デバイスとビジネスモデルの変化が求められるテレビ業界

三枝孝臣氏(以下、三枝):朴さんも中村さんも猪子さんも、テレビでマスに向けていわゆるインタラクティブなものを作っていただいたりとかしたことがあると思うんですけど、その辺の反応というか、やってみた感じってどんなのでした?

中村洋基氏(以下、中村):Webだけで作るより、全然違いますよね。パイが違うからツイッターとか見てても反応の量が全然違う。

ド深夜とかに「テストだよ!」みたいな感じでやっても、あとこの前も他局ですけどホラー番組、フェイクドキュメンタリーみたいなの見ながらスマホで同時に怖いこと起きるとか。それを見ると物語の裏側が見れるみたいなのをやったんですけど、反応量が全然違う。すっごい良いんですよ。

ただ、人数はいいけど「これを見ながらこれも一緒に体験して……」っていうのをどこまで見切れるのというのは、あんまりまだ僕もやってないので、何ならちゃんとすごく面白い体験ができるのかみたいなことを、画策して実験しては繰り返しっていう段階ですよね。

たぶん「これがめちゃくちゃ面白い」みたいなフォーマットがいくつか見つかったら、もう爆発的にみんなそれをやると思うんですよね。(朴氏に)実感はどうですか?

朴正義氏(以下、朴):ちょっと、どこから話すかですけど(笑)。まずやったことに関しては本当にやってよかったと思っていて。未来には、僕の中ではテレビのデバイスがもうちょっと変わってくれるだろうな、と正直思ってるんですけど。スマホが出てすべてが変わったように、スマホが出る数年前は誰も考えてなかったことがすべて起きたので。

テレビはスマホほど簡単にはリプレイスされないかもしれないですけど、2020年とか結構悪くないタイミングかもしれないなと思っていて。結局、スマホになったら基本は電話ではない。電話だと思ってる人なんて誰もいないので、(テレビが)そうなったときにどうなるんだろうとは思う。

ただ、ネット端末になるのはたぶん間違いない。ネット端末にならないと思ってる人はいないですよね。映像が映る、家庭にある最大のネット端末になると思うので。パソコンがなくなってスマホがあってみたいなときに「どうなるんだろう」と妄想するのは楽しいので、とにかくそのときには超大量に、1億人が通信し合った状況が作れた人はすごいなってずっと思ってる。

そのテストを地道にやってるみたいな感じで、それに関しては面白いなと思いつつ。ただ、僕は毎週の番組とか2時間番組とかをライブでもやってたんで、テレビでは失敗が放送事故というか、すごい大問題じゃないですか。ネットはどうしてもベストエフォートなんで、その関係っていうのをどうしていくのかは結局、ビジネスモデルの問題なんです。

ビジネスモデルは変わると思うんですけど、CM(中心)のビジネスモデルが変わってくれないと、僕らは上手く儲からないなと。ただ、変わると思うんですよね。今のビジネスモデルがずっと続くと思ってるテレビの方も、話してると全然いないので。

その変え方が誰もわからないみたいな感じだと思うので、それがたぶん今一緒にやらせていただいてるような実験でちょっとずつ成功事例を作っていって、全部が変わるというよりもちょっとずつ「こういうこともあるんだな」となっていく手応えは感じています。ただ、今の端末だと本当に「どうしようかな」と思いつつ……。

ユーザのテレビに対する見方を変える

三枝:ここ2~3年くらいそういうのをおやりになってるの取り組みでいうと、この端末の感じの限界みたいなのってあります?

:やっぱりデバイスに向かう気分。デバイスごとに、ユーザが持ってる気分があると思うんですよ。テレビに対して、そこまで前のめりになる気分を(持てない)。でもライブのスポーツとか、錦織(圭)のときなんてWOWOWの加入が殺到したみたいな、そういう気分を定期的に作れる習慣ができれば、僕らのやってることも安定的になると思うんですけど。

やっぱり今はテレビに対してそんなに期待がないというか、一番の問題は「ついてない」。視聴率競争の前に、見たい番組がないときに(電源が)消えてる家が増えちゃってると思うんですよね。本当はそれをつける努力をしたほうが(いい)。そのときに、それが放送波のためにつけるのか、他のためにつけるのか。

スマホのすごいところは、24時間いつも持ってて、何でも送られてきますからね。だから向かうときの気持ちが、「ピッ」って鳴ったらマインドが違う。それが僕から見たらテレビのデバイスの弱いところなんだけど、ビジネスモデルの強いところというか。

三枝:受動モデル。

:そうなんですよね。それが上手く変われるか。僕は変えたいんですけど、変えたくない人もたくさんいるので(笑)。ただその間みたいなのが、上手くできるようにならないかなと。

もしくはテレビだけでやるんじゃなくて、まさにテレビとWebとかいろんなものくっつけてというか。テレビはすごいメディアであることは変わらないので、他でも展開するためのプロモーションを上手くすれば、テレビ局さんも放送外収入が増えるみたいな感じになると思うんですけど。そっちを拡大する方向に各局さんが動くときに、そこで何かできればなと思ったりしてますけどね。

中村:テレビって、みんなに同じ映像しか配信できないんですよね。それが良いところでもあって、悪いところでもあると思うんですよ。みんな同じもの、「たけし」「志村けん」とか見てたからマネをするのであって、そのテレビの中に自分が入って主人公になれたらどれだけ楽しいだろうって思う。

一方で、全員が全員入れて別の画面を見れるようになったら価値が均質化されて落ちちゃうんで、どうでもよくなる。そこら辺が難しいさじ加減で、ニュース番組の(画面の)下側に、ニュースの話に関するツイッターが「ビョーン」って出てくるのって、全然面白くないじゃないですか。

