Yコンビネーターで人生最良の経験をした

田中章雄氏(以下、田中):時間の関係上、ディビッドに移らせてもらいます。ディビッド、次は君だ。君もYC(注:Yコンビネーター)の卒業生だよね。君たちは1年違い?

ディビッド・チェン(以下、ディビッド):ちょうど1年違いだよ。朝早くから集まってくださってありがとうございます。実は今朝起きられなくて……。

田中:誰かに電話して起こしてもらった?

ディビッド:自分で電話しようと思ったんだけど、ダメだった。日本に来られて嬉しいです。日本はうちの会社にとって興味深い国です。

詳しくお話しする前に、簡単に自己紹介します。僕はディビッド、Strikinglyの共同創設者でCEOです。ひと言で言うと、Strikinglyは最高のモバイルWebサイトビルダーです。

中国からYCに参加したチームは僕たちが初めてです。2013年のことでした。YCを終了してすぐ、150万ドル(約1.5億円)の収益を上げました。起業して数カ月後からずっと収益を上げ続けています。

田中:YCに参加したのは何歳の時?

ディビッド:何歳だったかって? 23だったかな。

田中:大学在学中、それとも卒業直後? それとも中退とか(笑)。

ディビッド:YCに入ってすぐ学位を取得した。

田中:じゃあ、ほぼ同時期だ。

ディビッド:ほぼ同時期だね。話せば長くなるので。YCが僕の大学と言ってもいいと思う。ジョンも証言してくれるだろうけど、YCは人生で最良の経験だった。

もしこの中にテクノロジー系スタートアップに興味があるなら、応募したらいいと思う。

最も強力なツールは口コミ

ディビット:さて、国際化ということで言えば、うちの会社は地球上の全ての国にユーザーがいる。

田中:太平洋の島がまた出てきたぞ。

ディビッド:フィジーじゃないか?

ローレンス・ラッテン氏(以下、ローレンス):これはインターコムのデータだよね。

ディビッド:今言おうと思っていたんだ。

ペペ・アゲル氏(以下、ペペ):何かおかしいぞ。サーバーがあるなんて。

ヤン・ミクザイカ氏(以下、ヤン):ペペがボートに乗っているんだよ、きっと。

ディビッド:Strikinglyは文字通り、地球上の全ての国にユーザーがいる。さっきの島のように存在すら知らなかった国でさえね。おもしろいことに、実はうちのユーザー第1号はモロッコだった。そして有料ユーザー第1号はハーバード大学の学生だ。モロッコには行ったこともないのに。

田中:どうやって見つけたんだろう?

ディビッド:口コミだよ。最も強力なツールだね。17歳の高校生が、どうやってWebサイトを立ち上げようかと思っていた。大学願書のため、それから非営利のスタートアップのためにWebサイトが必要だったが、ツールが見つからなかったんだ。

彼はたまたまStrikinglyを発見して、すべてを立ち上げることができた。その頃、その1人のユーザーがうちを使ってくれたことが、Strikinglyを続ける理由となったんだ。Strikinglyは誕生した瞬間から国際化していたといってもいいだろう。

世界のスター達がこぞって使用する、Webビルディングツール

ディビッド:ユーザーの中には皆さんも知っているような有名人もたくさんいる。

これがわが社の著名なユーザーの例だけど、まず2014年度ノーベル平和賞受賞者のマララ。彼女はノーベル平和賞を受賞する前からStrikinglyを使ってくれていたんだけど、ノーベル賞を受賞した時には、本当に驚いた……。

田中:マララがノーベル平和賞を受賞したのは、君のおかげだと思わせたいんだろう?(笑)

ディビッド:その運動の一部になれたのはすごく幸運だったと思う。ある日突然、ある1つのWebサイトのトラフィックが激増したんだ。何が起こったのかと思ったら、ノーベル平和賞受賞者だった。

田中:それでわかったんだ。

ディビッド:そう。素晴らしい瞬間だった。会社のみんなにとっても記念すべき瞬間だった。オフィスでも彼女のためにお祝いしたよ。ワクワクしたね。

2人目が、特に若い女性は知っていると思うけど、ミランダ・カーも昔からのユーザーで、ミランダ・カーのオフィシャルWebサイトはStrikinglyを使って作ったサイトなんだ。どういうわけかStrikinglyはモデル業界では大人気なようで、ナオミ・キャンベルもユーザーだ。

