リスクを取って先陣を切るファーストペンギン

川原崎晋裕氏(以下、川原崎):モデレーター務めさせていただく、ログミー株式会社の川原崎と申します。よろしくお願いします。自己紹介からですね。

今日、私だけEC完全に門外漢なんですけれども、一応どういうことをしているかというと、ログミー株式会社というところでログミーという媒体の運営をしています。

イベントとか、こういう講演を全部書き起こして、そのまま伝えるっていう、ちょっと変わった媒体をやっておりまして、それとは別にWebメディア事業のコンサルティングでニュース媒体であったりですとか、そういったところでどうやって人を集客していくのかとか、どうやっておもしろい編集コンテンツをつくっていくかとか、そういった部分のお手伝いをさせていただいております。

本日は、よろしくお願いします。じゃあ自己紹介を手短に皆様で。じゃあ大西さんから。

大西康之氏(以下、大西):今、日経ビジネスという雑誌で編集委員をやっております、大西と申します。多分ここに呼ばれてるのは、去年『ファーストペンギン 三木谷浩史の挑戦』という楽天の本を書きまして、多分その縁でお呼びいただいたと思っております。

ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦

ファーストペンギンというのはペンギンの群れの中で、海の中にシャチがいるからみんな飛び込まない。怖がって飛び込まないのに、そこで最初に飛び込んで魚を捕まえるリスクテイカーの意味なんですね。

それは三木谷浩史が、そのファーストペンギンだという意味なんですけれども、恐らく今日、ここにいらっしゃってる店舗の皆さんも、みんなファーストペンギンだと思っておりますので、ぜひいろんなお話をさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。

人が笑顔になるプラットフォームが好き

川原崎:じゃあ続いて北川さん。

北川拓也氏(以下、北川):楽天の北川と申します。ふだんはデータ分析だとかを担当させていただいてまして、今朝の部でも三木谷から言及があったように楽天ページ診断サービスという、皆様方の店舗向けの新たなサービスを開始します。

ユーザーのデータを見て、どういった写真が見られているのか、どういった説明文が読まれたときに購買されているのかといったふうに分析して、皆様にフィードバックをするサービスです。

そういったサービスを立ち上げたりしてますので、もろもろ皆様の店舗に来ていらっしゃるお客様のデータを見たりして「こんなユーザーもいらっしゃるんだな」みたいな想像を膨らましたりできるので、またそんな話もこの中でもできたらなと思ってます。よろしくお願いします。

川原崎:尾原さん、お願いします。

尾原和啓氏(以下、尾原):尾原と申しまして、今年の2月まで楽天で執行役員をさせていただいていて、今はフリーでインドネシアのバリ島に住みながら、日本のネットマーケティングのFringe81っていう会社の執行役員をさせていただいたりとか、最近『ザ・プラットフォーム』っていう本を書かせていただいたりとか、あと全部ボランティアで24社の会社様のメンターをリモートでさせていただいております。

ザ・プラットフォーム―IT企業はなぜ世界を変えるのか? (NHK出版新書 463)

終始一貫して、こういう人が営み、人が笑顔になるプラットフォームの立ち上げっていうことが好きで、ずっと関わらせていただいておりまして、そういう意味で楽天っていう皆様の思いを、ものと一緒に地方の人々、世界の人々に届けていって、笑顔がふえていく、結果的に人生の選択肢がふえてくるプラットフォームというものが大好きで、今日はそういった話をさせていただければと思いますので、よろしくお願いいたします。

川原崎:はい、ありがとうございます。

人間味溢れる世界をネットで表現できるか

川原崎:今日は私だけECについて全然経験のない人間なんですけれども、だからこそのちょっと、ぶっこんだ感じの質問をしてもおとがめなしということで、楽天さんから言われておりますので、ガンガン行きたいと思います。北川さんが、ちょっと青い顔されてますけど(笑)。

今日のテーマなんですけどHumanized IT Platformということで、人間味溢れる世界をインターネットで実現するにはということなんですけれども、尾原さん、そもそも人間味溢れるって、どうことなんですかね。

