ネットによってジャーナリズムは「独りよがり」から脱却する

藤代:もう1時間ぐらい来てるんですけれども、触れておきたい話があります。今回IVSの挨拶で小林(雅)さんが、ITがすごく広がったことに対する社会への責任があるといった話とか、昨日の最後のセッションでもヤフーの川邊(健太郎)さんがインターネット大好きだから、社会を変えていきたいとすごく熱いことをおっしゃっていって。

スマートニュースの鈴木(健)さんも民主主義に貢献するというようなことを、事業説明会でおっしゃってました。これまでビジネスの話をしてきましたが、ニュースビジネスは、社会にどんな役割を果たすのか? どんな社会を作るためにニュースをやってらっしゃるのかっていうのを、ちょっと聞いておきたいなと思うんですね。瀬尾さんからいきますか?

瀬尾:冒頭で言いましたけれども、ジャーナリズムっていうのが一番、民主主義にとっては、必要な機能の1つだと思うんですよね。ただ、今までジャーナリズムが独りよがりになった部分があると思うんで。これがデジタルによってオープンに、いろんな取材の糧もオープンになる、あるいは批判もちゃんと届くようになる。

ここが変われば、ジャーナリズムがすごい、フリーランス2.0じゃないけど、独りよがりじゃないジャーナリズムができる可能性があると思うんです。今はその過渡期じゃないかと僕は思っています。

藤代:それで、みんなのジャーナリズムみたいなのができると社会はどうなるんですか?

瀬尾:結局、マスコミが今までなんでこういうビジネスモデルで儲かったかって言うと、ある種の情報の非対称性みたいなのを使って商売したわけですよね。それが電波の独占であったり、新聞という再販制度で支えられた流通制度でもってきたと。でもこれは出版社もそうです、再販制度ありますからね。

それが大きく変わって、情報が両側から、一方通行じゃなくて両側からくる。これは、まさに本当に民主主義の根幹に近いとこですよね。要するに、直接民主制がいいとは言わないけれども、要するにそれに近いか、少なくとも情報に関しては、隠す部分がなくなる、オープンになる。調べようと思ったら調べられると。すごくフェアな社会とも言えると思います。

藤代:なるほど、片岡さんは?

片岡:まず健全な民主主義っていうのを作っていきたいと。それは、インターネットでより良くできると僕も思っているんですね。だからこそ、ページビューだけじゃない公共性を意識して、広く多くの方に関わること、利害などに影響することも取り上げていこうとしてるんですね。

それをどう自分ごとに捉えてもらうかっていうのは、その記事を見ただけで判断できない人っていうのが、多くいるわけですね。この課題を他のユーザーの意見だったり、議論だったりを通して、これはこのまま他人事だとまずいんじゃないかって少しでも気づいてもらって、アクションすると。

ここまでを、なるべく多くの人をつき動かすために、多くの人に見てもらう必要がありますし、そのために仕組みを作っていく。それが健全な民主主義につながる、そういったことを意識して取り組んでいます。

藤代:松浦さん。

松浦:我々は、本当により良質な情報を送り届ける。送り届けた結果、良質な考えが生まれ、そこからまたより良質な情報が発信されるっていうようなサイクルは、基本的に今も変わらず、いろいろ昨日も鈴木(健)とかも話してましたけど、そういうところは突き進めてやっていきたいなと。

あと公共性のところの部分で言うと、冒頭にも述べましたけど、やっぱりNPOの皆様みたいな活動を、無償支援という形で伝えるところ。

藤代:NPOに対する広告の支援プログラムがある。

松浦:はい。支援プログラムも含めてやらせて頂きますし、また今(※2014年12月)選挙期間中ですので、選挙行こうよ! というところも含めまして、トップページで「このような取り組みがあります」ってご紹介も含めてやらさせて頂くとか。

そういう部分を伝えることによって、より良質な情報が出てくるような環境をどんどん作ることが、最終的に繋がってくるのではないかなと思って活動しています。

藤代:なるほど、良質な情報のスパイラルを回していくんですね。

松浦:そうです! はい。

日本に本当のジャーナリズムが存在した時期はあるのか

藤代:佐々木さん、どうですか?

佐々木:いやー、これ難しいですね。日本人が、「民主主義だ、民主主義だ」と言うと何か、ふわふわするじゃないですか。

(会場笑)

藤代:怪しいですよね(笑)。

佐々木:何かうさんくさくなるじゃないですか?