彼女は元祖5人のスーパーモデルの一人だよ。最近Strikinglyを使い始めたユーザーにはセス・ゴーディンがいる。近代マーケティングのゴッドファーザー的存在だね。

彼は奥さんや、ワークショップや17冊のベストセラー本のためのWebサイト作成にうちを使ってくれている。すごくエキサイティングだろう。

ヤン:このスーパースターたちもパネリストに呼んでくれよ。

ぺぺ:僕たちも招待してくれよ。僕たちもパーティに参加したいな。

田中:いい考えだね。

ディビッド:盛大なパーティになりそうだ、オーランド・ブルームとかもね。

名だたる有名企業も興味を示している

ディビッド:他にもいろいろおもしろい企業が使ってくれている。マイクロソフトも実は、コンテストを始めるためにうちの会社を使ってくれたんだ。

田中:マイクロソフトには、自社のWebサイトビルディングのツールぐらいあるだろう?

ディビッド:たまたま試してみただけだ。マイクロソフトの関係者がここにいるかどうかわからないけど。改良するべき点はたくさんあるね。

マイクロソフトは実際、去年ディベロッパー対象のWindows8アプリコンテストのためにStrikinglyを使ってくれたんだ。Uber Japan(タクシー配車サービス)もクライアントで、ドライバープログラムのために使ってくれている。

dolphin(注:スマートフォン・タブレット用のWebブラウザ)も国際化のために、多言語のWebを立ち上げた。他にも多くの会社が使ってくれていて、ほんの数例を挙げるとBoosted、watsi、Crowdtilt、それから多くのYC出身企業が使ってくれている。

どの会社もユーザーとしてはおもしろい。うちの会社のターゲットは平均的なインターネットユーザーだけど、最も有名なパワフルユーザーがWebサイトを立ち上げるのにStrikinglyを使いたがっているというのは興味深いね。

広告なしで成長できたのは、みんなが望むことをやってきたから

田中:ところで、君のところのWebサイトをまだ見せてくれないけど。見せてくれないの?

ディビッド:すぐに、strikingな(目を見張るような)例をお見せするよ。うちはマーケティングも広告も一切しないでここまで来たが、それは意図的にやってきたもので、どうやったら有機的に成長できるか、最もパワフルにビジネスを成長させられるかを試すためにやってきた。もっとその方向でやっていこうと思っているけど……。

田中:ところで君の会社はお金を使わないから、ベンチャーキャピタルの連中が困ってるけど、どうやって投資するんだい?

ディビッド:実際そこがもっとうまくやりたいところだね。どうやってお金を使ってユーザーを増やすか? もっとよい経験を提供するか? 特に日本市場においてね。それで僕はここにやってきたんだ。

もちろん、それには理由がある。どうしてうちがマーケティングも広告も一切しないで成長できたのか。ジョンがさっきうまく表現してくれたように、うちも人々が望んでいることをやってきたからだ。

ネット上の最も根本的な問題「かっこいいWebサイトの作り方」を解決した

ディビッド:Strikinglyはネット上の最も根本的な問題を解決している。「どうやったらWebサイトが作れるんだろうか?」と考えても明確な答えはないんだ。こんなにもツールがあふれているのに、僕のような平均的インターネットユーザーが、かっこいいWebサイトを作ることがまだできないなんて、おかしいじゃないか。

インターネットは20年以上も成長し続けているのに、それなのに最も根本的な問題が解決できない。そこで僕たちの出番だ。モバイル時代になって、この問題はさらにひどくなっている。

Web上のあらゆるサイトがモバイル最適化されなければならないから。それは平均的なインターネットユーザーにとってさらに問題が増えることになる。どうやったら異なるプラットフォームでも、うまく動くようなWebサイトを立ち上げられるのか?

Twitterがブログの世界に行ったことを、うちはWebサイトビルディングの世界で試みようしている。その点については、これまでかなり成功してきた。うちの会社はWebサイトビルディングをものすごく単純にした。

目が不自由なユーザーでもWebサイトが作れる!?

