独学のライターと差をつける

宮脇淳氏(以下、宮脇):皆さん、こんばんは。今日はお集まりいただきまして、ありがとうございます。ライター育成講座「独学のライターと差をつける」、これ朽木さんがつけたタイトルですけれども、いきなり「差をつけましょう」という、なかなかパンチのあるタイトルだなと思いました。

ライターとか、そもそもライティングっていうのは文章を書くことですけれども、書く媒体、書くメディアがないと書けないので、その仕事面を基礎的なところから解説します。あと朽木さんが、これは絶対やりたいって言っているのが、ギャランティーとか制作予算の話。

朽木誠一郎氏(以下、朽木):そうですね。やっぱりお金って大事だなっていうので。

LIG編集長・朽木誠一郎氏の紹介

宮脇:そもそも今回の「ライター育成講座」をやろうと言ったのも、朽木さんが独学でWebライターをはじめて苦労されたということがきっかけですね。「独学のライターと差をつけるには」というテーマでお互いに意見交換しながら、全6回の講座なので皆さんと一緒に学んでいければなと考えています。

我々も別に専門で先生をやっているわけではなくて、普段は現場にいます。朽木さんはLIGという会社で、私はノオトという会社で、それぞれ部下を持ちながらやっているポジションなので、こういうところでしゃべらせていただくだけで学びになりますね。

朽木:そうですね、本当にありがとうございます。私、朽木誠一郎と申しまして、ここ「いいオフィス」を運営しております株式会社LIG、その運営するオウンドメディア、LIGブログで編集長をさせていただいております。

大体LIGには10人ぐらいの編集者がおりまして、その編集ユニットのリーダーをさせていただいております。86年世代、けっこう若手の編集者、もう若手じゃないのか、そのうちのひとりというふうに思っています。

大学時代にフリーライターとして活動を始めて、今5年目ですね。そのまま卒業後に、メディア運営を主力事業とする株式会社LIGに入社しました。月間400万PVのメディアの編集長として、企画、編集、執筆などの仕事をしています。

あとは、インバウンドでの営業とか、提案とか、Webメディア全体というかマーケティングの部分にも関わっているということになります。最近、広報戦略室長になったので、こんな形で皆さんの前にお邪魔することも増えていくかなというところです。

そういう意味では僕、皆さんとわりと似ているというか、もともと僕がよく言っているのが、原稿1本2,000円の仕事から始めたということで。大学時代にフリーライターとしてやっていたのが、本当に1本2,000円とか、もっと低いということも全然ありました。

今ではこんな風に皆さんの前に立たせていただくこともできるわけで、そういう意味で皆さんに対して何か伝えられることがあるんじゃないかなというふうに思いまして、この会を開催させていただいております。そんなところです。

初期のWIREDで一緒だったのは今のサイゾー社長

宮脇:ありがとうございます。私も自己紹介を簡単に。宮脇淳と申します。有限会社ノオトという会社を経営しています。さっき86世代というのがありましたけれども、実は編集の世界に72世代というのがありまして。1972年代の最後、私は1973年3月なので最後なんですけれども、出版業界やネットのコンテンツ業界では72年度生まれの人が多いように思います。

編集者はあんまり表にでないといいますか、目立ったプレイヤーとしてはいろいろなところに出てはいないんですけれども、一番派手な書き手はやはり山本一郎さんでしょうか。誰もが知っていると思いますので。あとは雑誌ではサイゾー社長の揖斐憲さんやR25前編集長の藤井大輔さんですね。

揖斐さんは、実は僕、「WIRED」って雑誌で一緒だったんです。私はアルバイトからなんですけれども、休刊になったあとは揖斐さんが「サイゾー」の編集者となり、私は別の編集部に入りました。

でも、そこも半年で編集部が解散してしまったので、そのまま流れでフリーランスになったという。そういう意味では、朽木さんと一緒なのですが、5年半ぐらいフリーライターを経験しまして、「サイゾー」でもいろいろ書かせていただきました。

ここから、いろいろなコンテンツづくりの可能性を感じて2004年にノオトという会社をつくりました。ですので、もともと紙の人間、雑誌の人間だったんですけれども、WIRED出身というとネットに強いだろうみたいに思われたらしく、実際はまだ25歳のペーペーだったのですが、いろいろネットのコンテンツ作りの仕事を1999年からずっとやっていました。

