マウントゴックス破綻の与えた衝撃

関口和一氏(以下、関口):それでは早速ディスカッションのほうに移りたいと思うんですけれども、お話を伺ってみてマウントゴックス事件が何だったのかというと、日本ではかなり強烈でネガティブなイメージを与えて、日本ではビットコインの議論がストップしてしまったと。

一方海外、特にアメリカでは、問題が起きたのだからむしろ安全に使えるようにしようということで、昨年の3月には政府がビットコインのような仮想通貨を、株や債券と同じような資産と見なす、つまり課税対象の資産とみなすという決定を下したり、あるいはコインベースのようなものを公認するという動きになってきているわけですね。

最初マクドネルさんにお聞きしたいんですけれども、マウントゴックス事件というのはビットコインをやっている皆さん、あるいは金融の世界の人たちにどういうインパクトを与えて、これはどう解釈されたのか、このあたりからちょっと聞きたいと思うんですがいかがでしょう?

ジョン・マクドネル氏(以下、ジョン):わかりました。これはもちろんビットコインの進化の中で重要な事件でした。ある意味ビットコインというネットワーク、そしてソフトウエアの強じん性を示したものと思います。

当時、破綻をする前に十分運用ができない時がありました。ですので、そのほかのヨーロッパや香港の取引所がその代わりをした時期があったんです。これが警鐘を鳴らしたと思っています。投機筋に対して、ビットコインを資産として投機している人たちにとっても警鐘になりました。

あるいは業界の人たちというのは、「あっこれで、こういうことになったんだね」というふうに、これはこれというふうに考えて、その先に進んでいきました。それこそマウントゴックスの前に、ビットコインに投資された資本の10倍だったと思います。

ビットコインの革新性はどこにあるのか?

関口:私もこの分野を担当して長いものですから、その昔の例えばモンデックスとかデジキャッシュ、それからeキャッシュのたぐい、あるいはサイバーキャッシュとか、VISAでいえばVISAキャッシュとか、いろんなものが20年以上前から実際に試されました。

日本ではフェリカのようなものが交通カードとして、ペイメントの世界にも使われるようになったわけですけれども、ビットコインの革新性、画期的な部分というのは、20年の経験を経たマクドネルさんがご覧になって何なんでしょうかね? あと野口さんにもお聞きしたいと思うんですけれども。まずマクドネルさん、いかがですか?

ジョン:そうですね、今の例えは素晴らしかったですね。デジキャッシュとかサイバーキャッシュの言葉に触れられて。これらの通貨というのは、そもそも発行主体が決まっていました。発行主体が財務的に苦しくなったときは通貨もだめになってしまいました。

ビットコインプロトコルのいいところは、分散型でコンセンサス主導になっていることなんです。まさにマウントゴックスを乗り越えたことが価値提案を立証したと思います。

銀行も参画していませんし、先ほどありましたように発行主体が1つに決まっているわけではありませんので、それがダウンしたところで1万以上あるノードによってビットコインのネットワークは構築されていますから、それが破綻することもないんです。それが設計の美しさだと思っています。

マウントゴックス破綻とビットコインの価値は無関係

野口悠紀雄氏(以下、野口):今のマクドネルさんのご意見に全面的に賛成です。つまりビットコインというのは、従来の電子マネーとは全く違って運営主体がないということですね。それからもう1つ、マウントゴックスの破綻にもかかわらずビットコインの仕組み自体は生き延びたと。この2点は大変重要なことだと思います。

なぜかというと日本はこの点についての誤解が非常に一般的だからです。私はよく言うんですけれども、例えば皆さんがアメリカに旅行してドルを持っていったとします。ドルを使い残して成田に帰ってきた。それを円に変えようと思ったら、たまたま成田の両替所が閉まっていたと。そのときに「ドルが破綻した」と言えますか?

ドルというのは成田にある両替所とは全然別のものですよね? マウントゴックスの事件というのは、いわばそういうものだったわけです。ビットコインという仕組みがあって、その外に両替所があった、その両替所の1つが破綻したわけですよね。

それをもって日本の報道は「ビットコインそのものがだめになった」というふうに報道したわけです。ですからこれは誤解も甚だしいですね。

管理主体がないことに危険性はないのか?

