なぜ工期もお金も増えてしまっているのか

森山高至氏(以下:森山):「なぜ工期もお金も増えているのか?」というところの解説ですが、それはこれの構造が巨大な橋だからです。

これは以前から僕がみなさんにお知らせしているのですが、キールアーチ構造は、建物全体を端から端までジャンプするように緩いアーチが飛んでいって、そいつが全体を支える背骨みたいな感じで、2つ背骨があるみたいな。キールっていうのは、これは船の竜骨のことをキールって言うのですが、それと同じような仕組みで、細長いアーチが全体を支えて上から吊り上げるみたいな構造になっています。

しかしこれが適正な規模を超えちゃっているのです。キールアーチによって造られる建築物っていうのは、この4分の1ぐらいです。100メーター位のキールアーチの建築物っていうのは結構あります。キールアーチにするとダイナミックさとか、いろんなことが表現できるので、そのやり方で造られた体育館なんかもあります。

ところがアーチは、いろんなアーチがあるのですが半円の形で、円を半分に切った形だと荷重が垂直に下に落ちていってくれるので、ギリシャ、ローマの列柱みたいなものを考えていただくといいのですが、下向きに重力が真っ直ぐに落ちていくのです。

ところがちょっと広げてしまうと、ちょうど股裂きといいますか、氷の上で、だんだん足を広げていったと同じように、ズルッと滑っていく力が働きます。これをスラストといいます。

このスラストが働くということは、ちょうどここで右側向けの写真載せています。これは誰でもできる実験なのですが、ティッシュペーパーの箱を上蓋だけ切りました。そしてちょっと曲げて置いてみました。自立しています、1番上では。曲げた状態で。

ところがちょっと押すと広がる。上にペンを乗せて荷重をかけるとズルンッと、ペチャンとなっちゃうっていう、これが緩いアーチの最大の問題なのです。

巨大なアーチを止める方法1・タイバー

このスラストを止めない限り、このキールアーチは構造的には保たないのですが、止めかたっていうのに1つの方法があります。ここに輪ゴムをつけていますが、ちょうど弓矢のように広がろうとするのを止めるタイバーというテンション材を入れるっていうやり方があります。そうすると、この力がかかってもちょうど下の水平の輪ゴムのところが、これの変形を止めてくれるっていう。このやり方だといけるじゃないのっていう。

右に書いていますけど、実は右が簡単な新国立競技場計画の断面ですが、スラストが競技フィールド上にあって邪魔になっちゃう。ラグビーとかもそうでしょうし、サッカーだってそうですよね。なので、きっとタイバーの方法をとると、競技フィールドよりもっと下に埋めこまないと成り立たないだろうっていうのが予想されます。

そこからいきますと、実は400メートルのアーチスパンだったのが、もっと広がって600メートルぐらいになってしまうと予想されます。600メートルぐらいになると、よりスラスト力も大きくなるし、この弓型の部材の太さ、これ細く見えるのですが、ちょうどあの設計図を見ると10メートル角ぐらいの鉄の塊ですけど、10メートル角っていうと2LDKのマンションの平面図ぐらいある。そんなバカでかいものなのです。

巨大なアーチを止める方法2・アンカー

スラストを止める方法のもう一つが、下向きにアンカーを打つっていうことですけど、こいつを下向きに止めようっていう。ところがどうもあの模型写真の位置関係と右側の地図で見る限りは、ちょうどいい具合に大江戸線の駅があるじゃないかと。ふふふふ(笑)。

僕はこれを発見した時、本当にびっくりしました。ちょうど当たるように設計しているから。

だからこれキールを90度回転して、まだ短手側にすれば地下にものはなかったかもしれないですけど、たぶんこれ当たってる当たってないかはわかりませんがほぼ当たる。ちょうど当たるっていう位置にありました。これは大きさと寸法を計りました。なので、たぶん困っている。困っているからまた設計に悩んでいる状況だと思います。

日本国民全員に「キールアーチはおかしい」とわかって欲しい

ここはしつこくやりますよ(笑)。キールアーチについては、みんなに理解してもらって、この建物がいかにヤバイかってことがわかれば、今、無理やり関わっていると本当にやめたいはずですよ。日本国民全員が「キールアーチおかしい!」とわかれば、これ止められますから。

もう1回キールアーチの説明をすると、弓が引っ張られて動きますよね。こう押さえると。だから弓形のタイバーというテンションで止めると常に動き、常に伸び縮みしている状態。