藤代:はい、うさんくさいかもしれないです。

佐々木:だから、そこのところを根本から考えないといけないなと思うんですよね。それで、メディアの歴史を見ていたときに、ほとんどの新聞とかって、政党とかの御用新聞として出来たわけじゃないですか。

藤代:そうですね。過去の歴史を振り返ってみると……。

佐々木:そこに独立なんかなかったわけじゃないですか。そこが徐々にある程度余裕が出てきたりして、それで編集と広告の分離みたいなものも、あれウォルター・リップマンが作ったものですよね。

藤代:うん、うん。

佐々木:それまでは、そこの分離も何もなくて、広告とかそこって曖昧だったわけじゃないですか。ただそこで、何かイエロージャーナリズムばっかりが出てきて、それを変えようと思ってニューヨークタイムズとかが出てきて変わったり、そういう歴史があると思うんですね。

その中で、日本はやっぱり政府の力が強すぎるっていうか、戦前も国の力で新聞を投稿させられたり、テレビも総務省とか国の力が強いので、最近ジャーナリズム論とか、デモクラシー論が盛んなんですけど、本当にメディアとかが、第4の権力とか、そんなかっこよく言えるくらいジャーナリスティックだったことって、この日本の歴史でどれくらいあるんだろうかって考えるんですよね。

これ、藤代さんの方が詳しいと思うんですけど、どれくらいあるんでしょうかね? 昔はある程度有名なジャーナリストとかいたじゃないですか。私の古巣の東洋経済の石橋湛山とかいたんですけど。

本当にそんなすごいジャーナリストって、日本の歴史上いたのかなと思って。無いものを追い求めてるような気もするんですよね。だから、再発明をしていかなきゃいけない時期な気がしていて、深く深く考えなきゃいけない時期な気がしているんですよ。

藤代:なるほど。

佐々木:これ藤代さんの方が詳しいと思うので、聞きたいのですけど、どうなんでしょうね?

藤代:ブーメランがまさか返ってくるとは思わなかったんですけども(笑)。

佐々木:いやいやいや(笑)。

藤代:日本のジャーナリズムが西洋から輸入されたコピペモデルだってことは確かなわけで、自分たちの中で言論空間を作って来なかった弊害っていうのは、コピーであったり、著作権違反であったりっていう形で出てきていると思うんですよね。

インターネットもアメリカからやってきたものですけど、日本人がインターネットをものにしていくためには、自分たちで考えて、自分たちで社会を作っていくという、民主義的な考え方、フラットな考え方を、自分たちで手を突っ込んで、本当に作っていかなきゃいけない時代にきているんじゃないかなと。

だから「ネットでジャーナリズムがダメになった」とか言っている人には、佐々木さんの仰るように「じゃあ今まで本当にあったの?」って聞いてみたい。

ドイツとは違い、日本のマスメディアは戦後も解体を免れて大政翼賛会的なものを受け継いでいると思います。今新しいプレーヤーがどんどん生まれてきている中で、もっと自分たちで言論空間を作っていけるんじゃないかなと、私はすごく期待していますね。

良質なコンテンツとはなにか

藤代:今日はちょっと厳しく皆さんに突っ込んだかもしれませんけど、それは期待の裏返しだと思って頂ければと思います。会場質疑を取りたいと思います。前の方。お願いします。

質問者1:クオリティ、そして、メディアとユーザの信頼関係についてどう考えているのかを教えていただけないでしょうか?

藤代:メディアとユーザーの信頼関係についてどう考えているかということですね。佐々木さんに聞いてみましょうか。

佐々木:何がクオリティが高いメディアかっていうのは、難しいですよね。だって私が東洋経済オンラインにいたときに、そこでやったことは、そこは無料モデルだったので非常にPVを稼ぐためにどういうものがウケるかとか。タイトルも含めて、今までの東洋経済のちょっと固いものとは違うものをいっぱい出していった、ってところは私はあると思います。

だけどそれが良かったかどうかというのは私が判断することじゃなくて、読者とか周りの人が判断すればいいことかなと思っているので。私が思ったのは、その時はこの無料モデルでPVをずっと追っていたんですけれども、そのモデルをずっとやり続けても次がないというか、そのあとにある程度課金のモデルにいかないと、メディアって発展しないなと思ったんです。