ディビッド:そこで先ほど述べたその例を紹介しよう。これはStrikinglyでWebサイトを作った、目の不自由なユーザーです。

田中:ちょっと待ってよ、目が不自由なのに、どうやってWebサイト作ったの。

ディビッド:それはすごくエキサイティングだった。彼はiPadのボイスオーバー機能を使って、SafariでWebサイトを作ったんだ。それは本当に驚きだった。

ある朝目が覚めるとその男性、ウォルターからEメールが来て、StrikinglyのWebサイトをもうちょっと読みやすくして欲しい、と言うんだ。どうしてWebサイトを、特にテキストを読みやすくして欲しいというのか。意味がわからなかった。

「僕はWebページを作るのに、ボイスオーバー機能を使っているんだ」と言うので、「何だって?」と聞くと「僕は目が見えないんだ」と言うんだ。

信じられなかったが、実際彼はそうやってWebを作ったんだ。彼にインタビューすると、彼は実際自分自身のWebサイトを作ったことで、理想の仕事を手に入れたと言うんだ。

面接官とのやり取りを再現すると、面接官に「あなたはテクノロジーに強いですか?」と聞かれて、彼はWebを指さして「今ご覧になっているそのWebサイトは私が作ったものです」と言った。

それが決め手で彼は仕事を手にした。Webサイトが文字通り、この人の人生を変えたというのは興味深いことだ。マララについては同じことは言えないかもしれないけれども、彼の場合は、彼は……。

田中:わからないよ。

ディビッド:うちのユーザーからまたノーベル賞受賞者が出るのは楽しみだけどね。でもこれは僕たちにとって1番のエキサイティングな瞬間だった。自分の持っているパワーに気が付いていない人たちに、そのパワーを与えることができるとわかったんだから。

それはStrikinglyのシンプルさの持つパワーの証明だと思う。

モバイル最適化の超巨大市場

ディビッド:それから、うちはモバイルで成功した初のWebビルダーだ。PCでもタブレット、それから携帯。どのプラットフォームでもうまくいく。これはモバイル時代において、最大の強みの1つだと思う。

ローレンス:ゲームはどう?

ディビッド:たぶんね。僕はHTML5の大ファンだよ。

田中:このパネリストの中で、まだWebが死んでないという人が2人もいて、嬉しいね。

ディビッド:確かに、うちも同じトレンドを経験している。モバイル利用者は、実際PCの使用も多いんだ。PCの代用としてではなくてね。だからたくさんのユーザーがあらゆるプラットフォームからStrikinglyの製品を利用してくれている。

田中:ところで最近、君の会社のモバイルとPCのトラフィックの内訳は?

ディビッド:エディターはPCでしか使えないけど。

田中:トラフィックは?

ディビッド:モバイルのトラフィックは30パーセントぐらいかな。だからまだPCは強い。でも、モバイルのトラフィックも増えてきている。

モバイルは新しいトレンドで、Webサイトビルダー市場全体が生まれ変わった。Webサイトビルダー市場は消滅したと思われた時に、モバイルがWebサイトビルダー市場を再定義した。

それでもあらゆるデータから、2015年にはモバイルトラフィックがデスクトップトラフィックを追い抜くだろうと考えられている。ということは、Webサイトを持っているどんな会社も個人も、モバイル最適化することを考えなければならない。

しかし、アメリカを例にとってみよう。アメリカの中小企業は、最もハイテクに精通している市場の1つと見なされているけど、75パーセントがまだモバイル最適化していない。

アメリカだけで50億ドルの市場、しかも中小企業だけなんだ。この市場は中小企業の市場をはるかに超えている。Webサイトが必要なのは中小企業だけではない。

ここに挙げたのは全部日本の例で、2番目のは小野さん(インフィニティ・ベンチャーズLLP共同代表パートナーの小野裕史氏)だ。イベント企画者、融資ページを立ち上げる起業家、企業や団体、非営利団体、デザイナー、アーティストなどの個人、そしてフリーランスで仕事をしている人たちからの需要が高い、しかもみんな有料メンバーなんだ。

