ITで日本の経済をどう変えていくか?

関口(以下、関):皆さんこんばんは。ご紹介いただきました、日経新聞の関口でございます。 どうぞよろしくお願いいたします。本日最後のパネル・ディスカッション「日本からイノベーションを産み出せ!」ということで、ただいまより1時間10分ないし15分ぐらいの予定でディスカッションを行いたいと思っております。

私、このIVSの会議にはですね、もうなんだかんだ5年くらい出たり出なかったりということで、札幌の会場も多分これで3回目かなと思います。壇上に立つのは実は今回初めてなんですけれども、今回は特に安倍政権で新成長戦略というものが動き出したなかで、少しマクロ的な話も含めてやれないか、という小林さんのお話がありまして、この場に立たせていただきました。

実は先月も隣にいらっしゃいます楽天の三木谷さんがやっていらっしゃる新経済連盟というところで「新経済サミット」というのが開かれまして、そこの場にも私、参加させていただいたわけですが。この、日本が失われた20年ということで、ずっと縮こまっていたわけなんですけども、安倍政権のもとで、いわゆる「アベノミクス」、成長戦略を促そうという状況になってきたわけです。

で、とりあえず第一、第二の矢、すなわち大胆な金融政策、機動的な財政出動と。まあ口先介入としては、少し日本の経済も明るくなってきたわけですが。一番大切なのは第三の矢であります、成長戦略。で、成長戦略を促すためには、成長のエンジンが必要でありますので、これがいわゆるIT、ICTの世界ではないかと思っております。

ですから本日は、新しいIT、ICTの技術をどうやって活用するのか、そして日本の経済、社会、あるいは政治といったものを、どのように変えていく必要があるのかということで、4名のパネリストの方にお話を伺っていきたいと、このように考えております。で、ご紹介を、じゃあ皆さんよくご存知だと思いますので、お名前だけご紹介しますので、大きな拍手でお迎えいただきたいと思います。

まず楽天の三木谷会長でいらっしゃいます。それからGMOの熊谷さんです。それから今度新しくフジテレビジョンの社長になることが決まった亀山さんでいらっしゃいます。それから皆さんが日頃お世話になっておりますLINEの森川社長です。

日本に必要な3つの人材

関口:それでは早速ですがディスカッションのほうに入っていきたいと思います。私も新経済サミットのときにも申し上げたんですが、日本で必要なのは人材として3つあるのではないかと。1つがベンチャー人材ですね。ここでいうアントレプレナーシップ。それからソフト人材。これはまさにイノベーションを起こすという意味でのソフト人材。そしてグローバル人材。日本の殻に閉じこもらず国際的に活躍できる人。こういう人たちを排出していかないと、日本の経済は今後もたないんじゃないかなと思っているわけであります。

そういう意味で、日本の今抱えている課題、問題点。こういうところがおかしいんじゃないか、こういうところを改めたらいいんじゃないかということで、ここから3人のパネリストの方に順番に、日本の課題みたいなものをお話いただきたいと思います。熊谷さんも新経済連盟の理事でいらっしゃいますのでよろしくお願いします。

日本の制度が足を引っぱっている

熊谷(以下、熊):熊谷です、よろしくお願いいたします。日本が抱えている課題ということで、私が日々感じていることは、まさにグローバライゼーションを推進していて、インターネットという技術革新によって、競争が世界規模で起こっている。にも関わらず日本の色々な現在の制度とか税制とかによって、海外の会社よりも不利な競争を強いられてるんですよね。

具体的な事例ですと、たとえば私は、皆さまにもたくさんサーバ等をお使いいただいて、いつもありがとうございます。お使いいただいているんですけど、うちのたとえばクラウド選択される場合に比較対象となるのは、Amazonのクラウドじゃないですか。Amazonさんは、もうありとあらゆる、まあ最近Appleさんが節税しすぎだって叩かれてますけど。ありとあらゆる税制を使って最終実効税率が10%切っているわけですよね。Appleもそうですよね、Googleさんもそうですよね。

だから、そういう状況ですけど、私どもはどんどん税金が非常に高い状況で勝負しなきゃいけないってことは、年単位でみると再投資できるのが、競争相手よりも何分の1なんですよ。たぶん4倍ぐらい違うんですよね、実効税率が。ということは、AmazonさんとかAppleさんの4倍稼がないと手残りが同じにならないという状況に今あるわけですよね。だからグローバライゼーション、インターネットの技術革新によって競争が世界レベルになっているけれども、やっぱ日本の現在の状況で、足に鎖をはめられているようなところもあるので、これは問題だなというふうに思っています。はい、以上です。

