北大生イスラム国参加未遂事件について

記者:Foreign Policyのナタリーです。過去にもう1人の人質(湯川氏)のことで交渉されていたということですが、今もイスラム国の司令官と連絡が取れるのですか。そして、どのような内容で司令官と議論するのですか。また、北海道大学の学生をシリアに送り込もうとしていたという件で、中田考氏とともに10月6日に家宅捜索を受けましたが、そのことについてはどう思いますか。

常岡:どのようにイスラム国側との交渉をするか、ディスカッションをするかという問題なんですけども、私も中田先生も10月の時点まで「湯川さんから身代金を取らない、殺さない」とはっきり聞いていたわけです。聞いていたのに、現在正反対の要求がおこなわれている。なぜ彼らがそういうことになったのか。何かの理由があるのではないかということを、まず聞きただすつもりです。

彼らが何かの理由を持ってるとすれば、もとの政策に戻す何かの条件はあるのかどうか。例えばいま話題にされているのは、今月17日に安倍総理が2億ドルを拠出すると発言した。

それは脅迫ビデオの中で「十字軍への支援であって、イスラム国の女性や子どもを殺すのに使われるのだ」なんてことを言っているんですけど、本当に彼らがそう思っているのだとすれば誤解になるはずですので、誤解をとく必要がある。そういう説得をこちらはできるわけです。

誤解でなくてわかっていてやっているのであれば、なんでわかっていてやっているのか。彼らは建前上イスラム法に従って行動する組織なんですけども、イスラム法に従えば、嘘をついてわかっていないふりをして、イスラム国への攻撃に関与していない外部の人間を脅迫することは許されていないはずです。そういう形で、彼らがやっていることを問いただすことが可能になります。

どうすれば彼らが10月まで言い続けてきた「日本人を殺さない」という状態に戻すことが(できるか)、どういう条件で可能なのかということを、まず聞くということです。

次ですけど、北海道大学生をイスラム国に戦闘員として送り込もうとしていたと報道もされていましたし、警察はいまだにそういうふうに主張しているわけですけども。実際に、学生に最初に接触したのは僕だけでした。それから現在、ほかに読売新聞と何社かが接触しているんですけど、接触したすべてのメディア関係者は「彼にイスラム国に行く意思はなかった」と判断しています。

僕自身3回会っていますけど、彼にまったくその意志はない。ただ、口では適当なことを言い続ける人とだと感じています。彼はいまだにツイッターで毎日いろんな発言をしていますけども、その内容にシリアで戦う意思なんてものは一切出ていません。

警察の捜査が入る前にもそんな発言はしていませんし、その中では女性とセックスする話なんぞを延々と語っていますけれども、まったくシリアで戦うような素振りみたいなものはないわけです。

本当に口からペラペラずっとしゃべっている人間であって、そういう一種の放言のようなことを(利用して)、警察は捕まえて自分たちの手柄にしようとしていただけであって、捜査自体が最初から架空のものであるとしかこちらは見られないです。

質問の最初、現在ISISとコンタクトがあるのかというところ。こちらからのコンタクトはしないようにしています。私たちが湯川さんの解放に繋がる人間だと考えている、オマル・グラバー司令官とは直接連絡を取っていません。

けれども、他のISISの構成メンバーのエジプト人グループなどから、「こちらはすでに危ないから連絡をするな、アドレスは削除しろ」と言っているそのアドレスからぬけぬけと連絡してきているケースがありまして、向こうから連絡が来たら「こっちは警察の監視下にあるよ」と応対している状態です。あまり重要な話は、その人たちとはできていません。

「公安外事三課は世界でもっとも無能」

記者:警視庁の公安部は、どういう意図があってそのような捜査をしたと思いますでしょうか。そのような行動をとったと思いますでしょうか。

常岡:公安外事三課という組織は10年前にできたんですけども、この10年間、ただの一度も成果を上げたことがないという組織です。そして3年前には、日本中のイスラム教徒の後を付け回したデータを世界中にバラ撒いてしまうという大失態を起こした組織でありまして。