なので今、取引している会社さんとは、ほとんどネットの仕事ばかりなんですね。代理店さん経由のお仕事もありますが、企業さんと直接やることが増えてきまして、トヨタ自動車さん、adidas japanさん、Yahoo!、LINE、リクルートさんとかの企業さんのオウンドメディアの記事をつくる仕事をやっています。

ですので、LIGブログさんのような、すごい派手なはねかたとかはそこまで得意としていないんですけれども、自社メディアではTogetterさんと共同で「トゥギャッチ」を運営しています。Webライターのヨッピーさんやセブ山さん、あとは小野ほりでぃさんたちが記事を書いてくれています。ここは爆発力がアリますね。

あと、◯◯経済新聞っていう、シブヤ経済新聞ですとか、大宮経済新聞とか、そういう地域に特化した新聞があるんですけれども、その品川と和歌山の編集長をしております。和歌山をやっているのは、単に私の出身なだけなんですが。まあ、そういういろいろなメディアを含めてやっていて、いちおう歴だけはちょっと長いみたいな感じです。あと、実はワーキングスペース「CONTENTZ(コンテンツ)」を運営していまして、LIGさんが運営する「いいオフィス」とは思い切り競合という……(笑)。

朽木:この前、打ち合わせで初めて伺ったんですが、本当にいい場所だったので。ぜひ山手線の西側では五反田のCONTENTZを常用していただければ。東側ではいいオフィスをよろしくお願いします。

ライターは自分の書きたいことを書く仕事ではない

宮脇:自己紹介はこれぐらいにして「第1回ライターとは」の本題に入っていこうと思います。さっき朽木さんともいろいろしゃべって、これは一般的な認識だと思うんですけれども、ライターって、自分の意見を書く人だと思われがちなんですけど、実はこれ違うよねってなりました。

基本的には読み手を意識して文章で物事を伝える人がライターである、と思っています。なので、自分の意見を書きたいとか、何か自分がこう思うということを書くのは、個人ブログで書けばいいと思うんですね、個人的な感想や思いを文章にしたい人は。

それが結果的にまわりからおもしろいと評価されて、本を出しませんかとか、あるいは人気ブロガーになったとかいうのがあると思うんですけれども。職業ライターとして大切なのは、読み手を意識して文章が書けるかどうか。LIGブログの編集長として、どう思いますか?

朽木:これは本当に汎用性のある、いい定義だと思っていて。LIGブログの編集長というより、僕はどっちかというとライター気質なんですけれども、昔の自分のことを振り返ってみたときに、ライターなんだから好きなことを書けると思っていました。

好きなことを書いてお金をもらえるからライターになるんだと思っていたのが大きいんですけれども、実際になってみて、別に好きなことなんて書けないということに、まずは気づいた。そこでやめちゃう人も多いと思うんですけれども、僕はその先があるんだと思っていて。

何のために書きたかったのか、例えば読者に何かを伝えたいとか、読み手の存在が絶対に必要で。自分の言いたいこととか書きたいことだけ書きたいんだったら、もっとアーティストよりというか本当に作家とかを目指すといいと思うんですけれども、ライターであるならば本当にこの定義は、この先やっていく上での行動指針にもなると思いました。

稼げるライターだけが知っていること

宮脇:そうですね。私もライター出身なので、まずわかりやすく文章を書こうとか、何を伝えたいのかをちゃんとわかるように明確にして書こうということは常に意識してきました。そういうライターじゃないと、発注主はお金を払ってくれないんですよ。

やっぱり、修正が多いライターに対してはお金を払いたくないという人もたくさんいます。何を伝えたいのか、その辺の意図をきちんとくんでいるかどうか。お金をもらえるライターは、日本語をわかりやすい日本語に変換する翻訳家であると思っています。

これは、ライターの古賀史健さんが「20歳の自分に受けさせたい文章講義」という本の中で書いているんですね。すごく腹に落ちたというか、これは名言です。本当に翻訳家だなと思いましたから。

世の中には伝えたいこととか、おもしろいことを持っている人って、結構いっぱいいるんですけれども、そういう人たちは別に情報発信力があったり、わかりやすく説明する能力があったりするとは限らないんですね。彼らに会って取材して、それを何かのときにいろいろな人に伝えていくというのは、ライターが備えるべき基本的な職能だと思っています。

そういう意味で、今回の講座のテーマは「稼げるライター」ということなんですけれども、ずばり「編集とは何か」というのを知っている人が「稼げるライター」なんじゃないかな、と。

