経営者の修羅場経験

司会:ではお時間となりましたので、本日最後のセッション4を開始させていただきたいと思います。「企業の成長と経営者の成長」、モデレーターは株式会社プロノバ代表取締役社長の岡島悦子様にお願いしたいと思います。岡島様、どうぞよろしくお願いいたします。

岡島悦子氏(以下、岡島):皆さんこんにちは。セッション4を始めていこうと思います。「企業の成長と経営者の成長」ということで、スピーカーの方をご紹介いたします。株式会社オプト、鉢嶺さん。   鉢嶺登氏(以下、鉢嶺):よろしくお願いします。

岡島:よろしくお願いします。GMOインターネット株式会社、熊谷さん。

熊谷正寿氏(以下、熊谷):よろしくお願いします。

岡島:そして日本交通、川鍋さん。

川鍋一朗氏(以下、川鍋):よろしくお願いします。

岡島:お願いします。ヤフー、川邊さん。

川邊健太郎氏(以下、川邊):よろしくお願いします。

岡島:4人の豪華なゲストをお迎えし、今回は「企業の成長と経営者の成長」がテーマです。4人の経営者「個人」の成長にもフォーカスしてうかがっていこうと思います。たくさんお話をうかがいたいんですが、3つくらいに分けていこうと思います。長年やってらっしゃる経営者の方が多いので、どんなふうに皆さん修羅場の経験をされてきたのか。

経営者の成長といったとき、修羅場経験みたいなものから学ばれたことはたくさんあるんだろうなというところ。それからぶっちゃけ金銭的には十分に成功なさっていて、働き続けるということをやっていくときに、何をモチベーションにやってらっしゃるのかというところもうかがいたいです。

最後に、ご自身はどんなふうに時間を使っているのか、今後の課題をどのように考えていらっしゃるのかということを、全体でうかがっていきたいなと思います。

会場の皆さんからもたくさんQ&Aを受け付けようと思っておりますので、よろしくお願いいたします。それでは、修羅場経験を鉢嶺さんからうかがっていきたいと思うのですが。

鉢嶺:はい。

チーム経営に変えたことで成長した

岡島:長年やってこられて、修羅場もたくさん経験されてこられたと思うのですが、どうでしょう。資料もいただいたんですけども、どこでご自身がグッと成長したかというところからお話しいただいてよろしいでしょうか。

鉢嶺:私は1994年に創業してますので、もう20年になるんですね。会社がガッと伸びているところがフォーカスされがちですけども、1994年から2000年まで利益がほとんど出ませんでした(笑)。

売り上げも最高3億円くらいしかいかなくて、四六時中会社の成長のことばっかり考えてるのに、まったく利益が出ない。経営者として僕は向いてないんじゃないのという状況になったのが、第一で最初の創業期ですね。

自分の中では資金繰りとの戦いという状況がありました。で、2001年を皮切りに一気に成長していくんですけども、ここで何があったかというとチーム経営に変えたんですね。自分が創業者で全部引っ張っていくところから、4人のメンバーで役割分担しながらやる。

僕は実務があまり得意ではないので、経営の執行実務は得意なパートナーに任せるという形をとってからガッと伸びるんですけども、逆に任せることにより僕はストレスがすごく溜まる場面があったりして。

そこが成長期。最後は上場した後で、大企業さんとの提携があるんですけどそこでいろいろバトルもありまして。組織の力学的なこととか、大企業の考え方とか、いろいろ学ばせていただいたという。大きくはその3つですかね。

岡島:やっぱり権限委譲する難しさというか。組織は社長の器以上にはならないみたいなことを、皆さん悩んでらっしゃるようなところもあって。今おっしゃっていたように、チーム経営にされて良かったことと、フラストレーションが溜まられたみたいなことでは、ご自分の成長でいうと……。

川鍋:ちなみに、チーム経営した人というのは元からいらした方なんですか? それともそのときに外から招いた……?

鉢嶺:創業のときに、出資だけしてくれたメンバーです。そのメンバーが僕を含めて全部で5人いたのですが、2年目に1人ジョインしてくれて、3年目に1人、5年目に1人。

岡島:昔からのお仲間もいらっしゃった感じですよね。

川鍋:じゃあ基本的にわりと知ってた。

鉢嶺:そうです。

岡島:でもストレスは溜まりますよね。知ってる仲間だからということもあって。

鉢嶺:ストレスというか、会社がバーッと伸びていくんで「ハッチ、すごいじゃん! オプトすごい急成長してるじゃん」みたいに言われるんですけど「そうみたいね、僕がやってるわけじゃないから」という状態になるじゃないですか。

あとは、今まで自分で全部ジャッジできていたものが、結局はジャッジできなくなるわけですよね。全部、任せたCOOなりCMOなりCFOなりに「僕はこうなると思う、こうしたいんだけど」と言って、僕から全社には意思表示できないという状態が何年か続いたので。そこはすごいストレスでしたね。

岡島:社員からも「鉢嶺さんは何やってんのかな」みたいな感じで見えてたりしたんですかね。

鉢嶺:そうかもしれませんね。

岡島:本当ですか?

