経営者にはならなかった2人

村井純氏(以下、村井):でもIoTでしょう、これ。対談のタイトルが。

竹内郁雄氏(以下、竹内):うん。

村井:対談なのか。

竹内:そうそう、IoTなんだけれどもね。

村井:IoTにいかないと。

竹内:今の話だと異端ネットオブステューデンツっていう話だと思います(笑)。IoSだね。異端ネットオブステューデンツ。

じゃあ次の話題に行きましょうか。何か勝手に、次の話題なんだろう、メモがあったんだけれども忘れちゃった。そうだね、こんなつまらん話はやめましょう(笑)。

坂村健氏(以下、坂村):若いやつが何だっていうの?

竹内:それはちょっと置いておいて。そもそも、実は前半で夏野(剛)さんの司会で森川(亮)さんと南場(智子)さんの対談があったんです。企業の経営者という感じでやったの。それで、お二人(坂村氏、村井氏)とも金儲けしようと思ったら、完全にできた人ですよね。

坂村:この人(村井氏)はお金儲け、お金あるんじゃないですか。

竹内:ある?

村井:いや。

坂村:私はない、だって、こっちはオープンで全部出しているんだから。

竹内:そうそうTRONで全くお金儲けていない話……。

村井:インターネットのコミュニティーは、やっぱり僕と同期のやつ。1956年とか、そこら辺のやつら。90年の後半、大学に行ったのは僕一人でしたよね。あとはみんな起業しましたね。それでみんな大金持ちですね。見ていると、ビル・ゲイツがこの辺(一番上)にいて、(そのすこし下の)こういうところにたくさんいましたもん。

竹内:いるよね。

村井:だけど俺だけが大学にいたから、俺は唯一の貧乏だといつも言っていますけれどもね。

坂村:レベルが違うじゃない、それ。だってこっちは全然何にもないもん。

企業ではなく、大学に進んだ理由

竹内:貧乏自慢をしても、しょうがないので(笑)。要するにちゃんと教育者になろうとしたわけですよね、お二人とも。ある意味で研究者、教育者になろうと。

村井:そこには僕言いたいことが、理由があるんです。

竹内:言いたい。違うの?

村井:この同じ世代で、ビジネスを社会展開することで、きちんと自分の力を展開していった仲間が多い中で、どうして俺は大学にいたかという理由は、やっぱりこの国ですよね。この国を変えようと思ったときに、ビジネスから変えられると思うのか、それとも大学から変えようと思うのかというような課題があって。結果論も含めて言うと、僕は大学に行ってよかったと思うんですよ。

インターネット前提の社会になっていくのは、かなりヤバいというか、今までの既得権益の人たちにご迷惑をかけながら進んでいくんですよね。

竹内:そうですよね。

村井:そうですよね。したがって、これをどうやったらできるのか、どこにでも抵抗感ってあるわけ。それでエコノミーで引っ張るというのは、これはアメリカはできるんですよ。例えば僕があのとき企業に行って、どんな会社でもいいんだけれどもNECに行って、それでNECがインターネットやりますと言ったりする。それは例えばNTTでもいいけれども、やりますと言ったとすると、通産省は「1社でいくのはあんまりよくないから」と言って、あらゆる足を引っ張るみたいなのが起こる。「これ金儲けのためにやっているんだよね」と。

企業は社会をよくするためにやっているだろうけれども、この国では企業がやるというのは必ず営利目的になるので、「営利目的というのは国のためじゃないよね」みたいな。そういう親方日の丸的な考え方があるじゃないですか。国家公務員法とか、国有財産管理法とか。世の中をよくしようということを民間企業がやると思わないよね、というところがあるのだけれども。

けど、なぜか知らないけれども大学は国家公務員がいるね。東京大学にいる。私学に行くと民間人なんだけれども、なぜか大学に行くと世の中がよくなるためにやっていると思われちゃうんだよね。

竹内:思われる。

村井:思われるというか、思わせることができるというか。

竹内:思わせているんだ。

村井:そういう意味で、僕はずっとそう思っていましたよ。だから足を大学に置いて動かすのと、民間に置いて動かすのと、国にいて動かすのと、海外行ってやるのと、どれがいいかなと思ったけれども、僕は少なくとも「今俺がいなくなったら、この国のネットワークは止まるしな」とか思いながら(大学に)行っていて。何となく留学の機会を逸しましたけれどもね。

竹内:なるほど。

村井:はい。

IoTの次は何が来るのか?