尾原:人間味溢れるっていうことを考えたときに、逆を考えればいいと思うんですよね。何が人間じゃないものか。それは、要は機械でできること。

単純に言ってしまえば、ことECに関して言えばわかりやすいのは、機械でやってるコマースって何かっていうと自動販売機ですよね。コインを入れればチャリンと出る。

これはこれで24時間いつでも買えるし、すぐにものが買えるし、便利。これはオンラインのECとして、当たり前としてやっていくものだと思うんですけど、やっぱり人って効率だけを求めてるものじゃないじゃないですか。

そこの感情のやりとりだったりとか、そこから生まれてくる、ものを買ってるんじゃなくて物語を買ってたりとか。

そうじゃなくて、ものだけじゃなくて、店舗さんと人の、人間のやりとりとか、人間関係を買ってたりとかするわけですよね。そういったものがHumanizedっていうものの1つじゃないかなと思うんですね。

川原崎:なるほど。わかりました。

自分が楽しんでいる商売は買い手に伝わる

川原崎:確かに、いちユーザーとして使っていてもAmazonさんと楽天さんの違いだったりとか、あと私「北欧、暮らしの道具店」とか、藤巻百貨店とか、ああいったものをよく使うんですけれども、何か本当に全然印象が違うなっていう感じは確かにするなと思うんですけど。

大西さんのほうで外から楽天を見られていて、こういうところが特徴的だとか、何かそういったところは。

大西:そうですね。前の本を書くときにも古手の店舗さんの店長さん、何人もお会いしたんですけど、やたらめったら濃いですよね。

(会場笑)

自分の話を始めたら止まんない人ばっかりで、全部取材が押しちゃって、「いいから、わかったから」というので、「あんたんとこのビールがうまいのはわかったよ」と、「もう終わろうよ」って言うんだけど終わんない。

そういう人を筆頭に、みんな濃いのね。やっぱりそれがインターネットを通じて伝わりますよね。買うほうにもね。だからやっぱり自分が楽しんで、のめり込んでやってる商売っていうのは、必ずその相手に、買い手に伝わるなと思うんですよね。

そこ行くと、僕本業、一番今たくさん取材してるのは、やっぱり大企業ってやつなんですよね。最近で言うと東芝なんていう会社ね。よく取材をしてるんです。

個々で会うと東芝の人もいい人なんです。ただ熱がないね。みんなパリッとしたスーツを着て、すごい真面目で誠実な人たちなんだけど、「あんた何がやりたくてここにいるのさ」っていうのが、今ひとつよくわかんないね。

結局、上から言われたことを真面目にやってたら、不正会計に加担してしまいましたみたいなのが今回の話だと思うんだけど、とすると何となく東芝の中にいて、安全だと思ってやってたんだけど、ああいうところにいるほうが危ないんじゃないかなと。

楽天出店者の魅力は人間臭さ

大西:例えば大学卒業するぐらいの子どもがいる親がいて、「就職で東芝入るよ」っていうのと、「楽天で店舗やるよ」って言ったら、絶対後者はやめとけって言いますよね。

そんな危ないことやめて東芝行けって言うと思うんだけど、でも今、ちょっとこれ宣伝ですけど、来週発売の日経ビジネス。本当は、まだ持ってきちゃいけないんだけど、持って来ちゃいましたけど、この社畜卒業宣言って。

社畜っていうのは、人間らしさを捨てて会社の利益のために働く人たちのことですね。川原崎さんの質問に戻ると、僕、店舗の人たちと会って感じるのは、その社畜の真反対にいる人たち。

何かのために何かを我慢するとか、何かを捨てて地位を守るとか、そういうことの反対。リスクを取って、また最初ファーストペンギンって申しましたけれども、やりたいことのためにリスクを取って飛び込んでる人たちというのは、やっぱりすごい人間臭いですよね。その人間臭さが楽天の魅力だと思いますね。

