チームワークを形成するメカニズム

青野慶久氏(以下、青野):ちょっと難しい話に入っていくと、ドイツのディッキンソンとマッキンタイアという学者さんが、「チームワークってこんな感じのプロセスで流れていくね」というメカニズムを書いてくれたものです。

これも正しいかどうかわかりません。正しいかどうかわかりませんが見ていきましょう。まず、チームに指向性を持たせます。共通のビジョン。同じ目標みたいなものをつくります。

それと同時にリーダーシップを発揮します。役割分担をするのでしょうね。「お前はこれをやってくれ」と役割分担をする。そうすると活動が始まるのですけれども、活動が始まったときにお互いをモニタリングします。

例えばピッチャーの子がいて、ピッチャーの子がどういうことをやってるのか見るということですね。見ないと放置ですね。放置だと連携をしない。見るわけです。お互いが見合いながらフィードバックをするわけです。

「お前これよかったよ」とか。「ここをもうちょっとこうしたほうがいいじゃないか」とか。場合によっては困っているかもしれない。「お前なんか大変そうだから、俺ここ手伝ってあげよう」とか。「今日はかわってあげよう」とか。

そしてお互いが相互に調整をします。「じゃあちょっと役割分担をこういうふうに変えてみようか」とか調整をする。それでグルーっと回っていく。そしてまた次の目標を立てて役割分担をして、お互い見ながら活動していく。

こうやってぐるぐるぐるぐる……。確かにそんな感じかもねなんですけれども、ちょっと注目をして欲しいのが上のところです。

コミュニケーション。とにかくチームワークをしていく上において、コミュニケーションというものが基盤にあるということになっています。今日はコミュニケーションのところを絞ってお話をしたいと思います。

チームでコミュニケーションがうまくいかないのはなぜ?

チームワークをするときに、コミュニケーションをどうすればうまくいくのかという話です。たいてい人間はコミュニケーションで失敗するわけです。

余計なことを言って失敗をしたりうまく伝わらなかったり。コミュニケーションをどうするのかというのを考えてみたいと思います。

チームで活動していると、よくこんな会話になります。これは、同じサッカーチームにいる人だと思ってください。同じサッカーチーム。

この人はダンベルを上げながらこんなことを言っています。「このチームね体力がないんだよ」と言っています。この人はボールを蹴りながらこう言っています。「このチームは本当にテクニックがない」。

意見が対立していますね。見方が分かれています。あまり生産的ではないよね。あまり前向きに進みそうもないよね。これは何が悪いと思いますか?

参加者:なぜそう思ったのかの過程を言ってない。

青野:そう。なんかネガティブなことを言っているだけだよね。こんなの言ってると気分が悪くなるだけだよね。これ、どうすればいいのかと。他にありますか?

世の中こんな会話多いのですよね。政治家が何かをやると言ったら駄目だとか。駄目だというのは駄目だとか。よくわからない会話になるのです。この言葉何が悪いかというとですね嘘が含まれているのです。

そこが何かというと、この人は「体力がない」と言っているんですけれども。体力はなくはないだろうと。ゼロではないだろうと、ある程度体力があるんだけれども、ある程度ないはずなんですね。

この人も嘘言ってますね。「テクニックがないんですよ」とこれも嘘です。少なくともボールを蹴るぐらいはできるはずです。

あんまり無茶苦茶テクニックがあるわけではないかもしれません。ただしかしながら、この人が、「体力がない」「テクニックはない」と言っちゃってるわけです。人間はよくこういう言葉を使います。

なんでかというと、自分の意見を通したいからです。自分の意見を通したいから「ない」とか「絶対違う」とか「みんなそう思っている」とか。過剰なことを言うわけです。でもそれは嘘です。そんなことはないです。ゼロではないし1でもないのです。中間ぐらい。

コミュニケーション問題を解決する「事実」と「解釈」

このコミュニケーション問題を解決するためのフレームワークをお教えします。それがこれです。「事実」と「解釈」。これを使い分けられるだけでも、世の中のコミュニケーションが楽になります。

ちょっとこの事実と解釈を説明しますね。何らかの人がいます。人は情報を得るために五感を使います。五感というのは視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚です。目、耳、鼻、口、手です。

