人にも会社にもそれぞれの成長速度がある

キース・ラボイス氏(以下、キース):人についてみんなが聞く質問は、いつ誰かの上司として人を雇うべきか、いつ人を昇進させるか、あるいはいつ入れ替えればいいのか、というものです。これは、すべての企業が独自の成長率を持っているということと、ひとりひとりの個人も独自の成長率を持っている、と考えることができます。

非常に成功している会社、例えばLinkedInについて考えてみましょう。LinkedInは急成長した会社ではなく、少しずつ成長してきた会社です。例えば、私はLinkedInに、立ち上げ18ヶ月後に参加しました。

ユーザー数はそのとき150万人で、これはソーシャルなプロダクトとしては非常に少ない数字でした。私はLinkedInに27番目の従業員として参加しました。私が2年半後に去った後、従業員は57人しかいませんでした。対照的に、私がSquareに20番目の従業員として参加したときは、2年半後には250から300人の従業員がいました。

会社には、それぞれの成長速度があります。会社が急成長しているのであれば、従業員も急成長する必要がありますし、逆に成長がゆるやかであれば、従業員の成長もゆるやかで構いませんし、同じ役割を与え続けて問題ありません。そのため従業員個人の成長の傾きと、企業の成長スピードを、常に追っていくようにしましょう。あなたの頭の中のアイディアを取り出して、計画し、実行できる人を選びましょう。

最も優先度の高い問題だけを解決する

さて、それでは今度は、砲でどこを狙えばいいのでしょうか? 人に長い時間集中することが大切だということを伝えたいと思います。これは私がピーター・ティールから学んだことです。彼はPayPalでは、ひとりの人がたったひとつのことしかしないことを強く要求しました。

そして私たちはそれに反抗しました。会社の全ての人がこれに反対しました。これは非常に不自然なことに感じられました。誰もがたくさんのことをやりたがる他の会社とは、あまりに違いすぎました。社内での立場が上がれば尚更です。ひとつのことしかしてはいけないというのは、侮辱のように感じられました。しかしピーターは、厳しくこれを推し進めました。

彼は、自分が割り当てた仕事のこと以外のことは話したくない、といいました。どれだけよくやっているかも聞きたくない。ただ黙ってこのひとつの問題を解決するまで駆けずり回れ、といった感じでした。ピーターがこうした理由は、人は自分が解決できる問題しか解決しようとしないからです。

ざっくりと言えば、A+の問題ではなく、B+の問題を解決するのです。A+の問題というのは、会社にとって重要な問題です。しかし解決が難しい。朝起きたら解決方法を閃いている、というものではなく、もっと長い期間取り組まなくてはなりません。

朝起きて、今日何をするかをリストアップすることを想像してみてください。A+の問題が1番上にありますが、これは解決が難しいので、2番目、3番目のことを解決します。こうして会社全体の何百人という人たちが、少しずつレベルを落としているのです。そうすれば、B+の問題を解決する会社になってしまいます。それでも、成長して価値を生み出すことはできるでしょう。しかしこれでは、ブレイクスルーになるアイディアを生み出すことはできません。誰ひとりとして、毎日問題を解決するまで壁に向かって頭を打ち付けることに100%の時間を使っていないのですから。

そのため、私はこちらの方法を強く勧めます。ピーターほど厳しくする必要はないかもしれません。3種類くらいは仕事があってもいいと思いますが、少なくともみんなにひとつしかやることを与えない、という考え方自体は、頭に入れておいていいと思います。

ダッシュボードを作って意思決定の代理を可能にする

全ての決断を自分でできないとしたら、どうやって他の人が自分と全く同じ精度で意思決定をする仕組みを作ればいいのでしょうか。どうやってスケールとレバレッジを作り出せばいいのでしょうか。最初に皆さんがやるべきことは、ダッシュボードを作ることです。これは古典的な四角いダッシュボードですが、今でも十分役に立つように思います。

