プラットフォームで大切なのは「共有価値」である

尾原和啓氏(以下、尾原):どうもこんばんは、梅田さん。

UZABASE梅田優祐氏(以下、梅田):こんばんは。

尾原『ザ・プラットフォーム―IT企業はなぜ世界を変えるのか?』いかがでした?

梅田:正に我々「SPEEDA」と「NewsPicks」という2つのプラットフォームを開発して運営している真っ最中なので、なんだか僕のためにある本だなと思いました(笑)。

尾原:わはは(笑)。

梅田:僕のために書いてくれたんじゃないかと思うぐらい、いろいろ考えさせられましたね。

尾原:特にこの辺が、というのはありますか?

梅田:たくさんメモっていて、いろいろな事例も出していただいてますけど、その中でも尾原さんの言葉で言う「共有価値」、もしくはビジョンや思想というのが、プラットフォームを作る上で本当に大切であるというところですね。

僕たちもNewsPicksの機能とか、いろんな意思決定を日々するわけです。コメントの出し方のロジックをどうするのかとか、すごく細かい意思決定をしています。そういった意思決定の全てが思想に繋がってないと、いいプラットフォームって絶対にできない。それはすごく実感しましたね。

大企業ドコモでiモードというプラットフォームができた理由

梅田:そこでひとつ不思議だったのが、だからこそプラットフォームを作る会社って、みんなオーナー企業なんですよね。強い思想を持ったオーナーがいて、それでその思想をプロダクトにしていくのかなと思うんです。

そんな中で、ドコモだけが大企業で、あのiモードを作ったのは逆にすごいなぁと思いましたね。

尾原:うん。あれはいくつか背景もあって、iモードというものが「会社の戦略としてはやらなきゃいけないけど、まだ早すぎるよね」ということで、ドコモという組織の論理に縛られずに作れた希有な例なんですよ。

梅田:すごいなぁと思って。イノベーションとかプラットフォームってスタートアップや強烈なオーナーがいる会社でないとできないと思われていたものが、大企業でも作れるんだぞという一つの大きな事例になるなという視点でも感心して見てましたね。

尾原:ドコモのiモードの戦略的なところとかマーケティング的な話は結構語られてるんですけれども、コアとなった運営思想や哲学については、実はあまり語られてなかった。

それはなぜかと言うと、iモードを作った夏野(剛)さんが、「iモードというのはコンテンツが中心で、コンテンツプロバイダーさんこそがiモードを支えている」ということをすごく大事にされていたので、あまり裏側の話がされなかったんですよ。

そういうところがやっぱりもったいないと思ったので、今回書かせていただいた部分があります。

梅田:そうですよね。ちゃんとすべて筋が通っていますよね。価値が全てに通っているのは、本当に大切だなと思います。

UZABASE・梅田氏のGoogle原体験

尾原:そういう中で、本当は僕も梅田さんの哲学を勝手に邪推して本の中で書きたかったんですが、スペースが無かった。

僕からすると、梅田さんのUZABASEって、ある意味ファイナンスのプラットフォームとして上場できるぐらいの利益を生める体制になっているのに、もう一つNewsPicksを積み上げていて。それは僕から見るとブルームバーグ2.0を目指されているんじゃないのかと。

経済情報とニュースというふたつのプラットフォームを持たなければいけないんじゃないかという、梅田さんの信念に近いようなものを勝手に思っていて、そういったところの想いとか哲学を聞きたいんです。

梅田:なるほど。尾原さんは、邪推するのがすごいですよね。

尾原:あはははは(笑)。

梅田:本の中でも、すごくいい解説だなぁと思ったんですよ。AppleやGoogleが、なぜこういうプロダクトを出しているのか、なぜ億を出して買ったのか、すべて筋を通して解説してくれているので、妄想力がすごいなぁと思って(笑)。

尾原:そうですね(笑)。いろんな裏は取りに行っているんですけどね。

梅田:ちゃんと話が通っていますからね。僕の場合は、もしかしたら尾原さんが言うほどには信念はないかもしれないです。ただ、普通にいち金融マンとして働いていた時に、明らかに非合理的・非近代的な世界があったんですよ。

僕の世代はGoogleの誕生に立ち会っている世代ですけど、GoogleによってB2Cの世界って劇的に変わって、「これは世界が変わるぞ!」と大学生の時に実感したんですよ。

一方で仕事になった瞬間に、尾原さんと同じCDI(Corporate Directions, Inc.)に勤めていたときは、私も有価証券報告書を全部手で打ち込むとか(笑)、すごい使いにくいシステムを、マニュアルを一生懸命読みながらやってたりして。

