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人型ロボットの動きはなぜ不自然なのか? 研究者の難問を20分で解決した、ある演出家の結論

人型ロボットの動きはなぜ不自然なのか? 研究者の難問を20分で解決した、ある演出家の結論

日進月歩のロボット業界から次々と誕生する最新の人型ロボット。しかしその動きにはどこか機械らしさが残り、人間味を失わせています。大阪大学の研究者が2年間悩み続けたこの難問を、たった20分で解決してみせた演出家・平田オリザ氏の結論とは?(TEDxSeeds2011より)

スピーカー
劇作家/演出家 平田オリザ 氏
参照動画
Oriza HIRATA [ 平田オリザ ] - TEDxSeeds 2011

ロボットの動きが不自然に見える理由

平田オリザ氏 今日、何の話をしようかと思ったんですけど、石黒浩先生(今日の講演で)何の話をするかが分からなかったので、僕決めてなくて。どんな意味があるのか、あるいは何をしているのかってことなんですね。 僕はずっとこの15年くらい、石黒先生と全く関係ないところで認知心理の方たちと一緒に、演劇のリアルっていうものはどういうところから生まれてくるのか、という研究をしていました。 分かってきたことはいくつかあるんですけど、一番単純なところでは、どうも皆さんがあの俳優は上手いとか、あの俳優は下手だとか、あの俳優はリアルだ、あの俳優はちょっとリアルじゃないっていうふうに感じる大きな要素の一つに、無駄な動きが適度に入ってるかどうか(がある)んですね。 最近はずいぶん変わってきてると思うんですけど、例えば今までのロボット工学って(ペンを突き出し)これをいかに上手く掴むかっていうことをずっと研究してきたわけですよね。産業用ロボットっていうのは、まさにきちんと掴むっていうのが大事なわけですけど。 でも人間はこんなにガシッとは掴まなくて、なんかモノがあったりすると大体ちょっと手前で止まって掴んだりとか、全体像を把握してから掴んだりとか、何かのためらいとか、すごく無駄な動きが入るんですね。 認知心理ではこれを「マイクロスリップ」というんです。しかし俳優の場合には台詞が与えられますから、台詞にやっぱりどちらかというと意識が集中してしまうんで、この無駄な動きが無くなってしまったり、あるいは逆にすごく無駄な動きが増えちゃったりする。これが人間らしさを失わせてしまっているんじゃないかということまでは分かってきました。 もう一つは、私は演出家なのでこの無駄な動きを演出することはできるんです。「これガシッと掴まないで、ちょっと手前で止まってから掴みなさい」って俳優に言えばいい。 ところが演劇の場合には生身の人間がやるので、練習すれば練習するほど無駄な動きは消えていってしまうんです。やっぱりどうしても掴むのが上手くなっちゃうんですね。当たり前ですが。そんなところまで分かってきています。 一方で、石黒先生もさまざまな研究、もちろん認知心理学とかのアプローチも私と出会う前からなさっていて、そういうものが非常にロボットを人間らしくするのに非常に重要だと分かってきていた。これは別に、多くの学者さんもそう思っていたと思うんです。ただ、(具体的に)どうすればいいかっていうことなんですよね。 当然、認知心理とか人間工学っていうのはさまざまなデータを集めて、そして例えば人間の無駄な動きなら無駄な動きを解析しようとするんですけど、どうしても平均値が出ちゃうんですよ、普通の科学的な研究だと。平均値ってことは、無駄なものは埋め込まれちゃうんですよね。 じゃ、ランダムにすればいいってことでランダムにするんですけど、どうしてもそこからは人間らしさは生まれてこない。要するに、どのぐらいランダムにすればいいかが誰にも分からない。