ダッシュボードの構成をするとき、まずはじめに設立者による下書きが必要です。会社成功の基準となる価値の提案を、単純化してホワイトボードに描き出しましょう。

他の人がダッシュボードを作っても構いませんし特に気にしませんが、しかし最初の部分はあなたがやるべきです。自分たちにとってのゴールはなんなのか、鍵になるインプットはなんなのか。それができたら、誰かに頼んで、カスタマーサポート部門に至るまでの全ての人にとって直感的に使えるものを作りましょう。成功するかどうかの重要な指標として、従業員の誰もがそのダッシュボードを毎日使っている必要があります。

100%に近ければ近いほど役に立ちます。100%になることはないかもしれませんが、少なくとも数字を把握しておきましょう。KPIのような他の指標と同様に、ダッシュボードはユーザーの使うプロダクトと同じくらい直感的である必要があります。

報酬も含め、全ての局面で透明性を確保せよ

重要なことはもうひとつあります。それは透明性です。透明性というのは誰もが目指すゴールですが、しかしこれを押し進めすぎると、実際にできる人は限られてしまいます。まず、指標の透明性を高めましょう。あなたの会社の誰もが、会社で起きているひとつひとつのことにアクセスできる様にすべきです。

もうひとつは、取締役会についてです。フォーマルにすればするほど、取締役会は複雑になります。取締役会の後で、使ったすべてのスライドを、ひとりひとりの従業員全てと見直すべきです。これによって、取締役会だけでは不足しがちな情報が得られます。スライドを見せながらひとりひとりの従業員に説明すれば、取締役会で得られたフィードバックを思い出すことができ、これは非常に役立つでしょう。

Squareでは、こんなこともありました。誰もが全てのミーティングに呼ばれるわけではないのですが、誰もが全てのミーティングに行きたがりました。会社を大きくするためには、ミーティングがあるたびにお知らせを作って、会社全体に送るとよいでしょう。私たちは2人以上のすべてのミーティングについて、お知らせを作って送るようにしました。

これによって、会社に従業員が加わったときも、興味があることを追い続けることができ、疎外感を味わうことがなくなったと思っています。もうひとつは、会議室での細かい情報についてです。Squareのすべての会議室の壁はガラスでできています。普通の壁だと、何が行われているのかわからなくなってしまうからです。誰がミーティングにいて、いつ誰と会っているのかすぐわかるというのは、素晴らしいことです。

閉じた扉の向こうで何が行われているのか心配する必要はないのです。Stripeのブログのポストを見たことがあるかも知れません、確かPatrickが書いたのだったと思いますが、メールの透明性については、誰もがメールにアクセスできる状態にしておくべきだということでした。やりすぎと思う人もいるかもしれませんが、これは実際に幾つかのメリットがあります。透明性は最小限にするよりも、もっと積極的に推し進めるべきだと思っています。

スティーブ・ジョブスは、Nextで報酬を透明化しました。Nextは確かにうまくいったとは思えませんが、それは報酬の透明性とは別の理由によるものでした。報酬の透明化に対する批判というのは、人々にはチーム一丸となって働いてほしいと。しかしスポーツの世界に目を向けてみれば、実際にチームメイトで協力しているにも関わらず、報酬は完全に可視化されています。

事実、私たちはスポーツ界の全ての人の報酬を正確に知ることができますし、それで上手くいっているように思えます。そのため報酬を公開しないという考えには、私は全く賛同しません。

例外的な指標にこそ注目する

そして、指標について説明します。物事を計りたいと思ったとき、それはインプットではなくアウトプットです。そして繰り返しになりますが、これは自分自身で定義すべきです。全てのことをひとつに結びつけるために、ダッシュボードの下書きを自分ですべきです。

ひとつのことしか表さない一対一対応の計量や指標について考えることは重要です。企業は本当に重要なことを差し置いて、こうした指標に対して最適化してしまう傾向にあります。例えば支払いや財務サービスにおけるリスクがいい例です。