Webサイトの立ち上げのために料金を払ってくれている。この市場の需要がいかに高いか、おわかりいただけるだろう。この市場が何10億ドルをはるかに超えた規模であることは疑いない。いろんな意味で。世界規模で見ると、もっと多いだろう。

ユーザーの障害を取り払い、アイディア実現の手助けがしたい

ディビッド:市場や市場における機会は別として、もっと大きな理念の話をしたいと思う。僕たちがStrikinglyに、人生に、そして時間を捧げるのは、このミッションのためだ。我々の信念は「あらゆる人間は生まれつきクリエイティブで、起業家精神にあふれている」というものだ。

特に社員の全員が信じているのは、わが社のミッションは「あらゆる人がアイディアを実現するのをお手伝いする」ことなんだ。インターネットで何かを生み出すことは基本的なので、Webサイトを立ち上げることが、夢やアイディアを追求したい人にとって障害となってはならない。

僕もそうだったし、僕の周りの人もそうだ。その障害を取り払って、平均的なユーザーに創造する力を与えること。だからこそ毎日朝早くから夜遅くまで働いている。それはこのミッションのためなんだ。そう強く信じているからこそ、ユーザーにも愛されているのだと思う。

これは日本のあるユーザーの家で取られた写真だ。東京の江戸川橋駅だと思うけど。ユーザーはヒロシと言って、僕が初めて日本に来た時、2回ほど彼の家に泊まらせてもらった。しかも無料で。彼は僕の面倒も見てくれて、案内までしてくれた。それもStrikinglyが大好きだからという理由で。

田中:彼はStrikinglyで何をやってるの?

ディビッド:国際カウチサーフィン(海外旅行などをする人が、他人の家に宿泊させてもらう)ハウスを運営している。だから、世界中から彼の家に泊まりにやってくる。この写真から見ておわかりにようにとても国際的だろう。Strikinglyを使ってカウチサーフィンを宣伝しているんだ。彼はまた、自分で起業もしている。

ユーザーの熱烈なサポートによって実現した日本市場進出

ディビッド:彼のようなユーザーはたくさんいる。実はこれは、僕が初めて日本を訪れた時に行った、日本のユーザーとの交流会の直後に撮影したんだ。みんな東京在住のユーザーで、こういう人たちはもっとたくさんいる。

実際、日本では一貫して全くマーケティングも広告もしていなくて、日本語のWebサイトすら持ってないのに、ユーザーとトラフィックと収益の10パーセント以上が日本からのものなんだ。

こういった日本人ユーザーは英語のWebサイトビルダーをGoogle翻訳で翻訳して使ってくれているんだ。こんなに気に入ってもらえるなんて驚きだ。でもおかげさまで需要が高い。2ヵ月ぐらい前に、ようやくStrikinglyのWebサイトを日本語に翻訳した。

日本のユーザーへの宣伝を強化している。日本市場に参入するのがますますおもしろくなったよ。そんなわけでここにやってきた。

実はこの僕の似顔絵も、ある京都のユーザーが描いてくれたんだ。彼は今はカナダにいるけどね。彼が僕のためにこの似顔絵を描いてくれたのは、僕たちが当時ファンドレイジングをしていて、それを応援してくれたんだ。

君を手伝うためなら、何でもするよって。僕はこの似顔絵をFacebookのプロフィールに長い間使っていたよ。日本でも海外でも僕たちが成長できたのは……。

田中:ヘアスタイルが変わったから、彼に描き直してもらったほうがいいんじゃない。

ディビッド:全くその通り。メガネも替えたし、赤いネクタイは締めないしね。うちの会社が世界中で成長して、今は日本に進出したのも、彼のような熱烈なサポーターでパワーユーザーのおかげだと思っている。

僕たちはいつも世界中でユーザーと交流している。実は京都のユーザーとは明日の朝ホテルのロビーで会うことになっている。ミッションを実現するためにこれだけ努力しているが、もっと助けが必要だ。

同じミッションを信じてくれているなら、僕がここにいる理由は、ここにいるみんなと同じように、チームを作りたいと思っている。パートナーを捜していて、商品を日本にローカライズするために、フィードバックやアドバイスを求めている。

僕たちのミッションを信じてくれるなら、ぜひお話をしたい。どうもありがとうございました。

田中:ありがとう、ディビッド。