ロボットの不自然な動きをなくせる演劇家の力

ところが、私がこの研究に入ったことによって、ロボットは圧倒的にリアルになりました。なぜなら私たち芸術家は、どのようにランダムにすればいいかの答えを先に知っているからです。石黒先生は最近口癖のように「とにかく平田オリザが答え知ってるんだから、お前らは解析だけしてればいいんだ」って若い研究者に言うんですね。 そこが多分芸術家の役割であり、実際に僕が最初に石黒研の研究室に行って、1分くらいの場面を設けて、最初プログラマーがプログラミングした“wakamaru”を使ってロボット演劇をやったんですね。1分間の動きと台詞に対して、20ぐらい注文を付けました。 「こことここの台詞の間は0.2秒空けてください」とか「ここは0.3秒縮めてください」とか「手の角度も少し上げてください」とか20個くらいダメ出しをしました。20分くらいかけてプログラマーが改良してパッとやると、格段にリアルになったんです。そこにいたほとんどの若い工学の研究者たちはため息をつきました。 石黒さんは口が悪いので「お前らが2年やってたことを平田先生は20分でやったね」って言って。私によっては当たり前の感覚ですが、演出家の仕事って(一般には)すごく分かりにくいと思うんです。色んな音を聞き分ける指揮者の方が、まだ少し理解していただけるでしょう。 認知心理の学者が僕たちの演劇を分析した時に、だいたい0.2秒とか0.3秒、0.5秒ぐらいのズレまでは知覚できるんですね。だから昨日と今日が違っても、昨日の演技と今日の演技で0.5秒違うと遅いと感じたり、早いと感じたりします。 指揮者の方は多分もっと細かくできるんですね。プロの俳優はやっぱり、昨日より0.2、0.3秒も違うともう気持ち悪くなります。一般の方はその感覚が1.0秒ぐらいなんですけど。 ただこれは別に潜在的にすごく才能があるんじゃなくて、慣れればだいたいみんなそうなります。例えば、ある種の先天的な脳の機能障害なんかの場合ですね。

モーツァルトと山下清–天才芸術家に見られがちな特徴ある脳細胞

せっかくなので先に話をしておくと、例えばアウトサイダー・アート、障害者の方のアートってのは非常に注目を集めていて、特に日本は非常に優れた作品がたくさんあるんですけども、なぜ私たちがそれに感動するのか。どうも、色というのは3原色を認識する脳細胞がそれぞれあるらしいんですね。 それをさらに統合する機能を持った細胞があるらしいんですけど、この統合する機能がなんかの理由で壊れている人がいるわけですね。一番分かりやすい例は距離が測れないっていうかな、私たちが普段アナログで認識しているように思うんですけど、これがデジタルにしか認識できない人がいて。 そういう人は社会生活を営むのがとても大変で、車が100m先にあって、その次の瞬間にもう5m先にあったりするんです。途中がないんです。なぜなら100m先のものを認識する細胞と5m先のものを認識する細胞が違うからです。私たちはそれぞれ違う認識の仕方を統合して、あたかもつながってるように認識している。 だから例えば、そういう人はお酒注ぐ時にビール注げないんですよね。(手でジョッキの底と一番上の部分を示すそぶりをして)ここ、これぐらい注いで、すぐにこうなっちゃうんです。でも別にそういう方たちは知能が劣ってるわけじゃないから、どうやって注ぐかっていうとコップに指入れてこうやって注いで、指に触ったら止めるんですね。 私たちがアウトサイダー・アートに感動するのは、おそらく色使いが特殊だからだといわれています。一番有名なのは、あの“裸の大将”(山下清)ですよね。彼は精神薄弱なんですけど、一回だけヨーロッパに行ってるんですね。「パリのサクレクール寺院」という非常に立派な貼り絵を残してるんですけど、真っ赤なんです。 彼がパリに行ってるのは6月かなんかなんですよ。真っ赤なわけない。でも、(本人には)そう見えてたんだと思うんですね。統合機能が失調してるとそういうふうになると、そこまでは分かってきた。 ここから先は、僕の作家としての意味づけというか描写ですけれども、おそらくなぜそれ(アウトサイダー・アートの色使い)に私たちが感動するかっていうと、それは私たちの脳細胞が最初に見ている色なんだと思います。私たち、普通の一般人は世の中を丸く収めるために、(それを)統合してしまってるんです。 多分、そんな強い色は人間が受ける刺激としては無理なんですよ。だから何となく統合している。 音もそうなんですよね。脳細胞の一つ一つが知覚している音を本当にそのまま私たちが受け止めようとしたら、多分なんかを犠牲にしなきゃいけない。だから、私たちの脳はそれを柔らかに受け止める機能を持っている。 でも、それが壊れている人がいるんですね。モーツァルトは多分そうだったというふうにいわれている。だから、モーツァルトの楽譜にはほとんど書き損じが無いといわれています。おそらく聞こえたままに書いている。 私たち作家や演出家はそんな天才ではありません。どちらかというと、それを後天的に得ようとします。どうやって得ようとするかというと、それは常識にとらわれずに、ものの本質を見る訓練をするんだと思います。 石黒先生が今日おっしゃった話もそうなんだと思うんですね。皆さんは気軽に「ロボットは考えられるようになるんですか」「どれぐらい考えてるんですか」と聞く。しかし石黒先生はそうは考えない。 いや、あなたたち、そう考えてるんですかと。皆さん普通に考えてると思ってるけど、実は考えてないんじゃないか。石黒先生には自身にしか見えてない世界が多分あるんですね。もしかしたら、脳に損傷があるのかも知れません。 (会場笑) 象徴的なこととして、今日本で最も有名な哲学者である鷲田清一によって、そういう2人がたまたま大阪大学で出会ったというのは、まだ日本の大学も捨てたもんじゃないなというところだと思う。大学というのは、本来そういう異なる知性が出会う場所だからだと思います。

