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「仕事は盗め」「体で覚えろ」なぜ職人は言葉で教えないのか? 桶職人が説く、“手で語る”ことの重要性

「仕事は盗め」「体で覚えろ」なぜ職人は言葉で教えないのか? 桶職人が説く、“手で語る”ことの重要性

700年前から受け継がれてきた伝統的な日本の桶作り。京都の桶職人一家に生まれた中川周士氏は、桶の需要が激減するなかで「技術の継承」という大きな悩みにぶつかります。彼が考え抜いた末にたどりついた結論と、その答えが色濃く反映された新しい桶のカタチを紹介します。(TEDxKyoto2014より)

スピーカー
桶職人 中川周士 氏
参照動画
apanese “ki-oke” buckets -- keeping a 700-year old tradition alive | Shuji Nakagawa | TEDxKyoto

「理屈はいらない。体で覚えろ」

1 中川周士氏(以下、中川) ここに1つの桶があります。桶は側板と呼ばれるものと底板、そして箍(たが)この3つの要素によって成り立っています。箍が側板を締め付け、底が内側から張り出す。そして中に水が入ることにより木が膨張してしっかりと密着し、水を洩らさなくします。 では今からこの箍を外してみましょう。 1.5 これが慣用句で言われる「箍が外れる」ということです。この箍の締め付けと底の張り出しの力のバランスが非常に重要で、それは職人たちの経験や勘というものが非常に重要です。それらは職人たちが代々手から手へと引き継いできた、語り継いできたものなのです。 私は桶職人の一家に生まれました。祖父の丁稚奉公から90年、私が三代目になります。手習いの頃、父は私の指導に細かな説明は一切しませんでした。「仕事は盗め、体で覚えろ」でした。「こうや」と言って鉋(かんな)で削ってみせ、「やってみろ」でやってみて、「違う貸せ、こうや」の繰り返し、訳も分からず繰り返す。 2 手が止まると「考えるな、手を動かせ」と叱られる。「仕事は手を動かしてなんぼや。体で覚えるもんや」、「なんで?」と聞くと「理屈はいらん」と。祖父は10歳のころから丁稚奉公で、父は高校に通いながら仕事をしていました。若ければ若いほど仕事を覚えるのが早いし、長い期間仕事ができるという理由からです。

桶ニーズの減少の弊害

ほんの60年ぐらい前までは、どこの家庭でもたくさんの桶が使われていました。この京都でもおよそ200軒近くの桶屋があったと言われています。しかし今は3軒か4軒しか残っていません。それはプラスチックなどの工業製品の普及により、桶の需要が激減したからです。そのことによって桶屋の数も急速に減っています。 祖父や父が手習いの頃は、1カ月に数百個の桶を作ったと言います。1つの部屋が桶でいっぱいになることもあったと言っていました。しかし今はひと月に数十個しか作ることがありません。父や祖父の時に比べると需要は十分の一に激減しています。 2.5 父や祖父が手で覚えていた頃の、手でこなして体で覚えていたことを、僕がこなそうと思えば彼らの1年分で10年かかってしまいます。彼らの10年で100年かかってしまいます。これは到底追いつける量ではありません。ではどうすればいいのでしょうか。

桶の新しいカタチ

3 私は考えました。必死になって考えました。それで出した答えが、頭を使いながら手を動かすということです。そういう方法で作り上げたのが、このシャンパンクーラーです。2008年に今までにないようなシャープな桶が作れないかという話を頂き、挑戦して2年ほどの歳月をかけてようやく完成しました。 桶を作るときに用いる寸法表というものがあります。口径、高さ、勾配、箍位置、底位置などの10個ほどの数字がかかれています。基本的にはこの数字さえあれば桶を作ることができます。 4 また、桶は煉瓦造りなどの橋などに使われるアーチ構造というもので形を成しています。1枚1枚の木片の角度は、正確に円の中心に向かわなければなりません。先ほどのシャンパンクーラーを作るには、非常に精度が必要になりました。 丸いものから楕円形になることによって角度が非常に難しいものになってしまったのです。それは中心円が1つではないからです。普段の丸い形であれば職人の経験や勘というもので形をつくることができます。 しかしシャンパンクーラーは、この勘や経験というものでは形にならないのではないかと感じるようになりました。実際に形になったものに水を入れたときに、底板がみるみる盛り上がって割れてしまったこともありました。力のバランスが崩れていたんです。 5 私は桶の構造を見直し、アーチ構造に正確に沿うようにパソコンで図面を描き直しました。それを経て、ようやくシャンパンクーラーは完成したのです。父にこの図面を見せてもなかなか構造は理解してくれませんでした。 しかし私にこれができたのは、父や祖父が体で覚えた分量に何とか追いつこうとして、父や祖父に理屈をこねるなと怒られながらも桶の構造と道具の特性を理解、研究しながら体を動かしてきた20年というものがあったからです。 7.5 これができるようになると、今までになかったような桶が作られるようになりました。丸い桶ではなく三角や四角、五角形の桶なども作れるようになりました。そのことによって桶を作るという技術の可能性が広がり、デザインやアートの世界と関わり、日本から海外へと世界が大きく広がっていったのです。

200年、人と生き続ける桶

私がやってきたことは、父や祖父あるいはもっと前、何百年も続いてきた職人たちが手によって語り継いできたものを否定するものではありません。手から手へ語って来たことを言葉に翻訳し、桶の中に含まれていたものを読み解いたに過ぎないのです。 ここに1枚のスライドがあります。桶は、修理修繕しながら長い間使うことができます。 8 残念ながらこの写真ではないのですが、200年くらい前の桶を修理したことがありました。真っ黒になった側板の中に昔の修理の痕を発見したのです。そしてその桶の傷んだ箇所をまた新しいパーツと取り換え、組み立て直しました。 桶は人との共存の中で長く生き続けます。修理をしているとその桶がどのように使われてきたのか、昔の職人がどうやって作ったのかということを知ることができます。作り手から作り手へ、使い手から使い手へ、手から手へという形で語り継がれている。それは人が言語を持つ前から持っていた、最も原始的なコミュニケーションツールなのではないでしょうか。 9 言葉は便利です。この世界は言葉によってほとんどのことを言い表すことができます。でも全てではありません。言葉では言い表せないことがある。だから私はものを作ります。しかし今職人の減少とともに、大切なものが失われつつあります。 職人の手によって語られてきた技術や哲学、精神といったものです。それを手で、あるいは言葉に置き換え、次の世代へ受け継いでいくことが必要だと考えます。以上です。

  
※ログミーでは、TED Talksおよび各TEDxの定めるCCライセンスを遵守し、自社で作成したオリジナルの書き起こし・翻訳テキストを非営利目的のページにて掲載しています。
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