「ハート・エレキ」は"レス厨"の恋愛観

はい。このコーナーはですね、私宇野常寛の推しメンであるところのAKB48チームAキャプテン、および僕とあなたのオタ活について熱く語り合うコーナーです。早速、メールにいきましょう。

ラジオネーム、葉書職人研究生@上西恵推しさん。

「今週発売の、AKB48の最新シングル、小嶋陽菜さんがセンターをつとめる、『ハート・エレキ』が発売初日でミリオンを記録しましたが、宇野さんの『ハート・エレキ』論を聞かせてほしいです」

おお、なるほど。やっぱりきたかーって感じのメールですねえ。いきなり僕ガチで語っちゃっていいですか?

僕ね、この曲は、カップリングの「快速と動体視力」とセットで考えるべきだと思うんですよ。これ、歌詞を読むと分かるんですけど、どっちの曲も言葉とか人間関係ではなくて、視線とか指先を交わすのが恋愛関係の全てだ、っていう世界観の曲なんです。

言葉で分かり合って関係を深めていくんじゃなくて、視線と視線が合うとか、指を指したらちょっとドキッとするとか、そういう一瞬の関係が全てだ、っていう世界観なんですよね。

例えば、「ハート・エレキ」の歌詞には「世界のどんな言葉/探してもニュアンスが違うだろう/もどかしい今の気持ち/この指でしか伝えられない」っていうフレーズがあるんですよね。同じように、このカップリングの「快速と動体視力」は、毎朝通学の電車で見かける女の子に主人公の男の子が片想いしていて、でも告白する勇気はなくて、どんどん電車の中で彼女を目で追う能力だけが進化していく、っていうちょっとストーカーっぽい曲なんですよね(笑)。

この中の歌詞に「どんどんよくなるのは/関係じゃなくて動体視力」っていうフレーズがあるんですよね。これってね、言ってみればいわゆる「レス厨」の世界ですね。

レス厨っていうのは、公演とかコンサートとかで、僕らがコールする訳ですよ。「超絶かわいいゆいちゃーーん!」とか。そのときに舞台の上のメンバーが、指を指したりするんですよ、フリでね。それをレスっていうんですよ。コールに応えるみたいなね。

誰を指しているのかも分からないし、ぶっちゃけそんなに意識もしていないのかもしんないけど、でもなんか「目が合った気がする」とか「指を指されたような気がする」っていうのは、すごく送っているほうにしたら高まる瞬間なんですよね。そのレスの快楽に取り付かれた人達を、専門用語で「レス厨」っていうんですね。

僕の友達の濱野智史くんとかも今完全にレス厨になってますね。彼はもう、本当にレスが大好きな男なんですよ。これねー、でもけっこう面白いと思うんです。握手会とかで言葉を交わして仲良くなったりするよりも、妄想かもしれないけれど、レスをもらって目と目が合って、指を指し合って瞬間的に高まる、これこそがアイドルのもたらす一種の疑似恋愛の本質なんじゃないか……っていうのがこの2曲の世界観だと思うんです。

相反するものを組み合わせる、秋元康の手腕

でもこれ考えてみるとけっこう深いですよ。だってね、冷静に考えてみてください。AKB48グループって、まさに会いにいけるアイドルっていうか、単に歌や踊りを見せるだけではなくて、実際に握手会やGoogle+でコミュニケーションが取れて、選挙で運営に参加できるアイドルというコンセプトで勝ってきたグループだと思うんですね。言ってみれば、動体視力ではなく、関係。指先ではなく、言葉の力こそを武器にしてきたはずなんですよ、AKBというのは。

でもね、この2曲の世界観はその逆なんですね、反対なんです。でね、秋元さん自身は、もしかしたら言葉で作る人間関係の魅力よりも、歌や踊りの表現が発生させる一瞬の高まりのようなものを信じているんじゃないか?って思わせるのがこの2曲の価値なんですよね。

しかもこれ、『恋するフォーンチュンクッキー』の直後の曲じゃないですか。『恋チュン』っていうのは誰でも踊ることができる、参加できるダンスの曲っていうのがコンセプトなんですよね。その上、“指原莉乃”っていう総選挙の代名詞の為の曲でもあるんですよ。つまりね、この比喩でいうと、関係とか言葉の方の側の象徴の曲なんですよね。その直後に秋元康は正反対の世界観を持つこの曲を持ってきたんです。「ハート・エレキ」と「快速と動 体視力」を持ってきたんです。

ここがね、実に秋元さんらしいですね。完全に実力主義で弱肉強食の総選挙と、完全に運で決まるじゃんけん選抜を、あの人同時にやったりするじゃないですか。相反する2つのものを組み合わせて、そこでダイナミズムを発生させるっていうのが、康さんの常套手段ですね。

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