司会 新経済サミット2013もいよいよ最後のセッションとなります。これまでご登場いただきましたスピーカーの方に再びご登壇いただきまして、「総括・日本への提言」と題して行って参ります。それでは、早速パネリストの方々にご登壇いただきましょう。

まずは、モデレーターを務めますのが、新経済連盟理事、岩瀬大輔でございます。続きまして、新経済連盟代表理事、三木谷浩史。新経済連盟理事、金丸恭文。新経済連盟理事、熊谷正寿。新経済連盟理事、藤田晋。新経済連盟監査役、石田宏樹。

続きまして、MITメデイアラボ所長、伊藤穰一様。EvernoteコーポレーションCEO、フィル・リービン様。Atomico CEO/ Skype 共同創業者、ニコラス・ゼンストローム様。

以上9名の皆様でございます。よろしくお願いいたします。

岩瀬 みなさん、1日お疲れ様でした。聞いているほうとしても、本当に贅沢な顔ぶれで、私もいろいろ海外にカンファレンスとか出かけることが多いのですが、ここまでのメンバーが揃っているというのはなかなかないので、それがここ東京で行われているというのが、大変画期的であると考えています。

最後のまとめのセッションでして、時間45分ということで、非常に短い時間の中でこれだけの大社長のみなさんをモデレートするというのは大変至難な技なんですが。さっき台本をお渡ししたんですが、みなさん「これ、この通りやるの?」と言われてるんですが(笑)、がんばってみたいと思います。では最初に、まず三木谷さんから、今日1日を振り返ってコメントをいただければと思います。

三木谷 今日1日を通して、インターネットのベンチャーの制度的な問題とともに、やはり文化であったり、ベンチャーを応援するという社会的な雰囲気というものがとても重要である、また、リスクを取って挑戦するということがとても重要であるという風に考えました。そのためにも我々は成功しなくちゃいけないなあ、と思いましたし、国のほうにもですね、起業家を応援するようなしくみ、イノベーションをどんどん起こすような仕組みを作ってもらうように積極的に活動していきたいと思っています。

それから2つめはですね、インターネットはやはり非常に破壊的・disruptiveなイノベーションを起こしていく、世の中を変えていく中核だなあ、ということでございまして、日本においては、そのインターネットを使った薬の販売等も含めて、さまざまな訳のわからない規制があるので、これをいかに打破していくか、ということがとても大切、またインターネットの接続環境をより良くしていくことも非常に大切であると感じました。

岩瀬 はい、ありがとうございます。それではですね、1日を通じて色々なテーマが出てきたのですが、1つ1取り上げて、お1人ずつお話をしていただこうと思います。最初はニコラスさん。色々なセッションで、日本はもっとグローバル化を進めていかなければいけない。日本はどうしても内向きになってしまうが、それに対して、世界を見よ。そういったことをニコラスさんも言っていただきましたが、コメントをいただければと思います。

日本人はもっと外に目を向ける必要がある

ニコラス Sure. That were much based on my own experience, so I'm come from a country with nine million people, so, it's pretty obvious that you have to look abroad. But it's also… if you think about you trying to develop software or services for a global market, it's quite important because you realize that you can disguise the limit. Because softwares doesn't matter if you think about it for a specific market or for a worldwide market. So you might as well use and go ahead and do it.

And that's all it's about conference, so doing things abroad in different place or different language, or different culture and you don't know how to behave, and first time I came to Japan to do business I was very nervous and didn't know how to behave, but I learned and I think it's great to come back here, but I think what you need to do is also to encourage people to learn languages and also to travel, maybe to work abroad or study abroad.

(翻訳:はい。私が人口900万人の国からやってきた経験に基づいてお話しすると、みなさんが海外に目を向けるべきだということはかなり明白です。でも、世界市場でソフトウェアやサービスをより良くしようと考えた場合、それは極めて重要です。ソフトウェアに関して言えば、それが特定の市場向けなのか、世界市場へ向けたものなのかは、問題ではありませんから、限界を変えていくことができるということが、わかりますよね。ですから、前向きに役立てて、外へ向けてやっていったほうがいい。

それに、例えば会議の場などでも、それが全てなんですよ。異なる場所だったり、異なる言語を使う環境、または異なる文化の中でものごとをやっていくときは、どうすればいいのかよくわからない。私が仕事で初めて日本に来たときも、すごく不安になったし、どうしたらいいのかわからなかった。でも、今はそれがわかったし、こうして日本にまた来られることを光栄に思ってるんです。私が思うに、日本人には、もっと外国語を学んだり、旅をしたり、あるいは海外で働いたり留学したり、ということが必要でしょうね。)

