『もしドラ』の編集から、「cakes」の代表へ

司会:ただいまより角川EPUB選書『ルールを変える思考法』刊行記念、株式会社ドワンゴ代表取締役会長・川上量生氏さん、株式会社ピースオブケイク代表取締役CEO加藤貞顕さんのトークセッションを開催いたします。早速、両氏にご登場いただきます。盛大なる拍手でお迎えくださいませ。

加藤貞顕氏(以下、加藤):よろしくお願いします。今日はですね、皆さん川上さんのお話を聞きにきたと思うので、僕のことを誰だろうと思っている人が多いと思うので、自己紹介させていただくと、「cakes」っていうウェブメディアの代表をしてます。

もともとは、アスキーっていう会社ですとか、ダイヤモンド社っていうところで本の編集をしていて、一番わかりやすいのをいうと、『もしドラ』っていう本の編集をして、それで今、この本の著者である岩崎夏海さんがブロマガをやってるんですけども、それを担当したり。

今はネットで、本じゃないコンテンツを作るためのサイトをやってるんですね。そこでは、有料課金でコンテンツを配信したりしていて、『ルールを変える思考法』っていう本が出たということで、川上さんにブロマガってものをやってもらったりとか。

ニコニコの話はもちろんなんですけども、今日はちょっとその辺をお話できればなっていうことで呼んでいただいたと思います。よろしくお願いします。

『もしドラ』が売れた理由は営業力?

川上量生氏(以下、川上):『もしドラ』の作者の岩崎さんと一緒に、1回だけですけど、3人でやらせていただいたんですよね。

加藤:そうなんですよ。「岩崎夏海は本当に天才なのか」っていう話をしたと思うんですけども。

川上:そうですね。『もしドラ』を書いた岩崎っていうのが非常に面白い方で、才能があるんだかないんだかわからないんだけど、とにかく変わった人なんですよ。

加藤:変わってますね。

川上:『もしドラ』が売れたのは、当然、岩崎さんが書いたからなんですけど、編集者の加藤さんが「俺が売った」と思っているんじゃないかとなって、そこの部分を確認する生放送で(笑)。

加藤:岩崎さんと一緒に出てますからね。書いた岩崎さんの力という話で終わったと思うんですけど、ただ1個だけいうと、僕がっていうよりは、ダイヤモンド社の営業チームがすごい頑張って売るっていうことをしたんで、そこが大きかったなと思ってますね。

ちょっとついでに話をすると、堀江さんの『ゼロ』っていう本も、実はダイヤモンド社の営業チームが今売ることをしていて。僕とかが編集をして、ダイヤモンド社に売るっていう。もちろんどちらにしても同じチームなんですね。だからこれが売れると、やっぱダイヤモンド社もすごかったんだなということがわかるんじゃないかと。

川上:むしろ、ダイヤモンド社がすごかったと。そういう話になるわけですね。

加藤:はい。なので、後でぜひ見てみてください。かなり面白いと思います。堀江さんって恥ずかしがり屋でですね。あんまり自分のこと説明してこなかったんで、そういった部分もちゃんと説明して、みんなが堀江さんを好きになってもらうために作った本ですね。

ゲーマーとしての実力を自慢したくて連載をはじめた

加藤:じゃあ、『ルールを変える思考法』の話にそろそろ移りたいと思います。ちなみに今日こちらにいらしている皆さんにはもう読んでいただいているんですかね、読んだ方、挙手いただいていいですか。半分くらい。ありがとうございます。これはちなみに僕も昨日読んだんですけれども、すごい面白くて。

川上:ありがとうございます。

加藤:この本、「4Gamer」っていうサイトでのインタビュー記事がもとになっていて、それがすごい面白かったんですけども。ゲームについて語ってたんですよね?

川上:そうです。ただ、一応ビジネスについて語るっていう体でゲームについて語るっていう、そういう感じのやつなんですよね。

もともとは、本当は僕の中ではね、ドワンゴ作って、着メロサイト作って、ニコニコ動画作って、っていうのが一般的には、起業家としてやったことっていうふうに思われてるんですよ。

でも僕は、そういうことよりもゲーマーとしてすごいんだっていうことを世の中に言いたくて(笑)。ただそれを言っても誰も相手にしてくれないだろうから、ビジネスの話のふりをして、ゲームの自慢話をするっていうのではじまったのが、4Gamerの連載なんですよ。

加藤:なるほど(笑)。

川上:でも僕、いつもあらゆることが本末転倒になるんですけども、気が付いたらすごいまじめに連載をやっていて。よくわからないけど、出版社さんからビジネス書として出版したいとかってことを言われて、本来の趣旨と違う形で評価されてるなみたいな(笑)。

加藤:いや、これすごい面白かったです。本にするときに結構書き直しをされているんだと思うんですけども。

川上:そうですね。

人間は最後、ミトコンドリアになる?

加藤:どの辺に手をいれてらっしゃるんですか?