そこからしか人間は情報を得ることができません。それ以外で情報を得られる方いますか?「俺はエスパーだからインスピレーションがある」という人もいるかもしれませんけれども、普通五感からしか情報得られないわけです。五感をもとに得た情報、それをそのまま表現したものを事実といいます。

例えば、「ライトついています」とか。これは事実ですね。事実はお互いそんなにずれません。ライトついているよね。2人で共通認識ができました。まぶしいよね。まぶしくないこれ。まぶしくない。ズレました。なんでズレたか。

それはそうその通りです。人間は事実を得て、解釈をするのです。解釈は往々にしてズレるものです。むしろズレて当たり前です。

みんな違うから一緒のほうが気持ち悪い。にもかかわらず、さっきの人たちは解釈の世界ですね。体力がないテクニックがない。これも解釈の世界です。解釈の世界でやってるといつまでたってもかみ合わない。解釈なんて違って当たり前だから。

この世の中の事象の表現は、事実と解釈とがあって解釈はズレるものだということを知っておいてください。ズレるのは全くおかしくない。ズレるほうが当たり前。ズレたなと思ったら事実に注目をしてください。何を見て、そのように解釈をしたのかが大事。

例えば、さっきの「体力がない」という解釈。この解釈は何の事実を見たのでしょう? 具体的にして欲しいよね。例えば、ある試合のときに敵のA君と味方のB君が走る競争をしてA君のほうが速かった。

敵のほうが速かった。それを見て体力がないと言っているのかもしれない。体力がないと表現をしてズレたなと思ったら事実を言う。そうするとお互い共通認識が持てる。

これが事実と解釈になります。事実は見たまま聞いたままだからズレない。解釈はそこから考えてもらうからズレる。この当たり前のことを、なかなか人間は区別ができない。

「事実」と「解釈」を使い分けるトレーニング

ちょっとトレーニングをしてみましょうか。事実、何かあげてもらってもいいですか? 事実の表現を何かしてもらってもいいですか。何でしょう? 何でもいいです。

参加者:スクリーンにPowerPointがうつっている。

青野:スクリーンにPowerPointがうつっている。見たまんまやな。これは共通認識ができた人。100点、すごいこれは事実ですね。じゃあ解釈の表現を何か1つしてもらってもいいですか。言ってみよう。

参加者:青野さんが格好いい。

青野:よっしゃあ。それは事実だ。はい、青野さんが格好いいと思う人。どうも認識がズレるみたいだね、これは解釈だね。その通りなんです。

ズレたのが悪いのではなくて、ズレたときに何を見てそう思ったのか。事実まで落としてあげるとそこで共通認識ができるわけです。

それが良い、悪いわけではなくて。「こういう構造になってるんだよ」というのを知れば、無駄な解釈の違いでケンカをする必要がないわけです。

人間はそんなところにいっぱい時間を割いているわけです。勿体ない。事実を見よう。このフレームワークは、とってもシンプルなフレームワークなんですけれども、ぜひ覚えて使いこなせるようにしていってください。

これでさっきの2人は認識を合わせることができました。この人が「体力がない」と言っている事実がわかりました。この人は「テクニックがない」と言っている事実がわかりました。

「問題解決メソッド」のフレームワーク

よし認識があったぞ。次、問題が発生しました。「それだったら体力をつける練習をすればいいだろう。みんなの走るスピードがこれしかないという事実があるのだから、体力をつければいいだろう」

「いや、違う違う違う。これだけテクニックがないんだから、こういうテクニックを身に着けば良いだろう」

また対立をしてしまいました。ちょっと前進をしたけれども、また対立をしてしまいました。これは難しいです。どっち優先します? どういうふうに考えて、どういうふうに進めていきますか? 

ここで2つ目のフレームワークを出します。ちょっと難しいフレームワークです。「問題解決メソッド」というフレームワークがあります。

ちょっと見てみましょう。一気に図が難しくなりましたので、解説をしますね。この緑の丸が状態になります。今の状態。現実。こうなるといいなという状態。理想。これはOKですね。

どうして現実がこういう状態にあるのか、それは過去のいろいろな原因があるからです。昔こんなことしたから。今これだけしか体力がないのは、昔こんな練習をしてきたからです。

こんなふうなテクニックの状態にあるのは、こんな練習をしてきたからです。この原因があるから現実があるとっても当たり前のことです。

クリッカーが僕の下にあります。現実です。クリッカーが下にある。何でか?