岩瀬 Thank you.ありがとうございます。では次に、フィルさん。フィルさんから見て日本のさまざまな強みがあるじゃないか、ということを特にセッション4でも力強いメッセージいただましたが、改めてフィルさんから見た日本の強みと、どういう風に生かしていったらよいかと、そういったことについて簡単にお話いただければと思います。

日本が海外に勝てるのは、デザイン、そして……

フィル  I think when you are training to be really great, if you want to be a worldclass athlete or performer of anything, you have to look at the things that's are not good at and you have to try to improve the things that you are not good at, but even more importantly, you have to look at the things that you are already good at and invest even more and get even better.

I don't think you can ever get to be world class, just by trying to improve the things that you are not good at. So, what of the things that Japan is uniquely great at already, that we can spend even more resources to become even better and I think Japan has three unique advantages.

I think one of them is "design". I think Japan has the culture of design of beautiful design that goes back many hundreds of years. And it is visible all through Japanese culture in the heart in calligraphy, food and everything. And design is becoming the most important thing right now.

I think the second thing Japan has unique strength is "service". I think customer experience, customer service something that Japanese society has been great at for very long time. And there are many great companies created over the past few years and that become great because they are very good at customer service. This doesn't come naturally to companies in the U.S. or in China or anywhere else (laughing), but it comes naturallly to Japan so there is already a leader in service. 

And lastly, it's "attention to detail". It's the fine detail that's making everything perfect. It's working for ten years just you can learn how to, it's every little piece, no matter how small, been perfect. It's a philosophy that said that everything can be make better, and everything should be make better, everything deserves to be better.

Those three things taking together, unique strength of design, unique strength of service, unique attention to detail, I think are Japan's unique strength. And investing even more in those strength, will be even more important than trying to correct the weekness that Japan has.

(翻訳:はい。もし、君たちがワールドクラスのアスリートとかパフォーマーとか-他のことでもいいんだけど-になりたくて、一流になるために訓練しているんだったら、苦手なことに目を向けて、それを向上させる努力をした方がいいですよね。でも、もっと大事なのは、すでに得意なことに目を向けて、そちらにより多くの力を注いで、さらに良いものにしていくということなんです。

苦手なことを克服するだけでワールドクラスになれるなんて、僕は思いません。日本にある、すでに非常に素晴らしい点-そこに十分な資源を費やして、もっと秀でることができるんです-とは何でしょう。

僕が思うに、日本は3つの強みを持っています。まず1つが、「デザイン」。日本には、何百年も前から美しいデザインの文化がある。そして、それらは、日本の文化の中で、書道や料理のほかにもありとあらゆるものの中に見いだすことができます。さらには、デザインは今まさに重要性を増しているんです。

日本の持つ2つめの強みは、「サービス」ですね。顧客満足体験や顧客へのサービスなどで、日本社会はとても長い間、卓越していると思います。それに、この数年で非常に優れた企業が出てきていて、その企業たちが優秀なのは、カスタマーサービスが上手だからなんですね。これは、アメリカや中国、その他のどこでも、自然とできることではないですよ(笑)。それが日本では自然にできていて、日本はすでにサービスの分野においてリーダーであるんですよ。

そして最後に、「細部への気配り」です。全てのことを完璧にするのは、細かなことです。それらをどうやったらよいのか学ぶだけで、10年はやっていけます。ひとつひとつはとても小さなことですが、どんなに小さいかは関係なく、完璧にやる。それは、全てをよりよくすることができて、全てがよりよくあるべきで、全てはよりよくあって然るべきだ、という哲学ですね。

これら3つのこと-デザイン、サービス、細部への気配りという類い希な強み-が共存していることが、日本独自の強みだと思っています。そして、これらの強みにさらに投資することは、日本が抱えている弱みを正そうとすることよりもずっと大切なことだと思います。)

岩瀬 ありがとうございます。本当に海外から見た日本の姿は、我々なかなか目にしたり聞いたりしないので、今回特に印象的だったのは、日本って本当に良い所がたくさんあるんだなあ、ということを改めて気づかされたことじゃないかと思っています。

では伊藤さん、日米の違いみたいなことについてコメントをいただいたいんですが、ひとつは起業・アントレプレナーシップのエコシステム。それは資金調達、あるいは税制はあると思いますし、そういったエコシステムの違い。日本でこれからアントレプレナーシップを育むために必要なことは何なのか。あともう1つは、社会的に成功したアントレプレナーを賞賛する、そういう風土の違いっていうのがあると思うので、その2点、あるいはそれにとらわれずコメントいただければと思います。

