一体験は百見にしかず

小野裕史氏(以下、小野):もうひとつのテーマは「実際にどう実現していくか」なんですが、実際みなさんも実現できていないことって、たくさんあるかもしれません。

お二人は今まで「アイデアはできたけど実現できなかった」とか「それをどう乗り越えたか」といったエピソードはありますか?

渡邉康太郎氏(以下、渡邉):今、僕たちは「NHK Eテレ」で子供向けの教育番組に携わっています。『ミミクリーズ』って見たことがある方もいるかもしれませんが。

デザインや科学のエッセンスを込めた、10分くらいの、かわいらしい番組なんですけど。自然界にあるルールとかアルゴリズムみたいなのをわかりやすく表現して、子供ながらに科学的な目線を養うことがゴールです。

そのなかで、僕たちには「映像で見せるだけじゃなくて体験できるものにしたい」という想いがあったんです。どういうことかというと、たとえば木の枝が生えて「枝わかれ」していく様子を表現したいとする。

それは絵やアニメーションでも表現できるから「映像で見せればいいじゃん」と考える人もいます。でもそこで「体験できるほうがおもしろいし価値がある」といくら議論しても全然伝わらなかった。それで、デモを作ってみたんです。

オーディオコントロールに使うような、指でつまんで操作するスライダーがありますよね。あれを2つ用意して、PC上のプログラムと接続します。

「枝が伸びる(枝わかれが増える)」スライダーと「枝が開く」スライダーを自分で操作すると、画面の中の木がすごく高く伸びたり、フサフサになったり、すごく小さくなったりする。

それを見たら「映像でいいじゃん」と言ってた人も「体験するってこういうことね!」と理解してくれた。

「百聞は一見にしかず」っていう言葉があるけど「一体験は百見にしかず」もしかり。とにかく体験できるものを早い段階で作って、一緒に体験を共有する。

世界に引き込んで価値観を共有するための、そういう術が必要だと思います。

小野:アイデアだけじゃなくて、小さくてもいいから、ものにしてしまうんですね。

渡邉:そうです。

AppStoreの「おすすめ」に載るための施策

小野:荒木さんは何かエピソードがありますか?

荒木英士氏(以下、荒木):自分のアイデアに上司やクライアントが納得しない「こんなおもしろいのに何でわかってくれないんだ!」ということは、みなさんもこれからたくさんあると思うんです。

そういうときに形にして見せちゃうと、議論が具体的になって突破口になるから「作る能力」というのは非常に大事だと思います。

もう1個は、相手は人なので「この人の承認を得なければいけない」というときは、その人のタイプを見て、その人用に対策をするのが大事。

たとえば「自分の意見が入っていないものは否定したくなる」人がいる。この場合はすごくわかりやすいテクニックがあって、ツッコミどころや穴がある状態でアイデアを持っていくんです。そうすると指摘をいっぱいされる。

で、次に「○○さんの意見を取り入れてきました!」って持っていくと向こうは否定しにくいんですよ。そういうふうに提案者と承認者じゃなくてインサイダーにしてしまう。

似たようなことが最近ゲームでありまして。みなさんよくスマートフォンでAppStoreとか見るじゃないですか?

トップページにいくと「おすすめ」って並んでますよね。あれはこのビジネスにとっては、すごく重要なんです。

あれに「おすすめ」として載ると、広告費としては数千万円とか数億円に相当するものなんですね。なのでスマートフォンのアプリビジネスをしている人にとっては、あそこに載ることはとても重要になってくるんですよ。

そのためには基本的には良いアプリを作ること、に尽きるのですが、その他にも大事なことがあって。まずはAppleやGoogleの編成担当をしている人とコミュニケーションしていくことが大前提なんですけども。

僕がこの前試したことは「とにかくあの上に載るゲームが作りたい」ということで、ゲームのプロトタイプを作ってAppleに持っていったんですよ。

「こんなの考えているんですけど、どう思います?」と聞くと「こうしたほうが良いんじゃない?」と言われるから、作ってまた持っていくんです。

作って、レビューしてもらって、の繰り返しで実際プロダクトは良くなっていくし、一方的に提案する側とそれを評価する側という立場から徐々にパートナーに近づいていく。

もちろんだからといって最終的にAppStoreに載るとは保証されないけど、お互いの意図とかがわかってくることにより結果的にユーザーに届けられるプロダクトの品質が上がっていく。

