ヴィーナスは「官僚トップ」のような微妙なポジション

稲田豊史氏(以下、稲田):周りはどうでした? 周囲の人気。亜美ちゃん派は多かったですか?

おもち氏(以下、おもち):そうですね。

はな氏(以下、はな):亜美ちゃんとヴィーナス(美奈子)専門です。ジュピター(まこと)はあまり聞かなかった。

稲田:ジュピターは男の視聴者に人気でした。あ、ジュピター好きの理由をどうぞ。

いけちゃん氏(以下、いけちゃん):女の子になりたかったけど、女の子女の子するのも抵抗があって。でも、「私だって女の子らしいところを見て欲しい」っていう。

稲田:屈折してますね!

いけちゃん:(笑)。みなさんバラバラですよね。でも、セーラームーンが好きな子とか、美人で金髪で美奈子ちゃんが好きな子に対しては、すごいコンプレックスがあります。キラキラ系はそっちが好きで。

稲田:(あずきバーさんに向かって)誰が好きなんでしたっけ?

あずきバー氏(以下、あずきバー):私は美奈子ちゃんだったんですけど、でも今回アンケートがあって、「誰か書かなきゃな」と思って、捻りだして美奈子ちゃんなんです。正直みんなに対して、特定の思い入れがあったかと言うと、あんまりそういうのはなくて。

稲田:「言えと言われたから書きました」みたいな(笑)。でも美奈子ちゃんて結構、消去法で行き着く先が美奈子ちゃんだったりしますよ。つまり、セーラームーンはバカでドジで腹が立つでしょ。

(一同笑)

稲田:すいません(笑)。嫌いな人の意見を勝手に代弁してね。「亜美ちゃんは、いい子ぶりっ子で優等生だから嫌だ」「マーズはちょっと輝きすぎてて、私なんかじゃちょっと違う」「まこちゃんはサイドキャラっぽくて、あんまり」みたいな。

こうやって消してしていくと、「(美奈子は)セーラーVだし、ある種のキラキラ感はあるし、主役以外のセンター感」みたいな。

あずきバー:「とりあえず美奈子ちゃんで」みたいな感じ。

稲田:総理大臣じゃないけど、事務次官ぐらいの感じ。官僚トップぐらいの感じなんじゃない?

おもち:わかりやすい(笑)。

稲田:立候補して国会議員になって、登り詰めるルートじゃない、「就職した先の一番トップがそこ」みたいな。「地位は確立されてるけど、俺が俺がって出ていってはいないよ」っていう、すごく微妙なポジション。僕もヴィーナス好きなんですけどね。

一番女の子らしいのはジュピター

稲田:周りの人気はどうでしたか?

はな:周りの人気は、まんべんなく……? でもやっぱり、ジュピターがあまり。

稲田:ごっこすると、ジュピターだけ最後に決まるとか?

はな:そうですね。でも大きくなって、ジュピターの良さをみんなわかってきたという。実は一番女の子らしいのは、ジュピターだったという。

稲田:さっきジュピターは男性が好きだって言っていたのは、当時ゲーセンでバイトしてたんですけど、4つぐらい上の先輩がいて、その人がジュピターをすごく好きだったんです。

おじさんていう年齢でもないんだけど、大人の男として、リアルに考えるのもどうかと思うんだけど。誰が好きって聞いたら、「やっぱりまこちゃんでしょ」って、タバコ吸いながら言われて。

「そうすかー」って。「リアルに付き合いたい」みたいな話はしてないんだけどなー、と思いながら。大人には(まことの)良さがわかる。

ごっこ遊び時の女子のヒエラルキー

あずきバー:私の周囲では、姉がジュピターを好きだったことはあるんですけど。

稲田:それは成熟したお姉さんですね。

あずきバー:それこそ屈折していたのか、あまり女の子の友達とごっこした覚えがなくて。だから、わかんないです。

いけちゃん:まんべんなかったです。ごっこをするときはみんなかぶれないので、それぞれ好きな子と集まる。

私はジュピター役がしたいけど、「絶対ジュピターじゃないとダメ」って言う子がいたら、私はマーキュリーになる。でも、絶対セーラームーンにはなれない。セーラームーンになる子はもう決まってるんですよ。

稲田:そうなんだ。クイーンみたいな子がいるんですか?

いけちゃん:なんか、「私は絶対うさぎちゃん」みたいな。みんなは「まあいいや、まあいいや」みたいな。

あずきバー:「そうだよね、そうだよね」って。

稲田:「よしこ、うさぎだもんね」みたいな。

いけちゃん:「よしこちゃんから決めていいよ」という感じで。

TANAKA氏(以下、TANAKA):いわゆるヒエラルキーの中のトップがセーラームーンで、女子同士の中のヒエラルキーのトップが、うさぎちゃんを取っていくという感じなのかな?

稲田:それは、本来のセーラー戦士の心情からズレますよね。ヒエラルキーを作るのはよくないって。武内先生もお怒りじゃないですかね。

(一同笑)

タキシード仮面は見ていて恥ずかしかった

TANAKA:皆さんにお伺いしたいんですけど、タキシード仮面(地場衛、まもちゃん)はどのようにご覧になっていたんですか?

稲田:これも結構意見が割れる話なんですよね。タキシード仮面はどう捉えてました?

おもち:見るのが恥ずかしかったです(笑)。私が照れちゃう。すごく派手な、キザっぽく出てくるじゃないですか。

稲田:あれは「ププッ」みたいな感じだったってことなのかな?