編集って何ですか。皆さん、ライターさんだったり、これからライターになりたいという方だったりがここに大勢いらっしゃいます。我々は、クライアントからお金をもらって、ライターさんに原稿を依頼して、上がってきた原稿を編集をします。なので、見積もりには原稿料と編集費みたいに分けて書くんですけれども、そうしたら「この編集費って何? なんでこんなにお金がかかるの?」ってすごく突っ込まれるんですね。

「編集」がわかるかどうかでライターとしての成長速度も変わる

朽木:説明しないといけないんですね。

宮脇:説明しないといけないんです。そこはきちんと説明するんですが、じゃあ編集って何ですかっていうことですね。この漢字2文字そのままで恐縮なんですけれども、編集者とは「集めて、編む」人。

どういうことかというと、原稿をもらって、読みやすく、わかりやすく伝えるための編集をする。要は、集めたものをきちんと組み立てていく、編んでいく仕事です。見出しをつける、読んでもらえるためタイトルを練り直すといったことも、編集者が担います。

書籍にしたって皆さん、作家自身が本のタイトルをつけると思われているんじゃないですか? あれは別に、書き手がタイトル、本の書名をつけているわけじゃないんですね。担当編集者がつけているんです。

というのも、編集者のほうがどういうタイトルのほうが売れるか、タイトルひとつで売れ行きが変わることを熟知しているから。もちろん書き手に相談はしますけれども、編集者がこっちのタイトルがいいですって、編集部の意向を押してきます。そのおかげで売れた本は、世の中にわんさかあるはずです。

朽木:そうですね。Webメディアでお仕事されていて、担当者にタイトルを勝手に変えられたという方、けっこういるんじゃないかなと思うんですけれども。それは編集の観点からという。

宮脇:もちろん、改悪されたら嫌ですよね。ただ、きちんとした編集者が編集すれば、絶対にその原稿はより良くなる。もちろん、編集の仕事は紙やネットに限った話ではなく、音声メディア=ラジオですとか、あるいは映像メディア=テレビにもあります。

ただ、編集というのはそれだけではありません。例えば、顧客と打ち合わせをするとか、あるいは飲み会の幹事をやりますとか、あるいは自分の部屋のレイアウトを変えるとか、これって全部「編集」が入っているんですね。

ここの空間(いいオフィス)にしたって、あそこに丸いテーブルを置こうとか、レイアウトを考えるというのも、物を持ってきて置き場を考えたりするわけじゃないですか。あるいは飲み会の幹事とかやっても、今回は何人ぐらい呼ばなきゃいけないとか、あの人が来るからあいつは外そうとか、そうやっていろいろ考えるじゃないですか。

みんな、本当に意識をしていないだけで、日常生活の中では常に編集しながら生活している。これはもう、確実にそうなんです。例えば、家事をやるときにも何か洗濯をしながら食器を洗ってとか、なるべく段取り良くするじゃないですか。それは「編集」なんですね。

みなさん普段から無意識にやっているはずなので、そういった編集のノウハウを文章づくりにも生かせばいいんです。この「編集」を知っているかどうかによって、やっぱりライターって成長の度合いが変わってくると私は思います。

コンテンツはどのようなフローでうまれるのか

宮脇:ということで、実際にじゃあ編集を含めて、我々はどういうコンテンツをつくっていくのかというのをざっとまとめたチャートなんですけれども、この辺はさらっと行きましょうね。

ユーザー(読者)と企業がいて、これとは別に広告代理店とか制作会社がいます。企業さんは、ユーザーに対して商品を知ってもらいたいとか、サービスを知ってもらいたいとか、あるいは情報を伝えたいという目的があるんですけれども、なかなか直接的にこれを実行できる人が社内にいないケースがあったりします。

そこで、広告代理店や制作会社が、目的を達成するための企画やノウハウ、コンテンツを企業さんに提供します、と。一般的にはこういう流れで、企業さんはユーザーにアプローチをしていくんですね。

このプロセスにおいて、Webライターは制作会社や代理店と動く側になります。なので、LIGさんと仕事をするライターさんとか、ノオトと一緒に仕事をしてくださるライターさんがいるみたいな形になる。

もちろん、企業さんに直接話をして、間に広告代理店や制作会社を挟まずに仕事するケースもあるんですけれども、なかなかこれはちょっと世知辛い話で、法人化していないと仕事がやりづらい。

