お金の使い時、直感はどこで働くのか?

山口揚平氏(以下、山口):お金を使うというのは、基本的には今の皆さんがやっていらっしゃるサービスはインターネット、クラウド型の情報サービスですので、ほとんど人件費か、あるいは広告費といったものになると思うんですね。

その特に広告費ですけれども、広告費と言いますか「これでイケる」という勘の使い方、集中してドカーンと突っ込むタイミングがあると思うんですね「ここだ!」と。それを見極めるまでには、いろんなお金をちょこちょこ使うのかもしれません。

ただ1点に集中して見つけたら、ドンとそこに行くんだといった、そういった勘がintuitionというんですか? 直感のほうですね、働く方だなと。松本さんは、もともとトレーダーで勝負師でいらっしゃいますし、森川さんも企業経営をなさる中で、先ほど言った突っ込みどころの話が出てきました。

辻さんも、1位にならなきゃ意味がないんだという話をされていましたがそういった、ここだ! もしお金を調達できたとして、今度は逆に使うあれですね。どこで使うんだというところの直感ってどこから来るんですか?

松本大氏(以下、松本):直感? ちなみに、例えば当社においてはお金を使う場所というのは、広告じゃなくて技術ですよね。技術のほうが恐らく、広告マーケティングの20倍から50倍ぐらい必要になるので、技術関係の投資が断トツに高くて、これってすごい難しくて技術ってちょっとするともう陳腐化しちゃうので、すごく怖いですけれどもね。

でも直感はわかんないけれども、経営者って結局結果責任なので、間違えたらもうやめるしかないし、そうだと思いますけれども。

参謀や社外取締役など、判断のための材料を集めなければならない

山口:そうですね。松本さんのマネックスグループで言いますと、技術という言葉を使ったときには、情報技術の部分と金融技術といいますか、こういう分け方がいいかどうかわからないですが。

松本:今はもう情報技術のほうのが、全然ヘビーです。ハードウェアもあるし、ソフトウェアっていうか、その開発する部分もあるし、あとネットワークであるとか、やっぱり情報技術の部分がいくら安くなったとはいっても、うちみたいな会社だとやっぱりそれが膨大ですよね。

山口:その判断を金融畑の松本さんが、もちろん15年以上経営されていますから御存じだと思うんですけれども、判断をするっていうのは難しいものなんですか? それとも、もう……。

松本:めちゃくちゃ難しいですよね。でも、それができなくなったら辞めるしかないと思いますけれども。それができるように、参謀というかスタッフをそろえるとか、あるいはそれのサジェッションをもらえるような社外取締役を入れるとか。

いろんな形でその情報とかアドバイスを得たり、ディスカッションしたりするわけですけれども、それは簡単ではないけれども、なんかできなくなったら、もう辞めなければいけない、そういうふうにならないようにしっかり判断ができるような材料は、ちゃんと集めなきゃいけないんだと思いますけれども。

「失敗したらもうおしまい」勝負するのは次のステップに進むとき

山口:森川さんは、どうですか? 先ほど、どこでこう……。

森川亮氏(以下、森川):そうですね。あんまり自分の直感は信じてなくて、直感でやると大体半分ぐらい失敗しますから。失敗すると、もうおしまいですからね。なので、なるべく直感ではなく、多分張るときっていうのは結局なだらかなままでいって、このままだと大きく伸びないときに、次の階段に登るときのタイミングだと思うんですね。

そのときに多分なだらかなものが、どんどん非効率になってきたりとか、それこそ下がり始めたら次はやらなきゃいけないので、多分そこにマーケティングなのか新規事業なのか、何か大きな方向性が必要で、そこは多分次の波をどうつかむかって、そういう話だと思うんですけれども。

そこもやっぱり数字が大事かなと思っていて、全く何もないところに何かをつくるっていうのは、なかなかリスクが高くてほとんど失敗するんですよね。でも、3回それをやって失敗したら、もうおしまいですから、やっぱり世界一の流れを見て、先行指標がどこかにあるはずだと思うんですね、いくつかターゲットによって。

その動きを見ながら周期を予測して、で、いいタイミングで出すっていうところかなと思うので、常に先行指標を見ながら大体どのあたりに来ているとか、いつ頃来そうだというのをパラメーター化して、ちょこちょこ見るようにはしていますね。