人間にしか出来ないことは、マイナスの要素ばかり

……もうそろそろ時間ですね、まとめたいと思うんですけど。これから先、どういうふうにしていくかっていうことなんですけど、もちろん作品を作るっていうことはそうなんですが、ロボットを人間っぽくするんではなくて「人間らしく見えるというのはどういうことなのか」。 (つまり)私たちが「あの人は人間っぽいな」とは思わないんですけど、人間と人間じゃないものを区別する、要するに見た目の方を考えるというところに、石黒先生のコペルニクス的転回があったんだと思うんですね。 石黒先生は最初からもうそういう問題意識を持ってたわけですけれども、それのお手伝いはいくらでもすることができるだろうと。認知心理とか、近代心理学でさえもたかだか100年の歴史ですけど、私たち(の関わる)演劇は2,500年の歴史を持っています。2,500年人を騙してきたわけですから、そりゃいくらでもノウハウは持っているんです。 単純なことで、例えば、この金髪の生身の彼女は日本語、フランス語、英語、ドイツ語が全部しゃべれるという特殊な能力を持っているため、舞台に出ていろんな言語を駆使してアンドロイドと話すのですが、どっちが本物のアンドロイドなのかよく分からなくなります。要するに騙し絵みたいなものです。 また音響や照明などさまざまな効果を使って、アンドロイドを人間らしく見せることができますし、そのことはお手伝いできるんじゃないかと思っています。 今後、より人間らしくっていう時に、石黒先生ともう今年だけで10数回ずっとトークをいろんな会場でしてるんですけど、会場からは必ず「どれくらい人間に近づけるか」とか、「人間らしくなるか」って聞かれます。 (ただ)ずっと話してると、本当に原理的に人間にしかできないものってのはすごく限られてて、しかもマイナスの要素なんですね。「都合よく忘れる」とか「嘘をつく」とか「ごまかす」とか。そんなものだけロボットに入れて意味があるのかってことなんですよね。 先ほど(石黒先生から)もちょっとマリア様みたいだって話が出ましたけど、アンドロイドが人間を超えてしまう可能性が出てきているので、そこをどう考えるかってことを、これからの2人の課題にしたいなと思っています。ありがとうございました。

  
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