川原崎:なるほど。ありがとうございます。

愛や物語を持っているから人を動かせる

尾原:それを聞いて思うのが、この前、フジテレビのプロデューサーの方と、コルクという会社の佐渡島さんという方と話をした内容がおもしろくてですね。

ちなみにコルクっていうのは、漫画家って出版社の編集者によってつくられてるじゃないですか、そうするとどうしてもつくる側の意見が通っちゃうんで、漫画家が本当にやりたいことができないので漫画家に寄り添って、漫画家のやりたいことを助けてあげるっていう会社です。佐渡島さんって、不幸なことに僕と北川さんの中高のちょうど間にいるっていう。

北川:そうなんですか(笑)。

尾原:はい。そのときの話がおもしろくて、今回フジテレビが、やっぱりもう1回ドラマだって言って、ものすごく一流の人間をそろえて、一流の形でつくったんですよ。

でもフタ開けてみたら視聴率が2桁行かなかったんですよね。それを「なぜだ」っていう話を彼としてきたときにおもしろかったのが、「いや、今は時間とかこだわりを持たずにつぎ込める人間でしか、人の心を動かせない時代なんだ」ということを言ってて、それはなぜかっていうと、僕たちってYouTubeとか開けると、素人が、好きでやってる人たちっていうのがムチャクチャいるわけじゃないですか。

そうすると一人ひとりのレベルは玉石混交かもしれないけど、100万人のユーザーの中で、ものすごい1人のおもしろいものにめぐりあっちゃうわけですよね。

実際、テレビってフタを開けてみると、もうYouTubeで見つけた動物動画だとか、YouTubeで見つけたビックリ動画を再生するだけで視聴率を取ってる。

あれ、ものすごいアイロニーで、結局こだわりを持って、「時間なんて関係ない!」って突っ込んでるぐらいの愛がある人じゃないと、もう人を動かせない時代になってきてるんですよね。

そういう意味で楽天の店舗さんっていうのは、僕はハイブリッドだと思うんですね。もともとやっぱり、そのジャンルに愛を持ってたり、物語を持ってて、それだから人を動かせる。

感動するスピーチの3要素「I、We、Now」

尾原:あともう1つあるのが、TEDっていうすごい最先端な人たちが、今伝えるべきアイデアっていうものを1人18分でスピーチしまくるっていう会があって、YouTubeのビデオとかで2,000万回再生されるくらい影響力があるんです。ログミーさんでも記事にしてると思うんですが。

川原崎:はい、書き起こししまくってます。

尾原:転載されて皆さんに広まってるんですけど、その感動するスピーチって、必ず3つの要素があるんですよ。

川原崎:3つの要素。

尾原:はい。それはI、We、Nowなんですね。

川原崎:初めて聞きます。

尾原:だから必ず、スピーチっていうのが世界に広がってる事情だろうが何だろうが関係なくて、自分のWhyから始まるんですよ。僕はなぜ、その課題に行き着いて、なぜ私はそれを扱わざるを得なかったか。

僕がそれにとらわれてしまったことっていうことは、実は僕だけの問題ではなくて、今度はWe。実は我々みんなの問題なんだよ。

「じゃあこのWeになった問題っていうものを解決できるのはいつですか? 今でしょ」っていう、今ちょっと笑ってもらったほうが嬉しかったんですけれども(笑)。

(会場笑)

このI、We、NowっていうものだけがTEDのスピーチとかでも人を感動させていて、そういうやっぱり時間と愛をつぎ込めて、IがWeになり、Nowになるっていうものでしか人が動かない時代にいるんじゃないかなって。働き方として脱社畜っていう大西さんの意見の裏側として、結局そういう戦い方のほうが本当に人の心を動かせるんだよっていうことかなと思うんですよね。

ユーザー心理をデータから読み解く

川原崎:北川さんのほうには、ちょっと仕組みの部分でお話をお聞きしたいなというふうに思っていまして、例えばログミーなんですけど、ログミー自体はどちらかっていうと人間らしさの逆を目指してるものなんですね。ある意味、アンチ編集なんですよ。