経営者は帰納法的であれ

松本:案外、演繹的ではなくて帰納法的なんだと思うんですけれども、我々の仕事って。

森川:そうですね。

松本:見た目は、すごい突拍子もないことをしているように見せるほうが得なんですけれども、そうですよね。実際にやってることってかなりいろんな情報を収集して、先行指標とか見たりして、帰納法的に決めていることが本当多いんじゃないのかなっていうふうに思いますけれども。

山口:帰納法的って。

森川:うちの場合は、競争がそんなに厳しくないからやりやすくて、うちの場合は明らかに顕在化しているのにNOという人が結構多いので、そういう意味だとやりやすいかもしれないですね比較的。

山口:帰納法というのは、つまり数字や現実を大事にして、自分の直感とか経験よりも、記録した数字であるとか世の中にある現象を、みんながやっている行動から推察して、意思決定をするということだと思うんですけれども。

先ほど伺っていますと、森川さんは自分の時間の使い方、自分が食べたもの、それから自分のお金でしたっけ? を全部記録しているというふうにおっしゃっていましたけれども。それはどういうお考えから来ているんですか?

森川:自分も1つの会社だと見立てたときに、どれだけ成長できるのかみたいな、そういう話なんですけれども。結局、人の結果っていうのは、食べたものと過ごした時間と使ったお金のアウトプットだと思うんですね。

それがものによって周期が違うので、その結果ともとを比較しながら、どういうふうに自分という1つの組織を育てると、大きく成長するかみたいな、そういうのを分析したりしていますね。ちょっと、変態ですね(笑)。

山口:いや、もうこのセッションの中で、皆さんも感じられていると思うんですけれども、私も非常にびっくりしたんです。非常に知的かつ緻密で、新しいものを取り入れながらも、現実に即してそして事実に基づいて判断される、そういうふうなタイプといいますか……。

森川:多分、僕は天才ではないので、やっぱり地道な努力をしないと結果が出なかったんですよね。多分、本当にすごい人っていうのは、もしかして勘でバーンとやってバーンと当たる人もいるかもしれないんですけれども、やっぱりなかなかそういうのって難しいので、結構積み上げの部分が大事かなと思いますね。

天才に見えても、トライアンドエラーから仮説を立てている

松本:僕は、経営者としてはまだまだ未熟で結果が出てないと思っているので、経営者として何も言えることがないんですけれども、トレーダーとしてはもう過去の話であると。トレーダーとしては、かなり優秀なトレーダーだったんですけれども。

山口:知っています。30歳で。

松本:トレーダーの立場で言っても、やっぱりすごいトレーダーに天才なんていないんですね。一見、そういうふうに見えるようで本当に草刈りをして、本当に下作業をしっかりやり、常にPDCAっていうか、トライアンドエラーで仮説を立てて、それのフィードバックを得て云々という。

マーケットが絶対であり、自分がマーケットより正しいということはないので、いつもマーケットを理解する、自分を理解させるんじゃなくて、マーケットに自分を合わせていくという、それの繰り返しであり、それができる人がトレーダーとして大成するんだと思うんです。

経営者もそうなのかどうか、まだ私には見切れていない、わからないんですけれども、少なくともトレーディングなんかでも、そういうことは言えると私は思いますけれども。

山口:ありがとうございます。まさに今、PDCAというお話が出ましたけれども、すごく大事だなと思って、勉強のできない人が問題集をずっと解く作業ですよね。勉強できる人にとっては、問題集を解くっていうことは作業に過ぎなくて、勉強ではないと。

勉強というのは、プランを立てて作業をして、それをトラッキングしてマネーフォワードみたいにトラッキングをして、そしてフィードバックを受けて何がうまくいかなかったかで、もう1回また違うやり方をやるという、これを回し続ける。

そうすると、今日伺っていて会うといつも松本さん、明るいんですけれども、つまり挫折がないといいますか、「うまくいかなかったやり方がありましたね!」というふうな感じで、回し続けるというか。

それはすごく3人とも非常に得意で、だからトラッキングするし、だからフィードバックを受ける、そしてプランを変更する、そんな流れをすごく感じております。

チームのベクトルを合わせるには?

