ライターのマネジメントの難しさ

鳥井弘文氏(以下、鳥井):次はライティング、編集のポイントや、Webメディアというものはメンバーで一緒に作っていくもので、そういった時にどういったポイントをチームのメンバーと共有して、やっているのかということを是非お話しいただければなと思います。まず、朽木さんからお願いします。

朽木誠一郎氏(以下、朽木):はい、LIGブログはちょっと難しいところでですね。LIGの組織の話からなんですけれども、基本的にWeb製作をメインとしてやっている事業部の人数が40人から50人で、メディア事業を回している人間が20人ぐらいなので、ライティングとか編集のスキルという話をする時に、メディアに関していうとすごくテクニカルな話になってしまいます。

一方で例えば、オウンドメディアの中で何社さんかあると思うのですけれども、自社の社員さんに、言ってしまえば、プロの書き手でない方に原稿をお願いするという仕組みを取っているところはそう多くはないのかな、というふうに思っていて。

まず前提として、通常業務の合間に記事を仕上げていただくということは、本当に大変なことなので、それをうまくマネジメントするということに関しては僕もめちゃくちゃ勉強中というか、いったいどうやったら、これがうまくまわっていくのだろうという部分を勉強しているところです。

それは環境づくりとか、編集部がどれぐらいサポートできるかというところに関わってくると思うので、この辺はこれだというものが見えたら、ナレッジとして外にも提供できたらいいなと思っております。

記事ごとのペルソナ設定の重要性

朽木:次に、今日こちらに集まっている方はメディアを運営されている方が多いとうかがっておりましたので、若干テクニカルな話をすると、個人的に記事ごとのペルソナ設定というのはすごく大事だなと思っていて、誰に対して何を伝えたいのかというのは、絶対大事です。そこを外しちゃうと、本当に独りよがりな記事になったりとか、もともと何のためにメディアを運営しているのかわからなくなってしまいますので。

例えばSEOを意識する記事であったら、どんな検索ニーズがあって、どんなことを返してあげれば過不足なくその方に満足していただいて帰っていただくのか。ここで帰っていただくと直帰率が高くなってしまうので、出来るだけ回ってほしいのですけれども、どれぐらい満足して、ひと記事を見終わっていただくのかというのは、大事にしたいところですね。そこはインサイトというかユーザーのペルソナを徹底的に考えて、それに対する課題解決という形になると思います。

もう1個ですね、バイラルとかバズを期待した記事というのは、個人的にはうちの社内の中で面白いことをやりたい人間が、できるだけ面白くやってくれ、好きにしろという気持ちで普段は見ております。どちらにも言えることだと思うのですけれども、熱意を持って書いたものとか、自分が面白いと思って書いたもの、伝えたいと思って書いたもののほうが結局面白いし、伝わるんですよね。

そういうことをできるだけ殺さないというか、僕も一時期、超ガチガチに編集、ライティングをしていた時があったのですけれども、それだとつまらないよなというのがここ最近思っていることなので。

できるだけ熱量もって書けることは書くし、顔文字をどうしても使いたかったら記事に顔文字を使えばいいし、そんな形で書いている人が乗っているという形を作ることを、そのまま記事に活かしてあげるというのが、編集のコツではないのかなと個人的には思います。

鳥井:はい。ありがとうございます。藤村さん、いかがでしょうか。

Webライティングのコツは「転起承結」

藤村能光氏(以下、藤村):コンテンツ設計という話になってしまいますので、テクニカルな感じかもしれません。記事や企画を作るとき、形にするところですね。1番考えているところがですね、「転起承結」ですね。「起承転結」の中の「転」を1番最初に持ってくる。そういうコンテンツの作り方をすごく意識しています。

国内でもスマートフォンの普及率が半分を超えたんですよね、日本人の2人に1人はスマホを持っている時代ですし、そこを通じてソーシャルであるとないとにかかわらず、色々なコンテンツに接するようになってきている感じ。こういう人たちって「面白くないとか、自分の興味の範囲でない」と思うコンテンツを一瞬でスルーしてしまいます。

僕たち作り手側は作るコンテンツに思いを込めています、時間をかけています。でも読んでもらえなければまったく意味がないんですよね。なので、読んでもらえるためにはどうすればいいのかというのを考えて設計しています。