つまり全文書き起こしただけでコンテンツになってしまうっていうのは、これは編集者がいらないっていうことと、ほぼイコールになってしまいますよと。

ログミーがやりたいことって何なのかっていうと、私もともとマスコミのほうの出身なんですけど、例えば記者会見をやったときに、すごい高いお給料をもらってる記者の方がバーッと集まって、皆さん同じことを同じように聞いて、ある意味、似たような記事を皆さん出されるわけじゃないですか。

これって1つの無駄だなというふうに思っていまして、であればログミーが書き起こした原文みたいなものが1つあれば、もうほかの記者の方ってその部分に関しては、ある意味必要なくなってしまっていて、記者の方っていうのは、さらにそこから追加取材をしたりだったりとか、調査をしたりして、その人にしかできない記事をつくってもらいたいっていうのが1つ、実はログミーの裏テーマだったりするんですよね。

そういうとこで人間らしさっていうのがメディアの部分でも出てきて、バイラルメディアみたいなコンテンツを転載しただけで読まれるみたいなものとは違う、人間にしかつくれないものがつくれるんじゃないかというふうに思っています。

そういう点で楽天さんのほうで人間にしかできないことをしてもらうために、逆にシステム側というか、仕組み側で担保しなきゃいけない部分だったり、今後そうやっていきたいと思われてる部分、ちょっと聞いてみたいなと。

北川:そうですね、やっぱり僕、まさに皆さんの人間らしさっていうのは思いだって話があったと思うんですけれども、店舗様の思いっていうのは、やっぱりページづくりだとか、商品への、どれぐらい時間をかけてつくってらっしゃるかっていうのに表れていて。

もう1つ僕が見てるのは、お客さんの思いっていうのをデータからかなり見てるんですね。お客さん一人ひとりがここを見たとか、どれぐらい長く見たとか、それを見た後にどこに行ったかって見ることによって、その皆さんの思いに対してどこまで答えられているのか。

この数字を見てる人って、あまりうちの社内でも、まだ出てきたばかりの見方なのでいないんですけれども、見てると、やっぱりすごいことがいろいろわかってくるんですよ。

データを分析してわかったカテゴリーページの利用率

北川:まず第1に僕がすごくびっくりしたのが、うちのお客さんの買い物のしかたっていうの見ていて、皆さん想像できるかとは思うんですけれども、1番お客さんが商品を探そうとして活用されているのは、やっぱり検索機能なんですね。

ただ、レディースファッションとかにいたっては、検索機能と同等かそれよりも多いぐらいの割合で店舗内のカテゴリーページを見てるんですね。皆さんつくられたと思うんですけれども、店舗のカテゴリーページから商品を探して買ってる方が同じぐらいいということがわかったんですね。

なのでキュレーションですね、まさに。店舗様自身によるキュレーションによって、ものを探し買ってる人っていうのは、それぐらい多いんだと。ちょっと気になったんで、うちのメンバーがいろいろ分析していて、さらに見つけたのが店舗様の、そういったカテゴリーページ。

店舗様が自分たちでキュレーションされたページでしか見つかっていない商品、お客さんが見にきてない商品というのが、やはり1割から2割ある、そんな結果が出てるんですね。

なので、やっぱり皆さんの、そこにつぎ込まれた思いっていうのは、もちろんお客さんには届いてるということを僕は数字から見ていてわかるわけですね。

スマホシフトなんか、だいぶ起こってまして、皆さんPCにそういうカテゴリーページをいっぱいつくられたかと思うんですけれども、スマホになると、いきなり画面が小さくなって、「つくりづらいな」と思ってらっしゃる方も多いとは思うんですね。

ただお客さんも相変わらず、すごい頻度で、そのキュレーションサイトを見にきてますので、僕らシステム側としては、できるだけ店舗様のキュレーションされるページ、特にお客さんに喜んでもらっているようなページにもっとハイライトして、このページのどこがどうよくできているのか、といったような形でお伝えしていけたらなというふうに思ってます。

川原崎:ありがとうございます。

スマホとキュレーションは相性がいい

尾原:それすごい示唆が深い話で、実はスマホのほうがキュレーションとの相性がいいんですよね。それなぜかって言うと、僕の本の中でリーンフォワードとリーンバックって言い方をしてるんですけど、ひと言で言うとPCって、こうやって立ち上げて、よっこらしょって使うじゃないですか。