先ほどのプレゼンテーションの最初に言いましたように、ビットコインのテクノロジーの最も注目すべきところは、運営主体がないということなんですよ。ですからそういう意味で従来の通貨とも違うし電子マネーとも違う。

それでブロックチェーンテクノロジーという全く新しい技術によって、この問題は解決しているという点が重要なんですね。これはコンピュータサイエンスの分野では従来からビザンチン将軍問題というふうに言われていた問題です。

つまり分散化したネットワークで信頼できない対象、人たちが運営して、しかも全体としてうまくいくと。そういうシステムが可能かということがコンピュータサイエンスの昔からの問題で、これまではその問題に解はないと思われていたんですね。

ビットコインというのは最初のその問題に対する解なんです。そういう意味でコンピュータサイエンス上の非常に大きなブレークスルーなんですね。そのことをまず認識することが大変重要だと思います。

関口:きょうはお三方とも、どちらかというとプロモートする側に近い方なので、あえて私のほうはネガティブにお聞きしたいと思うんですけれども、野口先生はそうおっしゃるんですが管理主体がないというのは極めて危ないんじゃないかというのが世の中の一般的な受け止め方なんです。

野口:そこが覆されたというのが重要な点なんですね。だからこれは多分、私が2時間ぐらい講義しないと皆さんに納得していただけないと思います。今日は話す時間5分と制限されているので大変残念ですが、それが覆されたというのが非常に大きなブレークスルーなんですよ。

ブロックチェーンって何?

関口:ブロックチェーンって皆さんおわかりですかね? 大体わかっているという方どのぐらいいらっしゃいますか? ブロックチェーンがわかっているという方。やっぱり少ないですね。これは斎藤さん、ちょっとご説明いただけますかね。なぜブロックチェーンがあると、これは安全なのかというあたり。

斎藤創氏(以下、斎藤):私も弁護士なので、そこまでうまく説明できるわけではないんですけれども、ブロックチェーンというのはハッシュ技術、ハッシュ計算という計算を使って……。

関口:なるべく簡単にお願いいたしますね。

斎藤:暗号化技術を使って、改ざんができないようなデータをずっと積み重ねていくんですよね。改ざんにすごいコストがかかる、そういうものを分散化されたネットワークの中にどんどんとレートとして残していきます。それによって誰か1社がつぶれても影響はないし、暗号化技術を使っているので非常に改ざんが難しいというテクノロジーです。

もちろんセントラルバンクがあって誰か1人のイシュアがいて、そこがきちんと堅ろうに暗号化技術を使ってデータを守っているというのが、それももちろん1つの方法ではあるんですけれども、それが伝統的な銀行システムですとか、日銀システムとか、そういうものですね。

それももちろん安全ではあるんですけれども、それは1つが破られると、それで終わってしまうと。それに対してブロックチェーンというのは分散された暗号化、暗号化技術を使って分散化されたネットワークでデータを管理すると。

ビットコインとは、記録そのもののこと

野口:いいですか?

関口:何か野口先生がうずうずしているので。わかりやすくお願いします。

野口:斎藤さんがおっしゃったとおりなんですけれども補足しますと、例えば私が関口さんに1万円払うとしますよね。日銀券で払うときには1万円のお札をあげるんです。ビットコインではそのたぐいのものは何もないんです。

私が関口さんから何か買って、1ビットコインを関口さんに渡しますというのは、ここに大きな石があって、石に「私は関口さんに1ビットコイン渡しました」という記録を書くようなものなんですよ。それだけなんです。記録、データなんです。石に書いた記録ですから、それは後から消したり修正したりできないですよね?

私が確かに関口さんに払った。関口さんが持っている1ビットコインというのは私がかつて持っていた正当なコインであるということは、関口さんがポケットに何か持っていることによって証明されているのではなくて、石に書いてあることによって証明されているのです。この石がブロックチェーンなんです。

関口:いわゆる故事来歴を書いた、閻魔帳みたいなのをみんなで確認し合うという、こういう作業ですよね。

マウントゴックス破綻とビットコインの価値は無関係

関口:そこでなんですけれども、じゃあこれがどういうふうに既存の金融業界を変えていくのかと。さっきの野口先生のお話で言えば、国際送金とかいろいろありましたけれども、何に使うとこれが非常に便利に使えて、また革新的なのかというのをちょっと簡単に。

野口:先ほど申し上げた点ですが、まず第1に送金です。送金というのは銀行の業務のかなり重要な意味を占めています。これは国内の送金と海外への送金があるんですが、国内の送金でもかなりのコストがかかりますよね。それが事実上ゼロになってしまうということです。

もっと大きいのは国際間の送金ですね。これがビットコインにとって代わられると、非常に革命的な変化が起きます。まず送金の業務を銀行から奪うというのが大変1番大きな点ですね。

マイニングのコストはだんだん上がる?

