るか」という戦略まで規定しちゃってる状態なんです。ですからマーケットインでもプロダクトアウトでもなくて、メディアアウトなんですよ。メディアのあり方がどういうモノを作るかっていうのを規定してる、っていうことなんです。

家電業界の成熟神話を乗り越えたバルミューダの戦略

そういうことなので、50パーセントの人に買ってもらおうと思うと、こうやってメジャー市場を狙っていかなくちゃいけない。一方で自分たちはニッチ市場でいいよ、っていう人は5パーセントの市場を狙って、自分たちの作りたいものを思いっきり尖らせて作っていった、という構造になるわけです。

わかりやすい例でいうと、バルミューダをみなさんはご存知ですかね。トースターで一世を風靡した会社です。まさにそのバルミューダは、値段がふつうのトースターの10倍はするわけです。一番安いトースターって2,000円で買えますが、20,000円のトースターを売り出して、本当に「買ってくれる人だけ買ってくれればいい」というので、ニッチとメジャーで棲み分けるっていう構造になってたわけです。

今何が起こってるかっていうと、ここにグローバル化の障壁、要するに国ごとの障壁がなくなることで、グローバル市場っていうものが12億人の先進国としてマーケットで出てきます。先進国以外のものも含めれば、70億人のマーケットがあるわけですね。

先進国の人たちは経済的に似たような水準にありますから、尖りのあるものが出てくると、他国のものでもほしくなって買ってくれるわけです。昔であれば広告代理店に頼まないと知らせてくれない、あるいは商社に知らせないと売ってくれないという状況でしたが、今は3,000万人の方たちが外国からやって来て、日本で良いもの見つけるとバンバンSNSとかInstagramで知らせてくれるわけですね。

結果的にどういうことが起こってるかっていうと、外国の人たちがそのニッチな尖った商品を「ほしい」って言いはじめて、買ってくれる状況ができてます。バルミューダって、ここ10年で売上高が1,000パーセント伸びてるんです。1,000パーセントですよ?

家電産業とか家電市場って、成熟産業でもう市場が伸びないってずっと言われてて、実際にパナソニックさんの家電事業っていうのはほとんど成長していません。なので、関係者の人たちは「成熟してる」「市場は伸びない」と言ってますが、そんなことないんですよ。成熟して伸びてないのはお宅の会社でしょ、っていう話なんです(笑)。

一番おいしいのは「グローバルニッチ」

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