強制捜査はまるで戦争だった

田原総一朗氏(以下、田原):具体的に聞きたいんだけど、事件が起きた、警察が入った、お父さんが逮捕された、あなたはどうしたのそのとき? サティアンにいたわけ?

松本麗華氏(以下、松本):はい、そうですね。

田原:何してたの?

松本:何をしていたのか……。断続的に強制捜査は入り続けますし。

田原:強制捜査が入り続けるときに、あなたは何を考え、どう思っていたんだろう?

松本:もう戦争ですよ!

田原:戦争?

松本:壁とかボロボロボローと壊されて行きますし、天井も壊されて寝る場所もない。いつ攻め込まれるかわからないけども防衛の手段はないっていう。そういう状態で自分のプライバシーもなく。何でも持って行かれちゃいますから。

田原:あなたは兄弟もいるし、お母さんもいる。お母さんはどうしたの?

松本:母はもう父の逮捕後ほどなく逮捕されていますので。

田原:子供だけ残っているわけ?

松本:子供だけ残りましたけども、他の兄弟はみんな祖父母に引き取られて。

田原:あなたは1人でいたわけ?

松本:そうですね。「三女・アーチャリー」だから引き取れないっていう。

田原:だけど、あなたの生活はどうしたの? 食べ物とか。

松本:食べ物とかは安定してないですね。サマナ(出家修行者)のみなさんに頂いたりして。

小学校・中学校には通わなかった

田原:あなたはね、事件が起きたときは11歳。小学校には行ってたの?

松本:小学校は行ってないです。

田原:中学は行ったの?

松本:中学も行ってないです。

田原:小学校も中学も行ってないの? 高校は?

松本:通信制に行きました。

田原:本(『止まった時計』)を読むと、いろいろと大学を断られたでしょ?

松本:はい。

田原:どういう理由で断ってきたの?

松本:「入学を許可しませんので、ご了承ください」と。

田原:何で許可しないって言うの?

松本:何でということはハッキリとは……。

田原:文教大学を訴えたんだよね?

松本:全部訴えました、最終的に。

田原:訴えて結局、文教大学には入学できたんだよね?

松本:はい、できました。

田原:訴えて勝ったわけね?

松本:「仮の地位」というものが認められて、通えるるようになったんですけど。

田原:どうだったの大学生活は?

松本:まず1ヶ月入学が遅れているので、すごく忙しかったですね。あとはやっぱり「わくわく!」

田原:楽しかった?

松本:うん、夢見てました。「何か楽しいことがあるはずだ!」っていう。

松本麗華氏にとってのオウム真理教は「町」

田原:なるほど。その頃はアレフから抜けてたわけ?

松本:そうですね。

田原:そこが聞きたい。お父さんが逮捕されて、そこでオウムの残った信者たちが「宗教団体・アレフ」をつくったね? その教祖はお父さんだよね?

松本:そこらへんが……。

田原:だって、お父さんの写真があったでしょ?

松本:わかんないですね、アレフに入らなかったので。

田原:あなたが? だって正大師じゃない?

松本:いや! オウム真理教の正大師でしたけど、アレフに正大師制度があったのかどうかは。

田原:オウム真理教の正大師だった、あなたにちょっと聞きたい。あなたにとってオウム真理教って何だったの?

松本:オウム真理教というのは「宗教的な要素もある町」。

田原:町? 町って?

松本:生活していただけなので、私は。

田原:オウム真理教ってね、シヴァ神? 神様がいるわけでしょ。みんなはこの神様を気にいってるわけ?

松本:まぁ普通には信じてる。

田原:あなたもシヴァ神という神様を信じたわけ?

松本:私はシヴァ神という神様を信じたかは、わからないんですけども。何となくそういう存在がいると思ってました。

田原:あなたのお父さんは教祖になってるんだけど、その宗教集団は本物だと思っていたの?

松本:いいところをお聞きになりますね(笑)。それは反抗期ということもあって「本当に真理なの?」と「本当にこれが絶対の宗教なの?」って。

田原:ああそう! そういうこと思ったわけ?

松本:はい(笑)。

田原:そういうことをお父さんに言った? 「あなたが言ってるの、おかしいじゃないか」と。

松本:いや、父には言わず「家出をして旅をしよう」と思ってました。

田原:家出して、どうしたの旅は?

松本:実際にはやっていないんです。そういうことを考えてる頃に強制捜査っていう。

田原:強制捜査はある意味では都合が良かったわけね? オウムが破壊されたから疑問を持つ必要がなくなったわけだ。

松本:どうですかね? 逆かもしれないです。

田原:逆というのは?

松本:父がいれば反抗期を迎えられますけど、父がいなくなっちゃって反抗できなくなって……。そこで身動きとれなくなって時間が止まっちゃたっていう。

田原:時間が止まっちゃった?

松本:うん……。

地下鉄サリン事件が起きた理由がわからない

田原:アレフはいつ頃できるの?

松本:アレフは2000年ですかね。

田原:事件から5年か。で、あなたはアレフに入るわけでしょ?

松本:いや、入ってないです!

田原:あっ、入ってないの? アレフから抜けたんじゃないの?

松本:アレフはオウムとはちがうし、「故郷はなくなったと悟ってアレフには入らなかった」と本にも書いたような気がします。

田原:でもアレフから誘いにきたんじゃない? 「入ってくれ」って。

松本:全然なかったですね。

田原:ないの!?

松本:そこはもう、「目の上のタンコブにはいなくなってもらおう」っていう(笑)。

田原:そこを誤解してた! アレフはあなたが欲しくって、あなたを利用しようとしたんだと思った。ちがうの?

