ベンチャーには「良いホラ」が必要

池谷大吾氏(以下、池谷):これ、本当に失礼なんですけど。僕、吉田さんを「隠れファン」として見ているわけですよ。創業時期でいうとうちとかと同じくらいなんですけど、僕、昔ウソ言ってると思ってたんですよ。

吉田・丹下:(笑)。

池谷:クラウドソーシングとか、言ってるうちに本物になっちゃいましたよね。いや、すごいなと思ってるんですよ。そういうことが自分にもプレッシャーになってきて「自分は何やってるんだろう」と思ったりするんです、いい意味でですよ。

なので、改めて「公器でやっていく」ってのはいい考えだなと思って。僕も最初友達と一緒に起業した時って焼き鳥屋みたいな会社だったんですよ。

全然公開はおろか、資金調達すら考えていなかったんで。やっぱり僕らの出会いはIVPの小野裕史さんとか小林雅さんで。ドスドスとやってきて「なんだこの焼き鳥屋は!」みたいな話になって「もっと世界目指せるじゃん、君らは!」って言われてチェンジしたっていう経緯があってここまでなれたという思いがあるんですよ。

吉田浩一郎氏(以下、吉田):ウソっていう言葉はアレですけど、ベンチャーってそもそもそんなものですよね。要は誰も信じていないところから自分を信じてやって大きくしていくってことだと思ってるんですよね。

池谷:「良いホラ」ってすごく重要ですよね。

吉田:一応申し上げると、私は常に事実に基づいた発言をするっていうことが信用を得る上で重要だと思っておりますので。

池谷:でも、吉田さんの話聞いてると、いつも5年とか10年先の日本の話されてますよ? いい意味で日本電産の永守重信さんが言う「良いホラ」。それがないと投資しないし、上場だって有り得ないじゃないですか。そういった意味だと、すごく実践されているなと。

吉田:それはやっぱり1回目の起業で、途中から会社に夢が設定できなくなったんですよね。いろんな事業やって、上海やったり、ベトナムやったり。じゃあアンタ何がやりたいのって状況になって。

あの時に思ったんですけど、働くって毎日のこと、わりと持続することなんで、ふとした時に夢がないと飽きちゃうと思うんです。夢っていうのは非常に重要だなと、1回目の起業で思いました。

池谷:僕も「ホラ」じゃなくて、「夢」って言うふうにします!

丹下大氏(以下、丹下):(笑)。確かに、いいまとめです。

クラウドワークスの利用規約

池谷:あと今回上場の件なんで、これから目指す方もここにいらっしゃると思うんですが、2人は上場とか準備されてきたと思うんですけど、一番大変だったことというか、これ気を付けたほうがいいよといったことって何かありますか?

吉田:大変だったことですか? 

池谷:大変じゃないんですか、全然? もう自然の流れでスススっといくもんですか?

吉田:……そう。

池谷:カッコ良すぎますね! ほっといても業績もいいしみたいな。

丹下:言えないと思うんですけど、よく上場承認までの間に労働問題が出るとか、ちょっと香ばしい感じのがいっぱいあるじゃないですか。ああいうのはなかったんですか?

池谷:上場ってある面ではいい仕組みじゃないですか、健全化していくって意味で。今までの文化を変えないといけないところとか。

丹下:だから、もう残業問題とか、ホントまさによくある話で。そういうのとか特に?

吉田:本当にリアルな話、ドリコムでも大変な目にたくさん遭ったりしたし、自分で3年間やっていた時も詐欺に遭ったりとかしたんですよね。

その結果、いろいろポイントがわかったんで、クラウドワークスの3年は法的トラブルは0件なんですよ。正社員の退社も2人ぐらいですので、基本はほとんどストレスなく経営をしてきたわけです。

今後は結構いろいろあると思いますよ。あると思いますけど、現状のところでいうと、さほど想定の範囲外だったことはあまり起きてなくて。それはすごく事前に練ったからですよね。

利用規約とかも、本当に何も無い時から弁護士とずっと相談をして一番硬い内容にしたんです。以前の経験から言うと、利用規約を後から不利益変更すると、ユーザーにすっごいダメージがあるんですよね。条件を悪くするとか。