左側の写真は実はソチのスタジアムの写真です。ソチも同じキールアーチの工法で、実はやっていました。この写真を見ていただくとわかるように、このアーチの太さもかなり太いです。トラスって言いまして、梯子みたいな形の巨大な弓型のもっと太いやつを使って、なんとかソチでは成立させているのです。しかもあの梯子を段みたいにして、少しでも重量を軽くしようとして頑張っている、そのキールアーチの一番下に、左下に三角の壁みたいなものがありますが、これスラストブロックです。

これ以上弓型が動かないように、止めるための構造体があります。これわかり難いのですが、コンクリートの三角の大きさが5、6階建てのビルぐらいある。このキールアーチの根本を滑らないように止めるためのコンクリートの塊が5、6階建てのビルを必要とする、それぐらいの重量がかかっているっていうのが、このソチのスタジアムからもわかります。

なおかつ、ソチの場合は地盤がどうも良さそうで、直接基礎っていいまして、固いところに建物を直接置いているみたいです。だからまだなんとかなったのかなと。ソチはあと海にも面していますし、これ海岸沿いにありますから。

それで、新国立競技場の構造におけるタイバンドの致命的な欠陥と言っていますけど、結局この引っ張り材っていう弓の弦は、常に振動しているような状態になりますから、これ下に書いていますけど、この弓の弦は太さが家よりでかい。中に電車2本通れるっていう、そういうものです。だからこのキールアーチっていうひとつの弓型だけで、誰も歩けないし、誰も渡らない橋だし、誰も乗らない地下鉄を作んなきゃいけない。

キールアーチの問題は誰にもわかる話

これはスタジアム機能と全く関係ないです。サッカーやる人にも関係ない、陸上の人にも関係ない。これを未だにやろうとしているっていうのが、もう本当にこの計画の馬鹿馬鹿しさなのです。これだけ僕は言っているんですよ、みんなに。JSCにも言っています。「これ誰だ、ダメだよ」って言っているけど、まだ何かわかってない。できればみなさん、JSCや文科省以上にキールアーチに詳しくなりましょう。

(会場笑)

日本国民が全員これに詳しくなったらいい。彼らも当然ながらエリートです。文科省の人たちは、たぶん東京大学とか有名大学を卒業して、優秀な成績で卒業して、国家上級試験に合格して、それで今のお仕事をされていると思うけど、その人たちよりも、日本中の中学生レベルまでがキールアーチに詳しくなったら絶対にできなくなるはずです。それを僕はこういうことを通じて、これはたまたまキールアーチですけど、建築物っていうのはそんなに難しくはないのです。

建築の技術的なものっていうのは、少なくとも150年位前に今使われているもののほとんどは、発見されたり発明されたりして、技術の大きなドラスティックな変化は起こってない。コンクリートも百何十年前からありますし、ガラスもそうだし、鉄もそうだし。

だから本当は、建築物についてはほとんど常識でわかるのです。積み木と一緒なんです。下に物があれば、上に物を載せることができると。下に物がないときにどうやって支えるかを工夫してきたのが建築の構造力学なので、橋とか塔とか支えがないところで、どうしようかとやっていますけど、普通はどうやって支えるかっていう話だけです。それはまた後で出てきますけど。

これが今のキールアーチの問題。槙先生が「キールを外せ!」って、「ラストチャンス!」とか言われていましたけど、あれだけだとみんな、キールアーチってわからないです。なんか偉い先生同士の喧嘩じゃないかと思うと思います。これは全くそういう話じゃなくて、誰にでもわかる問題です。

コンペの前段階の有識者会議では何が話されていたのか

「なぜこうなったのだろう?」というところですけど、ちょっと建物から離れた話になりますが、これはちょうど昨年、東京新聞の森本記者が、そもそもコンペの前の段階でこの計画をどうするか決める有識者会議の議事録というのを情報公開請求でお取りになって、その内容を分析されて、こんな話があったよっていう記事が出ています。

僕はそれを読みましたが、その内容は建物がいかにダメかがわからないと、その原因が分からないので、今まであんまり言っていませんでしたが、この有識者会議の最初の時にどんな施設にしようかなっていういちばん最初のスタートラインでこんな話が出ています。

東京都都市整備局の安井局長が今、「外苑の風致地区の規制である高さ15メートルの規制を取り除くぞ!」と最初に言っています。建物をどうするかの前に「15メートルの規制を取り除くんだぁ!」と、まずやっています。

その後、サッカー協会名誉会長の小倉さんが「規模8万人、屋根を開閉式にする、椅子を可動式にする」と決めている。おかしくないですか? サッカーの試合をやる上で、なぜ屋根を開閉式にする必要があるのか、椅子を可動式にするのかって、わからないですよね。

例えば陸上競技場とサッカー競技を兼用にするから椅子が動かないと困りますと言うなら分かりますが、この時に陸上の人は入ってないですからね、この会議の中に。陸上の人の意見が全然通ってないのです。

例えばサッカーの立場で言えば、「この際、サッカー専用球技場にして欲しい」というのが本来この小倉会長の言いそうなことなのですが、そうじゃなくて「規模8万人、屋根開閉式、椅子は動かす」と最初から言っているっていう、すごくおかしいですよね。サッカー協会を代表している人とは思えない発言をされています。

新国立競技場問題の根本を作り出したのは誰か

続いて、作曲家の都倉俊一さん。「コンサートを開催するために開閉式なのはマスト!」と。ここ、コンサート会場でしたっけ?

