logmi・ログミー

世界をログする書き起こしメディア

お金持ちは目指さない、BIGよりGOODになろうよ – 創業100年の松華堂5代目が語る“成熟経営”のヒント

お金持ちは目指さない、BIGよりGOODになろうよ – 創業100年の松華堂5代目が語る“成熟経営”のヒント

人々の価値観と欲求が大きく変化していく時代に必要な経営とは? 老舗のカステラ店、松華堂の5代目である千葉伸一氏は「BIGになるよりGOODになろう」をテーマに、今までのような狩猟型ではなく、好きなことを適材適所、適正規模で行う経営姿勢を目指すべきだと語りました。(TEDxTohoku 2014より)

スピーカー
有限会社松華堂代表 経営者 千葉伸一 氏
参照動画
Succeed in Business: Not Bigger, but Happier!

パンクでポップな経営論

千葉伸一氏(以下、千葉) こんにちは。私は(宮城県)松島でカステラ屋をしている千葉と申します。正直TED、すごく恥ずかしくて出たくなかったんですけども(笑)、やはり5代続く商家の後継ぎとして生まれ育ち、そしてバブルの崩壊や東日本大震災、そういったピンチを乗り越えた末に見えてきた経営の考え方。そういったものを伝えたくて今日ここに立っています。 経営論ではありますが一種の幸福論でもありますので、経営者じゃない方にも聞いていただけたら嬉しいです。 私は1975年生まれ、いわゆる団塊ジュニアと呼ばれる世代です。青春時代はバブルの雰囲気にあまり馴染めずに、パンクミュージックを聞きながら『ライ麦畑でつかまえて』で有名な)サリンジャーとかを読んでいるような、そんな少し冷めた青春時代を送っていました。 しかしその頃、バブルがはじけて家の経営が危うくなって、急にカーネギーを読み始めるんですね(笑)。だからそんな、サリンジャーとかカーネギーとかがミックスされたちょっぴりパンクでポップな経営論です。

100年の歴史がある松華堂

これは創業当時のチラシの画像です。 gazou1 明治44年とあります。西暦に直すと1911年。しかし、うちはカステラ一筋100年という商売ではなかったです。時代に合わせながら、同時に時代に翻弄されながら、なんとか続けてきたといえるでしょう。この100年を簡単に振り返ってみたいと思います。 創業当時の写真が残っていました。赤い矢印のところがうちです。 gazou2 そして、昭和初期。看板には「カフェー松島洋食」とあります。 gazou3 そして昭和50年。この年は僕が生まれた年です。 gazou4 周りはコンクリートのビルになってきていて高度成長を感じます。両親は忙しくてあまり遊んでもらった覚えがないんですけども、目の前の海で釣りをしたり裏山で冒険ごっこをしたり楽しかった覚えがあります。 平成に入るとバブル景気になっていきます。この頃はそれぞれの店やホテルがどんどん大きくなってきて街並みも変わって行きました。 gazou5 物質的には一番恵まれていた時代だったかとは思います。ただやはり今思い起こすと、お金に踊らされていた感は否めないのではないかなと思います。 そしてバブルがはじけると、うちが経営のピンチに陥って、一時は倒産寸前まで行きます。その頃私は大学を卒業したので、就職をせずにそのまま家を手伝いました。とてもつらい日々だったんですけども、家族とケンカをしたりしながらも一致団結して、なんとか少しずつ回復して行きました。 倒産は回避できたので一度社会勉強をしたいと思って、私はそのあと霞が関でネクタイを締める経験をします。この経験が私にとってすごく大きかったように思います。 というのはやはり、外に出たことによって東北の素晴らしさであったり、松島の素晴らしさであることを認識することができました。