起承転結みたいな形で、ストーリーを立ててというよりも、まずは面白いところを持ってくるというところから、コンテンツを作っていかなければならないと思っておりますし、タイトルやアイキャッチで、ほぼほぼ判断されると思っているので、それに対して力を込めて編集してるという感じですかね。すごく詳細な話になってしまいました。

鳥井:これも明日から使える話しだと思うので、むしろありがたいナレッジなんじゃないかなと。

藤村:LIGさんの記事は常に転の部分が最初にきていない。それでも読ませる記事というのはすごいなと思います。

朽木:それはもしかするとペルソナ設計がうまくいったというふうに思えるのかもしれないですね。何か興味を持って入ってくれた人が、離脱をしない見出しや設計であったりとか、そういう形でおとしてあげられたということなのかと思います。突然、月曜日のブログからLIGブログが「転起承結」になるかもしれないですけれども(笑)、そこをだしちゃうのかとか、本当にそれぞれのメディアによって違うのだなと。楽しいなあ、と思いますね。

コンテンツは「読むもの」ではなく「見るもの」へ?

藤村:コンテンツでいうと、最近では読むのですらなくて、見るものになっているという論調もあるじゃないですか。そういうのって感じます?

朽木:例えば某有名ブロガーさんが、写真しか見ないよ、写真を並べていただけで記事って成立するんだよ、という話をなさってたときに、確かに現在そういう感じになっているなというのは思うと同時にですね、長文コンテンツの見直しという話も出ているじゃないですか、メディアの論調として。

これはどちらかというと長文を作っている側の希望なのかもしれないですけれども、やっぱり戻ってきてほしいなというのは思っていて、あくまでもコンテンツの中身の話になると思うので、長くても読んでもらえるようなものを、僕は長く書きがちなので作りたいなと思っていますけれども。本当は写真1枚で笑わせたりとか、動画1個貼って超面白い、それはそれですごくいいことだと思うので、色々な形があっていいのかなと最終的には落ち着いちゃうのかなと思います。

藤村:色々な形があっていいですよね。文字だけのコンテンツでなくても全然いいし、写真みたいなものだけでつくってもいい。その表現で本当に伝わるかどうかというか、伝わることを主体とした文字、文字以外のコンテンツ設計のどっちも考えていっていいのかなと。

朽木:今おしゃっていたのは僕の気づきで、伝わることというのを主軸に置くのはいいですね。それをベースにしたらハッピーに。

藤村:作り手も見る側もハッピーになるのが1番ですね。

朽木:そうですね。すごくいい感じでまとまりましたね。

鳥井:今の話で言うと写真のインパクトいうのはあると思うのですけども、サイボウズ式さんの場合だとアイキャッチにイラストを使っていらっしゃるじゃないですか。LIGさんもすごい写真のクオリティにこだわっていて、その辺の品質管理というのはどうなさっているのですか?

藤村:サイボウズ式は品質管理とまではいかないのですけれども、基本的にはプロのカメラマン、写真家の方もしくは、イラストレーターの方にアイキャッチとか写真を作っていただいています。

理由としては「ブランドをつくる」ところを達成したいと思っているんですね。なので、写真をはじめ、すべての読者に見ていただくあらゆるコンテンツの要素に関してこだわっていきたいですし、そこにはお金をかけてしかるべきと思っています。

鳥井:LIGさんはどうですか。

朽木:うちはもともとWeb制作会社というのがあるので、写真のクオリティでユーザーががっかりしてしまってはいけないというのが前提としてあります。これを言い過ぎると自分の首が締まるので(笑)。できるだけ良いクオリティの写真をユーザーに届けたいという思いはありますね。

ぜひハワイの記事を読んでいただければと思うのですけれども、あれは写真がすごく綺麗なので、あとはクオリティチェックといっても難しくて、僕にそんな審美眼があるのかと言われたらそんな自信も無いですし、ただ1ユーザーの目からしても、これは綺麗だなと思えたら、いいのかなと、そこから先はもうちょっと何人かで見て、綺麗だねとなったらいいのかなと、ちょっと難しいところなのでいろいろ試行錯誤しているところです。

鳥井:ありがとうございます。

Web記事で1番重要なのは「タイトル」

鳥井:残り10分ぐらいになったので次のテーマといいますか、最後の質疑応答ですね。3つぐらい聞ければいいなと思いますけれども、何か質問のある方は挙手をしていただければと思います。