そうやって、一緒に取り組んでくれる人、応援してくれる人を増やすのは大切だと思います。

小野:非常に具体的な事例ありがとうございます。

ビジョンやゴールを明確に

小野:ここから先は会場からも質問を受け付けたいと思いますが、今日のテーマ「アイデアの発想方法」という視点から聞いてみたいという方はいますか?

はい、そちらの方。

質問者:課題についてアイデアを考えることがあるんですが、課題が統一しないんです。チームでブレストをした後の統一方法というのを教えていただければ幸いです。お願いします。

小野:課題がまとまらない?

質問者:「就活支援がやりたい」と言う人と「ファッションショーがやりたい」と言う人がいたときに、片方を説得するというのも難しくて。そういうときは、どう統一をしていったらいいかという悩みです。

荒木:まず目的が違うってことですよね?

質問者:そうです。

荒木:ゴール自体が決まっていないというのは、確かにビジネスでは起こりにくい事象ですね。学生団体だからこそ起きるのかもしれない。

そういうときは「一番みんなをエキサイトさせられるアイデアを出したやつが勝ち」っていうのもいいんじゃないですか?

「それをやってみたい」という人が多いものを進めたほうが結果的にうまくいくと思います。

小野:ここにいる2人は成功している会社ですけど、うまくいってない会社は、やりたいことが微妙にズレていたりするんです。さっきの『ONE PIECE』の話じゃないですけど、あの中に1人だけドラゴンボール的なやつがいたら、うまくいかないですよね?

ビジョンやゴールを共有している組織だからこそ伸びるのかな、という気もするし。もしかしたらチームを分けてみるとか、さっきのテクニック的なものも必要なのかもしれないですよね。

僕が答えちゃいましたけど、よろしいでしょうか?

質問者:はい、ありがとうございました。

心に刺さる舞台のエピソードを語る

小野:では他に質問がある方は、ぜひ。それじゃあ、前の女性の方。

質問者:私は今「無風の部屋と軽井沢の空間をつなげる」というプロダクトを作っています。

その中で軽井沢の風を風鈴で表現したいと思っているんですが、イメージをどう持つかという所で悩んでいます。

それでtakram design engineeringで作っていた風鈴のプロセスをお伺いしたいのですが、よろしくお願いします。

渡邉:takramで「furin」という作品を何年か前に作ったことがあって、そのことですか?

質問者:はい。

渡邉:軽井沢の風を感じるものを作っていて、それで悩んでいる?

質問者:表現として物理的なものとデジタルなテクニカルの部分、両方をキレイに表現しないといけないと思っていて。

そこで今問題を感じているので、そういう所をどう解消していったのか、考え方などの具体的なプロセスをお伺いできたらなと。

渡邉:ちなみにいま首で光っているペンダントは、軽井沢の風の表現ですか?

質問者:これは関係なくて、趣味で作ったLEDのオモチャです(笑)。

渡邉:そうですか(笑)。

小野:すごいですね!

渡邉:何かピカピカしていますね。軽井沢でセンシングした風鈴の動きが光で再現されているのかなと思ったんですけど、そういうわけじゃないんですか?

質問者:それをやってきたかったんですけど、少し難しかったので。

渡邉:そうだったんですね。以前「furin」というものを作ったんですけど、あれ自体の話は長くなるのでスキップします。

全然関係ない話をしますけど、もしかしたらインスピレーションになるかもしれない。

詩人の谷川俊太郎さんの作品で『朝のリレー』というものがあるんですが「カムチャツカの若者が きりんの夢を見ているとき メキシコの娘は 朝もやの中でバスを待っている」とあるんです。