辻庸介氏(以下、辻):僕もせっかくなんでお伺いしたいんですけれども。起業をして、このまま皆さんもそうだと思うんですけれども、今の現状はこうなっていると、半年後、1年後はこうなりますと森川さんおっしゃったように、大体想像がつきますと。

それを是としないので、じゃあこの成長曲線を上げましょうということで、これをやってみよう、あれをやってみようみたいないろんなことをチャレンジします。それでPDCAサイクルでぐるぐる回していくと思うんですけれども。

そこの個々の上げるための施策、ヒト・モノ・カネみたいなところで、それって自分の引き出しの量に結構よるのかなと思っていて、その引き出しがまだ経営者として少ないので、もっといい方法がきっとあるんだろうなと思いながらやっているんですけれども。

その引き出しをどうやってふやしていくのか? 皆さんリーダー、そういうお考えで、経営者の方が今日多いのであれだと思うんですけれども、経営陣とメンバー、社員の人をどういうふうに方向性を一緒に持っていきながら、チームとして結果を出していくのか? その2点をぜひお聞きしたいなと思うんですけれども。

すみません、僕が質問者になってしまっているんですけれども。

コミュニケーションは効率化できない

松本:2つ目は簡単なので、それに答えていいですか? 2つ目は簡単ですよね。そのチームのベクトルを合わせるというのは。これはコミュニケーションするしか、とにかく説明するしかないですよ。

それは、実はチームメンバーだけじゃなくて、いろんな意味でのステークホルダー、株主であるとか、お客様であるとか、全部同じなんだと思うんですけれども、とにかくコミュニケーション、説明するしかない。

私はまた、コミュニケーションと睡眠は似ているというふうに思っていまして、効率化できないんですよ。

半分の時間寝たら、それは半分の時間寝たことにしかならなくて、半分の時間でちゃんと伝えようなんて無理で、半分の時間だったら半分しか伝わらないので、ローテクでなるべくいっぱい時間をかけて説明する以外にはないっていうふうに私は思っています。

:おもしろいです。じゃあ、コミュニケーション時間のかかるメンバーも、ひたすらコミュニケーションコストをかけて、時間をかけて伝える?

松本:大変ですよね。コミュニケーションにかける時間の量とかエネルギーって膨大ですよね。私は「つぶやき」って書いているじゃないですか、コラム。もう16年間、1営業日も休まずにコラムを書いているんですけれども、もう4千回ぐらいになるんですけれども。

あれも大変な作業で、でもあれって結局お客様をはじめ、いろんな社員も含めていろんな人に対する1つのコミュニケーションのファウンデーションというか、ベースなんだと思うんですね。そういうのも頑張って続けたりとか、とにかくコミュニケーションに費やすエネルギーは、膨大ですね。

1番目はちょっと難しいので、森川さんに答えていただいて(笑)。

似たモデルを観察して、直近の事例をスキャンする

森川:引き出しですかね。昔は結構過去の事例を分析して、それが活かせることが多かったんですけれども。最近はもちろん活かせるものもあるんですけれども、活かせないものも結構増えてきたので、やっぱり直近の事例をどれだけ吸収するかっていうところじゃないですかね。

特に、自分と近い業界とか近いサービスモデルとか、そこがどういう変遷をして、どういう失敗、成功をしてきたのかの奥深いところを知ると、それはすぐに応用がきくと思うんですね。

例えば考えて出す周期とか、どんどん短くなったりとか、成長のスピードが速くなったりとか、最初から海外を狙うとか、昔とはちょっとやり方が違ってきているので、そのあたりの直近の事例をスキャンして、それを生かすのが重要かなと思いますね。

:皆さんの経営をやられていて、直近の周りに似たような業種であるとか、成功をしている例えば税理士先生の事務所さんとか、会社とかそういうのを観察する?

森川:そうですね。似たようなモデルを観察して、いいところをどんどん盗むといいと思うんですね。

松本:競合分析ということですよね。

森川:そうですね。

松本:自分だけ特別なモデルがあるなんてことは多分、世界中で例えば1社、Appleだけとか、そういうレベルでしか発生しないことなので、普通は絶対周りに同じことをやっている同じカテゴリがいますよね。そうすると、最近競合分析というのがかっこ悪いけれども、実はすごい重要なので。

:なるほど。

ロジカルに考えすぎないこと

森川:そうですね。例えば、違う業界なんだけれども、自分たちの立ち位置と近いとか、そういうのも結構重要だったりしますよね。例えば僕なんかサービスだと、結構ラーメンに例えたりするんですね。どうしても人間ってロジカルに考え過ぎちゃうので。

でもラーメンの味をロジックに語る人ってあんまりいないので、直感でユーザーさんの反応を見やすいというか、そういうところは結構置き換えも重要かなと思っています。

これコミュニケーションも言えるんですけれども、コミュニケーションはわかりやすく伝えることも結構重要だと思っていまして、もちろんLINEも使ってね、コミュニケーションしていますけれども。わかりやすさは、気をつけます。メタファーとか。

:ラーメンというのは、塩ラーメン、とんこつラーメンとか、そういうことですか?

