リアル×ネットの競合関係

田中良和氏(以下、田中):じゃあ、次のお話にいきます。初めにどうやって仲間を集めたかをお話しいただきました。その次は、数多ある事業の中でどういう事業を始めるかというお話をしていただきました。

ただこれ、やはりビジネスですので。自分たちがやれることであったとしても、競合よりも相対的に価値がないとかそういうことがあれば、事業としては難しいという現実があるわけですよね。

やっぱり社会的に競争優位があるのかっていうところはすごい重要なことだと思っていますので、競合についてどう考えるかというところをお話しいただきたいと思っています。この質問は非常に答えにくいと思うんですけども、まだ答えやすそうなラクスルの松本さんからいきながら、最後答えにくそうな人にいきたいと思っています。

松本恭攝氏(以下、松本):ネット業界に競合がいないラクスルです(笑)。「リアル×ネット」をしようとしたときに、僕たちはネットからリアルに入っていますが、でも一方でリアルからネットに入ってくる人たちもいて、これが我々の競合になります。

リアルからネットに入ってくると、やっぱり製造業なりオペレーションの会社だったりするので、オペレーションエクセレントとかコスト最適化みたいなところをすごくブラッシュアップしてきて、そこは本当にすばらしいと思います。

やはり日本の製造業、日本のサービス業すごいなって思うんですけど、一方でインターネットサービスとしてのユーザビリティであったり、インターネットのブラウザやスマホの向こうのお客さんとの向き合い方というところでいうと、やっぱりそこには人が十分にいないんです。

例えば、我々の競合で売上170億円ぐらいある会社さんでも、システムを見ている人ってすごく少なくて。一方で、我々はインターネットの会社で半分以上はエンジニアであったりディレクターであったりするので、ユーザーとの向き合い方に関してはインターネットの会社だからこそできる価値の出し方があると思います。

ここにいらっしゃる皆さんからしたら「そんなの当たり前だろ」って思われると思うんですけど、「リアル×ネット」みたいな世界になったときに、ユーザーとの接点をオンラインでいかに改善していくか、こういったところが競合への対処や差別化になっていくっていうのが現状の我々です。

田中:確かにラクスルさんのように、いわゆるインターネット業界の中における競争環境はあんまりないんだけども、普通の一般的なところにはある意味いっぱいいるというところなんですが、まさにインターネット業界的な強さを活かしていけばいいんじゃないかとお伺いしていて思いました。

確かにこれからシェアリングエコノミーというか、リアル産業的なビジネスをやってる場合においては、そういったアプローチが非常に有効だなと思います。

ただ、本当に大きくなってくると似たような会社がどんどん現れるのは社会の常でもありますので、これからネット業界でも類似する会社は現れるかなと思うんですけれども。今のフェーズは既存の業界の方とのネットによる違いっていうことかなと思いました。

アカツキの塩田さんは、ゲーム業界という意味ではグリーとも競合ですけども、もう数多ありすぎて競合なんて関係ないっていうのがあると思うんですけれども。

競合が乱立するゲーム業界

塩田元規氏(以下、塩田):僕たちの社内カルチャー的にはあまり競合を意識するっていう感じじゃなくて「自分たちが欲しいものをつくろう」っていう感じですし、「バリュー出してなんぼでしょ」っていうカルチャーなので、全く見てないですね。今世の中にないゲームで、自分たちがおもしろいんじゃないかって思うものを出したら当たるんじゃないかなって信じてるという感じですね。

田中:競合が多すぎるということは、逆に言うと、競合がいっぱいいても乱立可能な業界ではあると思うんですよね。

塩田:そうですね。マーケット的にも裾野がすごい広いので。コンシューマーのときのゲームだと、だんだん最後残っていくのは数社とかになっていたと思うんですけど、スマホなので、ゲーム機と違ってユーザーがずっとついてくるというか、変わらないので。僕は比較的残る会社も多いかなと思っていますし、利益ポテンシャルがまだ高いマーケットだと思っています。