マスメディアはいま迷っている

関口:熊谷さんから税率の問題が挙げられましたけれども、じゃあ亀山さん、いかがでしょうか。

亀山(以下、亀):フジテレビの亀山でございます。なんか非常に異分子が入ったような気がして、居心地がすごく悪いんですけれども。今一瞬見たらネクタイ締めてるのは僕だけで。(会場笑)やっぱりテレビってのは古いんだろうなというのは、今ふつふつと思ったんですけれども。

テレビというか、日本のメディア、マスメディアですけど、非常に今方向性を悩んでいるような気がしまして。で、その方向性を悩んでいる最大の理由が、皆さんたちの存在なんだと思います(笑)。つまりマスメディアの使命ってのは一体何なのかっていうのを、前はマスメディアがあることを報じることによって、信頼という名のもとで信じてもらえたんでしょうけれども。もっと身近にいる人が今あることをそのまま伝えることによって、マスメディアが伝えることは、もっと違う意義のものを伝えなきゃいけないんじゃないかっていうのを最近特に感じます。

はっきり言わせていただくと、私ども日々ニュースを報じているわけですが、当然ニュースですから、映像がなければいけない。かつては大事故があっても、カメラが間に合わなければ、報じるのは文字だけ。ところが最近はいろんなタブレット、いろんな進化で、すぐ映像が取れて、すぐそれを局に送っていただける仕組みがあるとすると、皆さんが全員記者であると。

で、その方の取る視点が間違っていたりすると、それを間違って僕らが放送すると、実はたとえば紛争地で言うと、体制側なのか、反乱側なのかっていうのかっていうのが、ひとつでも間違えますと、それは大誤報になってしまうわけですね。そういうなかで、日々ニュースの更新すら、映像を出さなければいけない人間の気軽さと判断力っていうのが問われてまして。

ですから、今日はたまたま僕がここに、参加するのは随分前から決めていたんですけれども。先ほどあったみたいに、ついこないだ「社長をやれ」と言われまして。まったく今日ここに来るのは、別な人格で来なきゃいけないんじゃないかなと思って、もっと忌憚なく、ものを言いたかったんですけど。今日はちょっと奥歯にものが挟まったような言い方をしますが。

実は6月の末に株主総会がありまして、まだ内定段階ですので、皆さんが何かお書きになるとですね、株主総会で「あいつはダメだ」ということになりますと、また会社から別な人選をしなきゃいけないことになりますと、経営が少し遅れますので、よろしくご容赦のほど(笑)。ま、いずれにしましても、マスメディアというか、僕らはちょっと今迷いに入っているではないかっていうのが、現場をずっとやってきたなかでの印象でございます。

日本は「変える」ことより「守る」ことに力を注いでいる

関口:はい、ありがとうございます。インターネットの力というのは各方面にあるわけですけれども、ことさら、メディアっていうのは一番大きな影響を受けておりまして。私ども、まあ、私もオールド・メディアに属しておりますが。昨今広告費が削られたりだとか、いろいろ大変な状況が来ているわけであります。ただ、まあ、安倍政権の経済がよくなっているひとつの要素としては、メディアがそれを前向きに評価してですね、みんなの気持ちが少し明るくなったという部分もあると思いますので、メディアのあり方についても、このディスカッションでちょっと議論できればと思っております。じゃあ森川さん、よろしくお願いします。

森川(以下、森):LINEの森川です、どうもこんにちは。僕が思うところは、まあ、僕たちの会社は社員のなかで外国人が非常に多いですし、実際海外でのマネジメントも様々やっているなかで、日本とか日本人というところが、本当にこう変わる気があるのかっていうところがすごい気になるところですね。どうしてもまあ、文化もそうだし、制度もそうだし、すごくこう「変える」というかは「守る」というところに大変力を使っているのかなというふうに思います。