質問者:2人に質問なのですけれども、Web記事で1番重要なのは、先ほどもおっしゃった写真があると思うのですけれども、それ以上にタイトル付けが重要だと僕のほうは考えていて、そこで2人が責任を務めている媒体であるLIGブログとサイボウズ式、タイトル付けとして、編集長としてこだわっていることをお聞きしたいのですがよろしいでしょうか。

朽木:先ほど申し上げたように、SEOやキーワード設計を考えて、記事タイトルを組みたてることも増えてきたので、そういう時ってどうしても不自然になりがちだと思うんですね。あとはいかにキーワード設計を考えながらも、自然なキーワードになるのかというものは、使いたいキーワードを並べて、それこそ編集者3~4人ぐらいで集まって、あーでもないこうでもないとやって、できるだけ1番良いタイトルを考えるというふうにすることももちろんあります。

それ以外の面白い企画とかで、できるだけ多くの人に伝わってほしいなという記事に関しては、できるだけキャッチーというか、クリックしたくなるように、これも非常に抽象的なのですけれども、それでやっぱりクリエイターたちで、何人も集まって、あーでもないこうでもないという自分たちの正解が見つかればいいのかなというような方向でやっているかなと思います。

藤村:いくつかあるので、思いつくところからお知らせします。まずはとにかくキャッチーにすることを心がけているのですね。男性学という学問をやられている武蔵大学の田中先生を取材して、出した記事に「少子化が止まらない理由は『オッサン』にある?」というタイトルをつけました。

「少子化が止まらない理由」で終わっていたら、多分この記事は全然読まれなかったと思うんですね。オッサンという、少し強烈な表現かもしれないですけれども、「自分のことかな」とかそういうふうに思わせるような小さなところからタイトルを考えています。

ギャップを作るというのも1つですよね。大体タイトルというのは正攻法で攻めてしまいがちで、その記事のまとめや概要をポンとつけるのが多いと思うのですけれども、そこだけを伝えてもほかの記事に負けてしまいます。そこでいかにタイトルでギャップを作れるか、読み手が思っていることを裏切れるかの表現を意識しております。

あとは、断定を使ったりしています。タイトルで言い切ってしまう。「?」とかブレた感じでは終わらせずに、「これこれはこうだ」とやると、「なんだこりゃ? 本当か」という感じで読んでみたくなることもあると思うのですね。

ここの興味喚起をどのようにすればいいのかというところは考えている反面、煽るというのはあまりしたくないなと思っているので、ちゃんと記事の内容にそって、最終的にタイトルを落ち着けていく感じです。

鳥井:ありがとうございます。

職人的発想はWebに向かない

質問者:最近個人的によく聞く話で、Webメディアが増えていく中で、Webマーケティング発想でやろうと思う方と、紙とか媒体での編集経験があって、そちらを入れてやる方と、少し分かれてきている感じがあると思って、そうすると私はどちらかというとWebマーケティング系の考え方のほうなのですけれども、やっぱり人を集めるというところは重要なので、企画のところから人を集めるという形でないといけないのか、という話をしたりします。

その一方で、紙媒体系の人は、読者が雑誌についているので人集めってどういうことって考えたり、そういうところ今後オウンドメディアとかを運営していくときに、コンフリクトが起きそうかなと思っているのですね。藤村さんはB to B企業のマーケティング担当から今こういう事をされているということで、そのあたり経験があるのかなとか思ったりとか、朽木さんはもともとライターであったりとか、少しその辺りで感じるところをお聞きできればなと思います。

藤村:そうですね。私はもともとメディアにいて、サイボウズで製品マーケティングをやってきたという視点からの話になるのですけれども。Webマーケティングと雑誌の編集の両方を、ハイブリッドで発揮できるというのが理想じゃないかなと思ってしまいます。

やっぱりWebマーケティングにおける集客とか、人を集めていかにコンバージョンするかとかも大切だと思うんですね。なぜならメディアはコンテンツを作っただけで人が来るわけではないから。ある程度は戦略的に考えながら集客をしていくという必要があるかもしれません。

プラスとして、そのコンテンツ自体が面白いとか、こだわりとかないと読みに来てくれないと思ってます。そこでは雑誌編集者のスキルというか、面白い企画をつくるというところにものすごい心血を注いできたアイディアやノウハウが全然通用するというのがWebメディアの世界かなと思っています。