松本:私だけだと利用しやすかったかもしれないですけど、そうなると「兄弟全員もどってこい」という話しをしないといけなくなって。しっかり考える兄弟もいますから。それは、おもしろくなかったんじゃないですかね?

田原:あなたにとってオウム真理教って何だったの、いったい? 町だと言ったけどね、お父さんという教祖がいて。

松本:町長さん。

田原:お父さんは町長さんか。

松本:はい。

田原:お父さんが町長だったら絶対にね、地下鉄サリン事件は起きないよ。

松本:そうですね。

田原:何で起きるの? 日本ではめずらしい事件だよね? あんな大勢の被害者を出すというのは。

松本:「何なんだろう?」と私も思っていて。

田原:やっぱり、それを解明するのがひとつ、あなたの役割だと思うけど。

松本:はい。

田原:何なんだろう?

松本:今、答えられるような問いではないですね。書きながらも「何だったんだろう?」って思って……。それに絞って相当研究をしないとわからないと思います。

父は本当に壊れている

田原:あなたは、お父さんが逮捕されてから何度か会ってますよね? 面会に行ってるよね?

松本:はい。

田原:面会に行ったときに、お父さんはあなたとコミュニケーションはできなかったのかな?

松本:一切できなかったです。

田原:あなたが喋ると、お父さんはどんな反応をするわけ?

松本:何の反応もなかったりとか、変化がない。面会室に行くと始めから「ウッウッウッ」と音が聞こえてきてる状態で。

田原:お父さんの喉から?

松本:喉からですね。きれいな声帯からの発声がないような形で。

田原:お父さん、裁判が始まって壊れちゃったよね?

松本:うん……。

田原:あれ、お父さんが自分で壊したんじゃないかな? 麻原彰晃さんに神通力があるとすれば、自分を壊す神通力があったんじゃないかな? だって壊れてたと思うでしょ、お父さん?

松本:はい、壊れています。

田原:あれはマスコミではよく「偽装だ」と、「壊れたフリをしている」と言うけれど本当に壊れたんだと思う。

松本:はい、私も思います。

田原:何で壊れたんだろう?

松本:わかんないんですよねぇ……。ただ、「目が見えない」というのは大きなハンデですので。普通は受刑をしていても本を読んだりとか、ちょっとした日常の楽しみとか刺激がありますけど。父の場合は目が見えないので、そういうこともできませんし。

田原:本当に目が見えないの?

松本:全く見えないです。

田原:全く見えないの? うっすらと見えてるわけじゃないの?

松本:片目はもう眼球もないですし、もう片方も視力がないですね。

田原:話は飛びますけど、何でお父さんたちは選挙に出たりするの?

松本:あれは不思議ですよね(笑)。

田原:「バカみたい」って感じがするよね? 今はオウムをまねて「幸福の科学」が選挙に出てるけど何なのあれは?

松本:うーん……。

田原:あの辺から「オウム真理教おかしいな」って感じがしたの。お父さんに言わなかったの? 「バカじゃないか」って。

松本:当時8歳、9歳くらいですかね。「何なのかなー」と思って。

田原:当選するわけないじゃんね。

松本:当選とかはわからなかったので。ガネーシャ(象の頭を持つ神)帽とかカワイイじゃないですか? それで遊んで楽しんでましたね。

集団ヒステリーの可能性があった

田原:選挙はやるわ、地下鉄サリンでしょ? だんだんとおかしくなる。そのおかしくなる、きっかけは何ですか?

松本:病気が発病してたのかもしれないですし。

田原:お父さんが?

松本:うん。

田原:病気を利用して周りが「あれやりましょう、これやりましょう」と言ったわけか。

松本:その可能性もありますし。その病気を共有することだってありえますよね。

田原:どういうこと?

松本:精神医学的なヒステリーの話で、それは記憶を失ったりしながら奇妙な行動をしたりするんですけど。それが集団でもあるみたいなんですよね。

田原:集団ヒステリーになるわけか。

松本:そうですね。

田原:集団ヒステリーになることが幸せだと思っちゃうのか。

松本:幸せだったんですかね、当時?

田原:幸せと思わなきゃ信者がどんどん増えていかないでしょ?

松本:そこはやっぱり、99%の知らない人たちと1パーセントの上層部でちがうと思うんですよね。

田原:1パーセントの上層部は何したかったの?

松本:幸せそうじゃなかったですよ。

田原:幸せそうじゃなかった? 村井(秀夫)さんも?

松本:村井さんは楽しそうでしたね、幸せそうな。

田原:ねぇ、彼は楽しそうだったよね。何が楽しかったんだろう、あれ?

松本:いやぁ、そこは……。

田原:上祐(史浩)とか青山(吉伸)とかね、ああいう連中は楽しいんじゃなくて「偉くなりたい」ってのかな? 「権力を持ちたい」って感じがしたけど、村井は違うよね?

松本:何か楽しんでましたよね? もう突き抜けて楽しそうだった。

田原:お父さんもきっと村井を信用してたんじゃない?

松本:うーん、「村井を信じるやつはバカだ」という話も。

田原:お父さんが!? じゃあ村井より上祐のほうを信用してたの?

松本:いや、上祐さんも信じてなかったと思うんですけど。

田原:じゃあ誰を信用してたの?

松本:誰も信じてなかったんじゃないですかね。

田原:誰も信じてないのに、どうして地下鉄サリン事件が起きるのよ!

松本:だから不思議なんですよね。「本当に父が首謀したのか」っていうのが、わからなくなってくる。

田原:そこはあなたね、大きくなって成人して、自分で考えに考えたわけでしょ?

松本:そうですね。

止まった時計 麻原彰晃の三女・アーチャリーの手記