"アホ"を受け入れる仕組みがない

伊藤 アントレプレナーシップの話をちょっとすると、実は日経の関口さんが言ってたんですけども、親が統計をずっと何十年もやっていて、ほとんど変わんないんだよね。一番人気はやっぱり大企業、金融関係、それとなんだっけかな。キリンと……。なんかもう、ほとんど変わらない。

石田 (小声で)航空会社。

伊藤 航空会社。で、結局あとグローバルアントレプレナーシップモニターていうのをちょっと前なんですけどリサーチしたら、8割のアメリカ人はアントレプレナーを尊敬している。日本だと2割しか尊敬しない。で、そもそも日本でリスクを取らないで一生懸命勉強して良い大学に入って良い会社に入ったら、それなりに良い生活できるの。これはローリスク・ハイリターンの生活だね。

で、アントレプレナーって言うのは、あえてリスクを取って、リターン。で、普通の国っていうのは、ローリスク・ハイリターンって、ないのよ。リスクを取らない人にはリターンは与えない。でも日本はリスク取らなくてきちっと真面目にやって偉い人になりゃいいの。偉い人になった途端に、アンフェアなぐらい得するのよ。

そうすると、アホじゃん、リスク取るのって。そしたらさ、アホはリスペクトされないよね。で、もう1つはやっぱりね、「でも、俺はパッションがある。やりたいからやるんだ」。これもあんまり日本では認められてない。それもアホなんだよね。そうすると結局、親が「自分の子供はしっかりした会社に入るとしっかりした奥さんももらえて、ちゃんとした人間になれる」っていう、ここからもうね、ずれちゃってる。

これはでも、もともと親はちゃんとした生活して欲しいからなんで、これは変わってきてると思うのね。今はもう大企業でもなかなか不安定になってきているし、ベンチャーも大きくなってきている。ただ、やっぱり田舎の親にいくまでの情報のラグがあって、本来であればこれはマスコミがちゃんと「世の中変わってきている」って伝えるべきなんだけども、伝わってないし、教育システムも変わってない。

だから、そこら辺が僕は根っこにあるんじゃないかなっていう気がして。時間あったら、また税制の話もする。僕はでも、すごい批判的なんだけど、外から見て本当にね、税制の話に敢えて繋げると、僕、「偉い人タックス」だと思ってるの。何にも世の中に貢献しないローリスクの人たちに、すごいお金が流れる訳よ。権限と。でその分アントレプレナーから引っ張り上げられちゃってるんじゃないかなあ、っていう気がする。

岩瀬 ありがとうございます。ちょっとニコラスさんに聞きたいんですけど、関連して。起業家が賞賛されないっていうのは、スウェーデンとかヨーロッパでも似たようなことはあるんですか?

ニコラス Over the last 10 years, it has been a quite big change in Europe. Back to two thousand, and two thousand and two, actually after the dot com crashed, no one wanted to become entrepreneur and people wanted to go back to the safe big jobs.

But over the last several years this has been a very big change in that culture that entrepureneurs been recognized and been celebrated, but still happens that when specific if you had a success, then if you have days not working, you gonna have headlines, and I have had many headlines balking in Sweden about that I have been wasting money but I didn't work.

That is a part of entrepreneurs and investors to try things and things not working. If this changing, I think that these things are changing over the time, you cannot have these changes in overnight but take years.

(翻訳:ここ10年にわたって、ヨーロッパでも非常に大きな変化が起こっています。2000年や2002年頃を振り返ると、実際にITバブルがはじけた後ですが、誰もアントレプレナーになりたいとは思っていなかったし、みんなが安全で大きな仕事に戻りたがっていました。しかし、この数年でそういう文化が大きく変わってきていて、アントレプレナーが認知されるようになり、賞賛されるようにもなりました。

とは言え、何か具体的な成功があったときには、仕事をしない日が続いたり、新聞記事になってしまったりします。私もお金を浪費しているのに仕事をしない、なんていう妨害記事をスウェーデンではたくさん書かれましたよ。これは、アントレプレナーや投資家を妨害する動きの一部ですけどね。もしこの状況が変われば……。私は、時間をかけて変わっていっていると思っています。一夜にして変わることはないけれども、年月をかけて。)

岩瀬 What is it that trying to change?

(翻訳:何が変わろうとしているんですか?)