プラスアルファでいいなと思うのが、変化に強い人ですよね。これまでの既存のやり方にとらわれて、「こうだからこう」という考え方をしてしまうと、メディア運営というのはうまくいかない気がしています。

なので、まさに先ほどの話でいうと、コンテンツは読むものではなくて見るものというような潮流が出てきたら、その変化に対して、僕たちはどのように対応してメディアとかコンテンツを作っていくか、Webマーケティングな視点も入れて、変化に対してどう対応していくかというところが重要な気がしているのですね。いいとこどりの人材がいればめちゃくちゃいいなと思うのですけれども、まずは私が出会いたいですという感じですね。

朽木:なるほどと僕もうなずく限りでございました。1つだけ言えることがあるとしたら、職人的な発想ってWebにあまり向かないのかなと思っていて、編集しかできないとか、ライティングしかできない、マーケティングしかできないではなくて、色々なことをできるようになる。あるいはなりたいというそういう気持ちが、先ほどの変化の話しに繋がると思っています。

スキルはたくさん持っていた方がせっかく新しい舞台で何でもできると。究極的に本当はライターだって、フロントエンドの知識を学んで記事の中ですごいWeb表現をしてもいいと思うのですね、それが例えばスマホでどう見られるか考えて。なので何か限った職能ではなくて、いろいろなことを幅広く貪欲にという発想持っていた方が良いんじゃないかなと思いました。

ネガティブなコメントにどう対応するか

鳥井:最後に1個ぐらい何か聞けると思うのですけれども。

質問者:お話ありがとうございました。私もメディア運営者なのですけれども、ある程度メディアの露出が増えてきたときにどうしてもソーシャルとかブログのコメントなんかでネガティブなものというのが出てきたりしますよね。

ライターさんとか編集者によってはネガティブな反応というのを気にしすぎたりとか、真に受けてしまって、「見なければいいじゃん、気にしなければいいじゃん」という話なのですけれども、それができないというかそういうものを抱え込んでしまって、萎縮してしまったりとか、凹んでしまったりということが実際出てくるのですけれども、そういう方々に対してマネージメントとかケアということで、もし何か心がけるアドバイスがあればいただきたいと思うのですが。

朽木:読まれれば読まれるほど受け取り方は人それぞれなので、僕自身は結構気にするタイプでしたし、今は編集長という責任のある立場なので、コメントは実は全部読んでおります。

当然、色んな反応があって、失敗したなと思うこともあれば、こんなの言いがかりじゃんと思うことももちろんあるのですけれども、それらも含めて全部ユーザーからのリアクションなので、次のコンテンツに活かそうという発想で、責任者側もそういう発想でいいかと思います。

これはどこの引用か忘れてしまったのですけれども、何かの引用なんですけれども、「毅然と無視する態度」というのが何かの記事で見てすごくいいなと思って、反省すべきところを反省しなければいけない、自分たちに非があったらそれは改める。謝る必要があったらそれは謝る。それ以上の必要がないと判断できるものに関しては、毅然と無視するということを少なくとも落ち込みがちだったりとか、気にしがちのライターさんだったりというのには伝えてあげたいなと思っております。

藤村:まずはメディア運営側の立場として、やっぱり朽木さんがおっしゃったことと同じだと思っています。コンテンツに対してネガティブな反応が出るというのは、コンテンツがブレークしてまさに世の中に広がっている状況だと思うのですね。

コンテンツが伝わりきっていないとネガティブな反応も出てこないですし、そもそもコメントがつかない状況にもなります。ネガティブな反応は、1つ壁を越えて広がっていったんだと感じるところです。

あとネガティブな意見が出るかということは、人を傷つける内容とか、不快にさせる記事というのは絶対だめだと思うのですね。そうではなくて、きちんと本質を突く記事だったら、それをもとにポジティブな反応もネガティブな反応もあって然りだと思うのですよ。

ポジティブとネガティブの両方の反応が出るということは、読み手の感情を両端に揺さぶっているということなので、とても良いものと思っているのです。これが運営側としての立場です。そういったところをライターの方であるとか、一緒に企画を作るチームになるべく共有していくというところが、ケアになるのかなと。それをやっている状態であります。

鳥井:お時間もそろそろとなってきましたので、対談はこの辺で終わらせていただきます。ありがとうございました。

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