プレスリリースは基本的に読まない

椋田亜砂美氏(以下、椋田):逆に「企画書どうですか?」って、もらうこともあったりするんですか?

原田大輔氏(以下、原田):ありますよ。けど、そういう場合はだいたい通らないというか。見もしないというか。

(会場笑)

椋田:どういうもの(企画書を)……1枚とかですか?

原田:1枚で「取材先もスタンバってます!」みたいな……。こっちは引くっていう(笑)。そういうのがあるんですよね。

(会場笑)

原田:たぶん(企画書には)2つあって。プレスリリースみたいなもので、僕らディレクターに取り上げてほしいっていう企画書なのか、もしくは自分たちで会社として企画書を書いて放送局に売り込む、そこで番組を持つっていう2つがあると思うんですけど。

放送局に売り込むのは、特にフォーマットとかないので。それこそ民放だったら金積めば。

椋田:まあ、そうですよね。お金積む方法ですよね。

原田:僕はプレスリリースをまともに読んだためしないんですよね。それよりも読むべきものがたくさんあるので。

それでもういっぱいいっぱいだから、プレスリリースを見ても何も感じない。たぶんみなさんは一生懸命書いてるんだと思うんですけど、残念ながら読んでない。

椋田:テレビのために書いてるかどうかは怪しいとは思いますけどね。

原田:うん、そう。それよりかは、例えば椋田さんが「こんなのありますよ」って投げてくれてるほうが、何となく直感で。

やっぱり人づてでくるほうが椋田さんの顔がポッと浮かんで「こういう意図だからこういうのが取り上げられるっていうような発想してるのかな?」とか想像できるんですよね。「だったらこれ、やり方ないだろうか?」とか。

結局人と人との仕事なので、紙1枚で何とかしようとされても僕らには全然響かない。

広報には番組と人の見極めが必要

久保田直彦氏(以下、久保田):いや、そういうので響く場合もあります(笑)。例えばMXだと、23区の行政の情報とか市政の情報もFAXで送られてきてる。

それを明日のニュース、明後日のニュースを決めるデスクがバーッと目を通して、候補、ボツっていうのを分けて、その候補の中から明日のニュースの取材スケジュールを組むというようなことをやっているので。

その中には、企業さんの新商品発表会とか、新製品、新技術の発表会とか。そこにタレントの誰々が来ますなんていうと「これ他局も来るんだろうな」と思いながら……そんなことも選ぶことの1つになってたりもしますけどね。

原田:そうそう。だからそこで、その番組とかディレクターが一次情報を扱う番組・人なのか。そうじゃなくて、一次情報を受けてそこから広げる番組・人なのか。実はそういうところに分けられる。

椋田:それはそうでしょうね。見極めるのってその番組をちゃんと研究していないとできないですよね。

原田:そうそう。見ておいたほうがいい。

例えばNHKでいうと『おはよう日本』かな? 新商品コーナーありましたよね? 『まちかど情報局』とか『ワールドビジネスサテライト』のトレたまみたいなやつは、いわば商品リリースとか一次情報ですし。

当然ニュース番組の中には、「今日こんなイベントがありました」みたいなものが一次情報に上がる場合もあるので、自分たちが一次情報を取り上げて欲しい場合はそれ。

椋田:そういうところ。

原田:ただし、ディレクターが、このひとつの現象を、何とか1パーセントでも視聴率を上げるためにクリエイティブなことをするかっていうと(そうではなくて)、一次情報として出すところで終わりなんで。どっちを目指すかというのは、みなさんの考え方とかで。

久保田:あとはニュースとか、普通の制作番組であれば、週に1回ぐらいの制作会議まで「こんなネタがあるぞ」とか「こういうことをやろうと思うよ」とかっていう。

会の始めには「昨日の番組の視聴率だけど」とかって分計を見せられて、誰の担当のところで下がった、上がったって一喜一憂してますけれども(笑)。

(会場笑)

久保田:上がると「尺を伸ばそうか?」みたいな、そんなのもあったりもしますけど。そういう場合はそのいろんな情報を、実際に取材してみたり、足を運んで見たりしながら会議にかけて、「どういう切り口にしていけばいいのか?」っていうのをみんなで考える番組もありますし。