ニコラス The success of entrepreneurs… you know that they had been, you know, when we started… When Skype became a very big success, I think there was a lot of other entrepreneurs certainly in Sweden who were inspired of what we have been doing, and then doing some other successful entrepreneurs, and there you have companies like Rovio Angry Birds in Finland is successful and entrepreneurs are looking out to other successful entrepreneurs and that is something has been more visible in the society that it would be celebrated.

(翻訳:アントレプレナーたちの成功ですかね。ええと……スカイプが大きな成功を収めるようになったとき、私たちがやってきたことにインスパイアされているアントレプレナーたちがスウェーデンには他にも確実にたくさんいると思ったし、成功しているアントレプレナーもいる。そして、フィンランドでのRovioのアングリーバードのような会社も出てきた。彼らは成功したし、アントレプレナーたちは他の成功しているアントレプレナーを見つけ出したんですが、これは賞賛されうる何かが社会の中で広まってきたということなんですよね。)

岩瀬 anything other, Fil?

(翻訳:他に何かありますか、フィルさん。)

フィル I think in every culture there is many people who want to change the world. And traditionally the avenues for changing world were limited to being a great scientist, or being a great artist, or being a great politician, or being great musician. And those were the things that very few people can do, and I think what people are realizing now is that there is a ...

if you don't have any musical talent or you don't have any artistic talent and you don't want to be a politician, you can still try to change the world by being entrepreneur. It's a different valued way to try to make a difference. Now it's happening everywhere and I think that's spreading entrepreneurship globally.

(翻訳:どんな文化の中にも、世の中を変えたがっている人は大勢いると思いますね。伝統的に、世界に変革をもたらす手段は偉大な科学者や偉大なアーティスト、または偉大な政治家や音楽家に限定されていました。そして、それはほんの一握りの人にしかできないことだった。そして、人々が今実現しようとしていることは…

もしあなたが音楽的才能を持っていなかったら、芸術的才能を持っていなかったら、そして政治家になりたくなかったら、それでも、アントレプレナーであることで世界を変えようとすることはできるんです。それは、変化を生むための、異なった価値ある方法なのです。今やいたるところで起こっているし、そうやってアントレプレナーシップがグローバルに広がっていくと思います。)

岩瀬 ありがとうございます。伊藤さんにもう1つだけコメントをいただきたいんですが。「日本は失敗を許さない社会だ」と。で、米国でいくつか-今日パネリストからも「投資家のお金40億失敗したけれど、次のベンチャー通してもらえた」と、そういう例もあったんですが-失敗を許容するカルチャー、許容しないカルチャー、どうすればいいのかな、ということについてご意見をいただけますか。

伊藤 どうすればいいかというのは、すごい難しいと思うんだよね。結構深いところがあると思うんだけれど……。これはまた、教育とかにもすごく繋がってくるんだけども、僕みたいなのって、やっぱり「熱い」って言われても触っちゃう。で、触って初めて熱いって覚えるじゃない。やっぱり、トライするアントレプレナータイプって言うのは大体、言われたことを信用しないのね。

最初のちっちゃな失敗でコケたり、まずいもの食べたり。で、大人になってくると、僕も色々言われても自分でビジネスに失敗しないと、本当には覚えない。そういう人っていうのは体で覚えてるわけ。ただ、そういう人たちって、あんまり日本の学校システムでうまくいかない。逆に、言われたら信用して失敗しない人っていうのがおりこうさんなんだよね。そういう人たちっていうのは、あんまりリスクテイクもしない。

日本っていうのは、ちゃんとおりこうさんが沢山いて回ってた国なんだよね。秩序が高くて、大量生産型。きちっとしたものを作る国としては、比較的、権威に言われたことを信用する人がいっぱいいてもうまくいくんで、たぶん日本の強みでもあったと思うんだよね。

だって、みんなが言われたことを何にも聞かないで自分で学ぶ、っていう社会になっちゃうと、それはカオスなんで。ただやっぱり、そういう人たちも社会の中にいて、数が少なくてもそういう人たちに、小さいときから-全員失敗するカテゴリーを作らなくても、少ない人間だけにでも-もう少し枠を上げるといいんじゃないかな。

三木谷 まあでも、そういう中でね、昔から従来型の重厚長大じゃないけども、ハードウェアメーカーも含めて、そういうものだけでは生き長らえない時代になったし、それからテクノロジーの進歩が早くて激流の時代になってきたんで、昔の日本のやり方だけでは極めて厳しいような時代になってきたと僕は思ってるんですけど。