「なんで仕事になった瞬間に、Googleが作ったような世界とかけ離れたような世界になるんだろう?」というのが一番の原体験です。だから、仕事の世界でもGoogleのように圧倒的にシンプルでクールなインフラを作り上げたいというところから会社を始めたところがあるので、ひたすらそこに向かっている感じなんですよね。

たまたま最初は一番やりやすかったB2Bの「SPEEDA」というところから始めたんですけど、経済ニュースは必ずやらなければいけないと最初から思っていました。

プラットフォーム立ち上げ時に、思想を説明するのは難しい

梅田:そうこうしているうちにスマホが急速に日常の中に浸透していくのを見て、このタイミングでやらなかったら難しいなと。だからタイミング的にはスマホの浸透の早さがありました。

そうすると、特にプラットフォームを作っていくときには、尾原さんの質問にも出てきましたけど、価値観や思想をどこまで徹底できるかが非常に重要です。

だから上場ではなくて、今は未上場でじっくり腰を据えてできるようにすべきだと考えて、ベンチャーキャピタルさんから出資を得てやっています。

尾原:まさにそうですよね。プラットフォームの変化が、その上に乗るアプリケーションの革命ポイントになるから、そこを逃さないために、どうリソースを調達するかという話で。上場はひとつの手段ということですよね。

梅田:もちろんそうですね。ただ、最初にプラットフォームを作るときって、なかなか説明しにくいんですよね。なんでこんなところに出ているんだとか、なんでこういう方向に行くのかというのは、思想的な領域があるので。だから少数の株主で、未上場で腰を据えて作っていくのが向いていると思います。

尾原:そうですよね。先ほどおっしゃったように、「SPEEDA」というB2Bの経済情報をやっていたのに、「なんでユーザーがコメントをつけてくタイプのニュースアグリゲーションなの?」と思う人は必ずいます。

経済のビジネスをやっていて、その状況を理解しているバックボーンがあればある程度わかるけど、普通の方からしたら、「何でそんなジャンルにジャンプするの? しかもビジネスもB2Bから変わっちゃって」というのは、ビジネスの作り方も年数がかかるし、理解はされにくいですよね。

梅田:難しいですよね。今はようやく少しずつユーザーさんもついてきて、有料課金も増えてきたので、説明しやすくはなっていると思うんですが、最初はなかなか難しいですね。

なぜ経済情報にユーザーのコメントを持ち込んだのか

尾原:スマホというインフラストラクチャーのチェンジもある中で、NewsPicksという経済情報のアプリをユーザーのコメントにある程度任せるプラットフォームにしたのは特にものすごい英断だったと思うんですよね。

梅田:本当ですか? ありがとうございます。

尾原:それは何故なんですか?

梅田:あれは本当に原体験からで、「どういうニュース体験が今までで一番いい体験だったか」というのを、ビジネス金融業界で働いていた時を思い返して考えてみたんです。

そうすると、ただ単に「M&Aが起こりました」というニュースが来てそれ読むだけではなくて、「すごいね」という単純な感想だったり、解説をし始めるような先輩が出てきたりして、周りにいっぱい反応が起きるじゃないですか。

大きなニュースが起こって、ニュースとニュースによって起きる周りの反応がセットになるとき。このニュース体験が、自分にとっては一番意味のあるものになっていたなと思ったんです。その体験をインターネット上で再現できないかというのが最初のスタートでしたね。

尾原:なるほど!

人ではなく、ニュースにだけ向き合うようにする設計

尾原:あともう一つ。ある意味「ニュースに対してのユーザーの議論の方が大事だ」というので成功したのがハフィントンポストじゃないですか。

だけど、欧米と日本の最大の差って、欧米は議論文化なんだけど、日本はコメント言い放ち文化なんですよね。何かコメントしたいけど、そこで議論はしたくない。

梅田:そうですね。それは後から尾原さんに言われて「なるほど」と思ったんですけど、僕たちも潜在的に感じてNewsPicksの設計にしたんですね。ポジティブな場にするには、人が何に向き合うのかをはっきりさせないといけないなと思って。

そのために、人同士が向き合うのではなくて、ニュースとしか向き合わない。1記事に対して1コメントしかできなくて、そのコメントには「いいね!」というポジティブなリアクションしかできない設計にしたんです。それが良かったかなと、振り返って思います。

尾原:確かに今の言葉は至言ですよね。「人に向き合うんじゃなくて、ニュースにだけ向き合うようにする」。この前の大阪都構想の住民投票も、賛成派は構想に向き合っているんだけど、反対派は結局、橋下さんという人に向き合っているんですよね。