参加者:下に置いたから。

青野:その通りです。当たり前なんだけども、意外にこの議論にならないんだよね。「なんで下にあるの?」と言い出す。世の中の全ての事象には必ず原因がある。原因は1つではありません。

何で僕がここに置いたのか、それも原因があるわけです。なんでクリッカーがここにあるのか、クリッカーをつくった人がいるからです。クリッカーをつくった人がいるから、ここにクリッカーがあるのですね。おもしろい。

世の中はいろいろな行動によって現実があるのです。これは無数にあります。たどっていくと無数にあります。ただ、ここにクリッカーがある状態は僕は望んでいません。押しにくい。ここにあってほしい。どうすればいいですか?

それを拾う。それを課題と言います。課題とは、やることです。行動によって状態が変わったのです。行動によって理想の状態ができたのです。やった、むっちゃ押しやすい! 世の中はこうやって動いてるんです。人間の世界はこうやって動いているのです。

朝ご飯食べましたか? 何で食べたんですか? 生きるため。生きたかったんだよね。お腹が空いていた?

参加者:何となく食べた。

青野:何となく食べた。人が何かを食べるときは、たいていお腹が空いていて、お腹がいっぱいになりたいから食べる。お腹が空いてるのにも原因があります。3時間食べていないとか。3時間ぐらいじゃお腹が空かないか。昨日から何も食べてないとか、必ず原因があります。

原因があって、過去の行動、様々な人たちの行動があってそれが現実を引きおこしている。みんなが望んでいる理想があるのであれば、行動によってつくれます。すごくシンプルなモデル。

これは問題解決メソッドというフレームワークなります。これが何で大事かというと、さっきのこの2人の議論はまだわかりにくいのです。

サイボウズで一番最初に教える「建設的な議論」のプロセス

確かに、ここまでしか体力がないのはわかった。でも、この人は何を理想として持っているのですか。わからない。その為にどんな課題を設定すればいいのか。さっき言ったよね。課題が設定されてないから気持ち悪い。

まさにそう。今例えばA君は50メートルを8秒で走ります。ちょっと遅い気がする。50メートルを7秒で走れるようになる。これを理想にしようと。1秒を縮めるためにこんな課題を設定しよう。

これがさっきの問題解決のフレームワークを使うと表現ができるわけです。これを使って表現をしていただけると、相手が考えていることがとても見やすくなります。自分とは違う考えかもしれないが、これで表現してくれるととてもわかりやすくなるわけです。

さっきのテクニックのほうを見てみましょう。この子もさっきのフレームワークを使うともうちょっと表現が変えられます。

例えば遠くに蹴るのはテクニックがあるけども、近くでコンコンと蹴るのはあまりうまくない。それをこれぐらいのレベルまで上げたい。このぐらいのレベルまで上げられると敵に勝てそうな気がする。

「そのためには、こういう練習したほうがいいんだよね」と。「今までこういう練習をしてこなかったから、こういう練習したほうがいいんだよね」。

こういう表現をする。そうすると、意見を採用するかどうかは別として、自分の考えというのをわかりやすく相手に伝えることができます。

こんな表現しかできないと聞いてもらえません。「よくわからない、お前の言っていること」現実がどういう状況で、どういう原因から来ていて、どういう理想を持っていって、どんな課題を設定すればいいのか。

それを分解して説明できるようになると、とてもコミュニケーションがスムーズになります。そういうメソッドです。

でも残念ながらこれは教えてくれない。これ実は、サイボウズの会社の中では入社してきたらまず一番最初に教えるのです。

なんでかというと、これを使うとコミュニケーションがスムーズになるのです。教えてないと「何でだよ、何でだよ」ってつまんないバトルが繰り広げられるのです。なのでこういうのを使います。時間かかります。面倒くさいです。

ただ、建設的な議論というのはそういうものです。よく建設的な議論と言うでしょう。建設なので、まさにブロックを積んでいくような1個1個積み上げていくのです。あなたが思ってる、見ている現実は何ですか。あなたが思ってる理想はなんですか。

あなたがやりたいと思っている課題何ですか。1個1個ブロックを積んでいく。最後は決めるべき人が決めれば良い。自分の思ってることをきちんと相手に伝えることができる。これが問題解決メソッドとなります。