オフィスを都心に構えることは環境に優しい!?

ヘンリー・ブロジェット氏(以下、ヘンリー):現在のシリコンバレーに行くとします。あるいは、恐るべき才能を持った人と競争しているとしましょう。人材を確保するために、多くの会社は職場をまるでディズニークルーズのようにしています。

会社の中にシェフの握る寿司レストランがあったり、デスクを自由に移動できたり、マッサージルームがあったり。去年アマゾンを訪問した時、従業員向けのランチが有料になったと知って驚きました。あなたは倹約家で、従業員に支払う給与が低いことで有名ですが、どうやって人をつなぎとめているのですか?

ジェフ・ベゾス氏(以下、ジェフ):もしあなたが、大学生の甥や姪がいるとして、会社選びについての相談を受けたなら、絶対にこうアドバイスすべきです。「良いマッサージ師のいる会社を選べ」とね。

(会場笑)

ヘンリー:当たってる!(笑)

ジェフ:最高のアドバイスですよ(笑)。その後のキャリアに影響しますからね。まず最初にいくつか例を上げましょう。アマゾンは、他の会社に較べて非常に優れた特典や利点があります。報酬や従業員持株などを抜きにしてね。

たとえば、私たちのオフィスは都心にあります。これは非常に高額なコストがかかります。もしシアトルの郊外に会社があれば、かなりの金額を節約できることでしょう。でも私たちはあえて都市部に留まることを選びました。これは従業員にとって、素晴らしい利点です。無料マッサージよりもうんと感謝されるべき点です。

統計に基づいたデータを申し上げましょう。アマゾン本部で働く従業員の15%は、オフィスと同じ郵便番号のエリアに住んでいます。20%は職場に徒歩で通っています。オフィスを都心に構えることは、郊外に建てるよりもずっと環境に優しいのです。渋滞や駐車場や長時間ドライブなどの必要がありませんからね。

そしてさらに、都心のオフィスのほうがより活気があります。人々が都会の活気ある雰囲気とつながっていることがアマゾンの社風にとって重要だと、私は考えています。世間から隔絶されることがありません。

本部の周りにはおいしいフードトラックがたくさんやって来ます。アマゾン御用達のフードトラックは近所で大人気です。そういった世間との関わりがなければ、職場の活気も従業員どうしのコミュニケーションも生まれません。

アマゾン独自のオフィス環境

ジェフ:オフィスの窓も自分たちで好きなように開けられます。信じられないことですが。やってみるとわかりますが、かなり難しいことなのです。ビルの管理人はたいてい嫌がりますからね。「窓を開けてはいけません。開けっ放しにしておいて、雨が降って来たらどうするんです」とか言うんです。

「じゃあそのせいでコードにバグを入力してしまったらどうしてくれるんだ」と私は言い返しましたよ。窓が開いていて雨が降っていれば、少なくとも問題は目に見えますからね!

(会場笑)

そんなふうに妙な反応をする人もいますが……。人間は新鮮な空気が好きなのです。自分で好きなように窓を開けて空気を入れ替えられるというのは、たしかにビル管理をややこしくはしますが、大切なことなのです。シアトルのような温暖な気候では、空調をつけるよりも環境に優しいですしね。

職場に犬を連れて来る従業員もいます。これももちろん、物事をややこしくはしますが、すべて対応可能な問題に過ぎません。

アマゾンには150,000人の従業員がおり、そのうち20,000人程度がシアトル本部で働いています。17〜18年間のうちに、お行儀の悪かった一握りの犬たちがオフィスで行方不明になりました(笑)。

というわけで、さきほど言われたような前提は事実と異なっていると申し上げたいです。アマゾンは従業員のために素晴らしい設備と娯楽とを兼ね備えています。ただ、他の会社がやっているのと少し違うだけのことです。それが正しいかどうかは、私にはわかりません。ただ、これが私たちのやり方だというだけです。

アマゾンの文化はもはや私ですら変えられない

ヘンリー:最近のアマゾンは、あなたにどれくらい依存しているのですか? あなたはヘリコプターでひどい経験をした話で有名ですが……(注:ジェフ・ベゾスは1993年にヘリコプターで移動中テキサスの僻地に不時着した)。そういえば昨年、ガラパゴスでもひどい目にあったとか。

ジェフ:腎臓結石は本当に痛かったです。死ぬかと思いました。おすすめできるようなものじゃありません。水分をたくさんとるようにしたほうがいいですよ……。

ともかく、私自身の意見としては、私はアマゾンにおいて他の人がやれないようなことがやれると思っています。この会社における実績がありますからね。会社が成長するにつれ、私の役割も大きく変わりました。

現在私がやっている主な仕事は、企業文化の維持です。優れた事業運営、創意工夫、失敗を恐れない姿勢、大胆な挑戦をする意欲といった、高いレベルの企業文化を保つために力をつぎ込んでいます。企業の画一化された「ノー」に対して「イエス」と言える立場、バランスをとる錘のような役割です。

私はいつまでもこの位置に留まるつもりはありません。アマゾンという企業を他とは違う存在にしてきた特徴的な社風は、今や企業文化にしっかりと根付きました。

実際のところ、もし私がそれを変えたいと思ったところで、もはや変えることはできないでしょう。たとえば明日から私が、「アマゾンをもっと後進的で、周りに合わせた企業にしよう」と願っても、変えられないと思います。文化というのはそれ自体が勝手に強化されていくものであり、それは素晴らしいことです。

アマゾンに競合他社はいない

ジェフ:アマゾンで働き始めて、私たちがあまり企業間競争に熱意がないのでつまらないという人もたまにいます。年次計画を立てる時に、文字通り企業間競争分析から始める会社もありますから。「我が社にとっての3大ライバル企業はどこか?」「彼らに打ち勝つにはどうすべきか?」とね。

アマゾンに、そういったライバル企業のリストはありません。そんなふうに年次計画を立てても、私たちの場合うまくいかないのです。

その一方で、もしあなたが朝起きてシャワーを浴びながら「顧客のために何か新しいサービスは作れないだろうか?」「アマゾン独自のやり方はないか?」「どうすればより顧客を満足させられるだろう?」といったことを考えるような人であれば、アマゾンはうってつけの遊び場です。

ちなみに、私は今でも職場に通っていますよ。妻と子供たちと親戚を連れて20人ほどでフランスへ休暇に行った時のことです。1週間ほど、そこで素晴らしい時間を過ごしました。シアトルに戻って、その足でオフィスに向かいましたよ。仕事をとても楽しんでいます。

ヘンリー:後継者の計画はあるんですか?

ジェフ:ええ、私自身の後継者は決めていますし、他の取締役たちの計画もあります。

ヘンリー:後を継ぎたいという人がいるということですね?

ジェフ:ええ、もちろん。

ヘンリー:それは誰ですか?

ジェフ:秘密です。

ヘンリー:秘密ですか!

ジェフ:(笑)。