関口:送金コストがかからないと、冒頭に私もそういう説明をしたんですけれども果たして本当にそうなのか? どうなのか? よく言うビットコインというのはマイニングと言って採掘をする作業があって、採掘をするためにコンピュータをブンブン回さないと採掘ができないと。金を掘るような作業というふうに言われておりますけれども。

そのコストがどんどんどんどん高くなっているものですから、送金にかかるコストはそんなにかからなくても、ビットコインを採掘するためのコストが上がっていって、結果的にはあんまり安くないんじゃないかという話があるんですけれどもマクドネルさん、いかがでしょう?

ジョン:将来的にはビットコインというネットワークのユーティリティが向上すると、ビットコインという通貨も価値が上がっていくと思います。ですのでそのとおりですね。マイニングというのは確かにコストがかかるものです。

コンピュータのハードもあるし電力もかかる、ですので最も早いチップを入手できるか、ASIC―application specific integrated circuitのASICですね―あれを繰り返し計算させて、アルゴリズムで次のブロックを解決して、ビットコインという報酬を受けるというのがマイニングなんです。

次のブロックの最初のトランザクション、アウトプットが結局最初のその手前のブロックを解決したマイナーに対する報酬なんです。これを決済で多く使えば使うほど価値が上がっていきますので、私が思うにはその報酬、リワードは十分であってマイナーが引き続き計算をしようと思うでしょう。

ちなみにマイニングと言っているのはノードの維持とイコールです。ノードをネットワーク上で維持するということはイコールマイニングと一緒です。それからトランザクションフィーもあります。ですからマイニングではなくてトランザクションフィーを1つの取引ごとにあげていくという方法もあります。

ですので新しいビットコインと、あとはトランザクションフィーをそのブロックの中で全部解決できれば、それも得られるというものです。

悪を防ぐためのコストは仕方ない

野口:関口さんがおっしゃるマイニングのコストがバカらしいというのは、そのとおりです。あれが本当のコストですね。ただ2つ申し上げます。1つは悪いものがいるときに、その悪いものを防ぐためにコストがかかるというのはやむをえないんですよ。

皆さん家に鍵をかけているでしょう? あれはバカらしいコストですよね。もし世の中に泥棒がいなかったら、あのコストをかける必要がないんです。マイニングというのは、それと同じような性質を持っていますね。

それから2番目に、しかしそうは言っても一見莫大な電力をむだに思われる計算のために使っているのは、いかにもバカらしいことです。したがってこの作業、プルーフ・オブ・ワークと言いますが、プルーフ・オブ・ワークをもっとエレガントな方法に変えようという努力は行われているんです。

例えば実際にリップルという通貨はもう少し違う方法でこの問題を解決していますね。ですから本質的な問題ではないと私は思います。

「シニョリッジ」の生む不公平感

関口:リップルの話が出てきました。それはちょっと置いておいて、その後にお聞きしたいんですけれども、もう1つ疑問点があります。

マイニングのコストというのはどんどん高くなってくるということは最初に採掘した人が、言ってみれば得をするという、ある意味でのネズミ講的な構造がそこにあるんじゃないか、そこに不公平感があるのではないかという疑問もあるんですけれども、そこはどうでしょうか?

野口:それはネズミ講ではなくて通貨の分野ではシニョリッジと言います。通貨を発行した人が利益を得ると。これは実際の通貨でもあるんですよ。日銀券でもあるし、政府の通貨でもあります。別にビットコインに限った話ではありません。通貨の発行主体は利益を得る。そのシニョリッジです。

関口:マクドネルさん、どうでしょう。

ジョン:マイニングは確かにハイステークとは言いましたけれども、技術がこれだけ速く進化していますので、1番にやる、あるいは早期のマイナーになるメリットはないかもしれないと思っています。

例えばリップルですとか、そのほかの通貨、プロトコルでそれらのコスト、電力のむだとかコストのむだを解決しようとしているものがあるというのは認識していますが、ビットコインが現状ではクリチカルマスを獲得していて、ことの導入がいつも1番高いです。

そういうシステムになっていて、ネットワークとしてはリップルよりもコンセンサスを受けています。カウンターパーティーリスクがリップルにはありますから、そういうところが違います。

銀行制度の仕組み、規制の枠組み作り

関口:この話をしていると全然時間が足りないので、前に進めたいと思います。そういう意味でいろいろ問題はあるんですけれども、上手に使えばこれは革新的な技術になるだろうと。

これはある意味で一部のコンセンサスが出来てきつつあると思うんですね。じゃあどうやったら本当に安全に使えるようにできるのかと。さっきお話にありましたリップルというのは、私の理解では複数の仮想通貨をお互いにエクスチェンジするような形で決済ができるような仕組みをつくったと。