リスク対策チームに、不正率を下げるという目的を与えるのは簡単です。しかし全てのユーザーを容疑者扱いしはじめればどうでしょうか。ひとりひとりに補足的な情報を与えるために電話をし、必要なものをファックスするようにすれば、確かに世界で最も不正率が低い状態になるでしょう。しかし同時に、顧客満足度は地に落ちてしまいます。

そのため、不正率と同時に、間違って不正と認定されてしまう率を下げなくてはなりません。同じように、人事に採用基準を与えることもできますが、そうすると何が起きるでしょうか? たくさんの人が面接に来るかもしれませんが、実際に雇った後のことまできちんと追っていかなければ、面接に来たり実際に雇った人の質について非常に不満足な結果に終わるでしょう。

そして計測について自分のキャリアを通じて得た学びとは、例外に目を向けるべきだということです。期待通りの振る舞いについては、注視しなくても構いません。PayPalに有名な例があります。eBayの傘下に入った後、会社は市場のトップ10のどこにも行こうとしていませんでした。しかしある日、eBayの54人のパワーセラーが、eBayに送るリストに「PayPalで支払いをしてくれ」と手書きで書いていることに誰かが気づき、エグゼクティブチームに知らせました。

エグゼクティブチームの最初の反応は「一体何が起きているんだ? システムから蹴りだそう。そんなことはどうでもいい」というものでした。幸運にも、デビット・サックスが次の日に来て言いました。「次の市場を見つけた。リストに『PayPalで支払いをしたい』と書き込む代わりに、パワーセラーが使えるツールを作ろう。挿入できるhtmlボタンをつけるのはどうだろう?」といいました。

それから彼は「毎回挿入させなくても、自動で挿入されるようにしよう」と言いました。一度挿入すれば、他の全てのリストにも、自動的にずっと挿入され続けるのです。これはPayPalにとって大成功でした。

同じように、LinkedInにいたとき、全く意味不明な数字を目にしました。UIは今とは少し違っていたのですが、全てのクリックの25%から30%が、自分のプロフィールを見るためのものでした。これは全く意味不明です。プロフィールは右の隅にある設定のところにあるのです。25-30%という数があまりにも大きすぎることから、私は何か新しいことが起こっているのではないかと考えるようになりました。UIがこのように使われることは、今まで見たことがありませんでした。

そこでここで何が起きているのかを見つけ出そうとしました。そして頭のいいマックス・レッチンが「これは化粧台なのだ」と言い出しました。私はこれを聞いて、「なるほど、鏡を見ているわけだ」と言いました。これはとてもいい答えでした。

彼らは自分のプロフィールを編集していたわけではないのです。そんなに頻繁にプロフィールを編集する必要がある人はいないでしょう。実際は、鏡を眺めて気分を良くしていたのです。そして私たちは、この仮説を立証しようとしました。コンテンツが多い人は鏡を見る回数が多いか、多い。推薦文が多ければより頻繁に鏡を見るか? これは実際にそうだという結果になりました。

私たちは、単に実用的に作られたプロダクトを作っていると思っていました。しかし実際には、自惚れのような感情を作っていたのです。常にベストな機能を実装できるとは限りません、PayPalの例で言えば、今日はどれくらい自惚れているか、というボタンをつけることはできません。それは全く機能しないでしょう。もし例外的なデータを見ていなかったら、プロダクトのユーザーが何を求めているのかということを見つけな出せなかったでしょう。

徹底的に細部にこだわる

私が話したい一番最後のトピックは、ディティールです。私が参考文献に挙げた素晴らしい本に、ビル・ワレッシュの書いた『The Score Takes Care of Itself』があります。この本のポイントは、全てのディティールが正しければ、1000万ドルの売り上げと1億人のユーザーを得て、1億ドルのビジネスを作るかを考える必要はない、ということにあります。全ては毎日の細かいディティールを素晴らしいものにすることの副産物なのです。

本の中で語られている、私の心に響いた例は、彼が1979年の49ersを引き継いだときのものでした。49ersは、アメリカンフットボールのチームの中では最弱でした。この前の年の成績は2勝14敗で、本当にひどい数字です。しかし次の10年で、スーパーボウルを3回制覇するチームに成長しました。彼がひどいチームをかつてない最高のチームにするためにした最初のことはなんだったのでしょうか?