川上:ビジネス書っていう体裁にするとき、色んなエピソードをはしょったり、もしくは追加したりする部分があって。そのことによって、僕が本来書きたかったことっていうのが、ちょっとわかりにくくなっている部分があったので、そういう部分は改めて書き足して分かるようにしたんですけどね。

加藤:この本は、面白かったんですけども、なんか一言で説明するのはすごい難しい本だなあと思って。なんというか、川上さんが何考えてるのか書いた本ですよね。

川上:そうですね。できた経緯自体が少し特殊なんで。今日テーマが分かりにくいですよね。

加藤:結構難しいっていうか、深いことが書いてあって、ニコニコ動画が生まれた経緯とかもすごいおもしろいですし。あとやっぱり、川上さんの色んな発想の仕方。おもしろいとはどういうことなんだろうかとか。最後に更にぶっ飛んだんですけど、最後、人間はミトコンドリアみたいになるよみたいな、とんでもない終り方をする。結構前代未聞のビジネス書だと思うんですけれども(笑)。

川上:ビジネス書に普通はそんなこと書かないですよね(笑)。

岡田斗司夫が描く、人類の未来

加藤:岡田斗司夫さんの『ぼくたちの洗脳社会』とかも似たような終わり方を実はする。

川上:そうなんですか。

加藤:でもそこまではっきりとは書いてないですね。岡田斗司夫さんがあの本について語った『評価経済社会』っていう本がダイヤモンド社から出ていて、僕が編集したんですけど、岡田斗司夫さんに人間は将来どうなるんですかっていう話をしたら、人間はみんなカプセルホテルみたいなところに寝そべって、コードが出て、寝そべってバーチャルな体験をするだけの存在になるでしょうっていうのが岡田さんの予想なんですけれど。

川上:マトリックスですね。

加藤:いや、でもそれに近いような話なんじゃないですか、ミトコンドリアって。

川上:いや、そことは少し違いますけどね。そんな極端な感じじゃないと思いますけど。もっと緩やかに、もっとわかりにくい形で人間の時代って終っていくんだと思うんですよね。

加藤:それは、みんなは普通にしているつもりなんだけど、終わっていくっていう、そういうことなんですか。

川上:はい。僕はそう思ってますね。

現実をゲームだと思って何とか生きている

加藤:だから、おもしろいことを世の中に増やそうと思っていらっしゃる? 

川上:僕はそんなに目的はないんですよ。人間の生きる目的とか、ビジネス書とかでは前提としてビジネスで成功してお金を儲けることだったり、世の中を変えて、社会貢献をするということを目標にしているということを書かれている人は多いのですけれども。

僕はそこら辺に関しては非常に冷めていて、思い込みができないんですよね。思い込みができなくて、自分にとって本当にやりたいことは何だろうと考えてしまうのですよ。そうしたらまず、もっと寝たいとかね、何か大体寝たいんですよね。

僕の1番の欲望は「寝たい」じゃないですけれども、だらだらしたいが目標で、けして仕事をしたいということにはならないのですよ。でも僕は、本当はみんなそうじゃないかと思うんですよ。

加藤:そりゃそうですね。

川上:それをみんなが、僕みたいなことは考えずに、言わないで生きていると思うのですけれども、あんまりそういう意味では、何かをしたいとは思わないですよね、僕の中で現実もゲームなんですよ。ゲームと思って何とか現実で生きているのですよ。

加藤:ゲームと思って、何とかつまらない現実をやり過ごすという話なんですか?

川上:つまらない現実というか、現実で頑張る理由って、ゲームと思わないと頑張れないわけですよ。ゲームだと思えば、このゲームをクリアしようという意欲が湧くのだけれども、例えば動画サイトでYouTubeをぶっ潰すとか、Googleを超える世界一のIT企業になるんだとか、というような目標に対して僕はよしやろうという気には全くならないんですよね。

加藤:起業家っていうとそういうことよく言いがちですよね。

川上:なんか1兆円企業を目指すとか。それを自分の中で自問自答して、「やりたいのか」というふうに考えると、やりたくないなという結論にしかならないわけですよ。

会社を作った理由は、ついうっかり

加藤:なんでそれなら会社を作っちゃったんですか? 本の中にも書いてありましたけれども。

川上:いや、間違いですよ。うっかり。ついうっかり作っちゃったんですよ。

加藤:うっかり作っちゃって、すごい後悔したというふうに書いてあるのですけれども、読んでてよくわからないのが、レトリックとして書いているのか、本気で書いているのかちょっとわからなかったのですけれども、どんな感じなんですかね。

川上:そういう意味ではすごい受け身で、僕、基本は何もやりたくないのですよ。何もやりたくないんだけれども。ある時、何もやりたくはないがゆえに運命を受け入れるんですよ。

加藤:なるほど。

川上:そうすると本当はやりたくないんだけれども、会社を作るという流れになっちゃったら、それは運命なのかなと思って行っちゃうわけですよ。ジブリの鈴木さんに会った時も、ここは弟子入りをするのが運命じゃないかと思って行っちゃうわけですよ。

加藤:それは結構やる気がある行為に見えますけれどもね。

川上:一見やる気がある行為に見えますけれども、違うんですよ。ここは真剣に流されようというふうに決意しているだけなんですよ

むちゃくちゃな現象に出会うと、運命だと受け入れてしまう

加藤:流されるというのは結構大事なことなんですかね?