これをドイツの銀行なんかは活用することにしてビットコイン、あるいはビットコインに類するほかのものを使えるようにしていこうという流れが、国際的にできてきているんですけれども、実際にビットコイン、それからビットコインの後に200ぐらいの通貨があると言われております。

それからベンチャーで言うと700以上のベンチャーがこの分野に今参入していると言われているんですけれども、そういうふうに安全に使うために今後何をやっていくか、あるいは世界の例を取ってこんなことをしているとか、その辺の事例をお聞きできればと思うのですがマクドネルさん、いかがでしょう? その後お聞きしたいと思います。

ジョン:そうですね。ビットコインが広く普及していくためには、銀行システムがマネージメントできるようにならなければいけません。銀行が消費者から信頼されていますので1番適切だと思うんです。ビットコインと、それから円とドルとユーロというものを取り扱えるようにしなければいけない。

ただそのためには規制と銀行制度の仕組みが必要だと思うんです。ビットコインネットワーク上に銀行は存在していませんので、技術を提供する企業と、それから銀行がマネーロンダリングを避ける方法を考えたり、そういう制度をつくらなければいけないと思います。

あるいはスクリーニングとか、等々といったスクリーンリストに載っているテロリストに流れないようにするというような、そういう仕組みが必要だと思うんですね。そういったものは今構築されつつあります。いわゆる透明の手、インビシブルハンドというものですね。

それから規制の方向性としましては、いろいろな技術がファンドを受けて今開発されております。シリコンバレーで開発されているものも多いんですけれども、それ以外で開発されているものもあります。ですから国、ないしは地域できちんと規制の枠組みをつくれたところがほかの地域よりもメリットを得ると思います。

仮想通貨を安全に使用するために必要な3つのこと

斎藤:はい。重要なところは3つあって、セキュリティーとコンシューマープロテクションとAMLだというふうに思っています。セキュリティー、ビットコインそのもの、ブロックチェーン技術そのものは今まで破られたことはないんですけれども。

マウントゴックスが―あれは内部者の仕業じゃないかとも言われていますけれども―ハックされたりですとか、そういうふうにビットコインに関わっている業界の人たちのセキュリティーが破られるということは、これまでもたくさんあります。そういうところをより高めていくということは必要かなと思っています。

コンシューマープロテクションなんですけれども、一部の人が「ビットコインとか仮想通貨が非常に儲かりますよ」ということを言って、そうやって売っていっていると。

香港の取引所が破綻したという話なんですけれども、それは取引をしていたことは一切なくて、単に「仮想通貨は非常に儲かりますよ」と言ってお金を集めて、とんずらをしたという話らしくて、それもビットコインそのものの問題ではないというふうに思っています。

一部の人に、「ビットコインは非常に怪しい」と思う人もいるし、「すごい儲かる」と思う人もいるという中で、「儲かりますよ」と言ってだます人がいると。そういうところをなくすように努めていかなくてはいけないと。

最後にAMLですけれども、ビットコインは一部に薬物を買ったりですとか、銃を買ったりですとか、あとテロリスト資金に使ったりということもされているというふうに聞きます。

これは本来の使い道ではないというふうに思っているんですけれども、そういうふうに使われてしまうと、どうしても信頼性がなくなってしまいますので、そういう怪しいものに使われないように、特にビットコインと現金が換わるところについてはきちんとチェックをしていくと。それを全世界的にしていく、そういうことは必要かなと思っております。

関口:はい、ありがとうございます。

ビットコイン取引が引き起こす深刻な問題

関口:野口さんにお聞きします。野口さんには追加の質問もしたいんですけれども、私の問題意識では冒頭申し上げましたように、日本だけ足踏みをして世界が先に進んでいる状態というのは極めてよろしくないんじゃないかと。

ですから、日本も海外と同じスピードでいろんなことを変えていくためには、日本の個々の企業もやらなきゃいけないし、それから政治、行政ですね。あるいは税務当局、それから金融当局、こういったところも対応しなきゃいけないという意味で、税の問題なんていうのも1つはそこにもあるかもしれません。

日本として先生には発言力がありますから、日本の行政に対して、あるいは金融当局、税務当局に対して、どうすべきかということをちょっとお聞きしたいと思うんですけれども。

野口:どうしようもないんです、これは。ビットコインというのは運営主体がないですから、行政が規制しようと思っても規制する対象がないんです。ただ税について非常に深刻な問題が生じ得ることは事実なんですね。

つまりビットコインの取引というのは追跡できない―と言うとあんまり正確じゃないんですが―ほとんど追跡できない可能性があるので、経済取引がビットコインを使って行われると、税務当局がその取引を追跡できない可能性があるんです。