“Less is more” より少ないことはより豊かなこと

そしてその後、2003年の北部地震(宮城県北部沖地震)のときにうちが大変だということでまた戻ってきます。そんなことがあって2010年の8月、私が社長にするタイミングに合わせて、実は松華堂菓子店というのを作りました。 gazou6 今ここですね。 gazou7 さて、皆さんは経営者という言葉にどんなイメージをお持ちでしょうか? 私は正直あまりいいイメージを持っていませんでした。高級車に乗りたいとも特に思わないし、偉くなりたいとも思ったことがなかった。だから何が欲しいとか何になりたいとかではなく「どんな人生を送ろうか」っていうふうに考えました。 しかし同時に、やはり5代目というところもあったり、あとは家族を守る父親の立場であったりとか、いろんなことを考えてちょっと難しく思っていたときに意識したのがこの言葉です。 gazou8 これは好きな建築家、ミース・ファン・デル・ローエの「Less is more」という言葉です。 人生は結局、時間もエネルギーも限られています。そんな中で本当に自分のしたいことは何なのか。そして本当に価値のあるもの・価値のある会社ってなんだろうって考えたんですね。 そうして引き算に引き算を重ねて、結局は大金持ちになる必要はなく、自分で自分の得意なことを活かして、そして自分の信じる価値を作ってそれで人並みに食べて行ければいいと思って作ったのが、この松華堂菓子店です。 この松華堂カステラというのはとてもシンプルなお菓子です。地元でとれた新鮮な卵を昔ながらの手仕事で仕込んで、そして最新のオーブンで焼き上げます。そうするとしっとりと焼き上がります。 シンプルですが今の良いところと昔の良いところ、その両方を大事に作っています。お菓子の種類もこのカステラと黄粉サンドという2種類だけです。種類が少ないぶん、ひとつひとつにこだわることができます。賞味期限は大手のお菓子に比べると半分くらいですけども、保存料は使っていません。便利を捨てることでおいしさを選びました。 そうすると、地元の方たちを中心に少しずつ支持してくれる方たちが広がって行きました。広告も一切打たず、TVの取材もお断りしているにもかかわらず、それはさらにインターネットなどで広がって行き、東京の有名百貨店の催事であったりとか駅ビルの出店につながって行きます。 「Less is more」。たくさんの可能性を捨てることで本当に価値のあるものに出会えて行きます。そういった価値というのはブームなどに終わらず、きちんと残って行くものだと考えています。 こういった考え方は震災の復興を考える上でも大事なのではないかと思っています。震災後は地域活性化とかふるさとの未来とか、いろんなところでたくさん語られるようになり、毎日のように復興イベントがおこなわれています。しかしここで気をつけなければならないのは、それが「何のためにやっているか」ということを忘れてはいけないと思っています。 傷ついた体にカンフル剤や麻酔薬は必要だと思いますが、そのまま依存すると結局は身を滅ぼしてしまうと思います。

祭りの復活が地域ブランドにつながっていく

復興というのはある意味では、平凡な日常を取り戻して行くということでもあると思います。だから私たちはそれまでに派手な話題を振りまくのではなく、いかに地域を耕して新しい種をまけるか。そういったことを考えて仲間たちと一緒に開催したのが「松島流灯会海の盆」です。 gazou9 このお祭りは例年おこなわれていた花火大会が、やはり震災のダメージで開催が難しい中でおこなわれました。派手でもないし小さなお祭りです。 しかし盛大な花火の代わりに30年前に途切れていた盆踊りを復活させました。そして、700年続く松島の瑞巌寺の祈祷行事である大施餓鬼会(おせがきえ)や、鎮魂の灯篭流しにもう一度スポットを当て直しました。 「本当に大事なものは何か」を考えたときに、やはり松島でしかない風景と、そしてそこに住む人々の笑顔を大切に開催したのです。当初は地元でも小さくて地味なお祭りだというような批判もあったのですが、今ではたくさんの地域の人が参加してくれるようになりました。 花火見学ではなく参加してくれるようになったのです。参加してくれた人たちはそれをきっかけに地元への愛情と、そして松島の魅力を再認識して行きます。そういった思いが各自それぞれ発信されて行きます。 私はそれが結果的に地域ブランドのようなものにつながって行くのではないかなと、そう考えています。 一日だけの集客ではなく10年後、100年後のために種をまいているのです。このお祭りは他所との競争や比較ではなく、その土地本来のアイデンティティを確立するお祭りとして評価され、グッドデザイン賞(2012年)をいただくこともできました。 震災でたくさんのものが失われました。しかし同時に「本当に大事なものは何か」ということを考えさせられるきっかけでもあったと思います。そういったものは復興が進んでも決して忘れてはならないのではないかと考えています。