おもち:当時は「ちょっと照れるな」、みたいな。

稲田:「かっこいい!」じゃないんですか?

おもち:私は違いましたね。そう思ってはいなかったです。

はな:確かに。まもちゃんになったときは「かっこいいな」って思ったときもあったけど、なんでタキシード仮面の格好なんだろう(笑)。

稲田:現代社会の麻布十番にタキシードを着た男が、しかもなんか名言っぽいこというじゃないですか。わかんないけど、「バラは早く散るから美しい」みたいなことを言って(笑)。

はな:まもちゃんとか、エンディミオンのときは普通にかっこいいなって。

稲田:エンディミオンはそうですね。一時期、月影の騎士(つきかげのナイト)さんっていう、もっとトンチンカンなやつになってましたね。アラビア風のやつに。

あれは「R」のエイルとアン編のときですかね。あんまり正統派の王子様って感じでもなかった?

あずきバー:なんか、「カユいな~」って(笑)。

稲田:痒い(笑)! やっぱりそうなんだ(笑)。

あずきバー:あのバラ、ちゃんとトゲ取ったのかな?とか。

稲田:そういう感じですか(笑)?

あずきバー:なんかこの人「痒い」みたいな感じでした。

東京はキラキラした場所

いけちゃん:あまり覚えてないんですけど、私みんなと意見が違いすぎて、コンプレックス(を感じてます)。地方出身なので、なんか東京は……。

稲田:関係なくないですか(笑)。僕も愛知県(出身)ですけど。

いけちゃん:小学校低学年で、全然知らない世界じゃないですか。男の子とか男の人とか。この地方で、あり得ることじゃなくて。でも東京にはそういう人がいて。

稲田:タキシードを着た男性が。

いけちゃん:いやそういう訳じゃないんですけど(笑)。

稲田:ああいうキラキラした世界が。

いけちゃん:ああいう系が、東京ではかっこいいんだという。

稲田:なんとなくわかる。小さい頃、月9とか見てうちの地元にはないけど、ああいう感じの世界観はあるんだろうなという。

いけちゃん:ほんとそんな感じです。

稲田:地元はどちらなんですか?

いけちゃん:九州です(笑)。

稲田:なんで笑ってるんですか。しかもなんで県名で言わないないんですか(笑)?

(一同笑)

稲田:そこは言えないんですか(笑)?

いけちゃん:九州の田舎です(笑)。

タキシード仮面は後ろでごちゃごちゃ言っているだけ

稲田:(タキシード仮面の件は)いろんな人に聞いたんですよ。友人とかにも、本出してからもその世代の人に聞いたら、結構分かれてて。

こちらの2人(おもちとはな)みたいに、「恥ずかしい」とか、「滑稽だよね」とか、そういう風に見てる人と、「そんなことないよ」って言って、普通に「救ってくれる王子様で、そんな馬鹿にするみたいなこと言わないで」みたいな。

あと、見てた年齢と精神年齢にもよると思うんですよ。それはまあ確かに、「ププッ」っていう風に言うってことは、「あれは滑稽なものである」っていうことを、認識できる知性があるわけじゃないですか。

だからそこが分かれてるんですよ。そういう話をすると、やっぱり「ププッですよね」みたいなこと言うと、「そんなことないです」って。

TANAKA:ちなみに稲田さんはどんな風に。

稲田:僕はもう大人ですから(笑)。あれは「何やってんすか」っていうか、そもそも変身後がセーラー服っていう時点で、キワモノ中のキワモノで。

あずきバー:あの格好じゃ、戦う気がないですよね。

稲田:そうですよね。だって、より鎧が薄くなっちゃってる。普段着の方が隠れてるのに、すごい薄くなっちゃってて。最初第1回を見たときに、僕の年齢も17とかなんであれなんですけど、「すごい珍品アニメが始まったな」と。

後々、名作扱いされるじゃないですか。正統派女子ヒーロー物とか、日本のアニメの名作のひとつとして。そんなこと全然なくて。「何この珍奇な設定」とか、「月にかわって? 月にかわる??」とか。

いきなり第1回でルナから(変身スティックを)渡されて、「ムーンプリズムパワーメイクアップ!」って叫んでって言われて、迷いなく「ムーンプリズムパワーメイクアップ!」って叫んで、ポーズ決めてるじゃないですか。その辺も含めて「えっ?」っていう感じだったんです。それでタキシード仮面もタキシード?

(一同笑)

稲田:1990年代に?

あずきバー:マントもついてましたね、マント翻して。

おもち:確かに(笑)

稲田:分厚いマントを。これから気温もあがっていく、みたいなときに。

いけちゃん:それに憧れてた私ってなんなのだろう……。

稲田:すいません。

(一同笑)

稲田:でもそれを徐々に、空気的には笑うでもなく、そういうものとして組み込まれていったわけですけど、冷静に考えたらやっぱりおかしいし、今お聞きしていると、当時小さい女の子だった子達にも、ある種の違和感はあったわけですね。だから普通のディズニーのプリンスじゃなくて、少し変化球。

あずきバー:そうですね、確かに。

稲田:いやだって、あいつおかしくないですか? だってバラ投げるだけですよ?

あずきバー:「今だ、セーラームーン!」。

稲田:そうそう(笑)。そこも、「今だ」? お前がやんないのかよって(笑)。あれもみんな普通に言ってるけど、だいぶ斬新ですよね。

作品の根幹ですけど、基本女の子が最後まで戦ってものごとを解決して、男は後ろでごちゃごちゃ言っているだけという状況。それがすごいなと……。

セーラームーン世代の社会論