森川:そう。例えばよく、いろんなニーズがあるから、いろんなものを出しましょうというと、じゃあ塩ラーメンと、とんこつラーメンとあるお店でナンバー1が取れるんですか? みたいな話を例えばしたりするんですね。

:どっかに尖らないと、特徴を持たないと無類のラーメン屋はないと。

森川:やっぱりわかりやすさが重要というか、ブランドって結局、これだって説明がなくてもわかるようなものが重要なので、何かそういうのをちょっと置き換えて説明をしたりしているんですね。

:なるほど。

「お金は社会インフラのひとつ」動いてはじめて意味を持つ

山口:大変勉強になりました。時間が、あと1分しかございませんが、一応全然その話になってないんですが、一応テーマとしては「お金と企業経営」でございますので最後は、皆さんにとってお金とは何かということをちょっと伺ってもよろしいですか? 誰からでも大丈夫です。

松本:一応お金の専門家として、お金とは社会財だと思うんですね。社会財というのは、貝へんに才の社会財。でも、インフラストラクチャーですね。ただ、道路とか上下水道とか建物という社会財は、動かないこと、形が変わらないことで価値がある。

けれどもお金という社会財は、動くことで初めて社会に対して何かしらの効用を持てるんだと思うんですね。タンス預金していても、多分何の役にも立たない、誰の役にも立たない。

うまくお金を使うことにより、それが社会に対して効用をもたらして、ひいては自分にそれがリターンとして戻ってくる場合もあるということだというふうに思っていて、だからお金っていうのは、そういう社会インフラの1つであり、今の自由主義資本経済の中でも最も重要な要素、社会インフラの1つで社会財の1つであり、かつそれは動かしてはじめて意味のあるものであるというふうに、私は思っています。

山口:ありがとうございます。

お金はツールに過ぎず、何をするかが大切

森川:じゃあ、私。個人も会社も、結果的にはお金と時間と健康の3つが大事だと思ってて、時間と健康というのは、なかなか大きく増やしたりとか、大きく改善したりって難しいんですけれども。

お金に関してはそれがノウハウとか何か情報とかあれば可能だということなので、やっぱりその部分をちゃんと知ることとしてマネーフォワードを使って管理すること、こういうことが結構重要だと思うので、ぜひ皆さん使ってあげてください。よろしくお願いします。

:僕は、やはりマネーフォワードってお金の見える化をまずやろうとしてやっているんですけれども、今日話をお聞きして、お金、健康、時間、結局お金ってツールに過ぎないので。

何をするか、その結果がどうだったかというのまで見える化できるサービスにすると、非常に人に役に立つサービスになるんだろうと、今日ちょっとお聞きしていて気づきがありました。山口さんも何かお金の専門家として、最後ぜひ。

「最強言語」数字に、信用が添加されたのがお金

山口:私も東京大学経済学研究科貨幣論専攻でございまして、お金といいますのは数字ですと。信用を伴う数字というのが正しい定義なんですね。ただ、信用がある数字であればいいだろうと。

数字って何ですかっていうと、数字っていうのは最強言語、最終言語といいまして、インターネットを20億人が使います、英語を22億人が使いますと。数字を使うのって80億人が全員使うんですね。だから、誤解のない言語、no frictionというんですが、摩擦のない言語、これがお金の定義ですねと。

ただ、今行われている貨幣論といいますか、お金の世界の大きな動きはこれまで、じゃあ、お金って数字ですと。ただ、数字には信用が伴わないといけないよという、これがお金ですね。ただの数字じゃ、意味ないんですね。で、ジンバブエドルとか意味ないんですね。

このお金の信用を担保していたのが、この60年間は国家だったんですね中央銀行が。それが新しく、ビットコインみたいな無国籍通貨というのが出てきて。

そうすると信用を担保すれば別に企業であっても、コンピュータのアルゴリズムであっても、何でもかまわないよというふうなものがかかってきて、そうすると国家どうするの? というのが、今の貨幣論のホットトピックです。

さらに進んでいる人は「あれ? 別に経済っていうのは価値を回すだけだから、お金を使わなくてもいいんじゃないの?」と。これをギフトエコノミーとか、ソーシャル・キャピタルっていうところで研究をしている人もいますという、客観的なご説明で終わらせていただきますけれども。

もう、3分ほど時間が経ってしまいましたので、最後にお三方に盛大な拍手を皆さんのほうから、よろしくお願いいたします。

一同:ありがとうございました。

制作協力:VoXT