リーダーが複数いる会社のほうが成功しやすい

サルマン・カーン氏(以下、サルマン):10~15歳ぐらい世代が違う人として知恵を分けていただきたいのですが、Googleのすごいところはエリック、ラリー、セルゲイの三頭政治だと思うのです。従来のビジネス論から見ると難しいですし、何か判断をする時も大変だと思います。どうやって行われたのですか?

エリック・シュミット氏(以下、エリック):私が語らなくとも、ちゃんと機能しているという結果が何より物語っていると思います。チームとしてのリーダーシップは、説得力ではなく成果で評価するべきです。何も言わずに責務を果たすチームは評価されるべきです。

もうひとつ思うのは、世界的にもこの業界においても、成功する会社は複数のリーダーがいる会社だと思います。メディアはひとりの人物を持て囃しがちです。もちろんその人も賞賛されるべきですが、実際は数人で動いているのが実情なのです。

ラリーとセルゲイと共に築き上げた関係性の中では、お互いの意見をたくさん言い合います。会社としてもオーナーとしても、勝つために言い合っていることを認識していたから、お互いの動機に対する疑問は一度も抱いたことはありません。具体的な戦略で揉めることはありましたが、それはむしろとても良いことです。

我々も長年関わっていますが、Khan Academyにもとても良いCOOがいますね。お二人で作り上げた組織だと思いますが、メディアの露出が多いのはあなたです。もちろん彼も声誉を博するべきですよね。

Intel、Oracle、Sun、Ciscoなど、シリコンバレーでも成功している会社を見ると、キーパーソンが2~3人います。Appleも、スティーブ・ウォズニアックの役割は見逃されることが多いです。

Googleの3人のトップのうち、誰に相談するか

サルマン:Googleは大変成功していますが、ジョナサンから見てチームとして「誰に相談すればいいんだ?」と思ったりすることは?

ジョナサン・ローゼンバーグ氏(以下、ジョナサン):彼らは毎日顔を合わせていましたから、意外と問題はありませんでした。会社がどんどん成長する中で、とりあえず3人のうち誰かひとりに相談するようになりました。

もちろん時と場合によって相談する相手を選んでいました。例えばトランポリンを設置したいのであれば、セルゲイに相談しますよ(笑)。ひとまず3人の誰かに相談できるということは、素晴らしいと思います。その日のうちに連絡が来れば彼らの意見が聞けて、連絡がなければとりあえず実行できるという文化があります。

エリック:私もできるだけ効率的にそうするようにしています。実際我々の中では、大事なことに関しては必ず相談するという話はしました。つまり、簡明直截なことに関しては勝手にやって、お互い大切に思っていることは絶対に相談しあうということです。このようなパートナーシップはとても効率的です。

会社に勢いをつけるのであれば、3~4人のチームのほうがいいと思っています。今ではちゃんとルールもありますが、セルゲイは自由奔放にプロジェクトを進めています。特にGoogle Xです。

Google Xは今、糖尿病の数値を測ることができる、小さな基盤と電池を搭載したコンタクトレンズの開発を進めています。糖尿病患者たちにとっては人生が変わるものです。将来的なインパクトを考えると、開発コストは関係ありません。Google Xはビジネスとして成立しますし、さらに言えば、人々の人生を変えます。

そしてラリーがCEOとして社内の動きを管理し、私が外部との関係を築く役割分担をしています。それでもお互い会ってコミュニケーションを常に取っているし、お互いの懸念がどういうところにあるか、理解しあっています。

物事を漸次的に捉えず、その10倍を考える

サルマン:Google Xの話がありましたが、これを聞いてGoogleのイメージが変わりました。企業の成長が勢いづくと、今行っていることと隣接することに取り組みたがる傾向があると本にも書いてありました。自動運転の話とか……?