鉢嶺:(笑)。

大企業病との戦いが起きた

岡島:でも業績、成長がすべてを癒すみたいなところもあるから、業績が良いとそこは越えていけるというのも社員の方はあった感じですかね。

鉢嶺:そうですね。それもあると思います。

岡島:そこから大変革に入ってくるんですよね?

鉢嶺:上場した後ですね。見づらいかもしれませんが、黄色い折れ線グラフのほうが社員数なんですけど、上場するまで70人の社員だったのが3年で700人になりました。やっぱりここで大きく歪みがあって、一番はやっぱり社風ですね。

今までは社風を大事にして、70人なのでオプトイズム、ベンチャーマインドみたいなものがあうんの呼吸で伝わっていたところが「前の会社でこんな福利厚生があったのになんでオプトにはないの」「なんでこんな人事制度がないの」というのがどんどん入ってきて、その人たちのほうがマジョリティになっちゃって。

岡島:ちょっと後出しジャンケン的なことが出てきて。

鉢嶺:自分たちが良かれと思っていた文化、価値観が「あれ、ちょっと違うのかな」という揺らぎがあって。大企業病のようになっていってしまったというところがあります。

岡島:それで2010年から改革に入られたということですよね。大企業病との戦いというか、イズムを取り戻すというか。この辺は熊谷さんもすごくお詳しいと思いますけれども(笑)。

こういうことをやられて、その間での自身の成長というのかな。これはある意味戦いだと思うんですけど、ご自身で「グッと成長したな」「忍耐力がついたな」とかいろいろおありだったんじゃないかと思うんですけど。

鉢嶺:どうなんですかね。あんまり「ここですごく成長した」っていうのはないですね。

岡島:じゃあご自身の成長は、当初のところとチーム経営にしていくところ、そこからまた戻していくところの修羅場でという感じですかね。

鉢嶺:はい。

岡島:ご自身の成長という意味では、何が一番変わられた感じですか?

鉢嶺:何ですかね?(熊谷氏のほうを向きながら)忍耐強さ?

岡島:胆力とか、みんな言いますよね。

熊谷:ねえ。

鉢嶺:あんまり自覚がないですね。

熊谷:僕は歳のせいかもしれないんですけど、経営者として何が変わったかというと、辛抱強くなったことですかね。10年前、20年前の自分と比較すると。

事業家は毎日が修羅場

岡島:では次に熊谷さんにうかがいたいと思います。どこが修羅場だったのか、どこで辛抱強くなったのかという話をお聞かせください。

熊谷:ちょうど今年(2014年)の12月で、僕はインターネットで事業を開始して20周年になりました。20年目に入りましたので、皆さんいろいろありがとうございます。

(会場拍手)

熊谷:どこが修羅場だったかっていうと、ぶっちゃけ事業家やっていると毎日修羅場なんですよ。だから「熊谷さん、楽しいですか? 事業家やってて」って若い起業家の方からご質問をいただくんですけど「ぶっちゃけ事業家経験を振り返ると、90%以上苦しいよ」と。

絶えず苦しい。なぜならば、やっぱり高い目標があれば絶えずそことギャップがあって、自分が立てている目標を上回ってる時期なんてありえないんですよね。そういうのありました? 絶えず下回ってるじゃないですか。だとすると苦しくて当たり前で、自分自身で安らげる時間というのは20年を振り返ってないですよね。

岡島:ないんですか!?

熊谷:ないです。その中で特に苦しかったのは谷間のところとかなんですけど、まあ……事業家ってこういうものなんでしょうね。そう思います。

岡島:それでも、目標を下げればだいぶ楽になるわけじゃないですか。

熊谷:そりゃそうですね。でもそんなの全然誰も楽しくないし、特に上場してたら会社は成長しないと全員の笑顔を得ることはできないので、やっぱり成長しない状況とかは見過ごすわけにはいかなくて。そうすると高い成長をし続けなきゃいけなくて、絶えず苦しいという。

岡島:それはどうマネージしてるんですか?