今言ったような「どういう番組なのか?」っていう性格で絶対変わってくると思いますね。

椋田:それによってもちろん企画書、ストーリーづくりもガラッと変わるっていうことですよね。

久保田:地方のローカル局だと「今日、どこどこの病院で誰々の2番目の赤ちゃんが生まれました」とかそういうニュースをやってるようなテレビ局もありますから(笑)。

広報とメディアの関係づくり

椋田:質問が出そうです。どうぞ、その場で言っていただいて。

質問者:広報を担当していると、メディアの方との人間関係づくりが一番大切っていうのはよく聞くんですね。今のお話でも、何かネタがあったときに人の顔が浮かぶとおっしゃってたんですけど。

例えば、ここに出席している70名と今日お友達になっていただいて、明日いっせいに企画書が届いちゃったらどうするのかなと。

(会場笑)

椋田:いいですね、具体的で(笑)。

質問者:今のお話だと、お友達になれば見てもらえるのかなって。ここにいる人はみんなそう思ってると思うので、ちょっと聞いてみたかったんです(笑)。

(会場笑)

久保田:僕の場合は、メールは見ます。

椋田:久保田さんレス早いですよね。ありがたいです。

久保田:今日も実は夏休みなんですけど(笑)。

椋田:すみません(笑)。

久保田:メールであれば一応見ます。僕は70人の顔を思い出せないので、「いつどこどこにいた誰々です」って書いておいていただければ「ああ」っていうぐらいのリアクションはとれると思いますけど(笑)。

椋田:原田さんは。

原田:僕は人の顔と名前がなかなか一致しない人なんですけど。仮に70人と仲良くなって、70人の顔と名前が一致して、その人その人がわかればちゃんと見ます。

大事なのは「この人と仕事がしたい」と思うかどうか

ただ、もう1つ大事なのは「この人と仕事がしたい」と思うかどうかってことですよね。

結局僕らディレクターって、たぶんみんな一緒なんですけど、自分の仕事が大好きなんですよ。嫌いでやってる人はなかなかいなくて。その1つは「おもしろい」って思えることを仕事にしてるので。

だから「この人たちと仕事がしたい」「この人と仕事するときっと楽しい」と思えば「何とか企画になんねぇかな?」って本当に思うんです。

単純に名刺交換したとか、連絡先知ってるとかっていうことじゃなく。「遊びに行け」とか「飲みに行きなさい」っていうことでもなく。

何となく人となりがわかる関係になってれば、結局人間なのでやっぱり仕事しますよね。

そういう人は他でも付き合いが長く続いてる人もいますし。過去に仕事した人でも「最近あの人と仕事してないな。何か連絡しようかな」っていう人もやっぱりいるので。僕の場合はそうだし、そういう人は多いと思います。

名刺交換だけでは顔を覚えられない

久保田:ディレクターって1つの番組に1人しかいないわけではないので。スタッフは番組の予算規模とか、放送エリアとか時間によって違いますけれども、複数いるので。

「2人で会って一緒に話を聞こう」とか……俺はあんまり引っかからなかったけど、もう1人がおもしろいと思うかもしれないし。

僕はどちらかというと、企画構成を書くところまではやるんだけど、ロケは後輩にやらすとかいうタイプなので(笑)。

原田:それは実際そうなんですよ。自分だけじゃないので。たまたまなんですけど、本当の事例でね。あれいつでしたっけ?

椋田:そうですね、この間の。

原田:先日、椋田さんからもらったプレスリリースがあって。僕は一昨日まで九州でロケ中だったので対応できない。誰かに渡してやってくれないかなと思っていて。

帰ってきて今日見たら、目の前のディレクターがまさに防災関係のことを調べてたので「じゃあ、これあげる」って言って、プレスリリースを。

椋田:ありがとうございます。プレスリリースというよりは、本当に「メモ帳」ですけどね(笑)。

原田:そういうふうにやるんですよ。これたぶん、FAXで流れてきただけの、顔も名前も知らない知らないやつだったら、「別に関係ねえや」ってなるかもしれないですよね。

椋田:こういう回答のようですが、大丈夫でしょうか。

質問者:ありがとうございます。

椋田:1回名刺交換するだけだと難しいですよね。なかなか覚えられないですよ。

原田:そこのつくり方、普段難しいですよね。

椋田:普通の人間関係ですよね、そこは。

原田:僕らは仕事じゃない話をしたんですよね。

椋田:めちゃめちゃしてますよね。ちなみに私、原田さんとの出会いはバーでしたね。

(会場笑)

椋田:「しごとバー」でした。変なバーじゃなくて(笑)。虎ノ門にあるバーで(出会いました)。なんだったっけ?