エリック:こういうのはラリーとセルゲイの判断で進めていることです。優秀な創設者のおかげでプロジェクトが動いています。

5年ほど前の話ですが、私は科学技術に対して投資をしたかったのです。ご存知の方も多いと思いますが、私自身が尊敬しているチャック・ゲシュケとXerox PARC(パロ・アルト研究所)で一緒に働いていたことがあるのですが、そこで10年、20年、30年先の技術に対する投資の重要性を学びました。

そこでラリーとセルゲイに「ビジネス的に有益なことは、リスクを問わずやろう」と提案したんです。そして創設者たちは、決断してくれました。そこで自動運転の創始者とも言えるセバスチャン・スランを雇い、Google Xを始めました。元々ラリーがスタンフォード時代の知り合いでした。

最初は自動運転の研究のみを行っていましたが、研究が成立し始めた頃、研究以外の所でも人手が必要になったので、セルゲイはGoogle Xの運営をメインに動き始めました。ある日、ラリーとセルゲイのオフィスに入ると、いきなり「ハードウェアビジネスに参入する」と言われました。時々こういう風にいきなり言われて驚かされます。

ふたりは冷蔵庫の話をし始め、冷蔵庫の重要性や自動化について延々と語り始めました。20分ぐらいして冗談で話していることに気づきました。別に冷蔵庫をGoogleが作るわけではないですよ、現時点ではね。もしかすると次の買収はそういう方向かもしれないですが(笑)。

そして彼らは風船の話を始めたため「冗談はよせ」といったのですが、結局この風船の案は結果的には素晴らしいものでした。今は風船を使って、ネットワークが無い場所のインフラ整備を試みています。これも革命的です。

ジョナサン:これはラリーの「10倍を考える」理論の良い例ですね。従来の企業はあまりやらないことです。普通は物事を漸次的に考えます。ラリーは10倍良いものを考えるように促しています。

失敗しても大丈夫です。そのプロセスから何かを学ぶことが大事なのです。アストロ・テラーは「1リットルで30km走る車を作るのはひとつのプロジェクトだが、1リットルで200km走る車を作るのは別の話で、失敗しても何か得るものはある」と言っています。

エリックがさっき言っていたProject Loonの話に戻しますが、発展途上国にネットワークインフラを与えるのであれば、5年後には携帯電話が25億台増えるでしょう。新聞、図書館、政府の動き……。Khan Academyにアクセスできない人たちに、どれだけの影響があるか考えてみてください。

エリック:リベリアで悲劇が起きていますが、彼らにちゃんとした携帯通信網があれば、より早い予防、治療手段が打てたでしょう。単なるエンターテイメントのためではなく、命に関わる問題なのです。

Googleがハードウェアをつくるなんて10年前は想像できなかった

サルマン:部外者からすると、これらの技術革命は世界中から羨望されると思います。10倍で考えている創設者たちがいることで発展を遂げていることは分かりますが、会社全体としては、例えば50年後、この思考は続いているのでしょうか?

エリック:目標も資金もあると思いますが、最も必要なのは人材です。我々はリーダーたちに頼りがちです。会社の成長は、ブランドでもビジョンでもなく、引っ張る人たちにかかっていることがわかりました。

ジョナサンとマリッサは、技術系の学部を卒業した若者たちにプロダクトマネジメントを学ばせる「アソシエイト・プロダクト・マネジメント」プログラムを立ち上げました。5~10年後、彼らはGoogleの管理職のみならず、たくさんのスタートアップのCEOになりました。本でも話しましたが、長期的な参加はとても効果的で、伸び代があるプロジェクトです。

ジョナサン:縛りつけすぎないことも大事です。イノベーションを起こしたいのであれば、プロトタイピングを取り入れることが重要です。試作や実験を行うのは近年ずいぶん簡単になりました。

マネジメントが邪魔することなく、開発者や研究者の中でどのようなものが成功するのかを試行錯誤できるようにしたほうがいいと思います。そうすれば、ダーウィンが提唱した進化論のように、自ずと良いアイディアが生まれ出るでしょう。