竹内:タイトルがIoTと言いながらIoTの話をやっていなくてIoSの話になっちゃったんだけれども、せっかくだからお二人、名前が健と純で、どうもこういう名前は異端的になるのかもしれないですけれども、この際一足飛びで飛びましょう。

IoTは今バズワードで世の中で流行っているから、IoTの次は何か。勝手なことを言ってください。ここで勝手なことを言うと、あのとき確か坂村健があんなこと言ったからこうなったという。みんな全国の人は見ていますからね。

坂村:IoTの先と言ったって。

竹内:次。

坂村:今これからIoT時代になるといったときに、何でその先かというのはよくわからないけれども。結局インターネットオブシングスというのは、私がずっとやってきた組み込みと非常に密接な関係があるんですけれども、今のインターネットが人間と人間を結ぶためだったとすれば、IoTというのは、ものとものを結ぶとか、バーチャルとリアルを結ぶとかというものですよね。

だからIoTが、これまだ今日すぐ解決する問題じゃないんですけれども、ここ10年ちょっとぐらい、20年ぐらいで結構いいところにいくんじゃないかなと見ていまして。そうすると大体今のインターネットで、みんなが普通にメールやWebを見て使っているのと同じように、IoTもかなり普通にみんなが違和感なく使うような時代になると思うんだけれども。その先でしょう?

竹内:その先ですよ。

坂村:そうなると答えとしては、あれですよね。人と人をつないで、ものとものをつないで、人とものを使うとなったら、最後に残るところというのは、そこと人間の精神がつながるというところにいくと思います。

竹内:やっぱりIoSですね。

坂村:そっちに行きます。

竹内:インターネットオブスピリッツ(Internet of spirits)。

坂村:そうですね。

竹内:アルコールじゃないですよ。

坂村:インターネットオブスピリッツ。やっぱりIoSになっちゃいますね。

竹内:やっぱりIoS。

フランスで食事をして驚いたこと

坂村:そこがやっぱり、その先じゃないかなと思って。これがそうめちゃめちゃな話じゃないなと思うのは、そういう精神的なこととネットの中が繋がるというような話は、SFではたくさん出てくるんですよ。そういうのに興味のある子だったら。やっぱり本は読まなきゃダメだよ。若い人、ちゃんと。

竹内:坂村さん、SFの大ファンだったよね。

坂村:イーガンね。

村井:SF作家ですから。

坂村:SF作家じゃないけれどもイーガンは読まなきゃいけない。イーガンを読めば答えが書いてある。

竹内:なるほど。

坂村:そこにいろんなのがたくさんあって、欧米の本はまどろっこしいんだけれども。日本人とどこが一番違うかというと、そういうどうでもいいことをいつまでもしゃべるというカルチャーがないんだ、日本に。

僕はいつもヨーロッパに行く……といっても最近あれですけれども、最初の頃嫌になっちゃったのは、例えば一番最大ですごかったのは、フランスに行って8時から飯を食い始めて終わったのが3時というの。ずっとだらだら飲んでいるんではなくて、本当にコースが8時頃始まって、(終わったのが)3時だったんですよ。

だからもう嫌になっちゃって、お腹空いてきちゃうの、最後のほうになってくると。それでみんな何しゃべってるんだという感じなんだけど、日本人ってそういうことができないよね。なかなかできない。

だからそういう意味でいくと、例えば今シンギュラリティなんて言ってる喜連川(優)さん、偉い。日本の情報処理学会も最近人工知能とか、やっと今頃になってそういうことをいろいろやったり、SFに出てくるコンピューターの話とかも出るようになったけれども、アメリカの学会なんてこんなの30年ぐらい前からやっているんだよ。

真面目に学会に行くと、もうまったくこんなもんダメだろうというあたりからやっているんですよ。そういう、何だこれというようなのもやっているわけ。だから場慣れているのよ。そういう哲学論的な話って。

竹内:そうね。

坂村:そこは日本人は慣れていないな。だからそういう、もうどうでもいい未来みたいな話を深く長くずっと真面目に、本当に心の底から話し合うという人は少ないと思う。

30年かけてようやく準備が整った

村井:でもそれは竹内さんの今の質問がおかしいんだよ。

竹内:おかしい?