(会場笑)

違いますよね(笑)。たまたま国立競技場という大きな施設の中で、最初3大テナーのコンサートがあって。あの時だって国立競技場の管理者の方は非常に心配されて、「芝生大丈夫なのかな?」とか、「近隣に音漏れはどうなのだろうかな?」とか、すごく苦労されたはずですよ。

企画された人も許可取るまで大変だったはずですけど、3大テナーの後、だんだん国立競技場でコンサートをやることが、まあまあ、それだけお客さんを集められる人なら使ってもいいじゃないのっていうふうになりました。

ジャニーズの嵐とか、あとラルクアンシエルとか、ももクロとか、そういった若い子に人気のあるグループなら何万人も集められるじゃないかと、だんだんやるようになっていましたけど、それだって年に数回ですよ。

そうなのに都倉俊一さんは、「コンサート開催するために開閉式なのはマストだぁ!」とおっしゃっている。

という、この3者の話が最初に施設の規模を決めちゃっているのです。この規模に沿ってコンペの募集要項が作られたっていうのが、今回の新国立競技場の根本的な問題を作り出した部分だろうと僕は思っています。

安藤忠雄氏も問題に気づいていた?

その中で、建築家の安藤忠雄先生は委員に入られていましたが、建築部門の座長ですよ。まぁ大きさについてはちょっと「相当な大きさがあるね」とか、「景観上の課題もあるね」という発言はされているようです。

「ものすごい大きなスケールのものをものすごく短いスケジュールで行うという困難な計画です」ということまでおっしゃってはいる。

ところが、最終的にこの会議が3回行われた最後で、「問題点があると思われましたら何か教えていただければ」と。問題点は自分で気づいているじゃないですかね!

(会場笑)

で、この話が通っちゃった。その計画に則ったコンペが始まっちゃったものだから、今いろいろ問題になっている「敷地ギリギリまで建物が乗っている」とか、「70メートルになっている」とか。あと「屋根が開いたりしまったりして、うまくいかない」とか、そんなことが全部このスタートラインにじつは埋まっていたことがわかる。

だからよく議論になっているのが「ザハのデザインが素晴らしいのに、なんでそれをやめるんだとか止めるんだ」とかいう話もありますが、この人たちがザハ・ハディドのデザインを本当に必要としたわけじゃないのです。

だから、なぜか高さ制限を大きくすることが目的になっていて、その高さ制限をなるべく超えてくれるような案を選んだんじゃないですかと、つい思ってしまうような内容ではあります。

同時に、コンペを募集した時点では、まだ法律は15メートル以下の法律になっていたのに。法律を変えて募集していたらわかりますよ。コンペにおいて大きな建物を建てるために法律をまず変えると。

そうじゃなくて、「コンペで選んじゃったから、素晴らしい案を選んじゃたから高くしなきゃいけないのだ!」みたいなそういうていで都市計画法を変更して、今の話になっているのです。

新国立競技場をめぐる組織同士の関係性

しかもかなり広範囲の都市計画法をいじってやるっていうのは、これはこちらでもお話をされた都市計画の先生である大澤先生が、だいぶん詳しく調べてらっしゃいますけど、なんだかこれ今、新国立競技場ができるのかできないのかで大変だ、オリンピックが大変だってなっているけど、何かスタートラインからあんまりオリンピックのことを何か考えているようにはどうも思えないと、いろいろ見ていますとわかってきます。

今どうなっているのという部分ですけど。これがこの問題をすごく複雑にしている組織構造ですけど、難しいですよこれ。

まず、文部科学省というところがありまして、ここがそもそもこういうスポーツ施設や、後は学校もそうですし、美術館とか博物館とか、そういったものを管轄しているところですよね。今はここ下村大臣です。

その外郭団体で、独立行政法人として、日本スポーツ振興センター(JSC)というのがあります。だから、文部科学省の子供みたいな組織ですけど。だからJSCの職員の方とか理事の方は、元文科省の方が多いです。