田中:自分もゲーム業界ではありますけども、競合があったところで競合同士何かしようがないので、競合じゃなくてユーザーを見るしかない、そうやってバリューを出すしかないっていうのは、特にゲーム業界では大きいのかなと私も思いました。

ということでお話しにくい、今日の本題に入っていくんですけども。ただこの話、僕はちょっとおもしろおかしく話しましたけども、重要なことは、業界によって競合環境も付加価値の出し方も違って一概に言えない中で、自分たちの業界についての考え方だと思います。

その中で重要だと思っているのは、結局同じような製品をつくっている会社よりも良くなければユーザーが喜んでくれないっていう要素もあるわけじゃないですか。そういう意味で、他の会社がどうかということよりも、相対的な問題として他者よりも本質的に良いものをつくることをどうするべきかっていうことがこのテーマだと思うんですけども。

じゃあうっかり目が合ってしまったfreeeの佐々木さんから最初にお伺いしたいんですけれども(笑)。どういうふうに相対的に良いサービスをつくるのかということをお聞かせください。

競争によって自分たちのブランドを見つめ直す

佐々木大輔氏(以下、佐々木):実は競合への対処っていうのは、今までを振り返ってみると一番大きな学びだったんじゃないかなと思っています。

最初に競合が出てきたときは、社内がみんなソワソワするんですよね。それこそ競合が出してきたプレスリリースの一言一句を見て、社内のチャットが「こんなこと言ってるけどどうしますか?」「どうしますか?」みたいな感じになって。「そんなこと考えてる暇あったら仕事しようぜ」みたいな、そんな雰囲気ができてしまうんですね。

じゃあそこでどうやって僕が対処したかというと、「何言ってんだ、仕事しろ」「俺らはこれをやるって決めたんだ」って冷たくチャットに返して、とりあえず黙らせるというようなことをやっていたんですけど。

それでいったん社内は収まるんですが……結局そういう状況がすごく続いたので。何をしたかっていうと、「僕たちのfreeeって何なの?」ということに立ち返りました。

僕たちがやりたいことは何で、僕たちはこういう世界を目指してるからこういうものをつくってやっていく。それを最短経路でやる必要があって、何か短期的に競合の揺さぶりみたいなものがあったとしても、そこに振り回されずやっていこうっていうことを、僕自身も目的から決めて話すようになったし、社員のみんなにもそういうことを考えてもらう機会っていうのをつくっていったんですね。

そうすることによって、逆に「競合はこういう考え方するかもしれないけど、自分たちはこうだって信じることをやっていこう」っていうようなチームの雰囲気をつくることができたので、ある意味ここからの学びってすごく大きかったなと。

「自分たちのブランドって何なんだ」とかいうのは、どんな教科書にも書いてある当たり前のことなんですけども、結局競合のプレッシャーからそれを見出すことができたっていうのはすごく大きな学びだったなと思ってます。

一方で「競合がこんなことやろうとしてるっぽい」っていうのは社内の雰囲気を盛り上げるのには役に立つので、「これ誰よりも一番最初に出そう!」という形で盛り上げるのにもうまく使ったりすることもできて、そういった意味では競争ってやっぱりポジティブに捉えられることなんじゃないかなと思っています。

田中:今お話を聞いてて、「そうだなぁ」と思ったのは、人生と一緒で自分が何者であるか問われないと、自分が何者であるか考えないっていうのがありますよね。

逆に言うと、考えなくても済むのであればそれは幸せなことでもある反面、それだと変わらないような気がするから、自分のアイデンティティを見つけないと生きていけないっていう状態に入るわけで。そういった意味ではいいきっかけだったのかなと思います。

田中:ただ、ゲームはある意味B to Cですけど、特にB to Bビジネスにおいては、良いものをつくる・つくらないっていうのはあるんですけれども、やっぱりお客さんを取り合っているというような部分もあるわけですよね。

そうすると「他のことを見るな」って言っても「営業先同じですけど」っていうこともあるわけなので、そのときは見ざるを得ないというか、話をせざるを得ないと思うんですけど。そういうことはどうすればいいんですかね?