これはすぐ起こる問題ではないんですけれども、十分長い期間を考えれば深刻な問題になるかもしれない。ただ私は、それは税の体系が対応すべきだと思います。つまりビットコインの取引が主流になった世界においても、なおかつ税をかけられるような、そのような税というのを考えられるわけですね。

つまりそれは直接税ではなくて外形標準の課税なんですが―これはちょっと専門的な話であんまり詳しくは申しませんが―要するに重要なことは、ビットコインというのは非常に大きな技術革新であるから、社会の体制がそれに合わせて変わらなくてはいけないだろうということなんですね。

論理的には夢のようなテクノロジー

関口:マクドネルさん、いかがでしょうか? 日本に対して行政当局、あるいは政府に対してこうすべきじゃないかというご提言はありますか?

ジョン:そうですね、申し上げてよろしければ。日本ばかりではなくどなたに対してでもなんですが、ビットコイン取引がトレースできるかどうか? という見方は非常におもしろいビットコインの要素だと思いますし、ブロックチェーンの要素です。

実は1つ1つの取引は追跡が可能で、公開された元帳に載っているので透過的、透明性が高いのです。すなわち論理的には、すべての取引を見ることができるのです。ただ、物理的な人のIDとウォレットアドレスとを結びつけることが難しい。ブロックチェーンであるからです。

ある意味、規制当局にとってみれば夢のようなテクノロジーです。すべての取引が永遠にブロックチェーンの元帳に記録されるわけですから。しかしながらプライバシーの問題があると。

これが恐らくほかの決済のシステムでも問題になっていると思うんですけれども、個人のIDが盗まれてしまうと。カードを使って、オンライン決済をすることは実はもろ刃の剣で、一体誰が特定の取引の裏側にいるのかがわからないんですね。

それを知るためには、個人のIDをパブリックウォレットのブロックチェーン上のアドレスとひも付けなくてはならないわけです。テクノロジーとしては何も隠しません。とても透明なのです。

斎藤:そうですね。私の考え方としては、ビットコインのような新しいものが出てきたときに、もちろんいろんな問題点というのはあるんですけれども、規制をかけ過ぎて新しいテクノロジーがつぶれてしまうようなことはやめてほしいというふうに思っています。

幸い今のところ日本の政府の対応というのは、つぶす方向じゃなくて温かく見守るという方向なので、よかったなというふうには思っておりますけれども。

あと税務のところでこれまで話していないところとして、ビットコインの売り買いに消費税がかかるかどうかという問題があります。今ちょっと、そこがかかるというふうに税務当局に言われていまして、そこが他国に比べて遅れています。

他国ではかからない例が比較的多いにもかかわらず、日本だと今の税法の取り扱いで消費税が8%かかってしまうかもしれないということで、そこは何とかしたいなというふうに思っております。

金融の世界も通信業界を目指す

関口:まだまだ議論していきたいところなんですけれども、約束の時間が来てしまいました。野口先生最後に一言、何かありますか?

野口:皆さん、ビットコインというのは怪しげなものではないということを、ぜひ納得していただきたいと思います。

関口:はい、ありがとうございます。ビットコイン、そしてビットコインのあとに出てきているいろんな仮想通貨。20年前と今の比較で言うと何が1番違うかというと、私はインターネットの存在があるかないかというのが大きいのではないかと思うんですね。過去のネットワーク。

情報技術の観点からいけば過去は中央集権型のいわゆる電話交換機網というような形で、誰かが中央で管理をすると。こういうシステムのネットワークだったのに対して、インターネットというのは横でつながってお互いに情報に公開ができると、こういうシステムができてしまった。

それから派生することによってP2Pという技術が出てきたと思うんですけれども、金融だから皆さん非常に心配しているんですが、では通信の世界はいかがでしょうか?

電話交換機に頼った電話網ではなくて、皆さんのお子さんやご家族が使っているLINEやSkype、これはいわゆる立派なP2Pの技術で、誰もそこに管理する人がいなくても立派に通信が行われている。コミュニケーションが行われている。

ですからいずれ金融の世界もそっちのほうにいくのではないか? そのほうがコスト的にも、それから国際的にもいろんな形で用途が広がっていくんじゃないかと。ビットコインはいろいろありましたけれども、後続するいろんな仕組みがどんどんと出てきています。

これをブラッシュアップすることで新しい金融のシステムの変革ということが可能になるのではないかと思います。今日の3人のパネリストの素晴らしいご発言、少しでも皆さんのご参考になれば、私どもとしては非常に幸いに存じます。それでは3人のパネリストの方に大きな拍手をお願いしまして、このセッションを終えたいと思います。