それ以外でも外事三課がどんな情報収集をして、どんな情報を政府に伝えたかというのを僕は断片的に知っているんですけども、デタラメばかりです。おそらく、世界でもっとも無能な捜査機関といっても間違いがないと私は確信しています。

そして、その捜査機関が北大生と接触をして、彼がイスラム国に行く意思がない人物であることはおそらくわかっていたでしょうけども、そこでストップがかからないのが組織として無能たる所以だと思っています。

彼らは「イスラム国に行こうとしていたテロリスト予備軍を食い止めた」という実績がほしかった。そのために、実際にはありもしない危機を煽って、日本人全員あるいは世界中を騙して捜査を捏造したのです。そういうことだと思います。

人質の状況は絶望的

記者:3ヶ月前よりかなり状況が変わって、72時間というデッドラインが出されているわけですが、2人の人質が生存し続ける可能性をどう見てらっしゃいますでしょうか。そして、もし何か悪いことが起こりましたら、これはイスラム国のせいあるいは日本政府のせい……日本政府はイスラム国のせいにすると思うんですが。

常岡:状況はほとんどいま絶望的だと思っています。イスラム国は、ああやってビデオで殺害予告をした人間を確実に殺害してきました。ビデオで予告されたあとで助かった人はいないのではないですかね。助かったケースというのは、ビデオで予告される前にお金の交渉をして解放された人間に限られている。

(今回、人質の家族に)お金の要求はすでにあったらしいですけど、その後でビデオの予告が出ている。おそらく、2億ドルを払うなんてことはまったく現実的ではありませんので、相当絶望的な状況に陥っていると思います。

ここで、ほとんど望みは少ないですけどもそれでも助けられる方法があるとすれば、イスラム国と直接対話するしかない。直接対話できるチャンネルを私と中田先生が持っているのに、日本政府がいま活用しようとしてしないとしか思えない。これは最大の問題だと思います。

そして、もし最悪の事態が起こったときに誰が悪いのか。もちろんISISに責任があります。ただし、その状況に対して対策することができたのにしなかったのは、日本政府というよりも日本の捜査機関、外事三課でありまして、第二の責任者として責められるべきところがあると思います。

常岡氏が主張する、イスラム国との交渉の仕方

記者:みんなが聞きたかったことで、これはお答えしにくいことかもしれませんけども、こういう状況で身代金を要求されたときに支払うべきなのか。あるいは、やっぱり毅然とした態度で支払わないべきなのでしょうか。

日本が代案を出すというか、殺すというのではなくもうちょっと中間的な解決策を出すということを提案できないでしょうか。

常岡:身代金を払うべきか払うべきでないかというと、僕の意見は払うべきではないです。払ったお金で、今ISISは活動しているというのがかなり 明らかになっている。犯行が繰り返されるだけだと思っています。で、他に手がないのか、こちらから提案ができるのかというと、できると思います。いくつもできると思います。

彼らが最初に言っていたように、イスラム法廷を開いてくれればいい。そうすれば、こちらから証人を立てることもできます。完全無罪が取れないとしても、例えば鞭打ち刑で許されるならば、それは首を切って殺されるよりはマシです。

あるいは、イスラム法に懲役刑は普通はないかもしれないんですけども、彼らは懲役刑なんてものをやらないかもしれないですけど、懲役刑を出すとしても、それはその場で殺されるよりはマシです。そういう形で、少しでも譲歩を引き出す手はあると思います。

ひとつには、彼らが常に本音と建前を使い分けてる組織だと私はみなしていますけれども、建前を使い分けている以上、こちらは彼らの建前を主張するという手があると思います。戦い方としてですね。彼らは「イスラム法、イスラム法」と言っているんだから、「イスラム法に従えばこうでしょ」と言えば、少なくとも後藤さんを殺す必然性はないはずです。

(会見終了)