東京2020エンブレムとリエージュ劇場の類似性について

司会:東京2020エンブレムに関する記者会見を始めます。会見者は東京2020組織委員会・事務総長の武藤敏郎です。マーケティング局長の槙英俊が陪席しております。それではまず、事務総長からお話をいたします。お願いします。

武藤敏郎(以下、武藤):本日はご多忙中にお集まりいただき、ありがとうございました。東京2020大会のエンブレムにつきましては、さる金曜日8月28日にここで会見をさせていただきました。

そのとき申し上げたとおり、ベルギーのリエージュの劇場のロゴと東京大会のエンブレムの違いについて、我々はいろいろご説明してきましたけれども、そもそも佐野さんの作られたものが、リエージュのロゴとは「はっきりと違う」と申し上げるために、佐野さんの当初案、審査委員会で一等となった案を皆さま方に発表いたしました。

それがいろいろな観点から、IOCの通常手続き、すなわち世界中の商標登録と問題がないかどうかというチェックにかけられた結果、似たようなロゴがあると、このままでは適当ではないと。

なんらかの対処をすべきであるという話がありましたので、我々はこれを修正することにいたしまして、第一次修正案を組織委員会がチェックいたしまして、さらに最終案にしたと。それがいままでみなさまに御覧いただいていた、オリンピックのロゴでありました。

ベルギーのリエージュのロゴとはコンセプトも違うし、もちろん仔細に見れば似ているところもあれば、似ていないところもたくさんあり、まったく違うものであるということをお話し、ご理解を得たと思っております。

そういう意味で8月28日まで、我々はベルギーのロゴとの関係においてはまったく問題がないと申し上げ続けてまいりました。

佐野氏によるオリンピック展開例の写真流用問題

翌土曜日に、一部佐野さんの案の展開例ですね、展開性を説明するための写真に流用されたものがあるのではないかと指摘がなされました。それから翌日曜日、今度はそもそも一番最初の佐野さんの案によく似たロゴがあると。チューホールドさんというドイツのタイポグラファーの展覧会でよく似たものがあるという指摘がありました。

私どももそれをみて、まったく違った新たな事態が起こったと認識をいたしまして、まず佐野さんご本人からお話を聞く必要があるだろうと、月曜日ですね、昨日判断しました。

同時に審査委員会のみなさま方にも、これは佐野さんのエンブレムを一等として選んだみなさまですので意見を聞こうと。実際にお集まりいただいたのは委員長の永井(一正)さんだけですが、今日午前中に佐野さん、永井さん、私どもで話し合う機会を持ちました。佐野さんからは展開例に使った写真は、もともと応募したときに審査委員会の内部資料のために作ったんだと。

ところが、同じ物が7月24日、公式エンブレムとして発表されるときにそれが使われたわけですけれども、審査委員会のクローズドな場ではこれはデザイナーとしてはよくある話なんだそうです。それが公になるときには権利者の了解が必要になるというのが当然のルールでありますけれども、それを怠った、それは不注意でありましたというわけです。

24日にそういうことだったので、8月28日の記者会見でもいったん公開されたものですから、当然それは使えるものなのだろうとの判断で使われたわけであります。

佐野さんはそういうわけですけれども、組織委員会もその辺は重々ご注意を申し上げるべきでなかったかという点は反省いたしますけれども、そういう経緯でございました。

佐野さんのお話によれば権利者に事後的にではありますけれども、了解といいますか、どうしたらいいかということをお聞きしております、というご説明でありました。

ヤン・チヒョルト展は観に行ったが、デザインは独自のものである

ヤン・チヒョルト展におけますポスター・バナーにつきましては、佐野さんは確かに見に行きましたと。ですが、ポスター・バナーがどういうものであったかは記憶にありません、自分は独自にあのデザインをつくりましたと。

今見てみると、丸い円がTの字の右下にありますけれども、あのポスターのほうはT.(ティードット)ですけれども、佐野さんのほうは日の丸であるとか、鼓動であるとか、情熱であるとか諸々をTに隣接してつけたものであり、色も違いますと。これは模倣ではない、私は全く模倣はしていませんと、自分のオリジナルであるという話でありました。