なので、今度中長期で2、3年考えたとしても絶対に(不利益を与えないと)約束できる利用規約を作ろうと思ってやってたんですよ。

池谷:ある程度上場前提で起業もされているし、今までの経験を全部詰め込んでやっているからってことですよね。

吉田:今回の起業はとにかく受託のいわゆるマッチングなんで。受託って、私もう10年近くやってきてるわけです。基本は自分の強みが完全に発揮できるエリアで戦っているということはあります。

お客さんに迷惑をかけないビジネスモデル

池谷:丹下さんいかがですか? 起業して途中から気持ちを変えられている部分があれば。

丹下:そうですね。元々うち、コンサルティングファームだったんですよ。2009年ぐらいに10人くらいのコンサルティングファームやってて。コンサルティングファームって仕組みを作りたいとずっと思っているので。

例えば高収益モデルとか、少ない人数でいかにスケールするかってことをやっぱ考えがちなんですよ。僕ら、その真逆行こうってことで、とにかく薄利多売と人を雇うというビジネスモデルに変えたんですね。世の中にソフトウェアテストって絶対無くならないんで。

チャリンチャリンのビジネスモデルじゃなく、コカ・コーラみたいに毎日自販機があるから飲みたい時に飲みたいものを買う。僕はそれがビジネスだと思うんですね。定期購買しないんで、コーラは。

世の中から無くならない、お客さんに迷惑かけないっていうビジネスをしようということで、とにかく人を雇おうというふうに会社を変えた時に、最初から検定試験作ったんですよ。

とにかく自分たちが雇っても後で後悔しない人を最初から採用しようと決めてたんで。今、年間200人くらい採用しているから、月に2~30人くらい入るんですけど、多いんですよやっぱり。

吉田:そんなに入ってるんですか!?

丹下:そんなに入ってるんですよ。ビジネスモデル的にはその中でスケールしますね。だからやっぱり労働問題もあっちゃいけないんで、残業問題とか法的な問題はウチもホント無いんですよ。

500人いると「絶対何かありますよね」とか聞かれますが、友達でヒドいのがいて「丹下くんの会社伸びてるから、2chで調べたらいっぱい出てくるでしょ」って結構検索されたんですけど、これが無いんですよ。

「スレ落ち」って(2chには)あるんですけどスレ落ちしてて、ウチの会社も。吉田さんがおっしゃったように、僕もそういうところはむっちゃくちゃ考えて最初からやりましたね。

起業・上場時につきまとう危険性

池谷:時間も迫りつつあるんで、ちょっと聞いておきたいことがあって。最近、スタートアップ界隈って資金調達も順調ですし、皆さんのようにIPOを実現される会社も出てきたと。

一方で、市場には残念な事件もあるじゃないですか。具体的な名前は皆さん承知だと思うんで申し上げませんけど、ああいうのを見て、どういうお気持ちでいらっしゃるというか。

僕もそういった面だと気を付けなきゃいけないし、いわゆる「みんなの市場」じゃないかみたいな中でいくと、(2人には)すごい危機感もあるのかなと思うんですけど。率直に、吉田さんとかどうお考えになります?

吉田:常に誰でもその危険性はあるというふうに思っておいたほうがいいと思ってます。1回目の起業の時に詐欺に遭ったことがあります。ただ、詐欺ってかかろうと思って誰もかかってないですよね。

交通事故と一緒でいつの間にかそうなってるということになるわけです。それをいかに気を付けるかという点で、さっきのガバナンス、自分一人で決めないとか、他人が常に見ている中で決めるっていう仕組みって非常に重要かなぁと思っていて。

そういう意味では、私は改めてドリコムの内藤さんにとても感謝してます。内藤さんの下で私は上場して、いろいろな壁にぶつかってたわけですけど、内藤さんは全部正攻法の話しかしなかった。

彼はそういう不正とかは一切許さないし、絶対にやらないって決めていた。私は内藤さんについていく身だったんで、ついていくリーダーが違っていたらどうなっていたかなと今でも思っています。

内藤さんという良いリーダーについて見てきた結果、そういうことは絶対やってはいけないっていうイメージがある。

(YJキャピタルの)小澤隆生さんからも投資を受ける段階で「優秀な営業マンほどできないってことが言えないからそういうことになる可能性が高い。だから、できない時こそちゃんと誠実にできないということを報告しなさい」と約束したんですよね。