私がバーテンをしたときに名刺を忘れて、名刺を取りに行ったんです。その時は、もう辞められたようですが、博報堂の高木さんという方がバーテンをしていて。

そこに家入(一真)さんがいらっしゃって。私、家入さんだって知らずに「何してんですか?」みたいなこと話してたら、その隣にいたのが原田さんだったみたいな。

原田:ちょうど僕が(家入さんと)話してるときだったんですよね。そこにバーッと入ってきて「名刺持ってきました」って渡してるんで「何だ、このおもしろい姉ちゃん!」と思って(笑)。

(会場笑)

原田:そこから始まったんですよね。

椋田:仕事の話もしてなければ、そのあとも全くしてないですよね。私がやった「長男バー」に来ていただいて、その時は墓の話で盛り上がったみたいな感じ。

(会場笑)

原田:そう。お墓の話をね。

椋田:長男について考えようっていうバーをやったんですよ。長男ってあらゆること抱えてるんですよ。ここで言うことじゃないですけどね(笑)。

介護、相続、今の日本の課題を長男が全部抱えていて。長男が集まって悩む場ってないから、長男バーをやろうって言ったら、本当に悩んでる長男ばっかり集まって(笑)。

(会場笑)

椋田:家の介護がとかそういう話になって、そこで墓の話で盛り上がった。

原田:僕も長男です。

覚えておくと得するネットワーク

椋田:久保田さんは一度私が売り込みに行ったんですよね。その時は「こうすればいいよ」みたいなことを教えていただいて。「へえ」と思って、そのまま終わって。

そのあと実際に移住フェスをしたときに……移住フェスは地方創生とかでおもしろい人が多かったんで「やりますよ」って言ったときに興味を持っていただいて、みたいなところから始まりました。

なので、関係性のつくり方は1回じゃないんですよね。「1回だけ会った人と仕事をするだろうか?」っていう。なかなかそういうのってないので。

原田:そうですね。でも、例えばさっきのレコード会社の飛び込み営業とかっていうのは、あれはもうめちゃくちゃなインパクトだったので。

だから別に1回の人でも、ちゃんと商品のことを理解しているとか、企画の話をしていたとしても、おもしろい会話が弾んでいくとか。僕らも「何かそこから膨らまないかな?」って脳が刺激されるので。

椋田:脳を刺激する会話ができるかどうか(笑)。

原田:そうそう。でも、そんなに高度なテクニックじゃなくて。単純に自分が誰を好きになるかってわかんないじゃないですか。僕は誰とでも会うので。

だからさっきのTwitterの話じゃないですけど「会いましょう」って言われたら会いに行くし。

久保田:あとは情報番組とかを見ると、最後のスタッフロール、民放で流れてるときにリサーチ担当者の名前があったりする。

それは個人で、スタッフがやってる場合があるんですけど、リサーチの会社があったりするんですよね。そのリサーチ会社に売り込むっていうのも手です。そうするとリサーチ会社はメディアとつながってます。つながってるって言うと変か。

「この番組はこういうテイストのほうがいいな」とか、そういうのを知ってるんです。僕もリサーチのスタッフの人が2週間に1回ぐらいは「こんなのがありますよ」と訪ねてきて、「これはもうちょっとこういう構成にできるか」って。

もう1回差し戻しじゃないですけど、考えてもらうとか。「この人には1回本当に会ってみよう」とか、そんなことはしますね。

原田:結局リサーチャーって一次情報にまずあたる人で、その一次情報を企画にして売り込むことで仕事が成立するので。リサーチャーとか作家とか。作家にもいろいろいるんですけど。

その辺は確かに1つの狙いどころというか、ネットワークとして覚えておくといいかもしれないですよね。

久保田:あとはここに来られてるみなさんがどういう企業の方かはわかりませんけど、1社で番組になることは難しくても、期せずして同業者から同じような企画がきたとか。この会社3つでやったらできるかもなとかっていうこともあり得ますね。

例えば「今年の夏のアイスクリームの人気は?」とかっていうと、1つは「海外からやってきました」、1つは「かき氷です」、1つは「アイスクリームです」みたいな。それで1つのネタ。でも会社は3つ違う。そういうこともあると思うんですよね。

こういうのは「だめかな」って思わないこと。みなさんの場合であれば、「こういうのできません?」「どうしたらいいですか?」って投げちゃったほうがいいかなと思います。