特にインターネットの業界っていうのは、新しく変えていき、ときには壊さなきゃいけないものがたくさんあるんですけど。何か壊そうと思うと、いろんな注意事項とか、お声がけがあったりとか、実際に法律の壁があったりとか、そういうなかで、なかなか変えにくい。そのなかで日々意識しながら仕事をすることで、どうしても視野が狭くなってしまう。そんなところがあるのかなというふうに思っております。僕自身、もともとテレビ局出身でして。まあ、実はテレビ局ってのはほとんど辞める人がいないんですよね。僕が辞めるときは役員会の議題になったくらい、大変な騒ぎになりまして。

そのあと、まあ、SONYに移ったわけですけど。まあ、今SONYも苦労してますが。僕がSONYで事業を立ち上げようとしたときに、ある偉い方から「初年度100億いかないような事業、SONYってやる意味ないんじゃないの?」って言われまして、非常に引いた経験もありますし。まあ様々、今日本のなかで変化しなきゃいけないときに、本当に守らなきゃいけないものって何なのか、もう一度考えるべきかなというふうに思っています。

経団連への違和感

関口:はい、ありがとうございます。それでは、今日はせっかく三木谷さんにお見えいただいたので、そもそも新経済連盟をなぜ作らなきゃいけなかったと。私どもの会社の隣に経団連という、また別なグループがあるんですけれども。一度はそのメンバーになられて、それをあえて辞めて作られたと思うんですが。そのあたりの方法論として、これで何をしようということなのか、お聞かせいただけますか?

三木谷:別に経団連を辞めて作ったわけでは。もともと新経連を作ろうということをいろいろと話をしていて、そして震災のあとですね、様々な経緯があり、経団連については基本的に脱退した、ということでありまして。なんで脱退したか。もともと経団連に入った経緯っていうのは、当時小泉内閣のときにトヨタの奥田会長が経団連会長で、どちらかと言うと、規制改革の旗印が経団連だったわけですよね。まあ、そんなこともあって入ってみたんですけども、会長が2回変わり、そして段々と、実は規制改革ということではなく、重厚長大の基本的にはビジネスを守るための団体であると。電力も含めて。

もともと経団連っていうのは、「東声会」っていうことで、東京電力を中心とする経済団体だったわけですけども。そのときに、震災の後に、配送電の分離の話、原発再開の話が出てですね。即座に配送電の分離反対、即原発再開というなかでですね、まあ、それだけじゃないんですけど。たとえば独立取締役の問題であったり、また会計基準の問題であったり、ことごとく、先ほど言ったグローバライゼーションではなくてガラパゴスのほうに持っていこうとするっていうことで、大変違和感を持っていたわけです。

社会の枠組み等を変えていかなきゃいけないフェーズに来た

関口:熊谷さんはある意味の同志ということなんですけれども。同志にあたるわけですね、そういう意味でいきますと。で、新経済連盟を立ち上げるにあたって、どこに一番賛同して、それに与したかという熊谷さんのお話を伺っていいですか。

熊谷:僕は最初からではなくて、Yahoo!の井上さんが、例の孫さんの人事の問題で、メンバーだったのがお辞めになったときに、三木谷さんから携帯にお電話いただいて、よろこんで参加させていただきます、ということで途中から入らせていただいたんですね。で、その後、変わったんですよね、新経連にね。という経緯なんですが、やっぱり古者であってできないことも、私どちらかと言うとベンチャーですし、一匹狼なので、あんまりこう、みんなで何かをやるっていうこと得意としてないんですけれども。だから経団連とかもお誘いいただきましたけれども、全然入ってなかったんですね。

でも、ネット業界特有の色んな問題点っていうのを、みんなで、関わってる理事にしろ、メンバーの人と共有できる顔ぶれで。同じ問題意識を持っている人の集まりで。ひとりじゃできないことも、みんなで力を合わせればできるっていうこともあるなと思いまして、積極的に今参加させていただいています。本当に新経連に加盟させていただいて、今本当によかったなって思っております。はい、ぜひ皆さんどうぞ(笑)。

三木谷:勧誘イベントですか(笑)。

関口:これまでどっちかって言うと、ベンチャーっていうのはあんまり群れないと言いますか、それぞれが、独自にやってくという段階から、さっきの熊谷さんの話じゃないですけども、社会の色んな枠組み等を変えていかなきゃいけないフェーズに入ってきたという意味で、この新しい団体が発足したと思うわけですね。

その流れっていうのは、ある意味では、次の日本の経済が、本当の意味での新しいソフトとかネットの時代に入ったっていうことを象徴してると思うんですけども。亀山さんからご覧になると、今回の新経済連盟、まあ、メディアのお立場で見て、どんな風に受け止めていらっしゃいますか?