ですんで、全然「俺には起きないわ」ではなくて、常にそういう可能性もあるから気を付けようという形で経営の体制を作っていますね。

池谷:なるほど。丹下さんいかがですか。

丹下:僕もちょっといろいろ思うことがあるんですけど。バリュエーション、実はうちの会社の時、45くらいだったんですけど。上がる時は34くらい落ちたんですね。

そこから初値がすごいついて、300億までバーンっていったんですけど。ちゃんと自分たちの実力に見合ったバリュエーションにしようってのはすごい意識してて。

やっぱりIPOを狙ってくると、粉飾とか、技術管理もちょっと上に言っちゃうとかいろいろあると思うんです。会社の時価総額って初値はバーンと付くんですけど、絶対落ち着くじゃないですか。

そこが僕らの実力値っていうのは絶対わかっているんで、四半期ごとに投資家の人に「ちゃんとこの会社は予実を守る会社」だと(わかっていただく)。そっから僕、信頼を獲得できると思うんで。そこはすごく意識していますね。

池谷:僕、サイバーエージェントグループにいたんですが、なかなか表に出ていらっしゃらないけど、監査役の中山豪さんってやってることはまさにそういう感じで。

僕ら子会社にいた時、中山さんが最初にやってきて、驚くくらい外さないみたいな話とかするんです。非常に上手いIRをやられるなと思っていて。僕らが「行ける!」って言っても、中山さんは「まぁまぁまぁまぁ」みたいな。でも、最後はすごい株主さんの信頼を長く得ている。ああいうのって素晴らしいなって思うんですけど。

丹下:信頼かなというふうに思っていまして。やっぱりそういうのは大変必要だと。

クラウドワークス、SHIFTが目指すもの

池谷:バリュエーションとかはどうなんですか? 今みたいなお話は気を遣うみたいなところがあるんですか? 迷うじゃないですか。高値でいきたいんで「悪いホラ」吹いちゃうみたいな話ってあると思うんですよね。丹下さんは結構そこを注意されてたと思うんですけど、予算も工夫されたりとかってあるんですか?

吉田:諸先輩がたにうかがうと、やっぱり高いバリュエーションにすると誰かが損するわけですよね。なので、上場に関わる全員の人たちがある程度みんな幸せになるような時価総額っていうのは低すぎても高すぎてもいけないっていうか。

その適正なラインっていうのはやっぱり意識するようにしてますけど。この話自体もどこまでいけるのか分からないです(笑)。

池谷・丹下:(笑)。

池谷:世に出るのは結構先かも知れないですけどね。なんかそういうこともあるかなと思って聞いているんです。お時間も最後だそうなんで、最後にお二人にうかがいたいんですけど。

よくこういうところって「これから起業を目指す皆さんへ」とかってなるんですけど、敢えて僕止めようと思ってて。(上場って)通過点だと思うんですね、あくまでも。

なので、みなさんが今後何を目指されていくのかっていうか、クラウドワークスはどうなっちゃうんだと! 敢えてそこを含めてご自身の会社をどうされたいのかっていうのを、今後働く人、株主さん、いろんな方がいらっしゃると思うんですけど、そこに向けてのメッセージで締めたいなと思うので。それぞれいかがでしょうか?

吉田:結構我々のサービスって働き方の未来を作っていくってことなんですけど、そこには楽観的な部分と悲観的な部分があって。悲観的な部分でいくとロボットです。

うちやSHIFTさんの業務フローもそうなんですけど、どんどんどんどんオンラインでできるようにするとか効率化を図るって、ロボットを作ってるっていうことでもあるんですよね。

クラウドソーシング化とロボットって結構密接な関係があって、人が無理して働かなくてもいいような未来っていうのはすぐ先にある。

自動運転カーができたら「運転する」って行為が無くなりますから。私自身の今一番の興味は、その時に人って何をもって幸せになるんだろうっていうことで、それについてずっと考えているんです。

そこに自分の会社としての「解」を提供していくっていうのが、クラウドワークスの10~20年後の役割です。直近でいえば、クラウドソーシングっていうのは企業に必要だと思いますし、個人にとっても役に立つので伸びると思うんですよね。

ただ、じゃあ、伸びた先に何の価値を提供するのかっていうことを今ずっと考え続けて。前も言いましたけど、うちの会社では、20年で社会がどうなるかってことを研究するチームがあるので、それについてやってるっていう感じですね。

第2のソフトバンクを目指す

池谷:じゃあ、ひょっとしたら、(将来は)クラウドソーシングじゃない可能性もあるわけですね?

