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世の中には誠実な音楽と不誠実な音楽がある–人の感情を左右する音の話

世の中には誠実な音楽と不誠実な音楽がある–人の感情を左右する音の話

音楽は時には人の心を癒しますが、時には人の心に侵入し、感情が操作されてしまう危険な側面もあります。あなたが何かに対して抱いている感情、何かを欲しい、買いたいと思う感情は、本当にあなた自身のものなのでしょうか? 音楽を聞くリスナーと作曲家に必要なこととは何か。作曲家の渡邊崇氏は人々に問いかけました。参照動画内で流れる何曲かのBGMを聴きながら、それぞれの情景を思い浮かべてみるのもおすすめです。

スピーカー
作曲家 渡邊崇 氏
参照動画
The music easily invades you | Takashi Watanabe | TEDxKids@Chiyoda

BGMによってストーリーの印象が変わる

(会場に雨音が聞こえてくる) gazou001 渡邊崇氏(以下、渡邊) (傘をさし)僕は子供の頃、雨の音を聴くのが大好きでした。雨が降る夜は、いつもより早い時間にベッドにもぐりこみ、ベランダのトタン屋根に落ちる雨の音や、水しぶきを上げて走り抜ける車の音に、注意深く耳を傾けていました。 (雨音にピアノ曲が重なる) 雨の音と言いますが、雨には音はありません。 (雨音が消え、ピアノ曲だけが聞こえる) あるのは、雨が落ちて何かに当たった時にたてる音。ポツポツポツ、傘に落ちる雨の音。ポタポタポタ、葉っぱに落ちる雨の音。 パシャパシャパシャ、誰かが水たまりを踏んだ音。それらの音に注意深く耳を傾けながら、僕は、空想の世界を存分に楽しんでいました。 (ピアノ曲が終わる) こんにちは。 会場の子供達 こんにちは。 渡邊 わたしの名前は、渡邊崇(わたなべたかし)です。映画の音楽を作るのがわたしの仕事です。今日は、みなさんが想像している以上に、音楽がみなさんの気持ちに影響を与えているという事実を紹介しようと思います。 たとえば今、雨の音とピアノの曲を交えながら紹介した私の子供の頃のエピソード。雨の音が大好きで、雨の音に注意深く耳を傾けていたというエピソード。 今度は、同じエピソードに違う音楽をあてて、もう一度お話ししてみます。同じ話でも音楽が変わることで印象がどのように変わるか感じてみてください。 (雨音とヴァイオリン曲、パーカッションが重なって聞こえてくる) 僕は子供の頃、雨の音を聴くのが大好きでした。雨が降る夜は、いつもより早い時間にベッドにもぐりこみ、ベランダのトタン屋根に落ちる雨の音や、水しぶきを上げて走り抜ける車の音に、注意深く耳を傾けていました。 いかがでしょう?  会場の子供 おもしろかった! 渡邊 おもしろかった?(笑)ありがとう。同じ話ではありますが、違った印象をもたれたのではないでしょうか。 この少年はいったい何に注意深く耳を傾けていたのだろう? あるいは、ここから何かもっとおそろしい話が始まるのかもしれない。そのように感じられた方も中にはいらっしゃると思います。 (曲が止まる)

劇音楽はサイドストーリーを感じさせる効果がある

劇音楽には、表面に見えているストーリーとは別のところにあるサイドストーリーを感じさせる効果があります。他にも、登場人物の感情を音楽で説明することもあります。このようにして映画の印象というのは形作られていきます。 ところで、音楽に対して人はとても無防備です。聴く人を一瞬で遠くまで連れ去ってしまう、そんな魔法のような効果が音楽にはあります。聴いてみましょう。 (ギターの曲が聞こえてくる。そしてハーモニカの音が加わる) gazou003 僕はこの音楽を聴いている間、生まれ育った団地の風景を思い出していました。兄貴とはいつも喧嘩ばかりしていました。仲の悪い僕らを見て、両親はさぞかしつらかっただろうなと思います。 そんな仲の悪い兄弟でしたが、20代半ばになっても音楽で生計を立てることができず、暗いトンネルの中を這うような生活をしていた僕に「たかし、ハンパはするな!」と、音楽に向かって背中を押してくれたのも、その兄貴でした。そんな思い出がよみがえってきます。 (曲が止まる) 今、私は、10歳前後の頃、ここからは遠く離れた広島で、家族4人で暮らしていた頃のことを思い出していました。音楽を聴くことで記憶が刺激され、私は時間と空間を越えた場所へ一瞬で連れ去られてしまったわけです。 そのような魔法のような曲が、皆さんにも1曲、2曲、あることと思います。劇音楽の効果と、音楽の魔法についてお話ししました。 ここでひとつ作曲家として皆さんに申し上げたいことがあります。あなたの意思に関係なく、音楽は簡単にあなたの心に侵入します。そして、あなたの感情を操作してしまいます。 街に溢れる音楽、テレビをつけると、さまざまな情報とともに、音楽が送り出されてきます。あなたが何かに対して抱いている印象は、誰かに操作され作られた可能性がある。 あなたが何かに対して抱いている感情は、本当にあなた自身のものでしょうか? ニュース番組に音楽をつけることは、報道という観点からいって、果たして正しいことでしょうか?  何かをほしいと思う、何かを買いたいと思う、その感情は、本当にあなた自身のものでしょうか? 音楽がいつの間にかあなたの心に侵入し、操作してしまった可能性がある。一度疑ってみる必要があると思います。 映画の世界においてはともかく、現実の世界において、誰かに気持ちを操作されるのは、決して気持ちの良いものではありません。世の中には誠実な音楽もあれば、不誠実な音楽もあります。 私たちは音楽に対して、もっと注意深くあるべきです。そして、作曲家は誠実であるべきです。 音楽の怖い面についてお話ししましたが、音楽が怖いというわけではありません。それだけ音楽には人の心を捉える力があるということです。

音楽は人を支える柱になりうる

先日、アウシュビッツ強制収容所についての本を読みました。アウシュビッツは、第二次世界大戦中にドイツがポーランドに作った強制収容所です。 強制収容所での厳しい環境の中、多くの人が次々と命を落としていった。その中で生き残った人には、共通した資質があったそうです。決して、肉体的に頑丈で健康な人が生き残ったというわけではなかった。 その共通する資質とは、信仰があったか、音楽を愛していたか、ということだそうです。何もかも奪われて、微塵も希望が見えなくなったとしても、音楽はその人を支える柱になりうる、音楽にはそのような力があります。 それでは、自分が自分で思っている以上に音楽に操作されてしまっていないか、どのように判断すべきでしょうか? 試してみるとおもしろいことがあります。 テレビを見ない日を作ってみたらどうでしょう。週に1日、できれば2、3日。ラジオも消してみる。自然と、自分がどのような音に囲まれて暮らしているのかがみえてくるはずです。 音楽というより、音に敏感になってきます。目を閉じて想像してみてください。聞こえてくるのは、いつも見過ごしていたさまざまな音。 (ピアノの音とともに、水の音、紙の擦れ合う音、電話のベル、時計の音……、さまざまな音が聞こえてくる) 敏感になった感覚を持って、もう一度日常に溢れている音に触れてみると良いと思います。 みんなで共有しているこの世界で、自分はいったいどんな音を立てるのだろう、そして、子供たち、君たちはいったいどんな新しい音でこの世界を飾りたいと思いますか? それらについて考えることは、誰かを思いやることへとつながっていきます。もう一度目を閉じて耳をすましてみてください。たくさんの音が聞こえてきます。 gazou007 ありがとうございました。 (会場拍手)

  
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