川上:流されてるんですよ。会社を作るのだって、僕はあちこちでしゃべってる話なんですけれども、ジェームス・スパンという本当に悪い外人がいて、そいつが勝手に「川上さん、会社作ったほうがいいよ」と言って、アメリカのドワンゴをやっていたIVSという社長に、勝手に国際電話をするのですよ。

ジェームス・スパンというのはマイクロソフトの社員で、マイクロソフトの社内から国際電話をするんですよ。ビルゲイツが電話代を払ったわけなんですけれどもね。それで勝手にドワンゴ作っていいかという交渉を始めて、それで「いいって言ってるよ」ということを言うんですよ。

その間、僕は一言も何も言っていないんですよ。一言も言ってないのだけれども、勝手に電話をして、勝手に話を決めたわけですよ。

加藤:いきなり流されているんですね。

川上:それで普通だったら「何をするんだ」って怒るじゃないですか。僕はあまりに無茶苦茶な現象に出会うと、何か運命かなって思っちゃうんですよね。

加藤:ドワンゴというのは最初はゲーム、ネットワークの会社ですよね。それを運命で作っちゃったんですね。

川上:そうです。

着メロ事業に乗り出した理由は、悪口を言われたから

加藤:なるほど。そのあとドワンゴって携帯の着メロやって、それが当たってという流れがあったと思うんですけれども、それも流されてやっているんですか?

川上:1つは「怒り」ですよね。本当にモチベーションがないので、何かに対して、一生懸命腹を立てることがあるじゃないですか。それを生きるエネルギーに変えるということをよくやるんですね。

着メロをやったのは、ある上場企業の、仮にSさんとしますけれども、Sさんが「うちのサイトがドワンゴのゲームサイトを抜いてしまってごめんなさいねと、ゲーム会社じゃないのに抜いてしまってごめんなさいね」と超嫌みなことを言うやつだったんですよ。

うちの社員が言われたんですけれども、それを聞いてムカついて「潰そう」という話になって、そのゲームサイトを抜き返そうという話になったのですね。そもそも何で負けたのだということになったら、ドワンゴってゲームサイトしかやっていなかったんだけれども、でも向こうって100サイトぐらいやっていて、これで大体特定されちゃうんですけれども、占いサイトとか、着メロサイトとかそこから客を流し込んでいて、ゲームサイトに勝っているということがわかったのですね。

そうしたら、だからうちもゲームサイトに流し込むためのユーザーを持っている、着メロサイトを作ろうというふうになったのがそもそもの始まりなんですよ。そこをゲームサイトで抜き返すために着メロサイトを作ったんだけれども、そうしたら作って半年後くらいに、そのサイトが百万人ぐらいいっちゃって、うちの売り上げの90%ぐらいになっちゃったんですね。その時点でそもそも何で作ったんだっけという、それも本末転倒の話になっちゃって、着メロ会社になったという現実を、そこで受け入れたんですね。

加藤:なるほど。ゲームサイトはどうなったんですか。勝ったんですか?

川上:ゲームサイト勝ったのかな? 忘れましたね。

加藤:(笑)。

着メロサイトを潰すために、いやがらせをした

川上:みんな興味が失われてしまったんですよ。むしろ向こうがゲームサイトに流し込んでいた、着メロサイトを潰そうということで、そっちは相当嫌がらせをしましたよね。

加藤:そっちは相当頑張って戦ったんですか?

川上:そこのサイトは相当潰したと思いますよ。そこの伸びが止まったのは、完全にうちのせいですよね。うちは本当にそうなんですよね。40何番目の着メロサイトから最終的には売り上げで1番のサイトになったんですけれども、その時ターゲットにしていたのは、1位や2位のJOYSOUNDとかではないんですよ。十何番目ぐらいのサイトをいじめることに全力を注いだんですよ。それはうちの社員が悪口を言われたから。

加藤:なるほど。いじめるというのは、似たような企画をやるということですか。

川上:そのサイトにアップされている曲を全部リストアップして、そのサイトにあるものは全部作るんですよ。そのジャンルを調べて、その1.5倍とか数値目標を決めて、そのサイトより多く着メロがある状態にしたんですよね。

そしてそれが色々なところと提携をしていたんですけれども、提携している先を全部リストアップして、うちはローラー部隊を作ってそこをより高い金額を出して奪っていくということをやりまして、さすがに向こうは勢いを失いましたね。

うちが着メロサイトのなかで上から4番目のサイトになるぐらいの時までやっていたんですよね。そうなったときに、うちのほうが3倍ぐらいの大きさになっていたんですよ。

1番の目的はそのサイトに対する嫌がらせということになっていて。基本的になんかいつもズレているんですよね。

制作協力:VoXT