それに対してスマホってだらだら使うんですよね、こうやって。リーンバックってカウチとかに寝そべる感じ。そうするとPCって、よっこらしょだから、目的に向かってまっすぐ使う。

それに対してスマホは、ゆっくりしてるから何となくだらだら使うし、あともう1つ、統計取ってすごくおもしろかったのが、やっぱりPinterestとか、Facebookとか、ああいうストリーム型って言われる延々縦にスクロールできるものに、もうみんな慣れてきてるので、平気で楽天のロングページどころじゃない、印刷してみると10メートル、20メートル、こうやって見るんですよ。

実際、皆さんFacebook大好きですよね。どんどん上げていただいていいんですよ。とかも、どんどんどんどん見てらっしゃる。なので、むしろそういった偶然の発見っていうのはスマホのほうが起こりやすくて、

それって何かっていうと、人って買いたいものが決まって買ってる人と、買うものを決めてなくてウィンドウショッピングする人とで言ったら、後者のほうが圧倒的に多い。

もっと言えば、買うことすら決めてなくて、ただ自分の日常生活に変化を求めるために見にくるっていう人たちもすごく多いと思うんですよね。そういうとことか、すごく深掘れる時代だと思いますよね。

川原崎:なるほど。私も欲しいものが決まってるときは、だいたいカカクコムで調べて、一番安いやつとか、価格に差がなければAmazonにそのまま買いに行きますし。

尾原:ぶっこみますねー。

川原崎:(笑)。父の日とか母の日とか、人に何かプレゼントするときは必ず楽天を使ってます。というのは、本当に個人の実感としても、すごいあるなというところがあります。

「北欧、暮らしの道具店」をプレゼント選びに使いたくなる理由

北川:川原崎さんにお聞きしたいのが、先ほどの、そういうふうな見方をする際に、コンテンツを見にいってるじゃないですか、「北欧、暮らしの道具店」さんだとかは非常にコンテンツを主軸に置いた商品のプレゼンのしかただと思うんですけれども、それを使われる理由って欲しいものがあるからじゃないですよね。

川原崎:違いますね。

北川:どういうふうに買われるんですか?

川原崎:これは、すごく正直なお話をすると「北欧、暮らしの道具店」さんが一番使えるときって女性へのプレゼントとかですね。

これは自分じゃわかんないんですよ。女性がどういうものを欲しいかとかって、男性は本当に女性が思ってるより全然わかんなくって、それはやっぱりお勧めされたいと。

ただデパートまで行って店員さんに聞くとかも、すごい面倒くさいですし、そこには別に星の評価がついてるわけでもないので、どれが人気かもわかんないってなったときに「北欧、暮らしの道具店」さんだと、他にはまず置いてないものばかりが置いてある。

そのときにしか置いてない商品とかも多いんですよね。なので買うほうとしても、すごいバリューを感じやすいっていうか、今この瞬間に買わないと、もう品切れになりそうだとかっていうのがあるので、すごい買いたくなる瞬間っていうのは、そういうところだったりしますね。

なぜ日本のECサイトで「人間らしさ」が重要になるのか

川原崎:ちょっと角度を変えて。いいですか?

尾原:いいですよ、どうぞ。

川原崎:テーマあってるかわからないんですけど大西さんにお聞きしたいのが、海外と比べたときにどうかなっていうのが1つありまして。

尾原さんの著書の中でも結構そういう人間らしさというか、店舗さんの個性が出てるECみたいなのって日本らしいっていうふうな表現をすごくされてたんですよね。

逆に海外と比べたときにも、すごい特徴的なものなのかとか、そういったあたりをお聞きしたいなと。

大西:そうですね、やっぱりすごく日本的なサービスなんだろうなと思いますね。尾原さんの前の本で『ITビジネスの原理』の中でハイコンテクストっていう言葉が出てくるんです。