ひとつのコンテンツプロバイダー、ある出版社とかがずっとコンテンツを作っていって、そこで網羅性とかコンテンツの深さとか、そういったところである程度規模がないと難しいなとも思うんですよね。プラットフォームの機能とコンテンツを作る機能と両方持っていないと、ある程度大きい規模になって課金とかまですることはやっぱり難しいなと思ったんですよ。

だから私は、柱になる根幹の考えはもちろんありますけれども、そのときそのときで一番合ったコンテンツとか、事業モデルを選ぶというところは一方で、私も状況に応じて変えているということもありますよね。

藤代:つまり質というものは読者が選ぶのだ、ということが回答ということですね。

佐々木:両方ですけれどもね。読者が選ぶ部分もあって、そこは全部読者に委ねるのはフェアじゃないと思うんですよね。だから読者と自分と両方だと思いますね。自分というか編集部側と。

藤代:これどうですか? 意外と難しい問題で、これ話すとなんかもう終わりそうなんですけど。松浦さんどうですか?

松浦:良質なコンテンツという言い方を我々もしているわけですが、今佐々木さんが言ったように、ゼロイチな議論でもないかなと。いろんな見方の部分があるんですけれども、良質なコンテンツとするひとつの見方として、ユーザーとコンテンツが良質なエンゲージを築けているか、という部分があります。

いわゆるソーシャルにおいて、FacebookさんなりTwitterさんなり、いろんなソーシャルがありますけれども、そういうところで人の心を動かせるからこそ、例えば多くのいいね! が付いたり多くのリツイートが付いたりというのも一つの側面でもありますし。

また良いエンゲージを築く、ブランドエンゲージみたいな形の部分で、何かしらのメディアさんのストーリーに沿った形でユーザーさんに伝わって、そこの部分でエンゲージがあるからこそ、別にネットに限らず、紙面でもあると思うんですよ。結局部数に繋がるとか。

あとそれぞれ書き手のエンゲージですね。それぞれ、先ほどの「良質なジャーナリスト」という方が書いたものが、そもそもその人の信頼性というところに紐づいて伝わるという、いろんなエンゲージがあると思うんですけれども。

今は多様性の時代なので、そのエンゲージがさまざまな多様性を持って叶えられているのが、今のソーシャルメディアの時代観では良質なコンテンツの一つかなとは思います。

藤代:スマートニュースさんはプログラムですけれども、ヤフーさんは人でと。質というと変かもしれませんが、伝えるべき情報を選んでいるわけですけれども、基準みたいなものはあるんですか?

片岡:そうですね。編集部が25人程いますので、判断基準を持って、きちんと裏を取っているかとか、その内容が新しい気付きを与えられているかとか、いくつかの基準があるんですけれども、そういうのを元に選別をしてユーザーに届けているということですね。

それ自体が必ずしもシェアされないものも確かにあります。ただそれは先ほど申し上げた、公共性のために伝えないといけないというところもあって、伝えるものもあれば、ユーザーに広がっていったというものも両方ありますので、一概にこうだ! っていうものが良質であり支持される、っていうふうには定義はしていないですね。

オウンドメディアもジャーナリズムの一種

質問者2:どうもはじめまして。リディラバの安部と申します。社会問題の現場に旅行する商品を作っている者なんですけれども、ちょうどイギリスのガーディアン社が先日、メディアとして会員向けに現地に連れて行くジャーナリズムの旅行みたいなものを始めたりしていると思うんですね。

私自身も、現場に人を連れて行くような体験型ジャーナリズムみたいなものがあるんじゃないのかな、と思いながら仕事をしているんですけれども。

一方で本当にコストで回るのか、そのビジネス的に回るのかというのも課題かなと思っていて、各社の皆さんが、ただ記事だけじゃなくて現場に連れて行くよなうなこととか、それによってマネタイズをしていく新しい会員モデルみたいなものを考えているのかっていうのを、ちょっと伺えればなと思っています。

藤代:どなたかそういうのを考えていらっしゃる方?