熊谷:マネージはしてないですよね。それに耐えるために絶えず運動してるとか。

鉢嶺:そのためなんですか?(笑)

熊谷:そうですよ。その日のことを忘れようと思ってワインを飲んだりしますけど。

岡島:根本的な解決にはならない。

熊谷:ならないですよ(笑)。単に睡眠薬代わりにワイン飲んでるってだけで。プレッシャーに耐えるために何をしてるのかというと、僕は基本運動してますよね。絶えず。ベンチプレスも「くっそー、絶対やってやる!」と思ってドーンと上げてますから(笑)。そういう人生です。

岡島:そういうことを重ねると、自分の胆力のようなものがついてきたり、成長の実感のようなものがおありなんですか? 振り返ると。

熊谷:僕個人のことというか組織の成長、会社の成長というのがまたひとつのテーマだと思うんですけど、会社の成長=関わる人々の成長じゃないですか。関わる仲間の成長ですよね。

それって、自分自身からすると「やれ」じゃなくて「やる」と言ったことを信じて任せる。で「いつまでにやる」という一定の期限が過ぎるまではグッとこらえて、我慢して見守るという胆力。それが経営者として必要な能力なんだろうなと思うんですよね。

普通と同じことはしない

岡島:どんどんグループ会社の数も増えてこられて、先ほどのチーム経営じゃないですけど、どんどん権限委譲型になって経営者を量産していく形に変えられていくと、ご自身では「さみしい感」みたいなのはないんですか?

熊谷:まったくないですね(笑)。自分が好きでデザインしている組織の図なので、そこはさみしい感とかはなくて、むしろもっとそうしなきゃと思ってるんですけど。今、権限委譲って言葉をお使いになったんですけど、ウチのグループの形は「権限委譲」というよりも「権限の分散」なんですね。

「委譲」っていうのは、大きなピラミッドを意味するじゃないですか。僕はどちらかというと、スピードを維持するために程よいピラミッドをたくさん作って、基本は全部お任せして、全体のスピードを上げていくってやり方なんですよ。その一番良い事例として、ウチのグループって上場企業多いじゃないですか。

岡島:8社とか。

熊谷:そうですね。ちょうど8社今月で上場させていただくんですけど、そういう形で全体のスピードを担保してるということなんですよね。

鉢嶺:グループ会社の上場が8社というのは素晴らしいと思います。ただ、一般的、金融的な概念からすれば「全部IPOせずに100%子会社化したほうが無駄がないのではないの?」って言う人がいると思うのです。それはなぜ……。

熊谷:よく言われます(笑)。要は、僕たちのグループ会社の上場っていうのは「人の力を最大化するための上場」なんですね。確かに純粋に最終利益のことだけ考えると、グループ会社が上場するとその分だけ外部持分比率が高くなって最終利益がマイナスなんですけど、仮にそれが3割マイナスだとしても、3割以上の人や組織のパフォーマンスが上がって稼げれば同じことですよね。

だから全体のスピードとかそういうものを考えて、そういうふうにしてるんですね。

岡島:人材を育てていくみたいなことも考えて。なるほど。

熊谷:よく言われるんですけど、証券コードの検索欄で「住友」「三井」「三菱」と入れると、ちょうどピッタリ各財閥のグループが20社ずつ出てきますよ。ずらずらって。今日現在、20社ずつ。やっぱり日本の産業って、そういうグループ会社の上場の歴史なんですよね。

10年後20年後というスパンで考えると「GMO」って入れていただいたら20社くらい出てきて、それぞれの事業領域で社会にすごく貢献する良い会社になってたらいいなというのが、僕のイメージなんですよ。よく、一般的なことを言われるんですね。「最終利益考えたら、グループ会社の上場なんてしないほうがいいんじゃないですか」って。僕はそんなことないと思うんですよね。

岡島:そこには熊谷さんのフィロソフィーみたいなものが流れている感じはしますよね。

熊谷:僕のフィロソフィーとして「普通と同じことはしない」というのは絶えず考えてて。会社って、帝国データバンクのデータだと5年で7割消えちゃうんですよ。10年で97%くらい消えちゃって、20年保ってる会社はコンマ数パーセントですよ。

だから、普通の会社と同じことやってたら消えるんですよ。普通の会社と違うことやってたほうがよくて、一般的なことをやってたら絶対ダメ。

岡島:そこをブラさずに言い続けられる、信じさせられているというところがすごいですよね。

熊谷:まあ、それは僕の役割分担なので。

岡島:ありがとうございます。