彼はまず、受付に正しく電話に出る方法から教えたのです。彼は3ページにわたって、電話にどう応対すべきかのメモを書きました。これは一見、馬鹿げているように聞こえるかもしれません。しかしポイントは、組織が全体として全てのことを正しく行うということです。レシーバーが、7ヤードでも8ヤードでもなく7.5ヤードぴったりを走ります。これは非常に重要なことです。誰もが同じパフォーマンスの水準まで引き上げられるのです。

こうすれば、可能な最大のパフォーマンスが大きい組織を作ることができます。そして試行の回数が十分であれば、最大のパフォーマンスが大きい組織が最も高い成果を上げます。これを企業に当てはめるとき、あまり気にされない細部が重要になります。これは表面上はどうでもよさそうに見えます。ユーザーから見える細部が非常に重要であることについては、ほとんどの人が賛同するでしょう。しかし本当に重要なのは、ユーザーか見えない部分なのです。

これは有名な話ですが、スティーブ・ジョブズはMacで、完璧なデザインの基盤を作りました。この話はたくさんの本に出てきます。Macは、見たことがある人もいるとは思いますが、そもそも開けられないように作られています。そのため基盤のデザインは、この世界の誰一人として見ることができません。Appleで働く人以外に、マックを開けることができる人はいません。しかしスティーブは完璧で美しくなくてはならないと主張したのです。これが企業の哲学を作るときに必要な、ディティールへのこだわりです。

基盤よりもっと実践的な例は、どんな食べ物を出すかです。これは思っているよりずっと重要です。人々が出された食べ物を気に入らないとき、何をするでしょうか。彼らは噂をします。友人に文句を言います。誰かの机に行きます。

そして突然、ランチで彼らが時間を使って話すことは、ブレインストーミングではなく噂話と文句ばかりになってしまうのです。こんなセレンディピティはごめんでしょう。他のセレンディピティは閃きをもたらすのに対して、これは単にさまよいのたうちまわるだけです。そのため最善の策は、人々に彼らが欲しいと思っている、あるいは彼らにとって良い食べ物を与えることです。これは彼らをもっと生産的にします。

自分の仕事について自問自答し続けよ

みなさんが最初に想像していたであろう輝かしい仕事ではなく、人のために走り回ることです。高い性能を持った機械として彼らが働けるように、食事の皿の上から、集中力を削ぐものをどけなければならないのです。そして集中力を削ぐものを十分に取り除き、そして成功するためのツールを与えれば、突然あなたの組織の生産力は大きく上がるでしょう。

同じように、しばしば間違われる例として、オフィス空間があります。素朴な直感としては、オフィスが必要なときは、オフィスマネージャーか誰かチームの人間にオフィスを探させたくなります。彼らは他の人とツアーをしてきて、写真やアイディアと共に帰ってくるでしょう。

しかしこれは自分自身でやるべきです。人々が毎日生活し働くオフィス空間は、文化と人がどのように意思決定をするかを定義しますし、どれだけ一生懸命働くかを定義します。オフィス環境をどんなものにするかということ以上に、会社がどのようなものになるのかにとって重要な決定はほとんどありません。しかし多くの人はそうしないのです。

最後に言いたいこと、そして質問を受け付けたいのは、努力についてです。突き詰めて考えれば、努力なしで企業を作ることができるとは思いません。そしてこれはたくさんの実例があります。

ビル・ワレッシュの本の最初の章には「どうやって自分の仕事をきちんとこなせているかを判断するのか?」という質問が書かれています。そして彼がこの質問をしてくるコーチに与えた答えはこうです。

「もし毎日そのように感じるのなら、それは正しい道程にいるのだ。この回答に対してたじろぐ様なら、会社をはじめるべきではないです」

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