佐々木:まだ温めている段階ですけれども、「NewsPicksジャーナリズムスクール」みたいなものをやりたいなと思っていて、藤代さんにも来ていただきたいんですけれども。

藤代:なるほど。

佐々木:なんでそう思ったかというと、今我々の書き手で、木崎伸也っていう者がいまして、スポーツジャーナリストとして、私は日本で本当にトップだと思っているんですけれども。彼が最近、本田圭佑の経営論とか、そういうのを書いてくれて、何十万人ぐらいの人に読んでもらえたんです。

彼って、金子達仁さんという有名なスポーツジャーナリストがいますけれども、彼の塾から育った人なんですね。それで金子さんから、お前こんなに怠けてきたんだからそろそろ塾をやれよ、と言われたみたいで、やっぱり私も、どういうふうにジャーナリズムをやっていくかとか、自分でもなんか言語ができていなかったり、そうなりたいと思った人が入る入口って今ないじゃないですか。

しかもどういう現場で作っているかとかってないので、そういう形でそういうスクールみたいなものを作って、学生の人とか社会人の人とか、どういう人でもいいので来てもらってそこで書く練習を一緒にしたりとか、ジャーナリズムってどういうものかって議論していったらおもしろいんじゃないかなと思ってやろうと思っています。

藤代:質問していただいた方は、まさにジャーナリスト活動をされていると思うんですね。これからそういうのってすごく増えていくと思いますし、企業のオウンドメディアもそれと同じだと思うんですね。

ジャーナリズムっていうと、すごく固いような感じがしますけれども、企業が自社製品を紹介するのも、自社製品ばっかりを褒めていてもダメで、体験でユーザーから意見を聞いたりとか、読者に有益でないとつまらないですよね。そういうところにもメディアの知見が活かされるでしょうし、新しいニュースのコンテンツが生まれていくんじゃないかなと思っています。

キュレーションの方法

質問者3:今日はありがとうございました。ファクトリエのヤマダといいます。ファクトリエというのは通販サイトなんですが、物づくりのコンテンツとか多数用意しておりまして、先ほどおっしゃられたようにいろんなサイトに良質なコンテンツというのは、情報メディアだけではなくてかなり分散されているんじゃないかなと思っておりまして。

それをどういうふうにキレーションしていくかですとか、良質な情報をニュースメディアでないところからどう集めていくか、というのをもしお考えでしたらお聞きしたいと思います。

藤代:どうですか? ヤフーさんから。

片岡:ニュース個人というサービスは、今は執筆いただくことで成立しているいるメディアなんですが、もともと僕たちがオーサーに期待しているのは、書くっていうのは一つの手段でして、ベースにある専門性とか知見をもっと広く生かしていただきたいと考えているんですね。

ですからコメント機能もそうですし、ディスカッションみたいな場にも参加いただきたいと考えているんですね。その意味でいくと延長線上には、別に書く行為じゃなくて、先ほどのジャーナリズムを学ぶツアーを行うだとか、さまざまな可能性があると思っておりますので、まず僕たちがフォーカスしているのは、「人」ですね。

専門性を持っているその人ときちんと関係性を作って、その方に活動範囲を広げていただく。それを支援する仕組みを作ろうと思っていますので、何もいわゆる記事じゃなくても、可能性はあるんじゃないかなというふうに思っています。

藤代:他に誰かありますか?

松浦:そうですね。うちで言うと、動画のチャンネルがあったりとかするので。動画元年と今年も言われてましたが、いろいろ広告も含めて進化してきたところもありますし、そもそもの動画コンテンツも、もうちょっとライトにどんどん出てくるかなというのはあります。

そういうところも我々がお伝えしたい情報、ニュースの一つだと思いますし、いろんな表現方法はテキストに限らず出てくると思うんですよ。うまくパッケージなりなんなり、方法いろいろあると思うんですけれども送り手として真摯に伝えられたらなと思っています。

藤代:なるほど。ありがとうございます。時間ですのでこれで終わりたいと思います。これだけ新しいニュースメディアが次々と生まれているのは、明治以来ぐらいの日本の大変革だと思うんですね。明治時代は、ニュースメディアはベンチャーでした。明日潰れるかもしれないという中で、皆さん書かれていたわけですね。

今まさに21世紀の日本のニュースベンチャーが始まったばっかりで、そこで社会にを良くすることや変革が起こっていくのではないかと思っています。ECの世界や社会貢献の皆さんからの質問も大変興味深かったです。

つたない司会で皆さんの関心に十分応えることができなかったかもしれませんけれども、パネリストの皆さんに是非盛大な拍手で終わりたいと思います。ありがとうございました。

制作協力:VoXT