永井審査委員長はこれについて、どうお考えになりますかとお聞きしたところ、デザイン界の理解としてはそのように佐野さんの9分割されたデザインの基本、それはピリオドとは全く違うものですので、違うものと十分認識できるものであって、これは佐野さんのオリジナルなものとして、認識されると自分は思いますと。

デザイン委員会の理解は得られるが、国民の理解を得ることは難しい

デザイン委員会としてはそういう理解でありますということでしたが、同時にですね、ここまでいろいろな形で問題になったときに一般の国民の方々が今のようなご説明で納得されるかは、現状問題があるかもしれませんと。これは永井さん自身のお話でありました。

残念ながら自分のこのような説明、それから佐野さんの説明は専門家の間では十分わかり合えるんだけど、一般の国民にはわかりにくいですねという話がありました。

組織委員会としては、佐野さんの原案が模倣ではないという専門的な説明は私どもは専門家ではありませんので、判断する立場にはありません。専門家の判断を良として、そのような理解をしました。

一方で、一般国民の理解はなかなか得られないのではないかということについては、永井さんのお話と同じように、我々も共有する懸念であると、難しいのではないかということを(佐野さんに)お話しました。

デザイナーとしてオリンピックに関わることが夢だった

このようにそれぞれお話したあとで、いろいろ意見交換しましたが、彼の言葉によれば、昼夜をとわず、佐野さん本人と家族にいろいろな誹謗中傷がなされると。そういうことが続いていると。

自分はデザイナーとしてオリンピックに関わることが夢であったけど、今や一般国民から受け入れられないということで、オリンピックのイメージに悪影響を及ぼしてしまうということを考えると、

法律的な問題でわかりにくいんですけど、佐野さんのエンブレムは当選とともに組織委員会の所有物になっております。ですから佐野さんは原作者としての立場なんですね。

佐野さんは今は所有者の立場にないので、自分が取り下げることは難しいということをおっしゃっていたらしいんですけど、原作者としての立場で取り下げたいというお話がありました。

そのようなお話を聞いて、そうであれば、我々も永井さんも取り下げたほうがいいのではないかということで、三者の意見が一致しました。

審査委員会は8名でありまして、あとの7名の方には電話で連絡を取りました。これは全く盗用ではないので、臆することなく続けるべきだという方が1名おりましたが、残りの方々は、取り下げもやむなしまたは永井委員長に対応を一任しますということでした。

佐野氏のエンブレムを取り下げて、新たなエンブレムを公募する

そこで審査委員会、組織委員会、佐野さんのご判断を尊重して、エンブレムを取り下げて、新たなエンブレム開発に向けたスタートを切るということが、事態の解決にふさわしい選択ではないかということになりました。

本日16時からオリンピック・パラリンピックに関する調整委員会、これは遠藤オリンピック担当大臣、森会長、都知事などがお集まりの会合ですけども、そこに報告して、取り下げるということのご了承をいただきました。

このような事態になったことに対して、国民のみなさまに大変な心配をおかけし、東京都、政府、JOC、JPC、IOC、IPCなどの関係者に大変申しわけないと思います。

また、このエンブレムを積極的にご使用いただいてて組織委員会を応援してくださっているスポンサー各社のみなさま方に大変なご迷惑をおかけしました。文書によるお詫びのほか、直接お会いして、今後の対応についてご理解をいただきたいと思います。

組織委員会としては、このような結論になりましたので、ただちに新しいエンブレムの選考に入りたいと思います。

取り下げた今日のことですから、具体的な方法は改めて発表したいと思いますけど、基本的には公募を大前提にしたいと思います。

専門のデザイナーに委託する方法もありますが、今回のエンブレムを決めた考え方、公募がふさわしいだろうと。今回の経験から、より開かれた選考過程を工夫して、検討してまいりたいと思います。

スポンサーのみなさま方には、今までのエンブレムを撤回する手続きで大変ご迷惑をおかけすることになりますが、できるだけ早く新しいエンブレムを決定したいと思います。

私どもとしては、このようなやり方で東京大会を象徴するエンブレムとして、国民のみなさまに広く愛される、支持されるエンブレムをつくってまいりたいと思います。

私からは以上です。