サルマン:コンタクトレンズ、自動運転、Project Loonの話にもあるように、10年前はGoogleが何を生み出すかなんて、想像もしていなかったでしょうね。

エリック:我々にだってわかりませんでしたよ。

ジョナサン:10年前に使っていた物を思い出してみましょう。アドレス帳、留守番電話、家には目覚まし時計。イエローページは必需品だったし、ポケベルも持っていましたよね。みなさんもそうでしょう? Rand McNally(地図専門の出版社)の地図も持っていたし、天気も調べないとわからなかった。

今では、これらが全部スマートフォンの中に入っています。20年前、スター・トレックのカーク船長は、様々なセンサーが入ったトリコーダーと通信機を両手に持っていました。でも今ではスマートフォンひとつにどちらも入っているのです。

エリック:シリコンバレーで今革新を起こしつつあるのは、電話と同期する医療用モニターです。経皮パッチなどで人体の状態を観測し、何か問題があれば自動的に電話がかかってきて、医者が「今すぐ病院へ来い!」と促せるような技術です。

この先10年でGoogleは何を変えるか

サルマン:未来を予測することは不可能であることは承知ですが、その上でこの先10年でGoogleが起こす革命について、おふたりの予測をおうかがいしたいです。

ジョナサン:Googleか、Googleが作るプラットフォームかはわかりませんが、Android Wearの可能性は大きいと思います。人々の医療情報と現在地へのアクセスは莫大な可能性に満ちています。

うつ症状がある人がカウンセラーの元へ出向いて「元気?」「まぁ」という具合の適当な会話をするのではなく、電話が自動的にうつ症状を伝えるのです。もちろんユーザーの承諾を得なくてはなりませんが、通話の回数、メッセージへの返答の有無、自宅を出る時間帯などを医者に伝えてくれます。個人に紐づかないビッグデータを含めて、これらのデータは医療業界に大きな影響をもたらします。

エリック:業界全体の話をします。私は、ソフトウェアがもたらす破壊とイノベーションを甘く見ていました。様々な要素を組み合わせることができる時代になり、どんどん便利になっていますが、そのイノベーションが争いを生む原因にもなっています。Uberは良い例です。Google Mapsを使用していて我々も出資していますが、結局ユーザー争奪戦になりつつあります。

あなたもKhan Academyで教育を内発的に変えようとしていますよね。子供達の教育を変えることが第一の目標だと思います。最初はYouTubeを使っていましたが、今ではどの算数の問題で子供がつまづくかを予測するプログラムをエンジニア達が作っていますよね。今まで見たことのない、教育の量子的な変化です。ビジネスに置き換えると、同業者にとっては脅威ですが、ユーザーにとっては素晴らしいことです。

ジョナサン:傍聴者の中に経済学者がいるので付け加えると、情報コストと取引コストがゼロに近づくにつれて、どんどん商業が発展すると思います。世界中の人がお互いと接することができるようになると、互いにどのようなサービスや物を持っているかがわかるようになるため、低コストで売ろうとしている人と、それを買おうとする人が倍増するのです。

「Don’t be evil」に込められた意味

サルマン:参加者のみなさんからの質問に移りたいと思います。まずこれからいきましょう。「Googleの『Don’t be evil(悪をなさない)』というモットーについておうかがいしたいです」という質問です。

ジョナサン:エリックの答えは違うかもしれないですが、私は「悪をなさない」というモットーは、内部文化の原理だと思っています。多くの人が勘違いをしています。今までのミーティングでも、コンセプトの話をするといきなり「それは『悪をなす』からダメだ!」と誰かが言って、「そうだな、このデータはビジネスに使ってはいけないな」となったことがあります。カンバン方式の生産ラインで、誰かが乱れを見つけて止めるための仕組みだと思っています。

サルマン:これは面白い質問です。お二人に答えていただきたいのですが、「IT業界の内外問わず、憧れの人物は誰ですか?」という質問です。

エリック:僕はスティーブ・ジョブズです。彼とは光栄にも一緒に仕事ができて、Appleの役員としても関わりがあったのですが、彼が社会にもたらした影響は皆が学ぶべきものだと思います。

サルマン:本の中では憧れとして語っていますが、GoogleとAppleはスマートフォン業界では競合していますよね。気まずかったりしませんでしたか?