どういうことかというと、日が昇ってある場所に朝がくる。それは経度から経度に少しずつリレーされていって、今も地球のどこかで朝がはじまっている。

そういう情景を具体的な人物の具体的なエピソードで語っていて、美しいんです。

これの何が良いかというと、「世界は1個」みたいなことを抽象的に語るんじゃなくて、カムチャツカの若者とかメキシコの娘を語るのが大事だということです。抽象的な考えに覆い隠さないというか。

今回の軽井沢の風鈴も「そこで何が起こっているか」という「想像力の飛距離」を伸ばすための、心に刺さる舞台のエピソードまでちゃんと語る。

もしかしたら、そこから入ったほうが良いのかもしれない。

読んだ人の心が、実際に軽井沢に飛んでいけるような、そういうことが風鈴を通して表現できたら、みんな興味を持ってくれるんじゃないかなと思います。

質問者:ありがとうございます。

小野:「想像力の飛距離を伸ばす」ってカッコイイですね(笑)。他に質問ある方?

アンケートで答えが出ると思わない方がいい

質問者:今インターンでキュレーションサービスの企画をしています。そこでキッズファッションの紹介をして、ECに結びつけるという企画をディレクターに提案しているんですが「この企画は興味を持ってくれるのか」ということを言われます。

それで街頭インタビューなどをしたほうが良いのかなと思っているんですが、インタビューをするタイミングや何を引き出せばいいかということを教えていただきたいです。

荒木:そもそも、キッズ向けファッションのキュレーションでECがいけると思った理由は何ですか?

質問者:雑誌を調べたら、ママさん向けのものがたくさん冊数が出ていて。属性を調べたらネットを使う方はママさんに多いというのがわかったんです。

でもサービスを見るとEC化されているものが少なかったので、キッズ向けのものを紹介するのはいけるんじゃないかと思いました。

荒木:話を聞くと「確かにそうじゃない?」って思うんですけど、何でダメなんですか?

質問者:ディレクターは「スケールしないんじゃないか」と。

荒木:何でスケールしないんですか?

質問者:「キッズファッションだと小さいんじゃないか」と。

荒木:それは「キッズファッションの市場規模は何億円あってメンズアパレルと比較するとこれくらいのサイズがある」とか「そのサイズの中でEC化されている割合は何パーセント」とか調べればわかると思うんです。

質問者:それを見つければいいですか?

荒木:そうですね。「小さいんじゃないか」っていうコメントをもらっているなら「小さくない」という根拠を探して言えばいいと思います。

それで、街頭インタビューに関しては使い方がすごく難しいんですよ。

基本的にアンケートで答えが出ると思わないほうがいい。アンケートやインタビューでわかるのは「なぜこの人はこれを選ぶのか?」の「なぜ」の部分であって、結果はあまり意味がないんですよ。

一番みんなが投票したものが大事なんじゃなくて「選ぶ基準」とか「選ぶときの顔」とか「思考プロセス」がわかることに意味があるんです。

たとえば、街頭インタビューをするとなって「あなたはキッズ向けファッションのキュレーションサービスが欲しいですか?」と聞いて「はい、いいえ」で答えてもらっても何の意味もないわけですよ。

もしやるとすれば「キッズ向けファッションを買うときはどこで買ってますか?」とか「どこで情報を仕入れてますか?」とか「そもそも何で買うんですか?」みたいな質問をするんです。

子供の服という実用的なものでありながら、もしかしたら「子供にオシャレをさせたい」のかもしれないし「オシャレな子供を連れている私が好き」なのかもしれないし「ママ友のコミュニケーションツール」で使っているのかもしれない。

そういう裏の要素があるはず。そういうものが知りたいときは、市場規模だけ見てもわからないから、街頭インタビューで生の声を聞くことに意味があると思います。

質問者:わかりました。ありがとうございます。

言語化できない真の欲求や痛みを探る

渡邉:ちょっとプチコメントしていいですか?