実際にJSCで働いている方は、施設管理の方とかはそちらのほうを現場でやられている方だから、割と素朴な方が多いです。僕は何名かお会いしていますけど。

このJSCというのが文科省の子供であって、今回の建物の施主になっています。建て主です。

ところがJSCは建て主ですが、自分の好きなようには作れません。それは文科省から有識者に検討を委託しているので、有識者会議の言うことを聞きなさいと言われています。

有識者会議は他所のおじさんのようなもの

だからこの新国立競技場っていうのは、文部科学省がお父さんだとすると、JSCが奥さんで、「この他所のおじさんの言うことを聞きなさい」と。「お前に任せたらろくな家にならないかもしれないから、家のことに詳しい他所のおじさんを呼んでくるから、そのおじさんが決めたように家を建てなさい」みたいな、そんな形になっている。

この有識者会議が先ほどの建物の規模を決めて、コンペを開いて、コンペで選んだ案をデザイン監修者っていうふうにしました。有識者会議がJSCに対して「こうしなさい」という頭脳面の役をやっているわけです。JSCは、文部科学省の命令で「有識者会議の言う通りに動きなさい」という、そういう命令をもらっている組織なのです。

で、JSCが直接契約しているのは、コンペで選んだデザイン監修者のザハ・ハディドさん。先ほど言いましたように「デザイン監修者」ですから、自分で自分の計画をコントロールする権限は与えられておりません。

JSCはどこと契約しているのかっていうと、基本設計者。ここは契約しているはず、基本設計。基本設計が終わったのが1年前ですから、ここは日建設計と日本設計と梓設計の設計JVとなっていて、1年前の設計図から今年になっても、まだ新しい設計図が届いてないので、これは設計終わってないのではないかと、僕なんかは思っているわけです。

実施設計者は先ほど言いましたように、竹中工務店と大成建設が実施設計の協力をする、施工を依頼される前提で協力をする、言ってみれば営業活動ですよ。

新国立競技場の計画に責任を持つ人はどこにもない

だから、今の時点でこの新国立競技場の計画案について、責任を持って建ててやるぞっていう人は1人もいないのです。わかるでしょ? この中で、「新国立競技場を俺が建てるんだ」っていう人はいないのです。

それは施主側にもいないのです。頼まれる側にもいないのです。だからこの問題で、森元首相が「どうなってんだ!」って、いくら叫ぼうが何しようが、誰も動かないですよ。

舛添さんが「情報を出せ、正しいことを教えろ!」って言っても、誰が正しいことを教えに行くか、よくわからないのです。文科省だって、教えに行こうにも、文科事務次官とか下村さんは他の案件がいっぱいありますからね。あの方々は競技場以外の仕事がいっぱいあるんですよ。今は学校のこととかいっぱいある。それだけやってられないですよね。

だから、現時点ではJSCしか、たぶん最新情報を持ってないけど、JSCだって建築の専門家じゃないですよ。JSCは日建設計とやりとりしていると思いますけど。

ザハ・ハディド氏へのデザイン監修料13億円の契約とは

だからこれ、一番よく知っているのは日建設計だと思うのです。今の現状を。でも彼らは守秘義務っていうのを盾に何も喋らないから。でも「これ、公共だよね?」と思うのです。守秘義務ってあるのですかね? 半公共的なものですけど。

まぁ、独立行政法人だから守秘義務っていうのはあるのかなと思いますが、税金使うのだから、ここで守秘義務っていうのは、僕はありえないと思うので、ぜひジャーナリストの方々は、ここで一度日建設計さんに現状を聞いていただくのがいいのかなと。舛添さんも、日建設計さんを呼んでみたらどうかと思います。

一方このザハ・ハディドさんのデザイン監修の内容について、これは13億円となっていますが、昨年自民党で行われた無駄撲滅PTという、河野先生と僕は出席しまして、馳先生とか橋本聖子さんもいらっしゃって、あと中村先生とか内藤廣さんもいました。

そこでいろんな質疑応答をやったけど、「ザハ・ハディドのデザイン監修計画の内容を教えろ」って言った。そしたら是非みなさん見てください。あの8分頃です。これ山崎さんが、うろたえた、うろたえた(参考動画:自民党行革推進本部無駄撲滅PT「新国立競技場」ヒアリング)。

だからこのデザイン監修計画の13億っていうのがいったいどういう内容で、どういうふうに支払い起きているのか、これは全国民のみなさんがちょっと関心を持っていただきたい。これいったい何をやっているのか、といういちばん不思議な契約がここにあります。

だから今デザイン監修契約者と基本設計者の間の点線のラインがどういうふうに繋がっているのか分からないので、正しい情報が出てきてないのだろうなあと思っています。