BIGになるよりGOODになろう

さて、大好きな言葉があります。 gazou10 「BIGになるよりGOODになろう」。これは偉い人の言葉ではありません。震災後、ある雑誌で子どもたちが未来について語り合う記事の中で見つけた言葉です。 このような言葉をいろんなところで使っていると、大先輩の経営者の人たちには「お前はスケールが小さいな」とか「草食男子だな」とかそんなふうによく馬鹿にされます。ただ誤解してほしくないのは、大きくなれないから負け惜しみを言っているわけではなく、それを求めていないのです。 はるか昔、強くて大きい恐竜は絶滅し、小さくても環境に適応していった者たちは生き残り、そして進化し続けています。 バブルの崩壊とか震災とか、いろんな時代の流れの中で人々の価値も大きく変わっていると思います。価値観の変化というものは、大きく言うと量的価値から質的価値に変わってきています。そして人々の欲求の変化。 gazou11 これはやはり、拡大の時代には「人に羨ましがられたい」とか「人に尊敬されたい」とか、そういった欲求がベースにあって皆さん仕事や経営をしてきたのだと思います。ただしこれも、今はだんだんと「自分の能力を活かしたい」とか「自分らしく生きたい」と、そんなふうに変わって来ているのではないでしょうか。 そう考えると、先進国ではよく好景気が終わると不況だという話になりますが、もしかするとそうではなくて、単純に成金から成熟に向かっているだけなのではないかなって思います。そうであるとするならば、経営の手法もそれに合わせて行くべきかなと。

好きなことを適材適所・適正規模に行う経営

人口が増えて皆が同じ方向を向いていたときは、やはり強さや速さなどを競うような、そういった狩猟型の経営でよかったのかと思いますが、人口が減りそして人々の欲求が多様化していくとするならば、それに合わせて多様な種をまいて新しい価値を創造していくような、そんな経営方法が必要になってくるんだと思います。 そういった経営方法のポイントは3つあると思います。 gazou12 一人の人が大きいものを育ててそこに依存するのもいいのですが、できるだけたくさんの人がそれぞれ好きなことをやり始めればいいなと思います。それを適材適所で、適正規模で。 これ、すごく当たり前のことを言っているように思えるかもしれませんが、意外と難しいものです。特にこの3番目の「適正規模」というのは経営者の方はわかるかもしれないですけど、結構難しいんですね。 でもこういった考え方、なんとなく東北の人が得意そうな考え方じゃないかなと思っています。わかりやすい例が、軒並みファストフードのチェーン店などが苦戦している中で、地方にたくさんの小さな個人経営のカフェが生まれています。 インターネットのおかげもあって、小さくても特色があってGOODであれば、経営が成り立つようになってきたんですね。では特色はどうやって出していったらいいんだろう。 そこにはやはり、その地域の文化であったりオーナーの個性であったりということだと思います。そのためには他との比較ではなく、自分の物差しで物事を考え判断する。こういったことが必要です。 実はこれが東北の人が一番苦手なことかと思います。だけどもそれができれば、大変かもしれないけど、それぞれがわくわくして楽しい生活になっていくと思います。 そうして他との比較をやめることによってコンプレックスから解放されて、他の人の意見を聞き入れたりとか、多様な価値観を認め合えるような、そんな考え方に広がっていくのではないでしょうか。 ひとつひとつは小さくてもそういった考え方が広がっていけば、私は本当にわくわくする未来に、持続可能で平和な社会になっていくんだろうって思います。 gazou13 gazou14 gazou15 ひとつひとつは小さくても、色とりどりの多様な価値観が存在できるような成熟した社会。 改めて言います。私は経営者です。経営者の目的というのが必ずしも限界のない富の膨張ではなくて、自分の得意なこと・自分の好きなことで人を喜ばせて「BIGになるよりGOODになろう」こういったことを軸にやっていくと、それほどリッチにはなれないけどハッピーになれます。 そういったものが、ひとつひとつ小さいハッピーがつながっていくとWIN×WINからHAPPY×HAPPYの関係。 gazou16 すごく能天気な言葉なんですけども、意外とこういったことが経営者の成熟であり、そして進化なのではないかと、そんなふうに思います。以上です。ありがとうございました。

  
※ログミーでは、TED Talksおよび各TEDxの定めるCCライセンスを遵守し、自社で作成したオリジナルの書き起こし・翻訳テキストを非営利目的のページにて掲載しています。
×
×
×
この話をシェアしよう!
シェア ツイート はてブ
お金持ちは目指さない、BIGよりGOODになろうよ – 創業100年の松華堂5代目が語る“成熟経営”のヒント

編集部のオススメ

おすすめログ

おすすめログ

人気ログランキング

TOPへ戻る