小野:はい、ぜひ。

渡邉:今の荒木さんのエレガントなお答えを勝手に深読みしてみました。

小野:さらに深読みを(笑)。

渡邉:素敵な答えだなと思って(笑)。今、そもそもの質問が「インタビューはいつやるか」というものだったのに「なぜ?」っていうのを繰り返すことで、本当の問題にさかのぼることができました。

小野:まさに実践されてましたね。

渡邉:「Problem Reframing」的な所がありますね。さらに、それだけじゃなくて、最終的にインタビューの作法に対しても答えている。

でも「いつやるか」というのが大事ではなくて「どういう目的でやるのか」ということを答えていたと思うんです。

まさに僕も同じようなことを考えていて。インタビューするときというのはラフなアイデアをぶつけてもいいんだけど。

AかBかを選んでもらうんじゃなく「この人たちが言語化できていない真の欲求や痛み、感じているものは何かな?」というのを探る。

「Invisible Pain」とか「Invisible Pleasure」みたいなものがあるはずなんです。そこを探るために観察するというのが大事。

いつ聞くかというのは、いつでも良いと思うんです。インタビューというのは、選んでもらうとか人気を探るわけではないんです。

小野:今のQ&Aは本当にいいなと思っていて、今日のこの場というのは「聞きに来る場」ではなく「学びに来る場」でもなく「参加する場」なんです。

この後もいろんなセッションがありますしLunchもあると思うんですけども、横の交流もそうですし、スピーカーさんに「話しかけられない」じゃなくて積極的になってもらいたいなと思うんです。

手を挙げたりするのは勇気がいることなんですが「こんな質問をしていいんだろうか」とかは関係なくて「参加する場」なんだということを実践していただければと思います。

最後にですね。お二人から「アイデアの発想方法と実現の仕方」の話を聞きましたけど、このテーマに合ったメッセージをいただいて締めたいと思います。それじゃあ、荒木さんからお願いします。

荒木:今まで話して僕も普段、無自覚的にやっていたものが自覚できた感じがして良かったなと思います。

新規サービスを考えたり、ゲームを作るといったミクロな話ではなくて「世の中にある問題をどう捉えてソリューションを提案するか」というのは、あらゆる場面で必要な能力だと思います。

最後にみなさんに伝えたい汎用的なテクニックというのは、「何でこれをやるんだ」という深読みを続けていって「本質を自分が納得できるまで探る」というのは何にでも使えます。たまに上司とかにウザがられる場合もありますけど。

「いいから、これやれって言ってんじゃん」みたいな(笑)。ウザがられることもあると思うんですけど、やったほうが良いと思います。

小野:ありがとうございました。

(会場拍手)

自分のやりたいことを定義しすぎなくてもいい

小野:続きまして、渡邉さんお願いします。

渡邉:「アイデアの発想の方法と実現の仕方」で質問をしてくださった方というのは、ある程度やりたいことが見えているんだと思います。

でも残りの半分くらいの人達は「そもそも何をやろうか?」と考えていると思います。

その半分の人達の話なんですけど、僕自身ここの大学に通っていて、そういうことがハッキリ見えていたかというと、当時は見えてなかったと思うんですよ。だからそれでも、良いのかなと。

世の中にすでにある価値の軸や分類でもって、自分のやりたいことを定義しすぎなくてもいいんじゃないかという気がしていて。

「自分は料理に興味があるから飲食にいきたいんです」というのは「ちょっと自分の夢を矮小化してない?」と思うんですよ。

「本当に自分がやりたいことって何だっけ?」というのを掘り下げてみたときに、就職するという選択肢の場合は、当然飲食以外の場所もありえるなかで、企業の取り組みの枠のなかにそれを押し込めなくてもいい。

それは業界で選ぶということではなくて自分の「ものさし」を作るということだと思う。

すでに社会から与えられた「ものさし」を使うほうが便利な場合もあるんだけど、自らが分類不能な存在だと思っちゃった場合は、分類不能なままでいい。

自分だけの「ものさし」を使って、それでバトルするという方法もあるんじゃないかと思います。

小野:ありがとうございます。

(会場拍手)

小野:以上でSession2は終わりになりますが、最後にですね。

グリーの荒木さん、takram design engineeringの渡邉さんに大きな拍手で締めたいと思います。ありがとうございました。

(会場拍手)