吉田:現段階としては、まずクラウドソーシングで最短で年間総契約額100億円を目指したいというふうに考えております。

池谷:多分、僕実現されると思うんですよ。「第2のソフトバンク」っておっしゃってるんで。多分いくし、孫正義さんと順番変わるかも知れないですよね。

吉田:いやいやいやいや順番を変える必要はないですけどね(笑)。そんな気はないです。

池谷:2番手でいいんですか?

吉田:どっちかというと、孫さんに社外取締役になってもらえるくらいの規模(の会社)になりたいですよね、頑張って。

池谷:どんな質問をしても返し方が美しいですね!

丹下:本当に(笑)。見習いたい。

吉田:だってそうじゃないですか! 孫さんだって、永守さんと柳井さんをソフトバンクの社外取締役に就けてらっしゃるわけで。やっぱああならないといけないんですよ。っていうのは、すごい猛烈に思っていますね。

池谷:今日もたくさん勉強になりました。丹下さんよろしくお願いします。

丹下:僕、SHIFTっていうのとScenteeといろいろやってるんですけど、好きなのはブルーオーシャンで、ソフトウェアテストも4兆円マーケットなんですね。日本だとそこにFacebock、Googleってなかなか創れないと思うんですけど、品質保証とか生産管理のテクノロジーをブチ込む。

Scenteeが扱う「香り」も8兆円のマーケットなんですね。そこに、日本人の得意なITとかデバイスっていうものをブチ込んで、コピーキャットじゃなくて自分たちのアイデンティティがあるものを世界に広めたいっていう思いが結構あって。海外行くとすごい(プロダクトの)ウケいいんですよ、やっぱり。

「なんでこんなもん作ったんだ?」ってシャネルの人から言われて。外人って結構おもしろいのが「どこのパテント(特許)使ってこれやってるんだ?」って絶対聞かれるんですよ。「いや、僕が作ったんだけど」って言うと「ええっ!」みたいな。

丹下:嬉しいですけどね、ああ言われると。僕は、日本人が海外でも褒められるっていうのを自分でまず作っていきたいし、さっき冒頭で「会社は人生を楽しむための手段」って言ったと思うんですけど、IPOってホント1つの過程であり、打ち手が増えるじゃないですか。

例えばM&Aやったり資本政策やったり、海外でのパートナーを組むって言っても上場会社だと組みやすいとか。

打ち手が増えることによって多分、僕らの会社にいる若い優秀な子たちが今までベンチャーですごい大変なことやってたんだけど、M&Aを担当するとか、海外戦略を担当するとかって機会が増える。それを通して、SHIFTという会社の中で学んでくれて、どんどん出ていければいいなぁっていうふうに思ってますよね。

さっき、吉田さんがちょっと、永守さんとかおっしゃったんですけど、僕、会社が10億超えるまでが一番辛いと思ってて。石が転がり始めるまですごい大変じゃないですか。業界を変えてるんで。

なので、そこを超え始めたら石ころが結構転がると本当に思ってて、今やっとそういうのが世界に向けてできる。とにかくカッコいい大人を目指したいんです。

昔で言う、お金持ってたりフェラーリ乗ってるからカッコいいという価値観って、僕ら無いじゃないですか。僕はこれからのカッコいい大人の価値観を作っていきたいなっていうのがありますね。

池谷:素晴らしい話を改めてありがとうございます。僕もこの30分間で学んだことたくさんありますし、本当に上場とか成し遂げられるのってもちろん通過点であるものの、素晴らしい経営者じゃなければなかなか成し遂げられない。

上場は審査機構でもあるとは思うので、皆さんもそういった気持ちになっていただいたんじゃないかなと思います。それでは、改めて今後ともよろしくお願いします。ありがとうございました!

吉田・丹下:どうもありがとうございました!