エリック:もちろんお互い敬っていましたよ。先ほど言ったように、才能ある人は世界を変えます。それなら、近くにいてそれを見たいと思うのは当然でしょう。

ジョナサン:スティーブももちろん憧れですが、私は@Homeで雇ってくれたミロ・メドリンです。@Homeは、私がGoogleの前に在籍していた通信会社です。彼はブロードバンドアクセスが、将来どのような世界を創るかを語ってくれました。当時は信じ切れていませんでしたが、以前NASAで働いていた彼は私に「勢いづけば何でも飛べるようになる」と言いました。

エリック:いくつかの試験飛行は近くのサニーベールで行われていたんですよね。私はミロの家に行ってブロードバンドが本当に成功するのかどうか、尋ねたことがあります。しかし今ではアメリカで7000万軒もの住宅にインターネットが普及しています。成功しましたね。

ジョナサン:実は尊敬する人は数人いるんですが、ひとりしか選べないとしたらマーティン・ルーサー・キングJr.かもしれないです。

アプリが「キャズム」を無視して、いきなり大ヒットする時代

サルマン:次の質問も面白いですね。「我々は今、テクノロジーバブルに直面していますか?」

エリック:そんなこと全然ないと思います。資産評価は低い、シェアも低い、賃金も低い。あなたもボランティアに頼っているでしょう?

サルマン:それはリーダーシップと言ってくださいよ(笑)。さっきの質問を続けますね。

「テクノロジーバブルには直面していないとして、企業もしくは個人としてバブルが崩壊するときにすべきことは?」

ジョナサン:早めに売却することですね(笑)。

エリック:私はできていません(笑)。多分皆さんのほうが賢いでしょう。

ジョナサン:今バブルであるかないかは、10数年前のバブルと比較すると分かると思います。マリー・ミーカーのプレゼンテーションを見てください。検索すればすぐにわかります。Kleiner Perkinsのキャピタリストです。

一番最近のプレゼンテーションを見て、今と以前のeコマースの資産評価を比較してみてください。やっと情報コストと取引コストがゼロに近づいてきて、人々はネットでどんな買い物もできるようになりました。将来はみんな携帯電話で決済するようになります。電話に移行したときに、資産評価に納得できるようになるでしょう。

エリック:「今回はそうではない」とはいくらでも言えると思いますが、まず2000年3月のNASDAQ指数に比べると、現在の指数は低いですよね。バブルが本当はどんなものだったか忘れてしまっています。バブルは最高でしたよ、取り戻しましょう。

資産評価が上がっている理由としては、インターネットを人々が理解し始め、それによりプロダクトが世界的に発展しやすいことをやっと感じるようになったからです。ジョナサンが本で理路整然と話していますが、以前は流通やブランディングなどが厄介だったのです。しかし今ではプロダクトが成功したときの伸びと資産評価が高く、現状ではその成功したプロダクトは市場に報われている状態です。

ジョナサン:あなたが作るサイトも、非営利でありながら注目を浴びていますよね。皆さんが使うアプリもそうです。InstagramやWhatsApp、Angry Birds、アプリをダウンロードさせるためのマーケティングは、ほとんどしなかったはずです。ジェフリー・ムーアの『キャズム』に書いてある「イノベーター」「アーリー・マジョリティー」「レイト・マジョリティ」の全てを飛ばして、いきなり爆発するんです。

エリック:そう、いきなり大ヒットするんですよ。