佐々木:それは逆に、競争心としていいんじゃないかなと思います。比較対象として「あれよりも売らなきゃいけないんだ」ってベンチマークできるのは逆にやりやすいかもしれないですね。もう売れない理由がなくなるので。

田中:じゃあ最後に、この話題で一番トリにふさわしいランサーズの秋好さんに聞きたいと思います。一応重要なことをお知らせしておきますと、我々はランサーズさんに出資してますので……(笑)。そこを踏まえた上で、というふうに思っています。

大事なのは、プロダクトがイケてるかどうか

秋好陽介氏(以下、秋好):冒頭にお話ししたように、私は8年間ランサーズをやっていて、一番最初は一切競合はいなかったんですよ。なので2~3年競合がいない、自分たちしかやっていないっていう状況がありました。

一番競合を意識したのは、2010年か2011年に、もう今はない企業のサービスで、ランサーズのほぼ完全コピーみたいなのが出てきたときです。資本は結構あった会社なんですね。おもしろいことに、利用規約も一言一句同じで「ランサー」って書いてあったりするんですよ(笑)。

(会場笑)

秋好:そのときは、「パクられた」っていうよりも「ついにきたか!」っていう感じで。先ほどの佐々木さんの話じゃないですけど、社内もみんな気にするし、毎日F5連打するんですよ。変わらないのに。

(会場笑)

秋好:結局そのサイトはなくなったんですけど。当然気にしているときもあれば気にしてなかったときもあるんですが。やっぱり競合を意識するっていうのも大事かもしれないんですけど、その会社でいうと、資本のある会社の土俵で戦ってても僕ら的に楽しくもないし勝てない。

僕らランサーズの過去の成長を考えても、やっぱり自分の土俵、自分らしい土俵、自分たちが考える土俵で戦ってたほうが楽しいし気持ちいいし。なので今、正直本当にこの質問よく聞かれるんですけども、社内は全然気にしてないですね。

僕自身も思うのが、例えば世界で一番競争環境が激しい市場の1つである自動車業界。トヨタさんがいて、いろいろいらっしゃると思うんですけども。僕らがユーザーとしてプリウスを買うときに「日産が競合で、フォルクスワーゲンがいて……」とか絶対考えないんですよね。

この車が単純にイケてるかどうかで判断すると思うので、僕らとしてもユーザーと対話させていただきながらプロダクトをつくって、ユーザーさんに喜んでもらうっていうところが究極的には大事かなと思ってます。

田中:優等生的な回答という感じが若干ありましたけども(笑)。たぶんあと5年か10年ぐらいすると禊が終わって本当の気持ちがしゃべれるかと思ったので、5年後ぐらいにまたこの質問をしたいなと思いました。

非上場の形で自分のマーケットに専念

田中:ということで次の質問にいきたいと思います。前半はどう起業して事業を選ぶかというところをお伺いしましたけど、後半はどう会社が成長するのかというところをお伺いしたいと思っています。

仲間を集めて、やる事業を決めて、競争環境においてもこういうふうに良い製品をつくっていけるんだということがわかったら、じゃあどうやって会社をどんどん伸ばすんだいうところが資本施策かなと思っています。その点でどういうことをやったのかということをお伺いしたいんですけれども、これはアトランダムで。

じゃあ、佐々木さんからお願いします。

佐々木:僕たちはプロダクトをリリースする前に、一度最初の資金調達をしていて、リリースした後、ちょうど2年前にこの札幌のLaunch Padで優勝した直後にシリーズAのラウンドをやって、その時は2億7千万円を調達しました。去年は総額で14億円調達したりとか、そういった形でやってきています。

最初の2回のラウンドに関しては、もうとにかく自分たちの人数も少ないし、どんどん良い物をつくっていくために開発にフォーカスすると。お金じゃなくて時間のほうが大事なので、資金調達に時間を使うよりかは全員で開発するぞっていうカルチャーでやってました。