亀山:先ほど三木谷さんから「TBSさんはお入りになっていますよ」と言われたので、7月以降で我々も可能性を探るところかなとは思っていますけど。いずれにしましても、先ほどおっしゃった「ベンチャーは群れない」っていう印象が僕もすごくあったんですけど。実は群れるんじゃなくて、お互いに違う価値観を持ってる人たちが、ある方向を向くっていうのは当然あるべきことだと思うんですね。お互いにライバル同士がひとつになって。

で、それがどうしても、なんとなしに三木谷さんの顔を見ると、旧勢力の経団連と、新しい(経済連盟)。でも僕はあるべきだと思うし、僕らのメディアが日報連とか色んな形の連合作っていますけど、やはりそれをやっている理由っていうのは、お互い問題を共通認識で持とうよ、っていうことでやっている会であるわけですから。そこで何か決まったことを全員守ろうっていうことでは、決してないので。こんだけ多くなると、やはり経営をお互いに理解し合いながら、お互いに情報交換をしていって前に進むってことは、絶対に必要だと思うんですよね。

それを前によく、ひと昔前にテレビ局がよく言われてたのは、「護送船団」っていう言葉で。フジテレビを代表とする、たとえばフジネットワーク、それぞれの地方局は、みんな独立会社なんですけれども、系列を持って一緒に渡っていくって言うんですけれども。やっぱり全国ネットを死守するためには当然必要なわけだし、それがビジネスの一つの基準になっていくわけですから、それを「護送船団」と呼ぶなら呼べばいい。でもみんなが全員それを守ろうとしたらダメですけど、イノベーションしていくんであればやる必要があると思うので、非常に今後僕らテレビとか、放送とか、メディアの経営にすごく参考になるので。参加するしないの前にしっかり見届けたいというか、研究して見せていただきたいという感じがしますね。

新経連によって、経団連以外の産業界の声が届けられるように

熊谷:新経連のメリットを、ちょっと15秒ほど。新経連で月1回理事会が行われるんですけど。理事会が終わるとメディアの方の担当の記者さんですか、局から何からもうずらっと並んで毎回記者会見なんですよ。だからすごく意見がきちんとメディアを通じて普及するし。あと政治家の方なんかも、個社とは会いづらいけど、こういう団体とは会いやすいんですよね。だからそれこそ、三木谷さんところの活動をさせていただいてから、何回も総理とお会いして、総理に直接お話ができるし、総理の話も聞くことができるし。こんなのなかなか個社であったら無理ですよね。(客席を向いて)ぜひご参加よろしくお願いいたします(笑)。

三木谷:やっぱり今までっていうのは、あたかも経団連の意向が、経済界の、要するに方向性であると。たとえば就職の問題にしてもそうですし、何の問題にしても。あたかも、メディアも含めて、すみません、「経団連がこうだ」って言うとですね、あたかも産業界、中小企業とかベンチャーも含めて、全部そうなんだっていうことでまとめられてたんですよね。でも新経連ができて、いや、必ずしも経団連が言っていることが、産業界すべての企業がそういうふうに同意しているわけじゃないっていうことがわかりましたし、それが言えるようになったし。

それからもうひとつ、シリコンバレーにはエコシステムがあって、基本的にはサンドヒルロードを中心とした、有力ベンチャーキャピタルのクライナー・パーキンスとか、セコイアキャピタルっていうのもあるし。最近で言えば、インキュベーターもいっぱい出てきてね。そのアカデミズムとキャピタリズムとテクノロジーの融合っていうのがどんどん起こっていってるわけですよね。日本はそれをなんとなく起こさせないぞ、みたいなことになっているんですよ、現実として。そこを打ち破らんといかんと。

関口:私もその会場にいましてですね、ビデオ出演も含めますと、安部総理が3回お顔を見せました。その1回はパーティーの席上で、たいてい総理って、来て挨拶してすぐ帰るんですけれども、そうでなくて会場の方と交わって、ということで。さらにその席上では、「どんどん言いたいことを言って、物議をかもしてほしい」ということを言っていかれたわけですね。

これはその政治家として、ある意味での経団連とこちらのバランスというのも考えているかも知れませんけども、少なくとも経団連寄り、あるいは古い体質寄りではないということを、はっきり明言したのではないかと思っているわけです。