(一同笑)

中村:というのは、刺激的な情報は排除したものが流れてるからで、それは「つまらないかもしれないけど面白いものも流れてくるかもしれない」と思ってやってるってことで正しいと思うんですけど、それも猪子さん的に言えばリアルじゃないのかもしれないですよね。

三枝:コメントが選択されている時点で、あるいはフィルターにかかってる時点でリアルじゃないのかもしれないですよね。

チャンネルを付ける意味を与える

中村:そこら辺が難しいところで、みんなが同じものを見るから割と投票っぽくなるんですよ。テレビに出てくるものって何でも。そこは投票じゃなくて、もっと自分自身が番組とか物語の主人公になれる体験みたいなのが出てきたら面白いなと思って、ウチもバスキュールさんも作ってると思うんですよ。

猪子さんも『音楽のちから』のやつで、音ゲーをやったじゃないですか。あれは単純に歌手が歌ってて、それに対して自分もプレイして結果が出るってことで、小さいかもしれないですけど主人公になってると思うんですよね。そういうのを積み上げていった先に、「これすっげえ面白い、ゲームだか番組だか何だかわからない」みたいなものができたら最高だなと思いますよね。

猪子寿之氏(以下、猪子):ネットだと、どっかの村の空き地でやってるようなもんじゃないですか。来てもらう、知ってもらうのに(労力が要る)。だから、いきなり超大トリでやったみたいな。グラフィティみたいなものですよね(笑)。

三枝:それをやると何が起きる……?

猪子:面白いなと思って。みんな同時にやってくれるから。せっかくみんな同時にやってくれて、すごくシェアしてくれるじゃないですか。あれは瞬間だったんですけど、もうちょっと時間軸が(増えて)30分とかだと、1回目にシェアした人たちがバーッと入ってくるだろうから、さらに(伸びる)。1回やってシェアして終わったんで……。

何回もやることが大事。時間軸がもうちょっと長いとバーッと広がってって、みんな同時にやる、やってる人が増えれば増えるほど、体感としては面白くなるよね。

:(キー局・NHKを合わせて)7局もある中でどこか1局は24時間、(視聴者と)対(つい)になってるっていうのが特徴になって、価値があるみたいなことに割り切っちゃったらすごいことになっちゃうんじゃないかなと思って。例えばTOKYO MXさんとかが「それしかやらないです」って言ったほうが、なんかわくわくする。

猪子:そのチャンネルをつける意味が出てくるんですよね。

中村:あとチャンネル単位、番組単位でもそうですよね。スマホとかを持ってない人を置いてっちゃダメ、参加してない人を置いてっちゃダメだっていうのは、どうしてもテレビってパイが大きすぎるんでつきまとうんですけど。

例えばゲームがあって「今週はこのボスだ!」ってモンハンみたいに「みんなで倒せ!」みたいな30分番組があったとしたとき、完全にゲームをやってない人は置いてってるんだけど、みんなでワーッとテレビの上で小さい1万人(のキャラクター)がでっかい大ボスを倒してるだけの番組で、「来週は新しい女ボスだよ」みたいな。

1番組くらいそういうのやってみてもいいんじゃないかと思うんですよね。

猪子:しかも別に、「置いていっちゃダメ」ってあんまり合理的じゃないですよね。だってしょせんさ、(視聴率は)5%とか7%とかなわけじゃないですか。それでスマホ持ってる人って何パーセントか知らないけど……50~60%くらい? それだけあるわけじゃないですか。

そうすると別に、その番組でスマホ持ってる人たちが普段の1.4倍くらい見てくれれば、勝つわけじゃないですか。だから別に、ねえ。

深津貴之氏(以下、深津):しかもスマホがなくて置いてかれても、その人たちが「スマホ買わなきゃ」って思うんなら、スポンサーにスマホの会社がつけば大丈夫ですもんね。

スマホとテレビが"幸せな関係"を作るには

三枝:深津さん、インターフェースとしてテレビとスマホは相性が良いってよく言われるじゃないですか。テレビ見ながらスマホ見れるって、その辺はどうですか?。

深津:僕はまずその話の前に懺悔しなきゃいけないですけど、12年くらいテレビ持ってないんですよ。

(一同笑)

深津:日テレさんの『フリフリTV』とかテレビのアプリを作らせてもらってるんですけど、僕自身は12年くらいテレビを持ってない生活をしてて、逆に12年も持ってない僕でも使えるようなものを、みたいなことで考えてるんですけれども。

僕が疑問に思うのは、セカンドスクリーンってあんまり信じてなくて。だって目はどっちか片方しか同時に見れないんだから、こんな見方しないよねみたいなのがすごくあって。

どっちかっていうとケータイとテレビにすてきな相性があるとしたら、LINEとかで友達5人と同時通話しながらテレビ見るとか、そっちのほうが正しい方向性なんじゃないのかなって思うんですよね。目はもうテレビだけ見て、スマホは使うけどスマホの画面は見ないで、友達5人くらいとLINEで会議しながらクイズ番組に参加するとか。そういう方向のほうが来そうかなと。

中村:そうですね。クイズ番組だったらタレントが答えるんじゃなくて、問題が出て深津さんと俺と朴さんと猪子さんの4人パーティーで戦うみたいな。

猪子:誰が一番答えられるかみたいな。早押しとかも、4人のパーティーで早押し。

深津:そういう方向でいくと、セカンドスクリーンをしようとするとテレビをやってるのに(スマホを)見てて、めんどくさくなって友達とチャットし始めて終わり、みたいなのになっちゃうので、あんまりスマホの画面をセカンドにしないほうがいいんじゃないのかなと僕は逆に思ってます。