朽木:仕事がやりづらい。取り引きできないということですね。

宮脇:そうです。個人だと取引口座が開けないというケースがいまだに多いので。

Webサイトづくりの流れをお話すると、Web制作会社はデザインをつくったりとか、システムを開発したりとか、そういう役割です。いわゆるブランドサイト、ECサイトみたいな目的に合った企業のWebサイトをきれいにつくる、見栄えをよくする、使いやすく仕上げる仕事になります。

ただ、やっぱり外側だけつくって更新もされないサイトは誰も見てくれませんとなったときに、いわゆるコンテンツをつくることをやらなきゃならない。そこに、取材や執筆、編集といった仕事が入ってくるんですね。これは編集プロダクション、いわゆる編プロの仕事です。

ノオトもこの編プロにカテゴライズされるのですが、私は自社を「コンテンツメーカー」と名乗って、2004年の設立当時から名刺にも書いています。家電を開発・製造する家電メーカーとか、ビールやウィスキーを造る酒造メーカーと同じで、コンテンツをつくる会社なんだということで。LIGさんもコンテンツメーカーだと思っているんですけれども。

LIGはもともとWeb制作会社からスタートした

朽木:そうですね。もともとLIGは母体をWeb制作会社からスタートしているので、現在ではWebメディアのプロモーションとかの事業も主力になってきました。

この図でいったら、もともとはWeb制作会社だったんですけれども、最初はオウンドメディアということで、そこからワンストップでコンテンツまでいくっていう、新しいメディアのあり方というのができてきて、まずある程度知名度が上がるようになってきた。

その次に、例えば外部メディアの運用チームが弊社にはありまして、そのチームは他社さんのオウンドメディアに対してコンテンツを提供するような、Webメディア、コンテンツメーカーとしての役割というのが増えている形になってきています。

宮脇:LIGさん、今は50~60人ぐらいいます。もっといる?

朽木:今は70人ぐらいです。

宮脇:そんなにいるの、すごい。うちは8人です。年数は長いですけれどもね。

朽木:信頼と実績のノオトですから。

宮脇:自分の目の届かない範囲にまで仕事が広がると、なかなか怖いというか。経営者としてビジネスを広げる才覚があまりないので、少人数でやっているだけです。このコンテンツメーカーの概念は、フリーランスのライターさん1人でも同じだと思っています。

作り手一人ひとりがコンテンツメーカーである、と。となると、ライターは単純に書くだけの仕事ではなく、考えて書く、もっと考えて書く、編集を理解して書くということで、よりレベルの高いコンテンツメーカーになっていけるんです。

クライアントの課題や悩みを文章で解決する

宮脇:繰り返しますが、ライターの仕事は、仕事をくれる人の課題や悩みを文章で解決することです。さっき好きな文章を書けるわけではないですよ、どちらかというと読者を意識して、それを伝えるための文章を書く人ですよとお伝えしました。

お金を出す人からすると、「俺じゃ書けないから金を払う。だから、課題や悩みをちゃんと解決してね」ということですよ。

朽木:あんたプロでしょということですね。

宮脇:そうそう、よくライターさんはプロなんでしょって、すごく言われるんですね。というのは、日本語ってみんな書けるじゃないですか。メールくらいなら、普通に1日何通も書いたりしているわけですから。でも、それをさらに洗練された文章とか、わかりやすい文章でいかに伝えていくかっていうことに関して、プロフェッショナルを求められるんです。

お金を出してまでライターに依頼する人の悩みはさまざまです。企業さんから、あるいは出版社さんから、いろいろな発注があると思うんですけれども、ファンを増やしたいとか、Webサイトの訪問者が少ないとか、あと商品やサービスの認知度が低い、あるいは資料請求をもっと増やしたいみたいな、マーケティングに関する話も出てきます。

朽木:コンバージョンも重視されますね。

宮脇:広告を出しても商品やサービスをなかなか買ってもらえない、あるいは宣伝をしたいけれども広告予算がないという場合もあります。広告ってやっぱりすごくいいお値段かかってしまいますし、ネットでは期待したほど効果が得られないなんてことも往々にあります。

それならその予算を使って、もうちょっと効果的なことができないかと。しっかり読まれるコンテンツを作ることでサイトに人を呼び込んだり、外部サイトにいいコンテンツを出すことで商品やサービスの認知を広げたりと、いまはコンテンツにお金を出すムードがかなり膨らんできています。

ここ2、3年は特に、この空気はどんどん高まっていますね。とりあえず、東京オリンピックまでは大丈夫だ、ちゃんとお金を出してくれる企業さんは後を絶たないぞと思っています(笑)。