村井:悪いけど。次は何よとかいうんじゃなくて、ずっと好きなことやっているんだよ。そういう場があるね、確かにね。それは重要なこと。俺にも聞いてよ。「IoTの次は何か?」って。

竹内:聞いていますよ(笑)。

村井:そうか(笑)。

竹内:聞いている(笑)。

村井:WIDE(ワイド)ってずっとやっていて。

竹内:WIDEね。

村井:Widely Integrated Distributed Environmentと言って、こじつけたんだけれども、何がやりたかったかというと、地球の上のコンピューターを全部つないで分散システムをつくる、分散OSをつくる。それが最初の目的だったのね。

それでしょうがないから、つながっていないからネットワークやるかとか、そういうことをやっていたわけで。もうつながったので、ようやくここでどういう処理ができるかみたいなことを考えられるようになって、思えば30年間遠回りしたけれども、ようやく環境が整ったなと思うと。

竹内:何をやるんですか。

村井:そうするとここで何をするか。地球の形の分散処理がしたかったんだから、何したいのよというところで、やっぱり行き着くところは、今できていない、人間の抽象化だよね。

ユーザーっていうのはUNIXのときからIDでつながっていたけれども、もっとすごいことだよ、人間って。そうすると人の抽象化というのが新しくできて、それが完全な地球の上の分散処理の上で、ひとつのプレーヤーになる。

もちろんIoTというのはその中で、すべてのものやセンサーからデータが出てくる。そして、全部打ちそろったイメージを、もう持てるようになったから、ようやく30年かけて準備が整ったかなという。そんな気がするの。

竹内:これから楽しみだということね。

村井:そうそう。

竹内:うん。手の内は明かさないぞ、みたいな感じ?

村井:いやいや。

若者は世界で戦わないとダメだ!

坂村:これ、まもなく終わると……。

竹内:もう終わりですね。

坂村:終わりですよね。

竹内:まとめないといけないんだ。

坂村:違う、違う、まとめというか僕1個お願いがあるんですけれども、未踏会議が非常にいいと思うのは、IPAなんかがずっとやってきた、プロジェクトマネージャーを立てて、それで評価軸はプロジェクトマネージャーに任せて、「じゃあ、お前やってみろ」みたいなことをやった次の段階。

経済産業省や官房の人もいるから言いたいのは、やっぱりエックス・プライズ(X PRIZE)ですよ。僕がアメリカがすごいと思うのはやっぱりここで、ここでエックス・プライズじゃないと。エックス・プライズというのは要するに、ターゲティングでやるんじゃなくて、うまくいった人に賞金を出すというやり方のものなんですよね。

この未踏会議は、うまくいこうといかまいと、プロジェクトマネージャーが選んだやつに金出してやらせているわけだよね。もっとチャレンジしなきゃダメなの、もう。そういうのだったら成功しないやつには出さないという感じでアメリカはやるわけですよね。だから今の自動走行自動車とか何かだって全部エックス・プライズですよ。

しかもそれに対してエックス・プライズ財団というのがあって、そういうところが賞金を出して目標を達成したやつに金を出すんですよ。それを税金でもやっていますからね、向こうは。DOD、Department of Defenseとかダーパ(DARPA)なんかのプロジェクトの多くがエックス・プライズ方式でやっているんですよ。だからぜひやってほしい、それを。

ということを、この前僕、戦略トークとかやっているので、安倍総理とかいる中で言ったんですよ。「税金でもって賞金を出せるようにするのがあれです」と言ったら、麻生財務大臣が言っていたの。「税金で賞金……いい語呂だな」って。

竹内:(笑)。

坂村:だからひょっとしたら、財務大臣がオーケーだと言ったら、これいけるんじゃないかなと思っているんだけれども。それをやったら、多分今日ここに来ている若い人たちも、もっと燃えるでしょう。

勝たなきゃ出ないという。そのぐらいのことをやらないと今、世界にそうやって戦わなきゃやっぱりダメなの、最後は。だから若いの、戦わなきゃダメだよ。落合(陽一)戦え!

インターネットから異端ネットへ

竹内:来た! はい、そろそろというか、もう時間過ぎているんですよね。何だかわけのわからない話になりましたけれども、おもしろかったことはおもしろかったです(笑)。それで、とにかく社団法人未踏では人材のネットワークですね。これはやっぱりインターネットじゃなくて異端ネットと呼ぶことに。

村井:異端ネット。

竹内:異端ネットと呼ぶことに決めました。というわけで、どうもありがとうございました。