なので、いろんな人に話すというよりは、知ってる人たちの中で自分たちのことをわかってくれて、早く決めてくれる人というような基準でベンチャーキャピタルを選んで、資金調達をしてきたっていう感じですね。

ただ去年からはちょっと考え方を変えていて、僕たちみたいなビジネスモデルって、結構驚きなほど日本では新しいので、これを短期間で成長させていくには大きな投資が必要だなっていうことがわかってきたんですね。

それをやっていくためには、どっちかというと、非上場でいながら資金調達をしていくほうがいいんじゃないかと思っていて。そこは逆に時間をかけてでもOKな額を調達しながら、非上場のまま進めていくっていうことを目指しています。

最近だとシリコンバレーで「ユニコーン」っていう言葉が流行語になってきているんですけども、1000億円以上の時価総額だけれども未上場みたいな形ですね。こういったあり方っていうのもひとつのやり方なんじゃないかなと思っていて。

上場マーケットに振り回されず、自分たちのマーケットに専念しながら大きな投資をしていく、こういったスタイルで今後やっていきたいかなと思っています。

田中:昔からの知り合いで、信用できる方から初めお金を集めたっていう話をされましたけれども、逆に言うと、普通の人は知り合いに信用できるベンチャーキャピタルや投資家っていないと思うんですが、そこはどういう形で知り合われたんですか?

佐々木:1つはまさにこのIVPの小林さんなんですけれども、僕が学生時代にインタースコープっていう会社でインターンをしていて、そこが小林さんの初期の投資先の会社だったんです。そのときから小林さんとは出会っていました。

もう1つ僕たちの大きなVCにDCMっていうところがあるんですけども、DCMの担当の方も大学の先輩で。直接知り合いだったわけじゃないんですけれども、Googleのときに知り合って面識があって、その後ベンチャーキャピタルに行かれたっていう感じですね。

田中:かなり恵まれた、幸運な環境ですね。

佐々木:そうですね。

田中:わかりました。じゃあランサーズの秋好さんお願いします。

VCはハゲタカファンド?

秋好:私はもともとエンジニアで、金融とかファイナンスとかは全然わからなかったです。当初はVCさんってハゲタカっぽいイメージもありました。絶対資金調達とか、株主を入れるのは嫌だって思っていました。

そう思って5年ぐらい自己資金でずっとやってたんですけど、とあるタイミングでランサーズのランキングを変えたときに、ユーザーさんから「僕はここで生活してるのに、こんなふうにランキングを変えられたら困る」「僕のためにランキングをまた戻すのは無理だと思うけど、ここで生活している人がいるっていうことを知ってほしい」っていう熱いメールが来たんです。

それを見た瞬間、それまではある種自分が好きでやってたんだけれども、もうランサーズというサービスはパブリックなものなんだなと思い、最初の調達を決めたっていう感じですね。

田中:それはどうやって誰から集めたんですか?

秋好:集めたときは2013年だったんですが、2010年ぐらいからずっとアプローチはいただいていて。1つはグロービスさんなんですけれども、ずっと3年ぐらい会っていたので、失礼かもしれないですけど「ハゲタカではないな」と(笑)。

(会場笑)

秋好:僕の誤解を解いていただいて。2回目(資金調達)は去年させていただいたんですけども、KDDIさんやグリーさん、インテリジェンスさん等と事業シナジーを求めて資本業務提携をさせていただいたという形です。

田中:誤解が解けるきっかけっていうのはあったんですか?

秋好:やっぱり人と人なので、実際会っていないと怖いというか……。「ハゲタカファンド」って当時ドラマでありましたけども、そういう印象だったんですよね。話してみるとビジネスマンでプロフェッショナルだということで、信用できるようになってきました。

田中:ハゲタカかどうかわかるまでに3年かかるっていうことがわかりました。

(会場笑)