ITビジネスの原理

やっぱり日本とか、例えば中東とかヨーロッパとか歴史のある国は、お互いが共有してる文化とか、その伝統があるから、すごく難しいことをいきなりやっても大丈夫なんですよ。

だから、今はさすがに能とかわかんなくなっちゃってるけど、あれで指の角度がこうだと、こういう意味みたいなのは、みんなわかった上で見てるわけですよね。

川原崎:はい。

大西:それがそのスーパーハイコンテクストなんだけど、それアメリカ人が見ても全然わかんないわけですよ。

アメリカではわかりやすい価値が優先される

大西:アメリカみたいに国の歴史が浅くて、多種多様な人たちが入ってくる国では、もう誰でもわかるところまで最大公約数を落とさないと、そうするとローコンテクストになるんですよね。

そうすると一番わかりやすいのは安い。その次わかりやすいのは早い。

川原崎:はい。

大西:だけど、いい感じみたいな。

川原崎:はいはい(笑)。

大西:あいまいな価値。だけど、「わかるよね、わかるよね、あれいいよね」って、「あそこの服、かわいいよね」って女の子たちが言うようなところは、多分アメリカに行っちゃうと広すぎて、ぼやけちゃうから、だからやっぱりエブリデーロープライスでバーンとわかりやすく行って、Amazonで明日届きますみたいな、そういうローコンテクストの誰でもわかる価値が訴求する。

だけど日本へ行くと、その上の、ほかの人にわかんないけど「わかるよね、わかるよね」みたいな、鉄ちゃんどうしでやる会話とか、ガンプラで盛り上がってるやつらとか、アニメのアニソンで盛り上がってるやつらとか、さっきの佐渡島さんの話もそうだけど、コミュニティをつくって、自分たちにしかわからない価値感の中でやりあうのが好き。

でも、それってベースが、同じような教育を受けて、同じような文化の背景があって、同じようなものを食べて、育ってきたからわかりあえる。いきなりは無理なんですよね。だから、そこは同じECでも、日本と海外はかなり違う。

川原崎:なるほど。

大西:でもわかってくると、それは海外の人でも、そのコンテクストを積み上げてくると、はまるんですよ。だからアニメオタクとか、ガッとナルトの格好してやってるロシアの男の子たちは、要するにコンテクストを積み上げて、日本の子ども並みに来てるわけですよ。

それは、手間がかかるけど教えてあげればできる。わかってしまえばローよりハイのほうが、やっぱり楽しい。

だから一発芸の吉本よりも、恐らく能がわかったり歌舞伎がわかったりしたら、ちゃんと修練を積んでベースがしっかりしてる伝統のある芸能のほうが深みがあるはずなんですよね。わかれば、おもしろい。

ハイコンテクストの代表がワイン産業

尾原:結局、それをつくった世界最大のビジネスがワイン産業なわけじゃないですか。はっきり言って僕には、ワインの違いとかわかんないわけですよ。

でも、このワインの皮をかんだようなにおいがとか、樽の移り香がとか、そういうものに対して人は5万とか10万とか、場合によっては200万とか積んでくし、それはワインの中身だけじゃなくて、当然グラスだったり、その回りにあてる、最近、はやりのマリアージュみたいな話とかまで、どんどん広がっていくわけですよね。

だから、そういうハイコンテクストのものをつくると何がいいかっていうと、違いをわかりたくなるから違いにお金を払うわけですよ。そうするとそこに、普通にワインは1本1,000円だったものから200万円のワインまでできちゃうわけですよね。

実際、日本でもこのビジネスを、ちゃんとつくることをやってったのが、久保田の萬寿であったり千寿であったりとか、八海山とかもそうですし、もともとは、やっぱり日本酒っていうものが階層マーケティングがなかったところに、ハイコンテクストを持ち込むことによって高額マーケットをつくっていった。

それに対して今度は獺祭みたいに裾野を広げることで、より高いところをつくっていこうみたいなこともマーケティングとしてつくっていくっていう、ハイコンテクストのエンジンをどう回すかっていうのも、すごく大事なんですよね。

制作協力:VoXT