日本人には、人に向き合ってしまいがちな文化がなぜかあって、それは多分、初等教育においてディスカッション文化がちゃんと教えられていないということもあると思います。だから、NewsPicksの「もの」にしか向かないアーキテクチャーは本当に素晴らしい革命点だと僕は思うんですよ。

梅田:ありがとうございます。

「神の手」を入れるようになった理由

梅田:あと、プラットフォームを運営していく中で、この1年間で感じたのは、規模によって全然形が変わっていくということで。

最初はNewsPicksでは、とにかくユーザーさんの手にしか任せていなかったんですね。人気記事もユーザーさんのピックでしか決まらなかったですし、コメントもユーザーさんの「いいね!」でしか決まらなかったんです。

今は半分は運営側がいい記事を決めて、コメントもアルゴリズムを入れて、ユーザーさんの「いいね!」の数だけではない設定で、いいコメントが決まるようになっています。

つまり半分統制社会、半分自由社会みたいな、ミックスしているようなかたちなんですよね。ここもプラットフォーム運営での難しさと思想が問われるところだと感じていますね。

尾原:ちなみに何故に半分を統制しなきゃと思ったんですか?

梅田:やっぱりやっていくうちに、ピック率やユーザーの興味関心だけを基準にすると、キャリアハック系の記事だったり炎上系の記事だったり、同じような記事ばっかりになっちゃったんです。

でも僕たちは、ビジネスパーソンの意思決定にしっかり資するようなメディアにしていきたかったので、たとえコメントが少なくても、これは絶対に読まなきゃいけないという記事については、ある意味「神の手」みたいなかたちで編集部が手を入れていくようにしたのが、大きな方向転換としてありましたね。

尾原:それは本当に大事ですよね。どうしてもコミュニティって縮小傾向のほうに向かいがちで。

梅田:均質化してきますよね。これはやってみて、すごく感じました。

尾原:難しいのは、人は承認欲求の塊なので、NewsPicksさんのように「いいね!」とかポジティブなコメントが入りやすい設計だと、どうしても承認欲求の快楽のほうに流れやすくなっちゃう。

梅田:そうなんですよね。

尾原:そうすると、どうしても「いいね!」やコメントが集まりやすい記事をピックしてしまおうという偏向がかかっちゃう。そういう意味で、佐々木紀彦さんをお連れしてきたことを含めて、そこのバランスを取っていると。

梅田:そうですね。今は一つ、自由と統制をうまくミックスさせていくという解が出つつあるかなと思っていますね。

日本のプラットフォームにはミクスチャーの面白さがある

尾原:プラットフォームというと、ついつい何かのアルゴリズムによって作られて全部機械的に運営されているように思いがちですけども、実は日本のプラットフォームの良さは、人間がやるお膳立ての部分と機械でやったりユーザーに任せるところのミクスチャーの面白さですよね。

梅田:それは書籍を読んで感じましたね。ドコモさんもそうですし、リクルートさんもそうですし、非常にうまく融合させてましたよね。

尾原:そうですね。だからニコ動もカテゴリーの作り方とかにすごく意思があるんですよ。

梅田:あれも「神の手」を入れてますよね。

尾原:やっぱり適切な「神の手」によって、ちゃんとメディアとしてのポリシーや方向性を示しながら、ユーザーと共に育っていかないと。

梅田:神の手を入れる以上、本当に思想が問われるんですよね。その場対応をしちゃうのは御法度で、しっかりと筋の通った運営をしていくのが本当に大切だなと思います。

尾原:本当にそうですね。

梅田:昨日もいろいろ炎上したみたいですけど(笑)、しっかりとユーザーさんと一緒に作っていきたいなと思います。

尾原:そうですね。さきほども言われましたけど、コミュニティーのサイズによって進化のフェーズは変わってくるので、そこのバランスや変化が楽しみです。本当にありがとうございました。あっという間の10分でした。

梅田優祐(うめだ・ゆうすけ) コーポレイトディレクション、UBS証券投資銀行本部を経て、2008年に株式会社ユーザベース(UZABASE,INC)を設立し、代表取締役共同経営者に就任。産業、企業分析のための経済情報プラットフォーム「SPEEDA」と経済に特化したニュースプラットフォーム「NewsPicks」を展開。東京、シンガポール、香港、上海に拠点を構える

尾原和啓(おばら・かずひろ) Fringe81執行役員、PLANETS取締役。マッキンゼー、Google、楽天執行役員リクルート(2回)等を経て、現在12職目。バリ島から各役員を兼務し人を紡いでいる。TED日本オーディションなど私事で従事。前著『ITビジネスの原理』はKindle総合1位、ビジネス書年間7位。詳細プロフィール